マヤノがかわいい。   作:#NkY

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第8話 マヤノと走ったあの子は

 マヤノトップガンが初勝利を挙げたほんの少し後。この年の桜花賞はとあるウマ娘に注目が集まっていた。

 オグリキャップと同じ出身であるカサマツから殴り込みをかけてきて、前走のフィリーズレビューで物凄い豪脚を披露して勝利したウマ娘である。あのオグリと同じようなキャリアで、あの強さ。得てして人間は雑草魂とかそういうのが好きで、それを体現したようなそのウマ娘が圧倒的な人気にならないはずがなかった。

 

 その裏で……あるウマ娘が闘志を燃やしていた。カサマツ出身でもなければ、名家の生まれでもない……バックボーンがごくごく平凡なウマ娘だった。特徴があるとするなら彼女からはやけに香水っぽいにおいがするという、レースとは全く関係のないものであった。

 そんな彼女に、一人のウマ娘が駆け寄る――(世間から見れば)平々凡々な1勝ウマ娘。マヤノトップガンだった。

 

「上手く行けば絶対に勝つ。あたしの脚がアイツに負けるわけがない」

「うん。マヤも信じてる。きっと阪神1600mはキミの舞台だと思うんだ。……行けるよ」

「絶対?」

「絶対」

「……ええ、そうね。ありがとうマヤノ。――さあ、今に見てなさい。下剋上、果たすのよ!」

 

 7番人気、伏兵。注目の外。勝利はあんまり望まれていない。そんな彼女にとって、マヤノが送ったエールがどれほど心強いものだったろう。

 

 瞳に炎を宿したそのウマ娘は、直線に入るや否や、大外から豪快に前に躍り出た。カサマツのウマ娘は前が開かず苦しい展開。しかし、相手は彼女だけではない。凄まじい勢いで猛追するのは2,3番人気であった2頭のエリートウマ娘。

 

「あたしだって女王の権利はあるの! ナメて貰ったら困るんだから!!」

 

 苦しくなりながらも、詰め寄られながらも。

 

「はぁぁあぁ――ッ!!」

 

 それを持ち前の気迫と意地で退け――見事、桜の女王の座を射止めた。

 

 

--

 

 

「わ、すご……本当に勝っちゃった……!」

 

 桜花賞で勝利を飾ったのは、マヤノのデビュー戦で1着になった、あの香水がすごいウマ娘だった。当然、アタシとマヤノはそのレースを現地で見ていた。

 

「ね。マヤの言った通りでしょ?」

「うん。……お祝い、行く?」

「もっちろん!」

 

 アタシとマヤノは一緒に彼女のお祝いに行った。地下バ道でアタシの隣にいたマヤノを見ると、ピンクと白を基調としたフリフリしてる勝負服に身を包んでいる彼女がにこりと笑って駆け寄ってくる。――汗まみれだというのに香水のにおいが全然劣化してない。というか、汗のにおいがしない。実はなんかすごい技術なんじゃ……?

 

「マヤノ。あたし、やったよ。勝てたんだよ。この、あたしの脚で!」

 

 その子は1600mを走り切った自らの脚をぱんぱんと叩いた。そういえば、その子も成長痛(ソエ)とかで上手く行かずに調整が遅れてデビューが遅くなった、とか言ってたな。トレーナー情報で。きっとアタシが知らない裏で、この子にも色々あって――そして、自らの脚で下馬評を覆して1着を取れたことに誇りを持っているんだろう。

 しかし、マヤノが未勝利で頑張っている間にあっという間に桜花賞ウマ娘になるなんて。きっと元から短距離に適性があって、ダートもそれなりにこなせた子だったのだろう。それでもってマヤノよりも早く脚元の不安がなくなったからか芝を使ってティアラ路線に参戦できることになり、そして桜花賞を獲れる才能も運もあったということなのだろう。

 

 同じ境遇で同じデビュー戦を走った子が、あっという間にG1のタイトルを手にしてしまった。マヤノにとっては結構悔しいんじゃないかな、もしアタシがマヤノだったらめちゃくちゃ悔しいな、と思ってたけど。

 

「おめでとう! マヤ、キミが勝つって信じてたよ。ずっと!」

 

 マヤノは素直にその勝利を祝福してしまえるウマ娘だった。

 

「ありがとう。それじゃあお返しに……とまではいかないかもだけど」

「うん?」

 

 きっと、マヤノとかかわりを持つ人間とかウマ娘は、その純粋さに惹かれて……。

 

「あなたの活躍を信じてる。今は発揮しきれていないみたいなのだけれど……あなたの持つその実力は、きっと本物だって、あたしは信じてるから」

 

 マヤノを、好きになるんだろうな。

 

「それと。そこのデビュー前のキミも」

「え? アタシ、ですか?」

「ええ。……何があっても、諦めないことよ」

「え……?」

 

 ……何で、アタシにそんな言葉を……?

 

「それじゃ!」

「……あ、ちょっと待ってくださ……行っちゃった……」

 

 そう言うと、彼女はあっという間に彼女のトレーナーの元へと向かってしまった。何でそんな言葉を言ったのか真意は分からないまま。だけどなぜだかアタシの心に深く刺さる言葉を貰った……。

 

「……バブちゃん?」

「あ。ごめんマヤノ。ちょっと、ぼーっとしちゃってた」

「ふーん……何か隠してない?」

 

 マヤノは勘がするどい。そして、一度疑われると大抵逃げられない。

 

「……まあ、いいけどね」

 

 あれ?

 

「いいんだ」

「うん。今知らなくてもそのうち知れると思うし、それに知るときは今じゃないってカンジしたし」

「そ、そうなんだ……」

 

 何はともあれ助かった……のか……? でもこの感じ、絶対感づかれてるよね……。

 ま、とにかく。アタシに何があるのかはおしえません。ってことで。

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