マヤノがかわいい。   作:#NkY

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第19話 アタシの夢は

「あのさ、ネイチャ!」

「うお!? ……急にどうしたー? 今をときめくジュニア級の有望株さん。何だか切羽詰まった顔してるけど」

「悩みっていうか、相談っていうかさ……!」

「ん? なんじゃらほい。このネイチャさんに言ってみんさい」

 

 悩みがあったらとりあえずネイチャだと思う。アタシはこの前の香水の先輩の敗戦から始まった、一連の悩みについて話した。

 『想い』『憧れ』そして『夢』。あの先輩が言っていた、ウマ娘の持つ3つの呪いについて。

 そして、今の段階のアタシはそれをあまり持ち合わせていないことについて。

 

「でさ、思っちゃうんだよね。そんなアタシが、他のウマ娘の気持ちを踏みつぶしながら、勝っていいのかな……って」

「……何というか、それをこのネイチャさんに話します? って感じだけど」

「そ、それはごめん……でも、他の強いウマ娘ってみんな何かしらそういうの持ってるというか、そんな感じがしてさ。ちょっと引けちゃう、っていうか……」

「まあ、確かに。それならアタシに来るのも分かるけど……あ、ちなみにマヤノには言った?」

「まだ言ってない。でも、察するんじゃないかな、そのうち」

「ふうん……」

 

 我ながら答えに悩みそうな質問を投げてしまったな、と思った。けれども、ナイスネイチャはさして悩まない。

 

「でも。トゥインクル・シリーズは強いウマ娘が勝つ。それが当たり前なんじゃないかな。少なくともアタシは、そう思って走ってる」

「その、強いウマ娘ってさ。何が強いの? 力? 想い?」

「ん……力、かな。結局想いっていうのはさ、力を増幅させるための装置に過ぎないと思う」

「……なんか意外な回答だね」

「こう見えてネイチャさんはクールですから。それに、想いだけじゃどうにもならない世界だってのは、身をもって体験してるから……」

 

 ネイチャはそうやって、遠くに目をやった。目線の先には、トレセン学園のグラウンドと、練習をするウマ娘の声……。

 

「ごめん……」

「いいのいいの。伊達に何年シニア級やってると思ってる? 4年だよ、4年。これだけシニア級やってたらさすがに達観してくるって、色々と」

 

 再びアタシに目線を戻してくる。

 

「だからさ。別に勝っても全然いいと思うよ。それで勝ったとして、他のウマ娘が恨み言を言う資格なんて全然ないから。それに……気持ちに振り回されて勝てるレースを落とすのはもったいない。応援してくれるファンのためにも、ね」

「ファン……」

「バブルにもいるでしょ? 応援してくれるファン」

「それは、まあ……」

「中には涼しい顔して勝つバブルに惚れたーって声もちょいちょい聞くよ。ふふっ、モテモテじゃん!」

「ち、ちょっと恥ずかしくなるからやめてよ」

「あはは。でも、『走る理由がない』というのは、絶対にないんじゃないかなって思うな」

 

 すると、ネイチャは。

 

「マヤノと走りたいんでしょ」

 

 ウインクしながら、そうやって図星をぶち抜いてくる。

 

「……分かりやすい?」

「そんなの、マヤノじゃなくても分かっちゃうよ。去年のあのマッチレースからずっと、マヤノとトゥインクル・シリーズで走りたい、って……思ってるんでしょ? バブルさん?」

「もちろん。あの時はダート短距離でお互い得意条件じゃなかったのもあるけど……やっぱ、負けっぱなしって悔しいじゃん? いくらアタシがマヤノが大好きとはいえ、悔しいものは悔しいよ」

「いやー、青春だねえ」

「ネイチャあんた何歳よ……」

 

 まあ、何歳か分からないウマ娘は他にもゴールドシップという学園の怪奇がいるんだけど……ネイチャのそのじじくさーいムーブも大概だと思ってる。

 

「ま、多分それ、ネイチャさんがお先しちゃうかもだけど」

「え?」

「今年の有マ記念。多分、出るから」

「あっ。ズルいしそれ!」

 

 それでも有マ記念に出るというワードが簡単に出てくるあたり、彼女もまたもの凄いウマ娘であるということを実感させられる。もっとも、そんな一流ウマ娘のオーラは皆無なのだけど。いい意味で、さ。

 

「……でも、ありがとね。何となく悩みが軽くなった気がする」

「いえいえ。ことトゥインクル・シリーズにおいては、アタシはバブルよりも大先輩なのですから。何かあったらこのネイチャさんお悩み相談室に来るといいよ?」

「うん。じゃあ毎日行く。特に今熱い悩みはねー、そろそろマヤノと夜のドッグファイトを繰り広げt」

「アンタ出禁ね」

「そんなー!?」

 

 

---

 

 

 地下バ道で、アタシはあるウマ娘を待っていた。

 

「っしゃ! 阪神1400m、スリリングにクビ差勝ちだっ!!」

 

 菊花賞の優先出走権を逃したスリリンは、下のクラスで立て直しを図ると言っていた。スリリンは前走の京都1600mで3着をした後、このレースで逃げるウマ娘を先行策で追走し、最後の最後まで分からない大接戦をギリギリで制した。

 ちなみに、今日の応援はアタシだけ。マヤノは有マ記念特集の雑誌の取材が入ってて不在。香水の先輩は……単に、用事が片付かないと言われてしまった。

 

「おめでと! スリリンはこれでオープン入り、だっけ?」

「その通り。これで、名実ともにウチもエリートウマ娘の仲間入りって訳だ! ……はは、何か自分で言っておいて照れるな……」

「よっ。エリート!」

「よせって。ていうかエリートなのはバブルもじゃないか」

「……エリートっていうか、期待の星?」

「あはは、どっちかっていうとそっちだな。ジュニア級の期待の星!」

「やめてよ、あんま柄じゃないんだから」

「へへ、お返しだっての」

 

 最近色々とあったが、とにかく、このスリリンに関しては順調っぽくてアタシは安心した。2200mだった京都新聞杯では距離不適で二桁着順に沈んだものの、実はこのレース以外は掲示板を外していない。レースに出れば必ず堅い走りを見せるのがスリリンという娘なのだ。名前に反して。

 

「次のレースはいつになるの?」

「ウチ? ウチは年内にもう一戦走りたいな。中2週当たりでさ……あ、ちょうどクリスマスの時期じゃん」

「ふーん。もしかして、クリスマスプレゼントしてくれるの?」

「あっは! そーれいいかもな! メリークリスマス、危険なサンタからの危険なクリスマスプレゼントだ、受け取れー!」

「やばそう」

「あ、中身爆弾な」

「迷惑」

 

 スリリンは自分で言っておいて爆笑した。

 

「あっはー、笑った……で、バブルは来週だっけ?」

 

 ……そうだ。アタシのレースは、もう。

 

「もちろん。……『朝日杯ジュニアステークス』」

「……ジュニア級王者決定戦、だな」

「そう。ジュニア級唯一のG1……絶対に勝つよ」

 

 もう、迷いはない。たとえ簡単に勝ててしまって、他のウマ娘を泡のように潰しても。

 

「アタシ、勝てるものは、全部勝つから。それが……」

「『トゥインクル・シリーズ』。だろ?」

「何でセリフ取るのよ。……ま、そうだけど」

 

 口角が気持ち悪く上がってしまうのが分かった。

 あはは。何でだろう。確かに、トゥインクル・シリーズで全力のマヤノと走りたい、という夢はある。けれど、その夢は最短でもまだ1年弱はかかるような、おぼろげな夢だ。

 そういう意味で今のアタシは、特に差し迫った夢も、胸に秘めた激しい想いも特にない。応援してくれるファンの期待に応えたい、G1ウマ娘に早くなりたい、という気持ちは確かにあるが、多分もっと大きな事情とか、理由があって、そういう想いを持つウマ娘は他にわんさかいるはずだ。

 

 でも。やはり。ウマ娘は。

 

「走りたくって、たまらないな……!」

 

 ウマ娘は、そういう生き物なんだろうな。

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