D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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猫姉妹、オーフィスとディオーグ、オリ主自身の兄弟間…悩みは尽きません。


第101話 気まぐれな黒猫

 オーフィスたちが兵藤家に滞在することになってからあっという間に数日が過ぎた。客である彼女たちはマイペースに生活を送っているが、リアス達はそうもいかない。試験日がもう目と鼻の先とも言えるほど近づいて来ており、緊張に包まれていた。特に一誠はかなり四苦八苦しており、朱乃や祐斗の優秀さと比べると座学の面ではどうにも劣っていた。それでもリアスやレイヴェルのサポートのおかげで、必要な知識が叩きこまれているのは間違いなかった。

 もちろん、気をつけるべきなのは中級悪魔の昇格試験だけではない。彼らは学生としてテストもあるのだから。とは言っても、オカルト研究部は軒並み成績優秀なメンバーが揃っていたため、これで苦労するのもやはり一誠であった。そんな彼は現在、仲間と共に勉強に打ち込んでいた。その様子をオーフィスがじっと観察しており、なかなか気持ちが落ち着かない空間が作られていたが、仲間の中で唯一その場にいない男を除けばマシな状態であっただろう。

 兵藤大一は地下のプールにいた。しかし服装は部屋着のパーカーとジーンズというラフであるが水泳とは対極にあるような服装で、適当な小さなテーブルに参考書やノートを積み上げて勉強していた。成績は優秀といえるほどではないが、多忙な悪魔生活をこなすために時間の使い方は心得ており、座学自体も苦ではないタイプであったため、少なくとも中間テストの対策は問題なかった。そんな彼がたったひとりで勉強するには適さないこの環境に身を置くのにも理由があった。

 

「行きますよ、黒歌さん」

「全力で来いにゃ!」

 

 バシャバシャと水の跳ねる音、楽しそうに遊ぶ女性の声、このプールではルフェイ、黒歌、フェンリルがのんびりと遊んでいた。黙々と勉強に励んでいる大一とはまるで違い、ゆったりと楽しんでいるのが印象的であった。

 このような現状になったのはアザゼルが大一に打診したことが原因である。オーフィスの自由奔放さを止める気はない…というよりもそもそも止められないのだが、彼女らには別で警戒があった。ヴァ―リに何か命じられている可能性もあるため、ある程度はこちらも警戒していることをアピールする必要があった。それにあたり、白羽の矢が立ったのは大一であった。黒歌の幻術を破れ、ある程度魔法への知識を持ち、フェンリルの子どもを倒したという実績からアザゼルに選ばれた。

 これにはリアスと朱乃は嵐のごとく非難した。リアスは京都の時同様に便利扱いされている下僕を見るのは不満であり、朱乃も大一の負担を目の当たりにしていたことや彼との時間を強引に減らされていると感じているのだから当然だろう。

 ただ彼女らの怒りに反して、大一はこれを承諾した。アザゼルの言う通り、黒歌、ルフェイ、フェンリルの3人に対抗するにあたり能力的な相性としては筋道が立っていた。ディオーグがオーフィスと争ったこともある強大な龍であることが判明した今、彼女の力をよく知るヴァ―リチームにはその存在は抑止力にもなるだろう。

 またリアス達と離れることで必然的に小猫と顔を合わせることも減らすことができた。彼女はまだ本調子ではなく辛そうな様子になることも多いが、発情期が原因であることがわかった今、その負担を減らすためにも物理的な距離を取ることは必要不可欠であった。

 もっとも卑怯なやり方であることも自覚していた。小猫から好意を向けられたことに、すぐに向き合わずに先延ばしにしているのは男として申し訳なかった。しかし今の彼女がどれだけ話を飲み込めるのかは分からないため、まずは発情期が治まるのを待つしかなかった。

 大一はテスト勉強に一区切りつけると、持ってきた魔法瓶の中に入ってあるコーヒーを注いで一服する。自分のお茶の腕を自覚した彼には、結局インスタントコーヒーが最適解であった。

 熱い液体が身体を温め、疲れた脳に安らぎを与える。しかし脳はその安らぎを享受せずに、再び思考の中を奔走していた。それは彼と体を共にしているディオーグについてであった。オーフィスが彼に対して話したことを振り返ると、何かを知ることができると思ったが大きな収穫は無かった。せいぜいわかったことは彼がかつて次元の狭間へと侵入し、そこでオーフィスと戦ったこと…しかしこれが裏付けされたことにより、大一の彼に対しての疑念が大きくなったのは否定できない。龍神と呼ばれ、グレートレッドと共に最強の存在であるドラゴン…それに肉薄し、戦ったオーフィスですらその存在を記憶に焼き付けていた。

 にもかかわらず、なぜオーフィスを除いて誰も彼のことを覚えていないのだろうか。ディオーグの血の気の多さから他の勢力に戦いを挑まなかったとは考えられない。それにドラゴンという存在を危惧して挑んできた人物もいるだろう。彼ほどの巨体で暴れれば、いくらかその存在が認知されてもおかしくないはずだ。

 手がかりがあるとすれば、ディオーグを封印したという人物だろう。それが何者なのかが分かれば、この疑念を解消できるかもしれない。もっともその人物に対しても手がかりは全く無いのだが。

 この疑問が深まって熟成されるほど、それに勝るとも劣らずディオーグに対して大一は同情も感じていた。あれほど力を追い求め、勝負にこだわり、名声を欲しがったドラゴンが誰からも知られていない、ようやく会えた既知の相手には彼自身も気にしているであろうことを追求されるだけ、彼が自分よりも遥かに強い心を持っているとはいえ影を落とさないなどとは言えないだろう。

 

「なーに、難しい顔しているんだにゃん?」

 

 いつの間にかプールから上がっていた黒歌が、大一の顔を覗き込む。紫色のスリングショットという過激な水着姿で、事情を知らない男性ならば見惚れることは間違いないだろう。こんな状況でなければどこで買ったのかと問いただしたくなるような色気を醸し出している。

 

「いつものことだ」

「ふーん、いつも難しい顔しているんだ。やれやれ、どうしてこんなつまらないのが見張り役なのか」

「じゃあ、問題ないな。お前にほだされることもないんだ」

「言ってくれるね~」

 

 きっぱりと言い切る大一に対して、黒歌はニヤニヤと笑みを浮かべながら彼の目の前に立つ。強調された谷間が視界に飛び込むが、彼は渋い表情を変えない。大一はヴァ―リチームに対して…というよりも黒歌に対しては一番不信感を抱いていた。ロキとの戦いで一度は共闘したものの、禍の団のメンバーである上に小猫の命を狙ったことを考慮すれば当然の感情ではあった。彼女以外の他のメンバーがアーシアを助ける、京都で援護するといった直接的な救援をしたのを目の当たりにしていることや、黒歌のおちょくるような態度もその不信さに拍車をかけている。

 その意図を知ってか知らずか、変わらない大一の表情に彼女も軽く息を吐く。

 

「うーん、赤龍帝ちんならこれで一発なんだけどにゃ」

「俺はあいつじゃねえんだ。いちいち反応していられるか。というか、あいつも節操はあるよ」

「だったら、押し付けてみようか?それともいっそ一発ヤッてみる?」

「お前、なんのつもりだ?」

 

 遠慮の無い黒歌の発言に、相応の不快さと不信さを含ませた声で大一は問う。一度でも対峙した彼女から急激なアピールに、おいそれと信じてしまうような感性は持ち合わせてなかった。もっともこの色仕掛けに応じる者など多くは無いだろうが。

 黒歌は大したことなさそうにさらりと答える。

 

「だって私はドラゴンの子ども欲しいもの。今回の話であんたの中のドラゴンが本当にオーフィスにも食い下がっているなら、その力を欲しくなるのは当然じゃない?」

「嘘つけ。お前、俺に興味ないだろ」

「信用されないのは悲しいねえ。せっかくあんたにも目をかけてやったのに。まあ、白音の件でも興味を抱いたけどさ」

 

 彼女の発言には、大一の緊張の琴線に触れるには充分であった。彼女はどこまで妹の状態に気づいているのだろうか。いやおそらく気づいている。彼女の実力を知る大一だからこそ、その能力には嬉しくない信頼があった。

 

「小猫に手は出させないぞ」

「あんたが手を出せば事態は丸く収まりそうな気もするけど」

「俺のことはどうでもいい」

「そうかしら。私の目はごまかせないにゃ。少なくとも白音の方はね」

「お前はいい加減に───」

「はえー、こういう魔法を勉強しているんですね」

 

 大一の不機嫌な感情が言葉として吐き出されそうな際に、ルフェイの感心したような声が耳に入る。水色のビキニは色気に加えて可愛さも兼ねた雰囲気を纏っているが、その姿に似つかわしくないテーブルに置かれていた厚い魔導書をめくっていた。

 

「先日の試合でも魔法をお使いになっていましたね。そちらも目指しているんですか?あまりそちらの戦闘スタイルには合っていないように思いますけど」

「…いや、魔力の放出が上手くできないから、座学の方で多少カバーしようとしているだけだ」

「悪魔も千差万別…兄弟と言えど似ないものなんですね。ところでこの魔導書、北欧式が多いですね」

「借りているものだからな。しかしよくわかるな」

「いろいろなところを見ましたから」

 

 満面の笑みでルフェイは答える。一誠のファンであり、京都では救援も行っていた。人当たりも悪くなく、ここでの生活は丁寧この上ない彼女のような人物が、どうして禍の団のメンバーとして動いているのかは甚だ疑問であった。

 その一方で黒歌が何かを思いついたかのような表情をするのを、ルフェイと話し込む大一は気づかなかった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 中級悪魔の昇格試験の前日の真夜中、悪魔の仕事で夜中まで起きていることも多い彼らであったが明日に備えてこの日は早々に床に入っていた。

 悪夢も見ることが無くなった大一もすでに眠り込んでいたが、頭の中に響く脅すような声と奇妙な魔力を感知し目を覚ました。

 

(おい、小僧。起きろ)

(ん…なんだよ、ディオーグ。お前が俺を起こすなんて…。いま何時だ?)

(そんなことはどうでもいい。白猫の部屋に黒猫の感覚があるぞ)

(ああ!?黒歌め、みんなが寝静まっている時間に…!)

 

 横で眠っている朱乃を起こさないように静かに起きだすと、寝ぼけまなこをこすりながら大一は小猫の部屋に急いで向かう。彼女の部屋はわずかに扉が開かれており明かりが漏れ出していた。

 中では話し声が聞こえていたが、それをこっそりと聞くような余裕は彼には無かった。すぐに扉を開けて、部屋の主である小猫が黒歌に詰め寄られている姿を視認する。

 

「黒歌、言ったよな。小猫に近づくなって」

「あらら、見つかっちゃった♪」

「せ、先輩…」

 

 大一の剣幕に対して、黒歌は悪びれる雰囲気もなくいたずらっぽく舌を出す。小猫の方は安心したような気まずいような微妙な表情になり、その場から動けない様子であった。

 

「でもこの子が発情期に入っちゃってるってわかったから、様子を見に来ただけよ。姉として当然でしょ♪」

「お前の言葉を信頼できるとでも?」

「私は猫魈の先輩として詳しいのよ。ほら、その証拠に───」

 

 黒歌は小猫の手を取ると素早く大一の方へと押し出す。突然の行動に大一は素早く動いて彼女を支えた。

 

「小猫、大丈夫か?怪我は無いか?」

「…先輩…お兄ちゃん…にゃあぁぁ…」

 

 紅潮した頬、切なくも甘い声、大一を押し倒した際の小猫と同じ状態であった。自分の行動が失敗であったことを理解した時にはすでに遅かった。気づけば猫耳と尻尾を出しており、その尻尾を彼の腕へと巻き付けていた。

 そんな妹の姿を見ながら、黒歌は指摘する。

 

「どんなに我慢していても好きな男の肌に触れてしまえば途端に子作りしたくなってしまうのよ。白音はあんたの子供が欲しくてたまらない状態になっているにゃ」

 

 彼女の指摘を裏付けるかのように、小猫の息はさらに荒くなり、大一相手に身体を密着させていく。

 先日のように慌てることは無かったが、それ以上に彼女の状態を見て胸が締め付けられるような想いであった。

 大一としては小猫のことを妹分だと思っていた。物静かながら頑張り屋で、真面目なところもあるから責任感を感じることもある。姉である黒歌の件で心に大きな傷を負ってしまい自身の無力さを感じて悲しみに暮れたこともある。しかもそれを強く意識したのは「犠牲の黒影」の事件から間もない頃であった。大一としても彼女の背負うものがよく理解できた。だからこそ、先輩として兄として不安を拭いたい、幸せのために力を貸したい…そこに抱く感情は確固たるものになっていた。

 しかし男女としての関係は全く視野に入っていなかった。しかも元来男女問わず好意を向けられ慣れていないのもあって、今の大一は戸惑いと小猫を無意識に追い詰めていた申し訳なさで支配されていた。

 

「お兄ちゃん…好き…好きです…!身体は小さいですけど…私…お兄ちゃんとならできます…!」

「小猫…」

「それとも…私じゃ足りませんか?朱乃さんのようにおっきくないと…ダメですか…?」

「そうじゃない。そういうことじゃないんだよ…俺はお前には幸せになって欲しいんだ。しかし俺じゃない…俺はそこまで…」

 

 必死で訴える小猫の肩を掴み押しとどめながら大一は言葉を紡ごうとする。小猫を傷つけたくない、しかし彼女を受け入れることは今の自分ではできない、朱乃のことも傷つけるわけにはいかない、あらゆる考えが交差し整理できない想いは言葉として発することができなかった。もはや彼自身、どうしたいのかもよくわからなくなっていた。

 その様子を見ながら、黒歌はニヤリと笑みを浮かべる。彼女の反応は情緒がこんがらがっている2人に対して、余裕しゃくしゃくであった。そして大一の傍まで歩くと、首元に舌を這わせる。

 ネコ特有のザラザラと舌触りを感じるが、彼はそれを振り払う。しかし目の前に小猫もいる状態では力も弱く、あっさり腕を黒歌に掴まれた。

 

「なんのつもりだ…!」

「姉として交尾のやり方を妹に見せるのもありかなって。猫又はこうやって男の味を覚えるの」

「お前、いい加減にしろよ…!」

「いちおう一線は引いているつもりなんだけどね」

 

 黒歌がさらりと答えると同時に、小猫は力が抜けたように倒れ込みかける。すぐに大一は支えるが、息は荒いものの頬の赤みは落ち着いて瞳にも活気が戻っていた。

 そんな彼女を黒歌は抱えてベッドに寝かせると、見下ろしながらどこか呆れが含まれた声で話す。

 

「とりあえず、白音、ここで止めておいたほうがいいわよ?他の女に感化されて、その体で発情期が来てしまったようだけれど、その体で子を宿せば死ぬにゃん。どうしてもこの男の子供が欲しいなら、私みたいに発情期をコントロールできるように待つべきにゃ」

 

 落ち着き始めたこの状況はあまりにも奇妙であった。先ほどまでの色気と切なさに満ち溢れた空気はすっかり緩和され、夜の静寂さが変わるように入り込んでくる。

 

(乱れていた生命力が安定したな。あの黒猫が触ったからだな)

(黒歌が?)

(お前はそれどころじゃ無かったから気づかなかったみたいだけどな。こいつはどさくさに紛れて白猫の首筋に触れて落ち着かせていたぞ。しかしそれをやる意味が分からん)

 

 ディオーグの言葉に、大一はどうにも腑に落ちない感覚であった。あれほど小猫を囃し立てておきながら、いざというところで黒歌は妹を抑えて釘を刺した。この流れだけなら疑問しか感じないが、かつての矛盾した行動を含めて今の彼女には大一なりに思うことがあったのは否定できない。

 

(…やっぱりダメだな。あとはお前らに任せる)

 

 それだけ言い残してディオーグは引っ込むと、すぐに部屋の扉が開いた。そこには憤慨した表情のレイヴェルと不安そうな表情の一誠が立っていた。

 

「…ちょっと、そこの黒猫さん?あなた、小猫さんのお姉さんだそうですね?小猫さんはいまとても体調が優れませんわ。その子に何かをするのでしたら、クラスメートの私が許しませんわよ!」

「兄貴、大丈夫か?」

「ああ…すまん」

 

 一誠が大一を支えるように起こす中、レイヴェルは黒歌相手に力強く物申す。さすがはフェニックス家のご令嬢と言ったところか、その胆力には目を見張るものがあった。彼女としても小猫のことは馬が合わないだけで、感じている親愛は間違いないものだろう。

 一方で黒歌は面を食らった表情であったが、すぐに面白そうに笑みを浮かべてレイヴェルの縦ロールを軽く弄ぶ。

 

「白音の友達、かにゃ。ふーん、知らない間にこの子を心配する子が次々と増えるのね」

 

 そのまま黒歌は部屋を出ようと歩を進めるが、大一はそんな彼女の肩を掴んで制止した。

 

「…黒歌、ちょっと話がある」

「なーに、白音のお誘いを断って私に乗っちゃう?」

「真面目な話だ」

 

 大一の様子に、黒歌は軽く息を吐く。表情、動作共に退屈さを感じているのが現れておりそれを隠そうともしなかった。

 そんな彼女を無視しつつ、大一は一誠とレイヴェルを見る。

 

「一誠、レイヴェル、小猫のことを頼む。ちょっと話をつけてくる」

「兄貴、ひとりで大丈夫かよ?」

「ああ…むしろそっちの方が腹を割って話せそうだからな」

「わかりましたわ。ここはお任せください」

 

 レイヴェルの言葉に大一は頷くと、すぐ隣にいた小猫の顔を見る。先ほどの一連の行為で恥ずかしそうに視線を向けるが、同時に黒歌と2人だけになることに不安そうな様子であった。

 

「…先輩」

「さっきは悪かった。あの話は試験が終わってからゆっくり話そう。あと俺のことは大丈夫だよ。お前だってそれはわかっているはずだ」

「…はい」

 

 声は腑に落ちていない様子であったが、先ほどの理性を捨て去った彼女と比べるとすっかり落ち着いていた。そんな彼女から少なくとも肯定の言葉を聞けたことに安心すると、彼は再び黒歌へと向き直る。

 

「さて行こうか」

「いやん、襲われちゃうかも♪」

「微塵の可能性も無いから安心しろ」

 




好意に直面化させられると対応がわからないことってあると思います。
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