平日にもかかわらず、グレモリー眷属は皆、山上の別荘にいた。そこはグレモリーの所有物で、ライザーとのレーティングゲームまでの10日間の特訓場所でもあった。
10日と猶予を設けられたリアス達は、学校を休み(当然根回しありで)、その時間をすべて特訓に使う予定であった。相手は公式戦も経験しているライザー・フェニックス。勝てる見込みは高くないが、それでも主のために戦うのが眷属だ。
初日の特訓はそれぞれのメンバーが個々に組んでいた。大一は最初にアーシアと訓練していた。白いジャージを着た彼女は大一についていくように何度も走り込んでいる。
「はあはあ…た、大変です…」
「それでも頑張りな。あと10本ダッシュするぞ」
大一とアーシアの特訓はシンプルなものであった。目的は体力の底上げの一点だ。彼女の持つ神器による回復力は大きな武器であった。傷やけがの類は彼女の能力で回復できる。つまり彼女が残れば、それだけチームの生存に繋がる。
ならば、教えられることが少ない彼に出来ることは、彼女の体力を底上げるために共にトレーニングすることだけであった。
「レーティングゲームでお前が前に出ることは少ないだろう。だが基礎体力を上げて、走り回れるようにしておくに越したことはない。お前が残ることがこちらの勝利につながる」
「わ、私、そんなに出来るのでしょうか…?」
「俺よりも必要だ」
「そ、そんな自信がありません…」
休憩中、アーシアはその心情を吐露するかのように答える。元より不安を感じやすい性格なのだから、当然の反応だろう。それでも特訓に喰らいつくのは、彼女の美点だと大一は思った。同時にどこかで気持ちを引き締める必要性を感じた彼は、少し考えるようにあごに手を当てて口を開く。
「…アーシア、リアスさんのことは好きか?」
「へ!?そうですね…部長さんは恩人ですし、憧れています。そういう意味では好きですけど…」
「じゃあ、その恩人のために頑張るってことなら、どこまでやれる?」
「…元よりそのつもりです!」
「よし、それでいい。なら、もうちょっとやるぞ」
────────────────────────────────────────────
次に大一が特訓したのは、祐斗と小猫の後輩コンビであった。内容はそれぞれとの模擬戦闘であった。祐斗がそのスピードを活かして縦横無尽に動き、剣で大一に攻撃を与える。常に別方向から別の部位を狙い、使う剣も数回に一度替えていた。祐斗の神器『魔剣創造(ソード・バース)』、あらゆる属性の魔剣を創るその力は剣士としても鍛える祐斗にピッタリであった。
「速い上に神器による剣の手数の多さ、さすがとしか言いようがない」
そう言う大一も攻撃はきっちり防いでいる。単純な速度こそ祐斗には追いつけないものの、感知能力と反応速度で攻撃を防いでいく。
「攻撃が決まらない…!」
「いちいち剣を変えない方がもう少し隙を減らせるかもな」
「…時間です。祐斗先輩、交代ですよ」
小猫の言葉に祐斗は止まる。大きく息を吐いた彼は大一に対して頭を下げると、下がって小猫のいた辺りへと歩いていく。反対に彼女は持っていたストップウォッチを置くと、腕を交差させてストレッチをしながら大一に問いかけた。
「休憩必要ですか?」
「まさか。俺のスタミナを知らないわけじゃないだろ」
「それを聞いて安心しました」
そのやり取りを皮切りに小猫は大一に接近すると魔力を込めた打撃を打ち込む。直線的な一撃だがその威力は先ほどの祐斗の比でない重さであった。大一はすぐに右脚を上げて、すねでその拳を受けた。
「お前、またパンチが重くなったんじゃないか?」
「片脚で防ぎながらよく言いますね」
小猫は一歩下がると、徒手空拳で攻めに入る。小柄な体はかく乱する動きによく合っており、名前のように猫のようなしなやかさで連撃を加えていく。近くでは祐斗が彼女の持っていたストップウォッチを拾い、再びスイッチを入れた。
数十分後、飲み物片手に3人は模擬戦の反省を行っていた。
「さっきの攻撃、何度かスピードが落ちているところがあったぞ。あれ、フェイントか?」
「いや単純に少しばてていたんだと思います。スタミナ、もうちょっとつけないとな」
「私は先輩を吹っ飛ばせるほどの力をつけたいです。そうしないと決定的に勝負を決められるか怪しいですし」
「小猫ちゃんはパワーについては十分だと思うけどな。反応速度はもうちょっと上げていいだろうけど。それに大一先輩ほど防御に特化した兵士はなかなかいないんじゃないかな?」
「なんで俺を吹っ飛ばす議論みたいになっているんだ…。それに俺の防御はそんな万能なものじゃないぞ。魔力込めて固くしているだけだから、斬られれば肌に傷はつくし、熱いとか冷たいとかはそれなりに効くからな。
そうだ、小猫。お前、次に一誠と特訓だろ。容赦なくやってくれ」
「言われなくてもそのつもりですよ」
こぶしを合わせる小猫の姿はその小さい見た目よりもはるかに頼もしく大一は感じた。
────────────────────────────────────────────
次の特訓は朱乃とであった。お互い対面に立ち、距離は20メートルほど離れた状況。朱乃はすでに手に魔力を込めており、大一の方は神器を構える。
「準備は?」
「いつでも」
そのやり取りの直後、彼女からバレーボール並の大きさの火球が数発撃ちだされる。大一はそれを正面から神器で振り払った。さらに水、氷の塊と連続で撃ちだされていくも、大一は動かずその連撃をとにかく防いでいくのであった。
「雷行きますわ」
「了解」
朱乃の手から放たれる雷は、まるでビームのようにまっすぐ伸びていった。その規模と威力は先ほどの攻撃とは格が違うのは一目瞭然であった。
その攻撃を防ぎ切り肩で息をしている大一を見た朱乃は手を下ろして彼に近づく。
「とりあえずこんなものかしら?」
「威力に腕が痺れる…容赦ないな」
「あらあら、そういうリクエストを出したのは大一でしょ。それにこれでも手は抜いている方ですわ」
「情けない話だが、油断したんだよ」
そのように答える大一の体は先ほど防いだ攻撃の余波のせいか、火傷の跡や軽く出血しているところがあった。
「そういえばさっきイッセーくん達と魔力の特訓をしましたわ」
「どうだった?」
「あなたよりも才能あるかも。イッセーくんは技を思いついたようだし、アーシアちゃんは魔力を変化させる特訓に入っているの」
「その言葉だけでもへこむな。でも、どうも感覚がつかめないんだよ。魔力を球体として出すことも出来ないし、神器ないとまともに操ることもままならないからな」
「魔力自体は高いのにね。いっそ魔法を学んだ方が早いんじゃないかしら?」
「座学の方がまだ理解する自信はあるが…魔法は多すぎるから今から学んでも付け焼刃以下になるのが関の山だろうな」
「つまり今の能力を伸ばしていくだけってことですわね。傷の手当は良いの?」
「次の勝負で好きな時に治療できるわけじゃないんだ。このまま頼む」
大一の言動に、呆れるようにため息をついた朱乃は再び距離を取るのであった。
────────────────────────────────────────────
「ぐおっ!」
「ほら立て。この程度でぶっ倒れてはレーティングゲームでやっていられないぞ」
リアスとの特訓を終えた一誠は大一と模擬戦に当たっていた。純粋な格闘戦だが、大一は弟の拳や蹴りをことごとくかわし、蹴りや錨の石突で何度も倒していた。すでにかれこれ5回ほどになる。
一誠からすれば自分に劣らないはずの疲労に加え、朱乃との特訓で生傷が残るその体でどうしてそこまで兄が戦えるのかが不思議であった。
「ちくしょう!当たらねえ!兄貴は防御が凄いんじゃなかったのかよ!」
「受けなくて済むのならそれに越したことはないからな。それにお前の攻撃は直線的すぎる。視線や動きでまるわかりだ。今すぐにどうこうするのは無理だろうが、せめて戦いの感覚は覚えておけ。それで少しでも動きを感じ取れるようになるんだ」
「分かっているよ!うわっ!」
答えた瞬間に足払いを喰らい、思いっきり転ばされる。この後も一誠が大一に一撃を入れることはできなかった。
────────────────────────────────────────────
初日の訓練は一誠にとっては自身の弱さを知らされるものであった。体力、技術、あらゆる面において未熟さを実感させられるものだ。この事実に直面しただけで不安が煽られていった。今日の収穫はせいぜい魔力を使ったある技を思いついたことだろうか。
それでもやるしかないのだ。リアスのため、仲間たちの足を引っ張らないため、同じく経験乏しいアーシアを守るため…不安と覚悟を抱えつつ、一誠は食事に手を伸ばしていく。疲れた体が栄養を欲しており、味も最高であった。
その一方で、リアスが出し抜けに話題を振る。
「食事を終えたらお風呂に入りましょうか」
その一言に一誠は雷を受けたような衝撃を感じる。この言葉がエロの権化と呼ばれる彼にとって何よりも魅力的であるかというのは説明するまでもない。
「僕は覗かないよ、イッセーくん」
「バッカ!お、お前な!」
「あら、イッセー。私達の入浴を覗きたいの?なら、一緒に入る?私は構わないわ。朱乃はどう?」
「イッセーくんなら別に構いませんわ。うふふ、殿方のお背中を流してみたいかもしれません」
「アーシアは?愛しのイッセーとなら大丈夫よね?」
朱乃の笑顔、アーシアの顔を赤くしながらも小さく頷くという怒涛の肯定に一誠の興奮は高まっていく。すでに彼の頭は自身の求める欲望に支配されていた。
「最後に小猫。どう?」
「…いやです」
「じゃ、なしね。残念、イッセー」
「んなっ!そ、そんな…」
最後の小猫の拒否により、混浴という夢のような期待はあっさりと打ち砕かれてしまった。当然なのだが、希望と期待が大きかった分、最後に振り落とされるのはダメージが大きかった。これだけでも今日の中で一番ショックだったと言っても過言でなかった。
「落ち込むのは勝手だがな、一誠」
一誠はジャージの襟をつかまれる。後ろから聞こえる怒気の詰まった声は、自分が何度も聞いている男の声であった。
「そもそも俺の目が黒いうちに、そんな行為を見過ごされると思っているのか?」
「あっと…いやー兄貴…俺も男だしさ…」
言いよどむ一誠はごまかしを頭の中で駆け巡らせるが、それに伴うように視線も動いていく。
一方で、小猫が大一に対してきっぱりと言い切った。
「大一先輩、お願いします」
「言われるまでもない。祐斗、飯を食い終わったらこいつを男部屋に連れて行くぞ」
「分かりました。ごめんね、イッセーくん」
「ちくしょおおおお!」
おそらく次回あたりまで特訓回になると思います。