「ホントは入りたいんでしょ。トレーナーちゃんのチームに」
寮室。アタシはかわいいマヤノからの追及を受けていた。もうね。マヤノをごまかせるだなんてそんなの考えちゃいけない。逃げたときも、何となくこうやって来るだろうなって分かってた。そんなとこもかわいいし嬉しい。
「……うん」
「なんで逃げたの?」
「アタシにも分かんない」
アタシはマヤノの背を向けてベッドでごろごろしている。
「マヤはバブちゃんと一緒のチームで練習したいの。バブちゃんもそうでしょ?」
「それは、そう」
「じゃあなんで逃げちゃうの? 『いいよ』って言えば済んじゃう話じゃん」
「……言えないんだ。今のアタシには」
「……?」
たぶんマヤノみたいな子には、アタシの持ってるこの感覚が分かんないだろうなって思う。それを分かり切ってアタシは話をしてるから、怒るとかっていう感情は一切持たない。……でも、マヤノの素直さってすごく羨ましいよね。こういう、しなくてもいい、分かり切っている損をしなくていいんだから。
「じゃあ今度、マヤと一緒にスカウト受けるって話しよ?」
「ううん。それだけはアタシがやる」
「えー? なんで?」
アタシは起き上がってマヤノと向き合った。
「トレーナーとの契約ってすごく大事じゃん。……大事な話は、アタシがちゃんとやりたい」
マヤノはアタシの話を聞くと、静かにうなずいた。
「……うん。一緒のチームで練習できること、楽しみにしてるよ。バブちゃん」
「バブちゃんはやめてくんないかな……」
そう言いながらも、アタシはどこか寂しかったというか、満たされたかったん、だと、思う。
身体は正直なもんで、気が付けばマヤノを大きなぬいぐるみのようにぎゅっとしていた。マヤノは特段驚いたりせず、けれどちょっと不思議そうにしながらもアタシの抱擁を受けいれていた。しっぽをゆっくり揺らしながら。
「マヤと一緒に寝よっか」
「うん」
マヤノがどう思っているのかは分からない。けど、こういう甘い甘い生活が続いているのは、アタシにとって確実に幸せだった。
そして、それは明日へのエネルギーになる……。
「すやぁ……」
とは限らない。
「……起きなさい」
「ふぇっ!?」
「授業中連続就寝記録更新、と……課題、増やしておくからな」
「うぐっ……は、はーい……」
じ、授業が退屈なのが、悪いんだから……。
理由はともあれ、置かれている状況とか、自分自身とか、そういうものが急に変わるなんてことはないのだった。
「変わったといったら、昨日思いもよらぬスカウトを受けたくらいなんだよね……」
「えっ!? やるじゃん!」
「うわっ声大きっ」
アタシの増えた課題に付き合ってくれてる友人、ナイスネイチャが驚きのあまり立ち上がった。
「で? とーぜんスカウト受けたんだよね?」
「ううん。断った」
「えっ!?」
「声大きっ……」
地味だー普通だーって自分の事を言ってるネイチャだけど、実は結構反応が大げさなとこあるんだよね。そういうとこ好きだけど。
「だってマヤノを寝取ったヤツだよ? なーんかムカついて、断った」
「寝取ったって大げさな……でももったいなくない? 選抜レースじゃないとこで直接スカウトされるだなんて貴重でしょ?」
「まあ、そうなんだけどさ」
「……なるほどね。素直になれんのか」
「なーんでウマ娘という種族はみんな勘が鋭いのかね」
なぜいとも簡単に図星を当ててくるんだ。
「だって若干ツンデレの感のあるバブちゃんのことでしょ? 鈍感なネイチャさんにも分かりやすいって」
「ツンデレじゃないしバブちゃんじゃないし分かりやすくないから『ナイスネーチャン』」
「ネーチャンじゃないっての」
とりあえずその場をうやむやにしたけど、そっかー……分かりやすいかー……。
「まー、どうするかはバブル次第だけどさ。スカウトを受けるんなら素直に言った方がいいよ、やっぱ」
「でも結構ひどい態度取った手前、中々ねー……」
「それは自業自得」
「うっ」
「でも、ウマ娘は気性が荒い子多いから、そのくらい寛容なトレーナーは多いんじゃない? それにチームに入りたい気持ち、多分あのトレーナーさんにも見抜かれてるんじゃないかなーって思ってる」
「……うっわ、はっず」
アタシは机に顔を突っ伏した。
トレセン学園のみんなは、勘がするどい……。