暖かな陽射しの下、ビーチパラソルが作る影の中で、サマーベッドに身を沈めながら、湖畔で遊ぶ皆を眺める。
白いビキニとパレオを身に着けた私は、こうやって雰囲気を楽しんでいる。
やっと来た青春を取り戻すように、楽しんでいる皆を見ていると、自然と笑みが浮かんできてしまう。
水着を着た皆は、水辺で大いにはしゃいでいる。
今を思えばナンバーズは、青春時代と呼べる物を全て、戦いの準備に費やしていた。
その後も戦いの日々を過ごし今に至る。
やっとできた休息か…
私の目線の先には、両手をアスカと綾波さんに拘束され、背中にはサクラが張り付き、正面からはマナに抱きつかれるシンジ君。
近くのマユミちゃんは、そんなシンジ君を見ながらオロオロとしている。
皆、押しが強すぎるよ。
カヲル君はシンジ君と遊ぶために持ってきたビーチバレーのボールを手に持ち、佇んで微笑みながら見守っている。
「ふむふむ、やっぱりワンコ君はモテモテだにゃ。」
私が寝そべるサマーベッドからテーブルを挟んで椅子に座るマリが、頬杖を付きながらニヤニヤと笑う。
「碇シンジ補完計画は、イレギュラーが多分に有ったものの、順調に推移しているね。
これもマリさんのシナリオ通りですかな?」
マリへと横目で目線を向けながら、私もニヤリと笑いかける。
「ふ、全ての計画はリンクしている。
全ては流れのままによ、ななちゃん。」
両肘をテーブルに付き、指を組み合わせ口元を隠す様なポーズを取るマリ。
光を反射させた眼鏡は目元を隠す。
「しかし、いささか焚き付けすぎたんじゃない?まあ眼福だから、私はいいんだけどさ…」
このバカシンジ!とアスカの胸を触ってしまったシンジ君へと、ハイキックをかますアスカ。
それと他の3人を巻き込み倒れてしまうシンジ君。
ありゃ、マユミちゃんも巻き込まれたね。
水飛沫でよく見えないが、なんとなく、さらなるラッキースケベが発生しそうな予感がする。
…リアルラブコメ。
「問題ない。計画通りだにゃ。」
隠した口元をニヤリと歪ませるマリ。
顔をマユミちゃんの大きな胸元に埋める形で倒れ込み、両手で綾波さんとマナの胸を鷲掴みにし、サクラの顔を膝の間に挟んだ状態のシンジ君。
あちゃ〜。特にサクラがヤバいのでは?あれ?
「…。」
そんな彼らを見ながら、沈黙し冷や汗をかいてしまう私達。
問題ない?のか?
アスカ鬼神化モード…
シンジ君は全面的に悪くないけど、これは仕方ないことよね。
うわ〜!と悲鳴をあげ、皆から離れるシンジ君。
そして鬼と化したアスカを見ながら表情を引きつらせ、自分に暗示をかける。
「逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ、駄目だ!」
「そこは逃げるんだよ〜!」
と私の大きな声に反応し、逃げるシンジ君を
「逃げんな!ゴラァッ!」
とドスの利いた声で追いかけていくアスカ。
そんな二人を綾波さんとマナが追いかけていく。
マユミちゃんは、真っ赤になって腰を抜かしているサクラを介抱している。
飛びかかるアスカに耐えきず倒れるシンジ君。
今度はアスカが押し倒す形で、シンジ君の顔を胸で包む。
…。ふむ、やるわねアスカも。
「キャー!エッチ!痴漢!変態!
信じらんない!」
と、立ち上がりながら、何処か嬉しそうな悲鳴をあげる。
いや、いや、とその場で声を合わせる私とマリ。
自分で押し倒してたじゃん。
そう、私とマリは見逃さなかった。
空中で体勢を変えて、ああなる様にしていた事を。
多分当事者たるシンジ君以外は皆解ってる。
責任取りなさいよね!と顔を背けながらシンジ君に言うアスカだが、シンジ君には聞こえていない。
何故なら、追いついた綾波さんとマナの胸に顔を挟まれているからだ。
「皆、わっかいんだから〜。」
「それ、一番年下のななちゃんが言うセリフじゃないにゃ。」
湖畔でのバーベキューも終え、帰り支度をする私達。
カヲル君と一緒に楽しそうに会話しながら、重い荷物を纏めているシンジ君の元へ、マリと一緒に足を進める。
私はあるお願い事をするために、シンジ君を誘う。
二人の交流を邪魔してしまった事に対して、カヲル君に目配せをして謝罪する。
微笑んで頷き、許可をするカヲル君。
シンジ君を連れ、少し離れた所で私は話を切り出した。
「急にごめんなさい。明日なんですが、もしお暇なら私に付き合って貰えませんか?」
「え、えっと、僕?」
不思議そうに自身を指差すシンジ君。
「実はマリには、既に了解を取ってるんです。
だから実質は、碇さんへのお願いですね。」
「いいけど、何処へ?」
「…ヴィレ仮設本部。そこの隔離室です。」
「そこって、まさか!」
私の答えが予想外だったのか、物凄く驚くシンジ君。
「はい。碇ゲンドウさん。彼が居る場所です。」
ヴィレの仮設施設の廊下を加持さんに案内され進む私達。
私、マリ、シンジ君、リツコ先生。
この4人がゲンドウさんと会うメンバーだ。
シンジ君は結構な回数会っているようだが、私は2年ぶりとなる。
「ここだよ、ユウカちゃん。
…リッちゃん、後は頼んだぞ。」
「わかっているわ、加持くん。」
真剣な表情で目線を配らせる加持さんに対して、リツコ先生が力強く頷く。
開く扉。
その奥には椅子に座りながら、ゲンドウさんがこちらを見つめている。
その姿は、バイザーを着けておらず、私にとって馴染みのある碇ゲンドウの姿をしている。
恐らく、レガリアによる肉体補整か…
そんなゲンドウさんは、一人ずつ確認するように見て、私に視線を合わせる。
「君か…。」
「お久しぶりです。碇ゲンドウさん。」
挨拶する私をじっと見つめ、先を促すゲンドウさん。
「私がここへ来た理由は、恐らく既にご存知ですよね?」
私の言葉を聞き、目を瞑り、少ししてから言葉を発する。
「ああ、解っている。
2年前、何故君を綾波と呼んだのか、その理由を聞きに来た。そうだな?」
一度区切りテーブルに置かれたお茶を飲み、再び口を開いた。
「君も知っている通り、エヴァを動かすには特殊な資質が必要だ。
だが開発当初、機能中枢であるコアシステムには問題が有った。想定と違いコピーであるエヴァには魂が宿らなかったのだ。
そのため、機械により動かす事を目的とした実験が開始されたのだが、それは事故により頓挫してしまった。」
言葉を区切るゲンドウさんは、マリを見つめる。
そんな視線を受けたマリは苦笑いを浮かべている。
「そこで今度は、それに耐えうるパイロットを作ることにした。
それが当時綾波姓であった妻の碇ユイとフォーミダブル女史の遺伝子をベースに、第3使徒やアダムとリリスの要素を取り入れた人間の創造。
一つの身体に二つの魂を宿らせる禁忌。
理論上あらゆるモノを内包できる、最初期のアヤナミシリーズ・オリジンにして、同時に人類補完計画のテストベッド兼ロストナンバー。
…それが君だ、長門ユウカ。」
驚き息を呑むリツコ先生とシンジ君。
「でも、ユウカとは年齢が合わないわ。」
声を震わせながら、リツコ先生が矛盾した部分をつく。
「それは、新たなコアユニットを開発したことにより実験は中止されたからだ。
あまりにコストのかかるオリジンの計画は現実的では無かった。
造られた赤子は力を恐れた者により凍結され、本来ならそのままであったはずだったのだが…。
しかし何を思ったのか一人の研究員が、勝手に凍結を解除して赤子を連れ出した。
その研究員が赤木博士、君の母親であるナオコさんだ。」
「母さんが?ありえないわ!
そんな事をする人間では無いはずよ!」
母親から想像できない行動に、声を荒げるリツコ先生。
「赤木博士、君も覚えている筈だ。
ナオコさんが、一時期仕事を休み、知人の子供といって赤子を養っていたのを。
…あの人は、良き母親と成りたがっていた。
赤子を育てていたのに、途中で取り上げられる事は、きっと彼女にとって辛かったのだろう。
愛するようになっていたのなら尚更だ。
……人は失って初めて気付くモノもある。」
そう言い切り、シンジ君を見つめるゲンドウさん。
リツコ先生は思い当たる節があるのか、ただ唖然としていた。
「では、私は初めから使徒だったのですか?」
彼の話を聞いてから、疑問だった事をぶつける。
「人間がベースなのだ、要素を少し取り入れただけでは使徒にはならん。
まあ、厳密に人間と言えるかはわからんがな。
連れ出した後の事はナオコさんしか知らない事だが、本人が鬼籍に入ってしまっているから、闇の中だろう。
しかし、一つだけはっきりしているのは、君の両親がこの件には関わっていない事だ。」
沈黙したゲンドウさん。
その雰囲気は伝えるべきことは、伝えたのだと語っていた。
聞いた内容は衝撃的な事ばかりだった。
両親が実の親ではない事や、自身が造られた命であることは、正直凄くショックな事であった。
そして、一つの身体に二つの魂という言葉。
…そうか、だから私は転生したと思っていたんだ。
あの記憶は確かに私へと大きな影響を与えていた。
しかし、その記憶が自分の経験した事柄だという実感は全く無かった。
エヴァMark7の中に居るワタシ。
それが転生してきた人、もう一つの魂だったのだと気がついた。
ずっと…。
ずっと、見守ってくれていたんだね。
私の事を守ってくれていたんだね…
目頭に熱いものが込み上げてくるのを感じる。
溢れ出す感情。
喜び、怒り、悲しみ、愛おしさ。
色々な感情が混じり合う。
マリが私の頭を抱きしめ、リツコ先生が背中を擦ってくれる。
とまらない涙…
なんだろ、なんで私、泣いてるんだろう?
感情の吐露。
長く感じたそれが、次第に終息していく。
憑物が落ちたように落ち着く私。
そっか…私って、泣けるんだ。
泣き止んだ私を見つめるマリ。
ありがとうと、マリやリツコ先生へお礼を言い、ゲンドウさんへ近づく私。
「あの、お恥ずかしい所を見せました。」
少し気恥ずかしい。
そんな私から目をそらし、言葉を発するゲンドウさん。
「私こそ、済まなかったな。ユウカ、シンジ。」
私の事を名前で…
もしかしたら女性の涙に弱いのかな?
そっか、こういう所がカワイイ所なんですね、碇ユイさん。
手を差し出す私を見つめるゲンドウさん。
握手を求める私におずおずと手を伸ばす彼を見つめる。
繋がる手に違和感を覚えたのか、驚く表情を見せるゲンドウさん。
そんな彼に、私は一言伝える。
「切符です。返却は受け付けませんからね。」
しかし開いたその手には、何も無い。
そう、これは彼に与えられる事は無かった魂の切符。
これで、あの人に会えますよ。
言葉にしなくても伝わる私の意思。
目を見開くゲンドウさん。
その瞳から、一雫の水滴が流れ出る。
握りしめた手を、顔の前に持っていき俯く彼の肩は震えていた。
溢れ出るものを押し殺したような声。
ゲンドウさんに寄り添うシンジ君は、只々彼の背中を擦り、見守っている。
いつだって奴らは唐突だ。
あれから、数日が過ぎた頃、ある事象が確認される。
地球軌道の変移
その赤い星は、火星の太陽周回軌道上へルートを変更している。
現状エヴァンゲリオン・リルインフィニティは起動したが、虚構世界の構築が完了していない。
取るべき方策は、エヴァンゲリオン・リルインフィニティの準備が出来るまでの時間稼ぎ、そして可能ならば使徒アザゼルの撃滅となる。
既に決戦の準備は進められていた。
皆何処か、解っていたのだ。奴との戦いがそう遠くない未来にあるということを。
ヴンダーや4隻のNHG、ナンバーズのエヴァは追加ユニットや特殊武装を装備させている。
ヤマト作戦と名付けられた、その作戦の性質上、人員の作戦参加は志願制となった。
驚いた事にそれは、ナンバーズにも適応される事となる。
最低確保戦力による作戦遂行、マギセカンドの計算により提示された作戦成功率は約4%、生還率に至っては約1%。
この数字は全ての人間に公表され、参加の是非は作戦直前まで各々の自己判断に任された。
月明かりが暗闇に差し込む中、目の前のエヴァンゲリオンMark7を見つめると今までの事を思い出す。
外の仮設ケージへと格納されたエヴァ。
既に出撃準備は完了しており、後は時間が来るのを待つだけ。
こんな私にも、ミサトさんや冬月司令は作戦参加の拒否権をくれたが、その場で突っぱねた。
気持ちは嬉しいが私のやりたいことは変わらない。
奴とけりを付けるのは私だ。
それはきっと、義務感や正義感なんて物では無い。
この感情を上手く説明出来る言葉を見つけられないが、哀れみなのか、それに近いような感情。
心を持った使徒の末路。
本能から開放された生き物が持つ心。それは寂しがりで、痛がりな心。
故にどうしても他者を求める。
心の相補性を知らない奴は、その心の痛みを和らげようと、新しい生命を生み出した。
しかし知恵の実を持たぬ、ましてや自己進化機能すらも無いアポストルでは心の様なモノを持たず、その痛みを緩和することは出来ない。
そのために、リリンを求めて動いている。
まるで赤子のように…
一つになることしか知らない奴は、いくら経とうと寂しさを埋めることが出来ないだろう。
その果てには、行き着く所まで行き宇宙とも融合するかもしれない。
その前に、殺してやる事も慈悲なのだろうと思う。
永遠の寂しさにより、心が死へと至る前に。
最新型の白いプラグスーツを着て、機体の搭載コンピューターのアップグレードや新しいプログラミングをしている私を、影が覆う。
背後に立つ人影が、月明かりを浴びている。
「ななちゃん。」
名前を呼ぶ彼女は、白いプラグスーツを着ている。
作業を中断し、マリへと向き合う。
「マリも作戦に参加するんだね?」
「ななちゃんが参加するって聞いたからね。」
真剣な表情で私を見つめるマリ。
そこには緊張と不安が覗いている。
瞳を瞑り、何かを決意しようとするマリへと私は唐突に距離を詰める。
瞳を開けたマリは、目の前に私の顔があるのを見て驚いている。
「ねえ、マリ。…今日は、
そんな言葉を言うも、私の瞳に映るのはマリの顔だけ。
目を見開くマリ。
微笑む私に、マリは泣きそうな表情を浮かべながら微笑む。
「
言葉をゆっくりと紡いでいく、マリの顔が近づいてくるのを見ながら、私は瞳を閉じる。
うなじに感じるマリの腕の感触。
唇に触れる、柔らかな感触と少し湿った熱。
長いような短いような時間が過ぎ、ゆっくりと離れていく熱を感じる。
瞳を開けた私に映るのは、眼鏡を外したマリの顔。
おでこをくっつけ、二人で微笑み合う。
「これで、ななちゃんは私のモノ。」
ニヤリと笑うマリ。
「うるさい。」
と私の唇でマリの口を塞いでやる。
攻勢に出る私だが、直ぐにマリに反撃される。
あ、ちょっと舌はまだ早いって!
ンん!
口を離してマリへと言葉をかける。
「ね、ねぇ。つ、続きは帰ってからに、…しよ?」
きっと私の顔は凄く赤くなっている。
自覚できる程に顔が熱い。
それに恥ずかしい…
「それはヤバイよ、ななちゃん。そんな顔は反則だにゃ。
むふふ…これは、何としても帰って来ないといけないな〜。」
微笑む彼女の表情は、今まで見たどの表情よりも可愛かった。
明朝、作戦開始時間。
広場には多くの人員が居る。
皆、白い布を腕に巻いている。
リツコ先生、ミドリ、ミサトさん、マヤさん、長良ちゃん、青葉さん、日向さん、冬月司令、高雄さん。
阿賀野さん、大井さん、最上さん、多摩さん。
驚いた事にキール・ローレンツまで居る。
そして、白いプラグスーツを着たナンバーズ全員。
壇上へ登るミサトさんを全員が見つめる。
「ひとまずは、この場に集まった貴方達と出会えたことを、嬉しく思っている事を伝えましょう。
元アメリカ軍も、アフリカ戦線の勇士達も、連合国の皆も集まってくれた事に感謝を。
死をも覚悟した、これ程の勇士達を、率いることが出来ているのは有史以降、私が初めての将なのだと自負します。」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべるミサトさんは、一度区切った言葉を続ける。
「この戦いの勝利は一つ。
それは、人類が生き残る事!
今や人類補完計画は発動し、あとは時が解決する。
しかし、クソッタレな奴は、その時間すらも奪おうとしている!
そんな奴の目論見を木っ端微塵にしてやれ!
死の先をゆく者たちよ!貴方達となら出来るのだと、私は信じている!
…願わくは、未来において貴方達が、自らの孫にこの戦いの事を聞かれた時に、「孫よ、私は偉大なるヤマト作戦軍にいたんだ。葛城ミサトというクソッタレの元に!」と語れる先が来ることを!」
ミサトさんの言葉と共に、雄叫びを上げる男連中。
肩をすぼめるのは女連中。
「総員!出撃準備!人類の力を見せてやれ!」
宇宙を翔ける私達。
私を中心として、先頭をヴンダー。
私の上下左右を囲むようにヴーセ、エアレーズング、エルブズュンデ、ゲヘートが配置され、後方にはエヴァMark10シャマシュが続く。
作戦は私の働きに掛かっている。
あの時から、一度も成っていないから自身でも未知数な能力。
ムーンセル・オートマトン。
あれの能力を引き出せば、僅かでも勝機がある筈だ。
プラグ内のモニターに映る現在の日時を見る。
その日付はエヴァMark7と初めて出会った日。
感慨深い。私がエヴァのパイロットだなんて、昔は想像もしていなかったのに。
想い出がフラッシュバックする。
最終的に思い出すのは、やはり家族の事だった。
一度死んでから、顔を合わせなかった家族。
いや、直接会ったのはヴィレのSUVに乗った日が最後だったね。
今に戻った私は心中で呟く。
あれから14年経った今も、私はエヴァンゲリオンに乗っている。