D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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どう考えても高校生らしくない雰囲気が出てしまう…。


第102話 深夜の女性たち

 静寂が漂う深夜、大一が選んだ部屋は結局居間であった。自室は朱乃が眠っており、他に当てのある部屋もない。邪魔が入ることなく、ゆっくりと腰を据えて話せる部屋はここくらいのものだろう。

 大一は椅子に腰を下ろすが、黒歌は横になれるような大きなソファにクッションを抱きしめて座り込んだ。

 

「それで話だが───」

「え~、何もないのに話す気ないにゃ」

「…俺は茶を淹れるの苦手だぞ」

「ココアでいいわ」

「ったく…」

 

 大一は立ち上がると、キッチンでお湯を沸かしつつ牛乳を用意する。さすがに市販のものを使うだけだったが、それでもところどころに不器用さが感じられた。

 間もなく2人分のココアを用意すると片方のマグカップを黒歌に押し付け、再び椅子に座る。そのまま自分の分を一口飲むが、黒歌は少し不満げに渡されたマグを両手で持っていた。

 

「…熱い」

「なに?」

「猫又にこんな熱いものを渡すって酷くない?けっこうな猫舌よ?」

「知るか。リクエストしたのはお前だろうが」

「あーあ、気づかい足りないわね。まったく白音はこんな奴のどこがいいんだか」

 

 むすっと頬を膨らませて不満を表明すると、湯気の立つココアに息を吹きかけて冷まし始める。美人ゆえに絵になる光景であったが、それに見惚れるような感情を彼は持ち合わせていなかった。

 そして小猫の名前を皮切りに、大一は話を展開させる。

 

「お前は小猫をどうしたいんだ?」

「これはまたざっくりとした訊き方にゃ」

「…お前の勝手な行動で小猫は苦労した。数か月前にお前が彼女を連れさらおうとしたし、その際に殺意を持って攻撃した時のこともよく覚えている。そこまでやっておきながら、今のお前はどうだ?自分の力を使って、あいつの苦しみを抑えた…そこが分からないんだ」

「私が白音のために力を使ったという証拠は?」

「俺の中のディオーグの感知能力を舐めるなよ。今だから白状するが、初めてお前と戦った際にその幻術を見破れたのはコイツと融合したおかげだ」

「説得力あるわね。うーん、どうしようかにゃ…」

 

 黒歌は人差し指を顎に当ててわざとらしく考えるような表情をすると、時間を稼ぐようにココアをすする。まだ少々熱かったようで、驚いたようにびくりと身体を震わせる姿は本物の猫のようであった。

 散々考えた、あるいはもったいぶっただけかもしれないが、黒歌は短く答えた。

 

「私なりにお姉ちゃんをやっていただけよ」

「…だとしたら、昔のことが腑に落ちないな。たしか主を殺したんだよな。悪魔である以上、それがどんなに大きな罪になるか分からないお前じゃないだろうに」

「まあね。でもさ、それこそ生きる術が無いときに拾われた私たちには選択肢が無いことってあるじゃない?最初は確かに助かったけど、徐々にそいつの本性が見えてきたりとかさ。それで…あー…」

 

 黒歌は多弁になりかけたが間もなく言いよどみ始めた。話し過ぎたと思ったのだろうか、どこまで自分のことをひけらかして良いものなのかは迷っていた。大一が黒歌に一線引いた感情があるように、同じようなものを彼女は大一に感じていた。元来の生真面目さが自身の自由気ままな性格からすれば退屈に感じ、水と油のように交じり合わない雰囲気を醸し出していた。弟の一誠が色気に弱く、ヴァ―リと同じ二天龍であることで馴染みやすいことがさらに拍車をかけていた面もあった。

 だが彼女の予想に反した言葉が大一の口から発せられた。

 

「…言えないなら無理に聞くつもりはない」

「あれ、意外にゃ?どういう風の吹き回し?」

「別に。ただお前の過去は小猫の過去でもあるんだ。無理に掘り下げようとは思わない。それに、お前が小猫の姉であることをハッキリと話したことで少し安心したからな」

 

 肩をすくめながら大一は答える。黒歌が小猫と別れるまでの過去は、今の小猫に色濃く影響を与えてきた過去でもあるのだ。それを踏まえれば、慎重になるのも当然だろう。同時に黒歌が「小猫の姉」ということを明言したのだ。初めて戦った時の発言とは違い、その声には黒歌らしい気ままな雰囲気に加え、姉としての確固たる責任感が含まれていた。

 信じるにはあまりにも感覚的なものであったが、大一はそれを信じてみたかった。兄としての直感という不確実なものであったが、どこか繋がるものを感じたからかもしれない。もっとも彼女の性格を考えれば、無理に聞き出そうとしても話さないことが容易に想像つくところもあったのだが。

 一瞬、目を丸くさせて不意を突かれたような黒歌であったが、すぐにいつものいたずらっ子のような笑顔になる。

 

「ふ~ん、あんたなりの駆け引きってこと?でも、いいわ。乗ってあげるにゃん。要するに、そいつが気に食わなかっただけよ。猫魈の力に興味を持って、眷属の強化のために無理な強化をさせていく。しかも眷属の血縁にまで手を出そうとしたのよ」

「小猫を守るためってことか。…その話を聞けば、お前はかなり力の扱い方に慎重になっているな。あの時、小猫を連れて行こうとしたのも、一誠の力の不安定さを感じた故か」

「そういうこと。ヴァ―リは近くで見てきたから力の使い方に置いては信頼があるけど、あっちはわからなかったからね」

「しかしあの時の攻撃に殺意があったのは間違いないだろ」

「あれはブラフ…というか、あんたたちを狙ったものよ。あんたたちを殺して、強引に引き剥がそうとしたってところね」

 

 悪びれもなく堂々と答える黒歌に、不思議と嫌悪感を抱かなかった。彼女の中では小猫が一番であった。いたずらも力の扱いも好きだが、それ以上に小猫を守ろうとしていた。だからこそ自分の気質に合わせた方法で、彼女を救おうとしていた。

 

「所詮、私は野良猫。いくらでも無理は出来るし、気の合う仲間と放浪しているのが性に合っているにゃ。いざとなればひとりでも十分なほどに。でも白音はしっかりと守られたところで、大事な人たちから愛を受ける方がいいと思うの。それこそ飼い猫のように」

 

 どこか自嘲するように黒歌は答える。小猫が求めていたものが分からない彼女でも無かった。しかし2人の気質の違いが大きな齟齬に発展し、結果的に姉は自分の方法でしか妹を守れず、その妹は姉の行動で地獄を見ることになった。

 彼女の話にシンパシーを感じた、そう思った大一は我ながら驚いていた。黒歌は自由気ままで、彼は規律を重視するタイプであった。それこそ交わることのないものに思えたが、下の弟や妹を守るという責任感とそれを実行するための不器用なやり方という2点に置いては確かに共通のものがあった。

 大一はココアの残りを一気に飲み干すと、黒歌にゆっくりと話し始める。

 

「黒歌…俺はお前を許すつもりはないぞ」

「別にあんたに許してもらうつもりは無いにゃ」

「仮にもあいつの兄貴分をやっているんだ。そういう意味では言う権利はあると思っている。お前の小猫に対しての感情はどうあれ、あいつがそれで傷ついたのは事実だ。しかし…今回の件については感謝する」

「へえ、あんたでもそういうこと言えるんだ」

「これは俺にとってお前への一種のけじめでもあるんだ。なんというか…俺も同じように不器用な方法は思い当たる節があるのでな。だから無理するなよ。お前の行動で小猫が悩むのはもうたくさんだし、お前自身の人生もあるだろう」

 

 我ながら黒歌を励ますような言葉が出てくるのを、大一は内心意外に感じていた。しかし彼女の不器用さはどこか自分を見ているような気がして、飄々とした態度の彼女がいずれ自分を追い詰めそうな様子を感じ取った。それが暗い森に迷い込み、光の見えない場所を歩くような足取りの重さを感じるものであることを理解していた大一は、彼女が同じように苦しむ姿を見たくはなかった。

 黒歌の方はじっと大一を見ると、小さく首をかしげる。

 

「あんたが白音を受け入れてくれたら気負うことも少なるかもね」

「…それについては試験が終わった後に、あいつとしっかり話すつもりだ。しかし俺は…」

「あんた、本当に真面目よね。ヴァ―リや赤龍帝ちんくらい純粋でいればいいのに抱え込みすぎにゃ」

「そんなのじゃない。俺はただ自分本位で見たくないものを見ないようにするために必死なだけだ」

 

 そう言うと、大一はゆっくり立ち上がり、自分のマグカップを流しへと持っていく。話に区切りをつけた大一は、まだ黒歌のココアが残っていることを確認すると静かに話した。

 

「水にはつけておけよ。洗うのは後で俺がやる。それ飲んだら、素直に部屋に戻っていろ」

「自由気ままな野良猫は命令されるとやる気なくなるにゃ。なんかご褒美がないとね」

「…またココアくらいは淹れてやる。じゃあな」

 

 なぜか今の彼女はわざわざ警戒する必要が無いと感じた。あるいは大一自身、感情を整理するためにこの場を離れたかったのかもしれない。彼は黒歌を残して、居間を出て行き自室へと向かった。

 残された黒歌は冷めたココアの残りを一気に流し込んだ。猫舌が気にならないほど冷めたココアは心地よく、同時に理解と共感を示されたことが彼女にとっては液体とはかけ離れた温かさを胸に感じていた。

 

「…けっこう良い奴じゃん」

 

────────────────────────────────────────────

 

 ココアは身体を温めたはずなのに、どこか冷える想いであった大一は早々に親愛なる布団を求めて、足早に自室へと向かっていた。

 中級悪魔の昇格試験の深夜に、宿敵であった相手とここまで話し込むとは思ってもいなかった。しかしそれは決してマイナス方向に向かっているわけではなく、相手を理解することになった上に小猫のことを考える大きなきっかけになり、大一にとっては重要なものになった。

 この会話に至ったのも、ディオーグが起こしてくれたおかげではあるが、どうにも腑に落ちない点があった。ディオーグが基本的に大一自身の利益に繋がるような手助けはほとんどしなかった。興味本位で口に出すことが結果的に大一の利益に繋がることはあるものの、先日の試合でもアドバイスは無かったし、弱い彼のことを見下している節がある。特に最近は大一自身が一誠のことで悩むことに対して苛立ちが多いため、お世辞にも関係は良いものとは言えなかった。

 そんなドラゴンがわざわざ大一を起こしてまで、黒歌の動向を知らせるのは不自然であった。なにか目的があるのかもしれないが、彼はおそらく眠りについているため言及しても答えないだろう。しかし引っ込む直前のディオーグの言葉が彼らしくもない憂いが籠っているように感じ、どうにも引っかかっていた。

 いずれにせよ、今すぐに問いただすのは不可能であるだろうし、眠気でいまいち頭が回っていなかった。

 ようやく自室にたどり着いて扉を開けるが、その瞬間に朱乃も飛び出して結果的に彼の胸に飛び込む形になった。

 

「おっと、大丈夫か?」

「あっ、うん…」

「どうしたの、この遅くに?」

「それはこっちのセリフ。目が覚めたら見当たらなかったんだもの」

 

 そう言った朱乃は寝間着である薄い着物にガウンを羽織ったちぐはぐなスタイルで、大一を探しに行こうとしていたようであった。

 

「ごめん、ディオーグが小猫と黒歌の件で感知してさ。話をつけてきた」

「…そう」

 

 朱乃は静かに答えるが、その反応が大一に緊張感をもたらしていた。陰りや不安があるように見えたのは、小猫の一件があったからだろう。

 2人は部屋へと戻り、ベッドに腰をかける。目が覚めてしまった2人はすぐに横になることもできず、ただお互いに押し黙っていた。この沈黙を先に破ったのは、珍しく大一の方からであった。

 

「…ごめん、不安にさせて」

「え?」

「小猫の件だよ。付き合っている相手に見せる状況ではなかった」

「誰の責任でもないわ。不可抗力じゃないの」

「…そう言ってもらえると助かる」

 

 言葉ほど大一の気持ちは穏やかではなかった。ぐつぐつと煮立ったお湯が鍋一杯に入っており、わずかなことで一気にこぼれかねないギリギリの状態であったが、彼がそれをどこまで自覚しているのかは不明であった。

 

「小猫ちゃんのことどうするの?」

「…断るしかないだろう」

「小猫ちゃんは辛いと思うわ。姉にも兄にも拒否された経験をするんだもの」

「おい、それじゃまるであいつを受け入れることを推奨しているようだぞ?」

「あなたが自分で決めようとしていないと思っているだけよ」

 

 朱乃はわかっていた。大一が小猫を受け止めきれない理由がいくつかあることを。今まで兄として接していたため恋愛感情を向けられ戸惑っていること、そのため彼女に対して向ける感情が純粋な兄妹愛であること、一誠のようにハーレムを作ることをそもそも考えていなかったこと、小猫が幸せになって欲しいと思うが故に自分以上の相手を見つけて欲しいと思うこと、元来の自信の無さから突き放そうとしていること、朱乃に対しての負い目…数え上げたらキリがない。

 ただし、彼自身がどうしたいのかを朱乃は聞いていなかった。理由はあくまで理由であり、それらをひっくるめた上で大一自身がどうしたいのかは知らなかった。もっとも朱乃からすれば想像は出来るのだが。

 横に座る愛しい相手にもたれかかりながら朱乃は問う。

 

「ねえ、大一はどうしたいの?」

「どうしたいって…俺は…」

「私の前だからって遠慮しなくてもいいわ。私には弱みを、本心を見せてもいいってわかっているでしょ?」

「…俺は誰も傷つけたくないと思っている。朱乃も、小猫も…なんだったら黒歌ですらそう思ってしまう。我がままだってわかっているんだけどさ」

「相変わらずね」

 

 苦しそうに絞り出す大一の言葉に、朱乃は軽く嘆息する。これが優しさと言えば、彼は否定するだろう。自分が彼女たちを傷つけるのを避けたいだけで、ただの自己満足なのだと答えて、必死に首を横に振るのが目に見えている。

 彼の回答は予想通りであった。自分が原因で仲間が傷つくのを極端に嫌う、黒影の一件からそれは間違いないものだろう。おそらく朱乃だけは信頼する仲間として任せられる面もあるのだろうが、今回は恋愛という悪魔としての勝負ごとは別ベクトルのものであったため含まれているのだろう。

 

「でも嬉しいわ。私のこともちゃんと考えてくれていて」

「当たり前だろ。俺は…朱乃のことを本気で好きなんだ。あなたに救われた。おかげで俺は悪魔として本気で幸せを感じるんだ」

「私も同じね。あなたがいたからこそ、自分を受け入れて進めたんだと思う。でも私だけじゃないわ。それは小猫ちゃんも同じよ」

 

 夏休みの際に、大一が小猫に話していたことを思い出す。種族的な悩みについては、朱乃だからこそ小猫の深い辛さを理解していた。だからこそ彼とのやりとりで小猫が救われたことも推し量れる。いやおそらくそれ以上に前から、頼りになる存在ではあったのだろう。戦い方から小さな悩みまで、彼は後輩からの悩みには妥協することなく相談には乗っていたのだから。

 別に小猫と付き合うことを推奨するつもりは無い。しかし朱乃自身も彼女が苦しむのは見たくはなかった。

 

「最終的に選ぶのは大一だからね。私はこれ以上どうこう言うつもりはないわ」

「…朱乃は心配じゃないのか?」

「あらあら、私たちの間柄で今さらそんな心配するかしら。リアスじゃないけど、正妻としての余裕があるのよ。あなたが私のことを充分に愛してくれているのかを知っているし、あなたはこんなふうに私の横にいてくれるんだもの」

 

 そう言うと、朱乃は大一を押し倒す。大一は一瞬面食らった様子であったが、抵抗はせずにそのまま彼女からの口づけの餌食になった。

 

「あなたが私を応援してくれるように、私もあなたが誰のものになっても愛しているわ」

 

 いつもと変わらない静寂が深夜を支配する。その中にも甘く濃い空気が生きているのであった。




結局、オリ主の判断に委ねられます。ただ彼ならこうするのではないかな、ということについてはすでに考えています。
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