マヤノがかわいい。   作:#NkY

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第17話 マヤノ、勝利のランディング!

 マヤノトップガンの菊花賞1着入線を見届けた後。

 

「行くぞ、バブル」

「……どこに」

「決まってる。ウィナーズサークルだ!」

 

 トレーナーはアタシを置いてって駆け出してしまった。人の多いレース場の観客席だっていうのに。

 

「お、おい! ……まったく、クソガキみたいですね!」

「クソガキで結構!」

 

 アタシの皮肉に笑いながら返すクソガキトレーナー。……まあ、気持ちは分かるから今回ばかりは許す。

 だって、アタシのずっと隣にいたマヤノが、苦労を重ねながらも頑張ってきたマヤノが……今こうして、G1の大舞台で勝ったんだから。

 

 最初のうちは成長痛(ソエ)に悩まされてジュニア級全休を余儀なくされて、その上デビューしたての頃は得意条件でないコースを走らざるを得ず。それでもまず1勝を挙げ、芝のレースも使えるようになって、勝利を重ね、菊花賞への優先出走権も手に入れて。

 トゥインクル・シリーズで競い合ううちに友達も増えて。栄光を祝福したり、夢を託されたりもして……そして、今、マヤノは。

 

「トレーナーちゃーんっ!!」

 

 菊花賞を勝ったのだから。トレーナーとアタシが姿を現すと、マヤノは真っ先にトレーナーの方に駆け寄ってきて胸元に飛び込み、思い切り抱き着いた。

 ……まあ、許そう。内心ゆるせねえが……マヤノをここまで導いたのはトレーナーのおかげであることはアタシにも分かってるし、何よりマヤノがトレーナーに懐いているし……。

 

「ねえねえねえねえ! トレーナーちゃん、最後までマヤのこと、ちゃんと見てた!?」

「当たり前だ」

「マヤがゴールするところも!?」

「もちろん。しっかり見てたぞ」

「えへへ……マヤ、勝ったよ。勝ったんだよ!! 菊花賞で! G1で!!」

 

 こんなにもはしゃいで喜んでいるマヤノを見たことはない。というか3000m全力で走ってあれだけはしゃげるのは割と化け物なのでは……? さすがのトレーナーも若干引き気味でマヤノのことを構っている。

 

「トレーナーちゃん! マヤにごほーびちょーだい! とびっきりのチュー、してほしいな!」

 

 ぶふっ。何を言い出すんだこの子は。我慢しろアタシ、トレーナーの良心に託せ……。

 

「さ、さすがにそれは……」

「えー!? もしかしてトレーナーちゃん、マヤのことキライなの!?」

「いや、好きとか嫌いとかそういう問題じゃなくてだな……」

「じゃあオトナのチューしてー!!」

 

 ……ごめん。無理。我慢ならない。

 

「成敗!!」

 

 横っ腹に思い切り蹴りを入れた。もちろん、トレーナーの方に、である。

 

「ぐぉあぶっ!! ……お、おい、迫られたの俺の方……だぞ……」

「男ならハッキリ断れ、ヘンタイがぁっ!」

「……りふじん……」

 

 これでよし。悪は去った。

 

「マヤノ。オトナのオンナっていうのは、自分からおねだりしないの」

「んー……そっか。って、バブちゃん!」

「あはは……バブちゃんです」

 

 改めて、マヤノのことを見る。やっぱり、単純に可愛いとしか思い浮かばない。あの子の一体どこに、あんなレースが出来る力が秘められているのだろう。さっきのレースの熱気がまるで夢か幻か、どっちかだと思ってしまうほどに、マヤノはただただ可愛かった。

 

「今日も可愛いねマヤノ……でふふっ」

「バブルの方がよっぽどだと思うんだがな……」

 

 何か下の方でトレーナーとかいうしにぞこないの生き物が変な事言っているが気にしない。アタシは両腕を広げた。

 

「おめでと、マヤノ」

「……ありがと」

 

 ぎゅ。マヤノの身体は、レースの熱でしっかりと火照っていた。心が火傷してしまうほどに熱かった。

 やっぱり。あのレースは、本物だったんだ……。

 

 

---

 

 

 勝利インタビュー等をひとしきりこなして落ち着いた後、地下バ道に向かうと見慣れた2つの影がマヤノを待っていた。

 

「マヤノーっ!! スリリングな菊花賞勝ち、おめでとーうっ!」

「スリリンちゃん!」

「おめでとう、マヤノ! これであなたもあたしと同じ、G1ウマ娘ね」

「ワンちゃん! えへへ、みんなありがとーっ!」

 

 スリリンとは拳をこつんと合わせ、香水の先輩にはぎゅっと握手。勝ち誇ることはせず、単純に勝利を喜んで嬉しいという感情を振りまくマヤノは、やっぱり見ているだけで周りの人々を幸せな気持ちにしてしまう。

 

 でも、香水の先輩の表情は、やや複雑だった。

 

「……でも、マヤノ。喜ぶのもここまでにする」

「ワンちゃん……?」

 

 それもそのはずだ。何故なら、彼女は。

 

「今までは友達。でも、これからはライバル。……『有マ記念』」

「……!」

 

 宣戦布告をしに来たのだから。

 

「あたしの次走はエリザベス女王杯。そこであたしは真の女王になって……それから、有マであなたを倒しにいくわ。『もう一度』、ね」

 

 5着に終わったマヤノのメイクデビューで、1着になったのが香水の先輩だ。だから、『もう一度』なんだろう。

 

「でも、あなたはずっとレースに出っぱなしでもある。もし身体の調子が良くないのであれば、無理をせず回避なさい。ケガをするのが一番良くないのだから」

「うん。ワンちゃんこそ」

「ん……そうね」

 

 香水の先輩は自らの太ももをさすった。確かめるように。

 

「あたしは、大丈夫よ。マヤノと走るために……」

 

 そして、自分に言い聞かせるようにそっとつぶやいたのだった。

 

「それじゃあね。あたしはあのオークスウマ娘を煽らなきゃいけない使命があるから」

「……う、うん。じゃあね、ワンちゃん!」

 

 どんな使命だ、と心の中でつぶやく。どうやらスリリンも同じことを思っていたみたいで、顔を見合わせて苦笑した。

 けれど、さっきのやり取りで、マヤノは何か引っかかるものがあったらしい。

 

「ワンちゃん、本当に大丈夫かな……」

 

 

---

 

 

 マヤノは察しがいい。何でも、わかっちゃう。

 そして、やはり今回も……わかってしまったのだった。

 

 翌週のエリザベス女王杯。アタシとマヤノ、そしてスリリンとで京都レース場に応援に来たのだが。

 

『サクラキャンドル! サクラキャンドル! サクラキャンドル今先頭でゴールイン!』

 

 勝ったのはヴィクトリー倶楽部出身、人気薄のサクラキャンドルという娘だった。

 

「ワンちゃん……」

 

 香水の先輩は距離不安ながらも他に実績のある娘がいなかったため、4番人気を背負ったが……。

 

「いくら距離が長いにしても、これは……」

「……さすがに、負けすぎ」

「そうだな……」

 

 ……18人のうちの16着という惨敗を喫してしまったのだった。

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