マヤノがかわいい。   作:#NkY

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第15話 マヤノ、最強の称号を求めて

 菊花賞。クラシック三冠の最終戦。「最も強いウマ娘が勝つ」と、何度も何度も言われ続けてきたレース。

 それもそのはず、舞台は京都レース場。距離はダービーから600mも伸びた3000m。第3コーナーにある『淀の坂』を二度上り、そして下る必要がある。下った勢いそのままに第4コーナーから直線へ突入、あとに待ち受けるものは平坦な直線のみ。3000mを走る最後の最後に、小細工なしの高速スピード勝負を求められる過酷なコース。

 

 そうである以上、勝つウマ娘は当然のごとく『最強』の称号を得る。

 そんな舞台に、これからマヤノトップガンが挑む。

 

「……どしたのバブちゃん? マヤの髪に何かついてる?」

「あ、いや……可愛いなって」

「あ……えへへー……マヤがカワイイかー……♪」

 

 ……まあ、元々マヤノは可愛さに関しては最強なのだけれども。控室にて勝負服もばっちり着こなしているマヤノに、アタシはだらしなくふにゃふにゃになりながら見とれていた。スリリンが呆れたように笑うけど気にしない。だってあんなに可愛いのが悪い。

 

「あははは、バブルは相変わらずだな……」

「だって可愛いものは可愛いでしょうよ」

「まあ、それは認める。マヤノの勝負服めっちゃいいよな」

「でしょ!」

「……じゃなくて! 勝負服の話も大事だけど……」

 

 マヤノの可愛さに飲まれそうになったのか、スリリンは勝負服の話題から逃げるように首をぶんっと横に振ってマヤノに近づく。

 

「マヤノ! 今日の菊花賞……絶対に、絶対に! 絶対に勝ってきてよ!!」

「うん!」

「……ユー・コピー?」

 

 叶わなかった菊花賞出走。スリリンがありったけの想いを込めたであろうにぎり拳をぐっと作る。マヤノも迷わず、拳を突き出して……

 

「アイ・コピー!!」

 

 元気いっぱいに拳を突き合わせた。

 

 

 

-京都レース場 菊花賞(G1) 芝3000m 18人立て-

 

5枠10番 マヤノトップガン 3番人気

 

2枠4番 フランスから帰ってきたオークスウマ娘 1番人気

6枠12番 前走 京都新聞杯を勝ったウマ娘 2番人気

8枠16番 ダービーウマ娘 5番人気

 

 

 ダービーウマ娘が秋に入ってからパッとしない。神戸新聞杯では5着、京都新聞杯では7着に沈み、菊花賞ではとうとう人気も5番人気にまで落ちてしまっていた。

 皐月賞を勝ったウマ娘は距離適性的に菊花賞には出走せず、クラシック級ながら天皇賞(秋)に挑戦する。

 ちなみにクラシック級で天皇賞(秋)を勝ったウマ娘は過去に1人、それも第一回、天皇賞が「帝室御賞典」という名前で、何もかもが全部違っていた時代にたったの1人しかいない。年数にして60年弱は出ていないことになる。

 もっとも第二回目からは菊花賞の前身となるレースが創設された兼ね合いでクラシック級のウマ娘が出れなくなっており、再び出れるようになったのは8年前のことだが……それでも、7回あってもまだたったの一人も出ていない。あの伝説のウマ娘・オグリキャップがクラシック級の身で挑戦した時でさえも、白い稲妻・タマモクロスの前に敗れている。

 

 頭悪い癖して何でこんなに物知りなのかって? ……調べたんだよ。アタシも出たいからさ、クラシック級で。マヤノとスリリンと一緒に走って、それで勝ってやりたいから。

 

 それはさておき。ダービーウマ娘が不調で、皐月賞ウマ娘も不在。そうなれば他に目立つ実績があるウマ娘はティアラ路線からまさかの菊花賞参戦を決めてきたオークスウマ娘くらいしかおらず、とはいえティアラ路線のウマ娘が三冠路線のウマ娘と、それも3000mという舞台の菊花賞でどこまでやれるかなんて誰も分かるはずもなく……大混戦も大混戦といった雰囲気を醸し出していた。

 マヤノトップガンは春夏に実績を残せていないどころかダートの短距離を走っていたり、ほぼ休みなしでレースに出っぱなしなのがマイナス材料になり……しかしトライアルで連続2着したり、なんなら今まで一度も掲示板を外していないという安定感もあることからか3番人気にはなった。もっとも、消去法的な3番人気ではあるだろうけど……。

 

 地下バ道。スリリンと一緒にマヤノの見送りをする最中、すれ違うのはオークスウマ娘。桜花賞ウマ娘……香水の先輩と何か話している。

 

「あ、ワンちゃん!」

「ワンちゃんいうなマヤノ」

 

 反応速度早いな。

 

「この子は……ああ。マヤノトップガンさんですね」

「そう。その子があたしとデビューを一緒に走ったマヤノ。……強いよ、この子は」

 

 香水の先輩の紹介の後、オークスウマ娘は丁寧にお辞儀をした。まるで社交ダンスの衣装のような勝負服と相まって、なんというかすごく気品がある。なるほど、名家出身のウマ娘なだけのことはある。

 

「3000m。お互い未知の舞台ですが、いい勝負をいたしましょう」

「うん。マヤは負けないよ。覚悟しててね」

「そちらこそ、ティアラ路線のウマ娘だからといって侮ったら……ぶっちぎりますよ。完膚なきまでに、ね」

「っ……!」

 

 丁寧な口調とは裏腹に目を大きく吊り上げ、内に秘める激しい闘争心を剥き出しにするオークスウマ娘。この子、実はかなりの気性難らしい……!

 しかし、マヤノは怖気付くどころか逆に闘志に火がついたみたいで。

 

「さっき言ったでしょ。マヤは、負けないって」

「ふふっ……なるほど……!」

 

 逆に不敵な笑みを浮かべ、睨み返してみせた。

 

 他にも周囲を見渡せば、前年度の三冠ウマ娘であるナリタブライアンさんに風貌がそっくりである2番人気のウマ娘が、ナリタブライアンさん本人に気合いを入れられたり。復活を目指すダービーウマ娘が1人で目を閉じ、相変わらず異様すぎる雰囲気をまとわせて集中をしていたり。その他色々なウマ娘が菊花賞の大舞台を前に、それぞれ想いを膨らませて気合いを入れている。

 

 その中から、最後に笑うのはたった1人だけだ。

 

 

 

---

 

 

 

 ファンファーレが響き、地を揺るがすような歓声が京都レース場を支配した。やはり、G1レースのある日のレース場は人と熱気があふれている。前のアタシならその空気に流されて一緒に盛り上がっていたところだけれども、すでにアタシはデビューした身。この舞台で走るようになったアタシからしたら、できうる限り落ち着いてレースを見て、マヤノが走る姿をこの目に焼き付けておきたい。

 でもやっぱり。マヤノの記念すべきG1デビュー……興奮しない訳ないよね。だから、矯正ギプスを着けることにした。

 

「……トレーナー。隣、いていい?」

 

 そう。トレーナーという矯正ギプスである。

 

「ああ、構わないが……他の娘とは観ないのか?」

「うるさい。ただ落ち着いて観たいだけ。勘違いするな」

「あはは……了解」

 

 という訳で、アタシはスリリン達と別れてトレーナーの隣でレースを観ることにした。まあ、一応レース展開とかをプロ目線から色々聞けるし……アタシももう、トゥインクル・シリーズを走るウマ娘だし……はしゃいでなんかいられないっていうか……ぶつぶつ……。

 

「どうした? もうレース始まるぞ?」

「えっ……あ、ホントだ!?」

 

 気が付けば大外のウマ娘が最後のゲートインをするところだった。そして、ゲートに入るや否や待ちきれない観客たちがざわつき始める。

 

「……マヤノ。頑張れ」

 

 はち切れそうな心臓を抑えて呟く。それから、ゲートが開くまで時間はかからなかった。

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