マヤノがかわいい。   作:#NkY

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第4話 マヤノですら通用しない!?

 マヤノが勝てない。メイクデビューにすらたどり着けない。アタシもトレーナーも衝撃を受けた。

 しかし、一番衝撃を受けているのは。

 

「なんで……なんで……っ!!」

 

 マヤノトップガン、本人だった。

 

 

 

 原因はハッキリとしている。ジュニア級ウマ娘によくある成長期故の成長痛(ソエ)だ。それによって全力のトレーニングが出来ない状態がここ最近ずっと続いている。レースに関しても慎重を要し、膝の負担が大きい芝を避けて、ダートの短距離を適正な舞台でないのを承知で使うしかなかった。

 そして、マヤノは持ち前のセンスでそれなりには善戦するも……適正外のレースに出ていることに加え、順調にトレーニングを積んでいる他のウマ娘との差はいかんともしがたいものがあった。たとえレース運びが下手でも能力でゴリ押しされてしまうのだ。

 

 メイクデビューの早さとトゥインクル・シリーズでの活躍が比例するわけでは決してない。デビューが早くてもその分早くに燃え尽きてしまうウマ娘もいれば、デビューに手間取って遅くなったとしても、じっくりと身体作りをしたのが奏功してG1を獲れるほどにまでなるウマ娘もいる。だが、やはり周りの同じジュニア級のウマ娘たちが続々とデビューを果たし、重賞レースで活躍するさまを指でくわえて見ていることしかできないのは――

 

「マヤも、早く走りたい、のに……」

 

 ――きっとアタシが想像している以上に、辛いんだろう。

 

「大丈夫だよ。今は、我慢のとき」

「……ありがとう、バブちゃん」

「ん。……あ、でもバブちゃんはやめてほしいな」

 

 結局学力不足が響いて今年中の選抜レース出走が無理そうなアタシは、せめてできうる限りマヤノの近くにいて、マヤノを励まし続けることくらいしかできなかった。ぎゅうっと抱きしめると、マヤノの身体が悔しさで震えてるのがはっきりと分かって、アタシも心がぎゅっと締め付けられるような感じになった。せめてアタシだけでも、笑ってなきゃいけないのに……。

 

 そして……状況は一向に解決しないまま、気が付けば12月になってしまっていた。

 

 

 

「これから朝日杯見るんだけど、マヤノも見る?」

「……うん」

 

 レースに出られなくても、存分に練習できなくても……マヤノは、やれることをやっていた。レース観戦もその一環だ。同期が既に活躍しているという悔しさをバネにして。

 決してひねくれて、レースへのモチベーションが燃え尽きたりなんかはしていない。テレビを食い入るように見つめるマヤノの瞳には力強い光が差している。ああ……マヤノは、強い。前世のアタシなんかとは、全然違うや。

 

『2頭並んだが! わずかにわずかに内! ――来年のクラシックはやはり、このウマ娘を中心に展開されます!』

 

 ジュニア級王者の誕生を、マヤノはテレビの前で見る他なかった。

 だが……隣にいたマヤノは、このレースを観て火が付いたように思えた。

 

「みんな強いよ。今のマヤには勝てない。でも……マヤなら、もっと『上手く』レースができる」

「……っ!」

 

 びり、っとちょっと痛いくらいのオーラをマヤノから感じた。マヤノが、にやりと笑みをこぼした。

 確かに……みんな強かった。が、1着のウマ娘は身体能力にものを言わせて押し切ったような勝ち方をしたし、2着のウマ娘は後方一気のものすごい勢いの追い込みを見せたが、なんとなく不器用な感じのあるレース運びだった。

 

「マヤ、分かっちゃった」

 

 ウマ娘のレースには、何かアタシ達を突き動かすような不思議な熱い力がある。今も昔もずっとそうだし、ずっとそうだからトゥインクル・シリーズはこんなにも盛り上がる。

 

「バブちゃん!」

「ど……どしたの急に立ち上がって……」

「行くよ!」

 

 ……こんなにも、人生を変えてくれる。

 

「……脚は大丈夫?」

「レース見てたら走りたくって仕方ないもんっ! マヤちんテイクオフしたい!!」

「分かった。……走るか!」

 

 これってきっと、ウマ娘の逆らえない本能みたいなもん。あのレースを観て、アタシもなんだか走りたくなって身体がうずうずしてきたのだ。二人揃ってジャージに早着替えして、トレセン学園へと飛び出していった。

 

 学園に着いたらその勢いのまま真っ先にトラックコースに向かう……はずだったのだが。

 

「……あ。バブちゃん」

「どうしたの?」

「先行ってて。……ちょっと、気になってさ」

 

 マヤノはどうやら三女神様の像に何か不思議なものを感じたようだ。何でもあの三女神様の像、たまーに何か不思議な力を分け与えてくれるとかなんとか、そんな噂があったりなかったりする。噂なんだけど。

 

「ふふ、りょーかい。先行ってんね」

 

 アタシは頷いて、先にトラックコースの場所を取っておくことにした。

 

 

 

 マヤノの脚の状態を考慮してダートの1200。ただ、アタシもダート短距離は得意ではないため同じ条件。得意な舞台で思う存分走れないのは少々残念ではあるが、けれども今このタイミングを逃せば何か大事なものを二人揃って逃がしてしまう、そんな気がした。

 準備運動もアップもばっちり。100%以上の力でマッチレース。マヤノはトゥインクル・シリーズ登録済で、アタシはまだ登録されていない。今では実力はマヤノの方がすっかり上を行っている。

 

「マヤノ。……今日は、勝つよ」

 

 でも。何故だか『マヤノと』走りたくなった上に、勝てる気さえもしてきた。

 

「へえー……マヤに勝つつもりでいるんだ」

 

 マヤノにしては珍しい表情。にやりと口端を釣り上げてアタシを挑発的な笑みで見つめかえす。

 

「うん。マヤノが大丈夫そうだから、全力で行く」

「……マヤをあんまり見くびらないでほしいな」

 

 火花が散った。アタシの大好きな人が、ここにいる時だけは最強の敵と化す。

 

「お二人さーん。そろそろはじめるよー」

 

 その辺にいたネイチャがスターターを務める。何だか気が抜けている声だ。アタシとマヤノの情熱を絶対零度で冷やそうとすら感じた。

 

「アイコピー! アイコピーーーッ!!」

「声ちっさいよ!! もっとアタシたちを破裂させるぐらいに燃え上がらせろよ!!」

「あはは……」

 

 ネイチャはやれやれといったように頭をかいて……。

 

「……それじゃあ、お二人さんの熱い気持ちに水を差さないように」

 

 ビリッ。静寂の中電気が走るような緊張感。誤って何かでつつけば、たちまち大爆発を起こしてしまうような張り詰めた空気。

 観客はただ一人。走る相手もただ一人。勝っても負けてもなにもない。けれど、それは、アタシとマヤノ以外の人から見てのこと。

 

 

「位置に付いて!!」

 

 

 この想いは。

 

 

「よーい!!!」

 

 

 この気持ちは!

 

 

「どんッ!!!」

 

 

 譲れない――ッ!!

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