マヤノがかわいい。   作:#NkY

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第1話 マヤノがねとられた

 アタシとかわいいかわいいマヤノは同じ時期にトレセン学園に入学を果たした。その時はマヤノよりアタシの方が少々速かったのだけど、スカウトを先に受けたのはマヤノの方だった。……というか、マヤノ曰く。

 

「オトナの魅力でトレーナーちゃんのハートを掴んじゃった!」

 

 てな感じで、なんかタイプのトレーナーを見つけて猛アピールして押し切ったとか何とか。要はマヤノからの逆スカウトって訳なんだけど……何はともあれアタシのマヤノを横取りしやがって。唐突に百合の間に入ってくる男が出てきてハートフル終了のお知らせだよ。まじ許せねえ。

 

「……バブちゃん? 顔が怖いよ?」

「え? あ、うん、何でもない。あとバブちゃん呼びだけはやめい」

 

 ……え? マヤノに勝ってるアタシが何でスカウトされてないかって? ……ほら、アタシってさ、身体能力だけでここに入ったようなもんだからさ、テストがいっつも赤点で補講常連で、おまけに先生から

 

「いくら能力があろうと、学業をなんとかしないと選抜レースには出られないぞ」

 

 って言われて。悲しい。せっかく才能に恵まれた身体を手に入れて人生やり直せてるってのに、頭が悪いってとこまで引き継がなくても。

 

 結局のところ。アタシはまだトレーナーにアピールできる機会を手に入れておらず、しかも頭が致命的に悪い噂もなんか広まってしまっており……『身体能力は確かにあるが学業がよろしくなく、レース脳もあんまりよくない』なんて変な評価を下されてスカウトが1個も来ないんだよっ! なんでっ! なんでぇっ! アタシの愛したマヤノも寝取られるし!! どこのウマ娘の骨が分かんないような男にぃ!!

 

 ……あ。でも。

 

「……お、結構いいタイムだ。調子良いじゃないかマヤノ」

「えへへー♪ ごほうびになでなでしてほしいなー……?」

「はいはい。なでたからには次の模擬レース、頑張れよ」

「もっちろん! 絶対勝つから! だから、マヤのこと見ててね……?」

 

 は? 流れ弾がこっちに当たってしんだんだけど。

 

 そんな感じで、アタシには絶対見せないようなしっぽふりっふりででれっでれのマヤノを見さしてくれるのには感謝ね……。ほんっとうに可愛い……天使か……。

 ついでにマヤノって結構ワガママな子なのにあのトレーナーはちゃんと制御出来てるし、あと指導内容も悪くないし、何よりマヤノが完全に信頼しきってるし……あと、何だかんだ顔もいいし。正直お似合いじゃねーか、くっそー……。

 

「……お前も走るか?」

「いや。いいです。どうぞ存分にウチのマヤノとイチャイチャしてください」

「……」

 

 ホントは走りたいけど。なんかコイツ相手には正直になれん……。

 

「えー? バブちゃん一緒に走んないのー?」

「えっ? あー……んー……走、る……」

 

 なおマヤノには弱い模様。そうやって急遽併走をすることに。

 

 もちろんマヤノの飲み込みとかが早いってのもあるけど、トレーナーの力って凄い。ちょっと前ならアタシが前を走れてたのに、今じゃもうマヤノの方が圧倒的に上。元々マヤノが持っていたレース運びの上手さに、成長度合いにばっちり合ったトレーニングをこなしたことでちゃんとフィジカルまで備わったマヤノはもう無敵。確かに最初の方は前を走れるんだけど、実はマヤノに風除けにされてるだけ。第4コーナーですっと横に並ばれなんか上手いことかわされてじりじりと突き放される。まだ食らいついてはいけてるんだけど、そのうち5バ身くらい差を付けられそうな感じさえもする。

 

「はぁ、はぁ……マヤノ、強くなったねぇー……」

「ふふーん、トレーナーちゃんのおかげだもんね!」

「トレーナーちゃん、か……」

 

 アタシはムッとしてトレーナーを横目でにらんだ。トレーナーは肩をすくめて『どうしたものかなー』って顔をしてた。その気がなくてもそういうことをしてるんだから犯罪なの。

 しかし、その仕草を見せたのもつかの間。何か急に真剣な表情になって、なんとこんなことを言ってきたのだ。

 

「……なあ。俺から提案があるんだが」

「何?」

「君をスカウトさせてもらってもいいか?」

 

 スカウト? アタシを? マヤノという存在がいるのにもかかわらず? は?????

 

「は? は? マヤノひとりに飽き足らず? アタシにも手を出そうと?? は??」

「君は何かとんでもない誤解をしている」

「滅べ変態」

「……」

 

 ついつい勢いでつっけんどんな態度を取ってしまった。しまった、と思った時にはもう遅い。

 

 トレーナーにスカウトされてチームに入らないとトゥインクル・シリーズには出られない。しかもその状況がずっと続くようなものならコース変更や退学を余儀なくされる。その上今のアタシを取り巻く状況からして、他のトレーナーからのスカウトなんてほぼ飛んでこないだろう。スカウトされるということはトレセン学園の生徒から見ればとんでもないチャンスであるわけだ。

 当然そのスカウトを引き受けるべきだと思うし、何ならほんとは彼にスカウトされたい。マヤノとしっかり向き合ったうえで、マヤノの実力をちゃんと引き出せてるトレーナーなんだもん。

 

 なのに。なのになのに、なのに! 唐突な提案であったせいもあるんだろうけど、いや、多分唐突じゃなくっても――アタシは彼に、素直になれない。マヤノを取られたってせいだけで。マヤノを取られたって……思い込んでる、せいで……。

 

 分かってる。分かってんの。だけど、なんなんだろ。なんなんだろ、ほんと。モヤモヤしてる。そんなしょーもないモヤモヤなんて振り払いたいよ。

 

 なのに、振り払えないよっ!

 

 そんな心中を悟られないよう、アタシはトレーナーとマヤノの元から全速力で逃げていった。どうしようも、できなかったから。

 

 ……どうせマヤノには、気づかれてるだろうけど。

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