マヤノがかわいい。   作:#NkY

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第11話 マヤノにスリリングな提案を

 今のは明らかにマヤノが勝つレースだった。のにもかかわらずだ、マヤノが負けた。負けてしまったのだ。一瞬のスキをついた差し脚によって。

 マヤノが呆然と掲示板を眺めるのが見えた。そして、1着を獲ったウマ娘は……ゴールを通過した途端、力尽きるようにばたりと芝に倒れこみ――天に拳を突き出してみせた。

 そして、人気を裏切ってしまったダービーウマ娘。……一体何を思うのだろう、掲示板すら見ずに、ただ地面を見つめながらゆっくりと走っている。彼女は5着だった。

 

 このレースはあくまでも菊花賞の前哨戦。多くのウマ娘にとっては、ここを勝ってはい終わり、というわけではない。ここ『も』勝って、菊花賞は『絶対に勝つ』。そんな気概で挑むレースである。今回集まったメンツが春夏であまり実績を残せておらず、菊花賞に出れるかどうか分からないウマ娘が多かったのも、こんなにも白熱した要因の一つであろう。今後のためには絶対に、絶対に落とせないレースであったから。

 

 たった一つのレースで明暗がはっきりと分かれる。これが、トゥインクル・シリーズの最前線。アタシはシビアな世界を目の当たりにし、しばし硬直してしまった。

 

 

 

-神戸新聞杯 結果-

 

1着 バ群から抜け出し、天に拳を掲げたウマ娘 7番人気

2着 マヤノトップガン 5番人気

3着 カサマツから夢を掴みに来たウマ娘 8番人気

※ここまで菊花賞の優先出走権獲得

4着 刺激的な時間を愉しむウマ娘 2番人気

5着 ダービーウマ娘 1番人気

 

 

 

「マヤノ、お疲れ様!」

 

 アタシは地下バ道に向かい、真っ先にマヤノに声を掛けた。確かに負けのショックはあるが、初重賞挑戦で2着を確保して見事に菊花賞への優先出走権を手に入れたのだ。当然、褒めてしかるべき成績だろう。

 

「バブちゃん! すっごく惜しかったよー!」

 

 マヤノは若干の悔しさをにじませながらも、それでもすごく楽しそうな感じであった。しっぽめっちゃブンブンしてる。可愛すぎか。

 

「勝った! って思ったら後ろからすっごい勢いでずがーん! ってやられちゃったんだもん。マヤ、最後まで全力で走ったつもりだったんだけど、それでも負けちゃったんだ!」

「勝利を目の前で奪われたにしては、やけに嬉しそうだね……?」

「うん! 何だろう、すっごくワクワクするってカンジなんだ! これからもあんなすごいレースができるっていうことに、すっごくすっごくワクワクしてる!」

「……それでこそマヤノだ!」

 

 なんだかこっちも嬉しくなってついマヤノの頭を激しくわしゃわしゃーってしてしまった。マヤノも目をぎゅーってつぶって嬉しそうにわしゃられてる。かわいい。

 

「くーっ! あと少しだったなー……!」

 

 爽やかに声を掛けてくるウマ娘。たしかあの子は……レース前にマヤノと話してたウマ娘だ。彼女は惜しくも4着に終わり、優先出走権獲得には至らなかった。

 

「あ、スリリンちゃん! おつかれさま!」

「おー、おつかれー! そんで……マヤノ、菊花賞出走権獲得おめでとう!」

「ありがとー!!」

 

 それなのにマヤノを気持ちよく祝福してくれる。なんていい子なんだこの子。本当は負けて悔しいはずなのに。

 

「スリリンちゃんは……惜しかったね」

「めっちゃめちゃ悔しい! 正直最後すっごく上手くいったと思ったもんな! でもよ、前走った時みたいにマヤノにぴったり競られるわ後ろからもすごいの飛んでくるわで、もー、みんなつえー! 超スリリングー! って思ったな! あははは!」

 

 豪快に笑い飛ばすその両目に、わずかに涙が浮かんでいたことにアタシは気づく。アタシが気づくことにはマヤノも当然気づく。

 

「スリリンちゃん」

「お? なんだ?」

「マヤね、スリリンちゃんともっかい走れてすっごく楽しかったの」

「あはは、言ってくれるじゃんか」

「だから、ありがと!」

「……お、おう! どういたしましてだ!」

 

 けれど、真剣勝負で謝るとか、同情するとか、そんなのは違うんだ。だからマヤノは、感謝を伝えた。あの時、アタシとマッチレースした時のように。

 

 刺激的ウマ娘は、軽く目をぬぐって深呼吸したあと、何かを決心したかのように言葉を吐いた。

 

「……あのさ」

「うん?」

「多分ウチ、もう一回トライアルに出ると思う。京都新聞杯、だいたい今から一か月後のレースな」

「うん」

「そこでだ。マヤノももう一回走らないか? トライアル」

「え……?」

 

 マヤノは既に菊花賞への優先出走権を獲得しており、菊花賞に出るだけならトライアルに二度出走する必要性はどこにもない。それに今回の2着でファン数もおそらくそれなりに増えており、他のG1は分からないがG2やG3であれば出走するに難くない人気をマヤノは持っているはずだ。

 それに、夏にもマヤノは走っている。既にそれなりの数マヤノはレースを使っているのだ。今日が激戦だったのもあって、身体に蓄積している疲労の面でも心配だ。いくら脚に不安が消えたからといっても、である。

 

 それに。

 

「それ、もしマヤが3着以内に入ったら、優先出走権を一つ潰しちゃうんだよ?」

 

 既に優先出走権を持つマヤノが3着以内に入ろうが、4着のウマ娘に優先出走権が回ってくるなんてことはない。あくまでも3着に入らなければ優先出走権は得られないのだ。

 

「ウチはそれでもいい。ウチだけじゃない、出てくるウマ娘みんなそう思うはずだよ。ここで優先出走権を潰されて負けるのであれば、もし菊花賞に出れたとしてもきっといい結果にはならない――ってさ」

「スリリンちゃん……」

 

 そして、迷いなくその子は言い切る。

 

「それに。挑む舞台はなるべくスリリングでなくちゃね!」

 

 ああ、すごいウマ娘だなあ。アタシはつくづくそう思ったのだった。

 けれど。マヤノは……。

 

「……どう、しよう」

 

 当たり前だ。悩まないはずがない。せめてアタシが、マヤノの悩みを聞ければいいのだけど……。

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