マリの姿が脳裏によぎった瞬間、ふと言葉が口をついて出る。
マリ、愛してる。と
それは意識すらしていない事だった。
その言葉は世界を覆い、私の中に響き渡ったのだ。
私、こんなにもマリの事を?
それを自覚した時、私の瞳が熱を持つのを感じる。
溢れ出る感情は涙として顕れた。
私達の戦い。
それは他人から見たら、きっと一瞬の事だったのだろう。
虚構と現実が合わさった時。
心の中での戦いは、現実での決着となっていた。
唖然とした私は宙を回転する槍の柄を見つめる。
弾き飛ばされた槍は、大きく空中を回転し、その矛先を地面へと沈めた。
私は、自らが乗るMark7の両手を見つめる。
その手の中には、何もない…。
先程まで確かに槍の重みを感じていた筈なのに、今はただ寂しさしか感じない。
地面に刺さるアルベスの槍を、シンジ君が掴み取る。
紫色の機体の背中は彼の決意を訴えているように感じた。
ごめんね。
アスカ、マナ、綾波さん、マユミちゃん、サクラ、カヲル君。
私、負けちゃった…
何年も努力してきたんだよ。
皆で。
シンジ君を助けるのだと、皆と約束したのに…
それなのに、最後に私は、マリの事を思ってしまった。
愛しい人の事を。
その人ともっと一緒に居たかったって…
そう思ったんだ。
思って、しまったんだ。
大粒の涙が頬を伝う。
年甲斐も無く声を出し、大泣きする私が居る。
負けた事に不甲斐なく思う自分と、どこか安堵している自分。
それがなおさら罪悪感を煽る。
「長門さん、皆の事をよろしくね。
このままじゃあ、長いことプラグの中に閉じ込められてしまうだろうから。」
下手したら皆が死んでじゃうよ。と穏やかな表情をしながら、私に声をかけるシンジ君。
整理された心には、その先に待つ出来事の不安など無いと人は言う。
まるで眠りにつく前のような、明日という新たなる旅路を前にしたような、凪いだ心を彼から感じる。
涙を流しながら、シンジ君の顔を見つめる。
私の返答を聞かず、光翼を展開し宇宙へと飛び立つエヴァ13+初号機。
その両手にカシウスとアルベス、2つの槍を携えて…。
皆が乗るエントリープラグをエヴァから取り出し、再生した地球の大地へと横たえる。
外へと出れた事を察したのか、各々プラグから出て来ていた。
それを見てエヴァMark7から降りた私は、涙を止め彼女達の元へと歩く。
事の顛末を説明する為に…
何一つ欠けることなく、私とシンジ君の事を打ち明ける。
語り終わった私は、視線を地面へと固定させていた。
いや、話している最中から?もしかしたら最初からかもしれない。
罪悪感が私の心を押しつぶす。
皆に目線を合わせられない。
そんな私に足音を隠すことなく近づいてくる人が。
目線を少し上に上げると、映り込む白のプラグスーツに赤いラインが入った脚。
アスカ…
勢いよく私に近づき、そのまま私の頭を強く抱きしめた。
「ホント最低ね。こんな女の子泣かすなんて…
あのバカシンジは!」
そういいながら私の頭を乱暴に撫でる。
「泣いてなんか、無いよ…。」
そう言う私に、アスカの優しい声が降ってくる。
「隠せてないわよ。その充血した目と腫れた目元。
泣いてたんでしょ?バカユウカ。」
何で、何で…
止めた筈の涙が溢れてくる。
「ごめん!ごめんね!皆!
私、碇さんの事、止められなかった!」
叫ぶように謝る私。
じゃないと哀しみと悔しさ、罪悪感で溺れる私は、きっと声が出なかったから。
集まって来る皆の気配。
私を囲むように皆が抱きしめてくれる。
皆、何でこんなに優しいの…
その後、エヴァを回収しに来たヴンダーと合流し帰路へつく私達。
シンジ君がインパクトを起こし、奴を消滅させた事はミサトさんも知っていたようだ。
私の説明を聞き、ただ一言「そう…。」とだけ呟いた彼女の心境を全て察っすることは出来なかった。
だが、私の頭を撫で、艦のブリッジから退室するミサトさんの背中は何処か寂しそうに見えた。
人類補完計画が発動し、リリンは新たなるステージへと至った。
エヴァンゲリオン・リルインフィニティ。
一つになりながらも、その世界で相補性を保ち、補完されながら過ごす彼らは幸せそうに見える。
エヴァの中で住まうリリン達は、まるで端末を動かすかのように、外界の肉体を操作して様々な準備をしている。
新しくヴンダーの主機となるエヴァンゲリオン・リルインフィニティ。
そのヴンダーを改造していくリリン達を見ながら、私達は修理したエヴァの調整をしていた。
ナンバーズは全員が、人類補完計画という楽園に入ることを拒んだ。
それは、ただ一つの目的の為だった。
今はまだ外界に出ることが出来るリリン達だが、いずれ肉体が朽ちてしまうと、外界へは出られなくなる。
2つの世界を行き来することが出来るのは今だけなのだ。
しかしそれでは、私達の目的とは相容れない。
故にナンバーズは皆、楽園へと入らなかった。
ある人は
「あいつと一つになれないなら死んだ方がマシよ。」と言う。
ある人は
「私は、私の願いの為に生きるわ。」と言う。
ある人は
「私はシンジのお嫁さんだから、迎えに行かないとね。」と言う。
ある人は
「私、人の顔を伺うのは辞めたんです。
だから、シンジ君と一緒に生きるために…今を生きます。」と言う。
ある人は
「碇サクラって名前、良いと思いませんか?
お兄ちゃんも応援しとるし、頑張るよ!」と言う。
ある人は
「新しい僕が次の世界へと移行した今、僕はなんの力もないヒトに過ぎない。
だからシンジ君に逢いに行こうと思ってね…便乗させてくれないかい?」と言う。
ある人は
「一つ、ななちゃんの為に!二つ、ななちゃんの為に!三つ、ななちゃんの為に!
迷子のワンコ君を迎えに行こうか。」と言う。
そして私は
「どこにいても、必ず迎えに行きますから。
待っててくださいね、碇さん。」
と、そう誓う。
私達の新たなる旅路。
無理やりインパクトを起こした代償として、
この世界から弾かれてしまった彼を迎えに行くために。
ああ、美しき世界よ。どうか、
桜の花がせせらぎを流れるように、優しく彼の元へ導いて…
戦いの前に、彼女達がした彼への口づけが、最後の機会とならぬように。
シンジ君ルート完結です。
基本的に前話からの分岐でマルチエンドとなります。
故に前半は同じ展開となります。