D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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そろそろドラゴンのことにも触れなければ…。


第103話 龍の来歴

 試験当日、一行は地下の転移魔法陣のある部屋へと集まっていた。ここから試験会場のあるグラシャラボラス領地まで飛ぶことになっており、一誠、祐斗、朱乃、そしてサポートにレイヴェルが行くことになっていた。リアス達は後で冥界から向かう予定であった。というのも、本来であれば直接転移することはあまり無いのだが、一誠とリアスの関係性に注目したマスコミが殺到することを予想した行動となっている。サイラオーグ戦の一件から「身分を超えた真剣恋愛」などと題されており、下手に人目につく機会が増えれば試験会場で混乱を起こしかねなかった。貴族社会の面もある悪魔では、主と下僕という関係から大きな話題になっているのだ。

 

「まあ、名前だけで言えば赤龍帝も匹敵すると思うんだがな」

「つまるところ、主と下僕という関係が話題になるのか。しかしそれはそれで苦労がありそうだな。そういう意味では私やアーシアは大丈夫かな」

「お前はまずそういう関係になってから心配しろ」

 

 大一の呟きに対応するかのように、ゼノヴィアが反応する。恋愛に関しては相変わらずのスタンスであった彼女だが、今の彼にはそれが羨ましくも思えた。

 いざ出発前というところで、一誠はきょろきょろと辺りを見回していた。

 

「ギャスパーは見送りに来ていないのか」

「あいつなら、一足早くここで転移して、冥界───グリゴリの神器研究機関に行ったよ」

「あいつ1人で、ですか?」

 

 アザゼルの言葉に一誠は驚愕する。なんでもバアル戦が終わって間もなく、アザゼルに頼み込みに行っており、今回の件に至ったようだ。朝のトレーニングを大一と共に行っていたのも、彼なりにもっと仲間達の力になりたいと思った故の強い覚悟からの行動であった。

 そのため今回はギャスパーとロスヴァイセは同行せず、代わりというのもおかしいがオーフィス、黒歌、ルフェイ、フェンリルが一行が待機する近くのホテルまで行くことになっていた。さすがに彼女らを手放しにするわけにもいかず、またアザゼルは試験終わりにそのままサーゼクスの元へとオーフィスを連れて行こうと考えていた。それが吉となるか凶となるかは想像もつかないが、この日に大きくことが動くのが予想される。特にアザゼルは、ヴァ―リ達がオーフィスをなんらかの脅威から守ろうとしていると考えていたようだが…。

 話に区切りがつき時間が近づくと、一誠達は魔法陣へと向かう。だがそれをリアスが引き留めた。

 

「待って」

 

 彼女は一誠へと近づくと、頬に軽くキスをする。

 

「おまじないよ。イッセー、必ず合格できるって信じているわ」

「俺、絶対に合格します!ご、合格したら、俺とデートしてください!」

「うん、デートしましょう。───約束よ。私、待っているから」

 

 露骨に気合の入った表情になる一誠を筆頭に彼らは転移する。彼らの姿が消えるのを確認すると、アザゼルがやれやれと呆れ気味の表情で大一に話を振る。

 

「…ったく、人前でイチャイチャしやがって…。お前は良かったのか?朱乃にしては珍しく物欲しそうな様子を見せなかったが」

「本当にあなたは人のプライベートにずかずかと踏み込んできますね」

 

 特に掘り下げることなく大一はアザゼルの言葉を軽く流す。一見すれば落ちついていたが、頭の中では前日の深夜に今までの比にならないほど触れ合っていた時のことが想起されていた。

 

────────────────────────────────────────────

 

 一誠達が中級悪魔の昇格試験に望んでいる間、リアス達は試験場であるセンター付近のホテルにいた。現魔王出身のグラシャラボラス家の領地だけあって管理は徹底されており、彼女らがくつろげるスペースを用意してもらっていた。

 現在は大きなサロンで、それぞれ過ごしていた。2年生組はまとまって試験勉強に勤しみ、リアスは昼間から酒をあおるアザゼルに表情渋く話し込んでいる。大一はロスヴァイセから借りた魔導書を読んでいるが、いまいち身が入っていなかった。彼と同じテーブルでは小猫が試験勉強をしているが、彼女は出し抜けに大一に話しかけた。

 

「…昨日はすいませんでした」

「俺の方こそ悪かった。配慮が足りなかった」

 

 短いやり取りであったが2人の間には弦がピンと張られたような緊張感があった。少なくとも小猫にはそういう感情があった。発情期とはいえ、想い人相手にらしくもない露骨なアピールは、思い返しても赤面ものであった。

 しかし同時にあの感情に嘘は無いことも事実であった。出会ってからリアスや朱乃とは違う方向で頼りになる存在であり、悩んだ時にはいつも相談に乗ってもらっていた。猫魈の力で悩んでいた際も理解と共感、「受け止める」とはっきり明言してくれたことが嬉しかった。姉である黒歌による傷を、代わりの兄として補っていたのは否定しない。

 それこそ小猫も大一に抱いていたのは親愛であった。親愛のはずだった。しかし彼が朱乃と距離を縮めるのを見て胸は苦しくなり、仲間達が恋愛関係に深く傾倒するほど兄であるはずの男に抱く愛情に変化はあった。その結果、このような事態に至った。

 

「あ、あの…昨日は姉様と何を話したんですか?」

「…あいつが何を考えているかと、余計なことをしないようにという釘刺しだな」

 

 大一の発言を、小猫はあまり信じられなかった。他の仲間達に心配させないようにいくらでもごまかしをつけようとする面がある男だ。ここでの答えがどんなものでも小猫からすれば心から信用できるかは謎である。いまいち集中していないような声色にも拍車をかけた。もうひとつ自分の身体の小ささのコンプレックスから黒歌に兄がなびく可能性もわずかながらに危惧していたのはあるのだが。

 そんな黒歌はルフェイと話している。彼女にはあまり良い感情を持っていないゆえに、昨日の一件で発情期を抑えられたことには不全感を抱いた。あの姉はいったい何を目論んでいるのか、掴みどころのない雰囲気は姉ながら苦手に感じる。

 小猫が考えを巡らしていると、リアスが2人のもとに移動する。明らかに不満げな表情であった。

 

「ちょっとアザゼルに文句言ってきたわ」

「何についてですか?」

「あなたの扱いについてよ、大一。私の下僕なのに、京都の一件から面倒ごとを引き受けているじゃない」

「ああ、そのことですか。しかし仕方ないでしょう。頼める相手で俺が適任となるなら…」

「あなた、学生なのよ?まだ下級悪魔で、私という主がいるのよ?都合のいい使われ方は納得できないわよ」

 

 小さく鼻を鳴らしてリアスは答える。彼女の言う通り、大一の扱いは便利屋…というほどでは無かったが、グレモリー眷属の中では方向性が変わっているというのは否定できない。京都の派遣、オーフィス達への警戒は少なくとも彼がやる仕事では無いはずだとリアスは考えていた。

 

「今後も悪魔をやっていく上で必要なことだと思って割り切りますよ」

「あなたねえ…」

「ディオーグの宿主、疲れている?」

 

 この会話に割り込んできたのは、意外なことにオーフィスであった。深く光を感じられない瞳は、大一の中のディオーグも見透かしているような印象を与えた。

 

「疲れているわけじゃないが…」

「我、ディオーグと話したい」

「ここで龍人状態になるのもな。あいつ、話したがらないし…俺が伝えようか?」

「ディオーグが求めるもの、知りたい。二天龍とも違う、あの存在を知りたい」

「まあ、言葉そのまま伝えるよ。…あー、やっぱりダメだ。ちょっと飲み物買ってきます」

 

 そう言うと、大一は立ち上がって軽く目を抑える。声にも覇気がなく、いまいち活気が欠けていた。

 

「ちょっと大丈夫?」

「なんかこっちに移動してから、頭痛…なのかな。頭が重い感じするんですよ。ちょっと売店で栄養ドリンクとかあるか見てきます」

 

 そう言うと、大一はそそくさとサロンから出て行った。傍から見ればそこまで変わりばえの無いように見えるが、立ち上がった際のげんなりとした表情は以前の寝不足の頃を思い出させた。

 

「どうも不幸が続くわね、彼」

「…やっぱり先輩、疲れているんでしょうか」

 

 心配な声で小猫はリアスに同調するが、大一の調子がおかしそうなのが昨日の一件で無さそうなことに内心安堵していた。

 

────────────────────────────────────────────

 

 ホテルの売店で栄養ドリンクを買うと、大一は一気に飲み干す。気休め程度ではあったが、無いよりかはマシに感じた。どうもグラシャラボラス領に入ってから、頭が重く感じ気怠さが襲ってきた。朝は何もなかっただけに、この体調の違和感は深刻でないにしろ気になった。

 

(なんだ、そんなに気になるのか?)

(まあな。疲れが溜まっていたのかな?というか、お前起きていたなら教えてくれよ。あの時にオーフィスに答えられただろうに)

(あいつと話すのはまっぴらだ)

 

 吐き捨てるようにディオーグが答える。その声には肌を突き刺すような鋭い嫌悪感がにじんでおり、先日の短いやり取りだけでも彼がオーフィスに抱いた感情が垣間見えた。

 大一はそれを聞くと、売店でお茶を買って近くの休憩用のベンチに座り込む。場所が場所なだけあって無造作気味に置かれたベンチすら、座り心地は悪くなかった。

 

(戻らねえのか?)

(ちょっと休んでからにしようと思ってさ。またオーフィスにいろいろ訊かれないからいいだろ?それとお前にまだ礼を言ってなかったから)

(礼?)

(昨日はありがとな。お前が起こしてくれたおかげで、黒歌のことを知ることができた)

(けっ!別にそうされるためにしたんじゃねえよ!俺は…)

 

 言葉を濁す様子は、すべてを押しつぶすようなディオーグのイメージからかけ離れており影を感じさせた。

 訊くのは今しかない、そう思った大一はディオーグに問う。

 

(なあ、ディオーグ。やっぱり理由があるんだろ?お前が昨日、俺を起こしたことにはさ)

(…戦い以外に自分を知らしめる方法をやってみただけだ。どうも上手くいったと思えなかったがな)

(そんなのいくらでもあるじゃないか)

(俺には無かった。戦いだけなんだよ)

(…お前、昔に何があったんだ?封印されるまで、いったいどんな生き方をしてきたんだよ)

 

 大一の問いにディオーグは黙り込む。もともと互いに強い信頼関係は無くそれゆえの遠慮の無い物言いをしてきたため、相手に対してどこまで踏み込んでよいものかがわかっていなかった。

 しかし間もなくディオーグがいつもの低い声で話し始めたことでそれが杞憂であることを理解した。

 

(まあ、ガキの頃なんざほとんど覚えてねえから意味も無いんだがよ。ただお前らのような家族ってものが無かったな)

(両親とか兄弟とかいなかったのか)

(驚くことじゃねえ。俺らの種族は気づけば産み落とされているようなドラゴンだ。様々な魔物がいて、そいつらといつも殺し合っていたんだよ。あそこじゃ戦わなければ死ぬだけだ。だから俺も生きるために戦ったさ。向かってくる者は押しつぶし、肉を食いちぎり、時には頭も使って罠にはめたりだ。

 しかし種族間同士の戦争をしているわけじゃない。つまり同じ種族同士でも戦いは起こっていたんだよ。当然、俺も同じようなドラゴンを相手に何度も戦い、叩きのめしてきたさ。長い間戦い続けて…気づけば、俺だけになっていた。

 これまで戦うことしかしてこなかったんだから、どうすればいいのかはわかったもんじゃねえ。だが俺には強力な感知能力がある。次元の先に化け物のような力を感知した時、俺は強引にそこへ行ったんだ)

(そこでオーフィスやグレートレッドと戦ったわけか)

(感動したね。こんな強い奴がまだいたなんてよ。いくら攻撃を入れても耐えきるし、俺もあいつらの攻撃を耐えきった。まだまだ勝負は続くかと思ったが、戦っている間に吹っ飛ばされて、気づけば次元の狭間から追い出されていた。そこは入った場所とは違ったようだから、見たこともない生物がいた。俺は当然、そいつらと敵対してまた戦った。

 だがそれも長く続かなかった。数日後に、お前のような見た目の男が現れた。人間なのか、悪魔なのか、それとも別のなにかなのかは分からない。だが強かった。オーフィスやグレートレッドの時のように歓喜に震えたな。そして三日三晩戦い続けて…その男に力をすべて使った封印術を施された。あとはお前が来るまで、ずっとあの状態で繋がりを作る日々だ)

 

 一気に話しきったディオーグは疲れたように嘆息する。少なくとも大一が今まで想像してきたドラゴンの生き方とはまるで違った。ディオーグはかつての二天龍のように強さを求めていたというよりは、環境がそうさせたような存在であった。戦うしか生き残る術が無い、だからこそ彼にとっては戦いが全てであり、勝利することが何よりも崇高で誇れることだと自負していたのだろう。

 

(この名前もいつだったか、俺が殺した奴が死に際に言っていたものだ。なんとなく覚えていたからそれを名前にしただけだ。まあ、おかげで戦って名前が知られるほどに俺という存在が実感できるから悪くねえんだが)

(…辛かったか?)

(考えたこともねえな。それしか知らなかったんだ。だから昨日の夜中は他に自分を知らしめる方法が無いかと、お前の手助けなんてやってみたが…どうも俺には理解できなかったな)

 

 多くの者に名前を忘れられること、それがこのドラゴンの精神的な支えを崩してもおかしくないはずなのに、彼はこれまで崩れた様子を微塵も見せなかった。だが過去をひけらかした今の彼は、大一にとってこれまでとは違う姿として映ったのは間違いない。

 思い返してみれば、大一に対しての彼の怒りはもっともであった。己の力だけでその存在を表明し、生を切り開いてきた彼にとって、弟や仲間のことで負い目のある態度は心地よいものでは無い。もっと言えば、一誠達ですらディオーグにとって仲間達との協力や支援を受けているという点から嫌悪していたのかもしれない。

 大一は静かに唇をかむ。今までディオーグを理解しようとしなかったこと、彼の真実を知るほど己の身勝手さには胸が締め付けられた。それでよく彼との信頼を勝ち取ろうと思ったのか、何度も問いただしたくなる。

 しかし同時に…大一はゆっくりと大きく深呼吸すると立ち上がった。そして皆のいるサロンへと歩を進める。頭の中ではディオーグへの会話を続けていた。

 

(ディオーグ、お前の壮絶な人生はわかった。その生き方、力の考え方は難しいものだっただろう)

(同情されるために話したわけじゃねえぞ)

(わかっている。それでもお前とは今後もずっと生きていかなければならないんだ。お前の想いは知っておきたいと考えるのはおかしくないだろう?)

(だがそれで生き方が変わるお前じゃないだろ?)

(ああ、そうだ。それにお前の心情を完全に理解したとは思えない。実際に経験したお前と聞いただけの俺では大きな隔たりがあるだろうからな。しかしひとつ、お前のおかげで分かったことがある。俺の生き方はこのままじゃダメだということだ)

 

 大一が頭に響かせる声は自分でも不思議なほどに力強かった。自分とディオーグの両者に向けたその声は、大一の本心をハッキリと表していく。

 

(罪悪感に囚われる…それだけじゃ俺自身の人生は無い。このままでは虚しさが膨れ上がるだけで強くなれない)

(ほう、ようやく理解できたか)

(もっと言えば、それはお前も同じだ)

(なに?)

(だってそうだろう?戦いだけの人生なんて悲しすぎる。かつてのお前はそうせざるをえなかっただろうが、今は違うはずだ。身体の自由は無くても戦い以外にもっと自分を見出す方法を知っても良いはずだ)

 

 ディオーグの人生は「戦い」だけであった。そこで培われ熟成された彼の戦いや力の価値観は今後も持ち続けるべきだろう。同時にそれだけでは彼自身の人生はみずみずしさを失い、荒廃していくだろう。大一自身が罪悪感を抱くだけの人生がどれほど苦しいものかをわかっているがゆえに、今後も共に生きていく身としてはディオーグにも違う世界を見て欲しいというのが本心であった。

 

(だからそれは昨日で懲りたって言っただろうが)

(まだ1回だけだ。他にも方法はいっぱいあるはずだ。俺は…俺はお前にも幸せになって欲しい。すぐに一誠への負い目を捨て去るのは難しいだろうけど、俺は必ずけじめをつける。自分の人生に向き合う。そして仲間と共に…お前と共に強くなる!)

(…ハッ!勝手に言ってろ。本当にけじめをつけた時に考えてやるよ)

 

 意図せずに皆の元へ向かう足に力が込められる。足音が心なしか少し大きくなり、一歩ごとに彼の決意を踏みしめるのであった。

 

(…でもやっぱり頭重いな)

(締まらねえな、おい!)

 




次回あたりから戦闘になります。読み返すと11巻って戦闘場面少ない印象ですね。
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