D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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いまいち死神の強さが分からないと思いました…。


第107話 脱出開始

 神器の中でも抜きんでた能力を持つ神滅具は13種ある。さらにその中でも群を抜いて絶対的な力を持つものは、上位神滅具に分類されていた。2番目に強いと評される「煌天雷獄(ゼニス・テンペスト)」を除けば、他の3つは禍の団の英雄派に属している。

 そして現在、この異空間に閉じ込めているのはゲオルクが扱う上位神滅具「絶霧」によるものであった。空間ひとつ丸ごと封じ込めるその規模は目を見張るものがある。この結界から脱出するには、術者本人が解くこと、強引に結界を破壊して突破することなどが挙げられるが両方とも現実的な方法ではない。そうなれば、術者本人を倒すか、この結界を支える中心点を破壊するかが脱出のカギとなる。

 かつて一誠がアーシアを救出した時のように、今回もこの広大な疑似空間にはそれを支える装置が置かれていた。装置の数は3つ。駐車場、屋上、ホテル内部にそれぞれひとつずつ設置されているが、いずれも周囲には大量の死神が控えており、中でも駐車場の装置は術者であるゲオルクに加え、ジークフリートとクーフーも守りを固めていた。

 この数に無策で突っ込むことはどれ程の猛将でも愚か者と揶揄されるだろう。かと言って、諦めてしまえば死に直結する。この状況で一誠達が突破するために作戦を提案したのはリアスであった。彼が愛する男の武器を存分に活かした作戦だ…。

 

「いよいよ感知の役目が無くなれば、あなたもお役御免かもね」

「この極限の状態で、そこまで言えるならいつも通りなんだろうな」

 

 小さく笑う朱乃に対して、大一は答える。今回の作戦にあたり、敵の場所を正確に把握する必要があるのだが、今回はこれを小猫がやることになっていた。現在、鎧姿の一誠と小猫が共に一室に入ってその時を待っており、その部屋の付近で大一は朱乃と静かに外の様子を見守っている。

 大一は一誠と小猫のいる部屋の扉にちらりと目を向けると、朱乃に向き直る。

 

「…あのさ、朱乃。さっき小猫と話したんだ」

「あらあら、わざわざ私に話すってことは内容は察するに余るわね」

「まだそういう関係じゃない。ただ彼女を女性として意識すると約束したんだ」

「あなたらしいわ。うーん…それで私にはなにを約束してくれるの?」

「そうだな…これまで通り、いやこれまで以上に好きでいる。それこそ朱乃が今まで以上に満足するくらいには」

「今はそれで許してあげる」

 

 そう言った朱乃は静かに大一へと身を寄せる。頭でも心でも彼が自分から離れないことを確信しているつもりであったが、いざ明言されれば安堵が体中を駆け巡るのを実感できるのだ。

 しかしちょうどそのタイミングで大一は軽く頭を抑えた。リアスから話は聞いていたが、どうも彼の体調不良は心もとなく感じる。

 

「体調も怪しいのに無理しようとするあなたも問題よ」

「それ、祐斗にも言われたな。でもそこまで深刻じゃないし、この状況じゃ無理するなって方が難しいよ。ましてやヴァ―リや黒歌のように手痛くやられた奴だっているし…」

「おやおや、私の名前が聞こえたにゃ」

 

 いつの間にか、黒歌が近くに立っており会話に加わる。表情はいつものように気ままさと余裕に満ちていたが、いまいち覇気が感じられない上に少し足取りが怪しかった。

 

「こういう時はすぐに飛んでくるな」

「お見舞いにも来なかった薄情者よりは、お節介なほど素早い私の方がいいと思うけどねー」

「あれでやられるほどヤワじゃないだろう。お前と戦ったことあるから尚更だな」

「ふーん、信用してくれたんだ…。悪くない気分にゃん」

「勝手に言ってろ」

 

 黒歌の発言を大一は軽く流す。ヴァ―リチームに対しては、他よりも懐疑心が強かった大一であったが、昨日の黒歌との話が無意識のうちに想いが軟化していた。彼にこれを追求すれば否定するであろうが。

 

「そうそう、さっき赤龍帝ちんとも話したんだ。昨日の深夜にあんたと話したようなことをね。きっと彼ならヴァ―リみたいに純粋なドラゴンになってくれそうにゃ」

「含みがあるな…俺に何を期待しているんだ?」

「大一はどんなドラゴンになるのかなってこと♪」

 

 黒歌の黄色い瞳の奥に光が宿ったかのように輝く。彼女にとって眉唾気味であったオーフィスとディオーグの関係性と、昨日の深夜の一件で大一への興味は間違いなく膨れ上がっていた。願わくば、彼自身にもドラゴンとして強者として期待したい想いがあった。

 しかしそれにいちいち反応する大一でもなく、軽く首を横に振る。

 

「…そんなのお前に言う必要無いだろ。だいたい俺自身がまだ固まっていないんだ」

「そういう複雑で面倒くさいところが面白いことになるのかも」

「面倒な俺でも、作戦前にお前と無駄話するつもりはねえよ」

「うわっ、冷たい男!まったく…おっとっと」

 

 踵をかえして自分の持ち場に戻ろうとする黒歌は足元をふらつかせて転びそうになると、大一が腰を抱えてそれを支える。咄嗟であったが、彼の動きにはためらいは見られず素早かった。

 

「気をつけろ。怪我するぞ」

「ふ~ん、今のふらつきがわざとなのも見抜けないで助けるなんて、さすがは赤龍帝ちんのお兄ちゃん」

「お、お前な…!」

「それじゃ、また後でね。大一」

 

 ひらりと大一の身体から離れると、いたずらっぽい笑みを浮かべて彼女は自分の持ち場へと戻っていった。魅惑的な動きであったが、それでも後ろ姿には疲れが感じられて、大一としては騙されたことへの不全感と心配する感情が入り混じっていた。

 

「…あいつ、本当に大丈夫かよ」

「どうかしらね。でも私はそれ以上に…いろいろ気になったわ」

 

 朱乃の声は静かながらも、強い覇気が込められていた。黒歌と大一のやり取りが、普段の生活で朱乃自身が彼をからかう時と同じようなものに感じ、さらに黒歌が馴れ馴れしく彼の本名を呼ぶことに引っかかっていた。この感情を言葉に表すとすれば「嫉妬」であることを、自分だけの特権と思っていたやり取りを奪われた朱乃は気づいていた。

 

────────────────────────────────────────────

 

「いっけぇぇぇぇぇぇ!ドラゴンブラスタァァァァァ!」

 

 一誠が魔力を込めた渾身の砲撃が放たれる。トリアイナの「僧侶」形態の双肩から放たれる魔力の砲撃は、小猫が感知で示した場所に向かっていった。目標はこの空間を支える装置のうち2つ。敵の守りが比較的薄い屋上と2階のホールに設置されていたものだ。

 大きくホテルが揺れると共に、ルフェイが目標の破壊とその周辺の敵の討伐を報告する。さらに転移の準備もちょうど整ったところだった。

 

「ゼノヴィア!イリナ!頼むぞ!」

「イッセー!死ぬなよ!」

「必ずこのことを天界と魔王様に伝えてくるから!」

 

 一誠の言葉を胸に救援を求めに向かうゼノヴィア、イリナ、ルフェイの3人は光に包まれた。

 その様子を見届けたアザゼルはその場にいる全員に檄を飛ばす。

 

「よし!これであとはあいつらをぶっ倒して装置も破壊すればしまいだ!いくぞ、お前らっ!」

『はいっ!』

 

 これを機に作戦が開始される。前衛であるアザゼル、リアス、朱乃、大一、祐斗の5人が翼を広げて駐車場へと向かった。死神たちは動き始めた相手に狙いをつけ、空中でぶつかり始めた。そこに援護するように強力な魔力の攻撃が撃ち込まれる。後衛であるヴァ―リの魔力の一撃であった。後ろに控えるのは一誠とヴァ―リの二天龍に加えて、遠距離から回復を飛ばすアーシア、弱りながらも階層に結界を張る黒歌、その彼女を支える小猫とレイヴェルであった。曹操からダメージを受けたことや、死神の生命をも刈り取る鎌、多くの状況を踏まえた上で作り上げたこの布陣は予想通りに相手を押していた。

 一誠は緊張を抱きながら次の魔力を溜める。惚れたリアスの戦術、ヴァ―リというライバルが味方にいること、絶望的な状況のはずなのに精神的な支えは強大であった。初手が上手くいったのも大きいだろう。彼のドラゴンブラスターと小猫の的確な感知の賜物であった。

 

「あら、白音。…助けてくれるの?」

 

 一誠の後ろで黒歌が少し意外そうに話す。小猫とレイヴェルが彼女の身体を支えていた。

 

「…私を助けてくれた借りを返すだけです。防御の魔法陣に集中してください。仙術でフォローしますから」

「そっちのお嬢ちゃんはどうしてにゃん?」

「な、なんとなくですわ!ありがたいと思いなさいな!」

 

 顔を赤らめてあやふやとした声で答えるレイヴェルの様子に、黒歌は面白いおもちゃを見つけたような笑顔になる。だが状況が状況なので、追及はしなかった。

 

「そ。じゃあ、お言葉に甘えちゃう。…白音、今度、仙術だけじゃなくて猫又流の妖術とかを教えてあげちゃおうか?…嫌ならいいけどねん」

「…いえ、教えてください。私も仲間を支えるために強くなりたいです。姉さまに頼ってでも私は前に進まないと───」

 

 小猫が覚悟を決める一方で、ドラゴンも奮闘する。ヴェーリはサマエルのダメージで禁手を使えないが、撃ち出す魔力は死神数体をまとめて吹き飛ばすほどの威力を誇り、戦力としては十分であった。しかしオーフィスの方は撃ち出す魔力はヴァ―リよりも強力ながらも、本調子でないがゆえにコントロールが定まらずにでたらめな方向に、しかも空間に余計な影響を及ぼしかねないため、アザゼルに下がるように言われた。

 チャージが溜まった一誠は再びドラゴンブラスターを放ち、さらに敵の数を減らしにかかる。どれだけ敵が警戒していても、その威力は簡単に防げるものでは無かった。

 

「さすがです、イッセーさんッ!」

「お見事です、先輩」

「さすがですわ、イッセー様!」

 

 アーシアと後輩2人の声援に一誠は軽く後ろを振り向いて拳を握る。表情は鎧に隠れているが、彼の人を魅了するような笑顔が向けられていたのだろう。

 

「へえ、白音は赤龍帝が好みなんだ。それじゃ、あっちは…」

「姉さま、変なこと言うと手を離しますよ。私がさっき扉の外の会話が聞こえてなかったと思うんですか?」

「ありゃりゃ、聞こえていたの?我が妹ながら怖いわね」

「あの人は…大一先輩は私の強さでもあります。姉さまには渡しません」

 

 きっぱりと言い放つ小猫の言葉に、一誠は鎧の中で小さく息を吐く。彼自身、兄のことを認めているものの、仲間が好意を抱いているのを直面すると不思議と落ち着かない感情になるものであった。

 

「兄貴もモテるな…」

『お前にだけは言われたくないと思うぞ、相棒』

 

 半ば呆れ気味にドライグの声が響く。大一は今の彼と全く同じような感情をこれまで幾度となく経験していたのだが、それを一誠が気づく日は来ないのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

『邪魔だ、陰気な雑魚どもがァ!』

 

 龍人状態になった大一の口から、ディオーグの喜々とした言葉が紡がれる。経歴から戦わざるを得ない環境にずっと身を置いてきた彼であったが、戦いが好きであるという気性も本性であることを実感させられた。

 錨で死神の鎌をひっかけると強引に引き寄せて、その顔面に痛烈な拳を入れこむ。その隙を狙って後ろから2人の死神が鎌を振りかぶるが、翼の付け根から伸びる尾の先端から魔法陣を出すとその鎌の攻撃を防いだ。

 

『本当に魔法を覚えて正解だったと…思うよ!』

 

 身体を回転させて後ろの死神をはじくと片方は錨で頭をカチ割り、もう片方は頭を掴んで近くにいた別の死神へと叩きつけるように投げた。

 前衛はかなり押し込んでいたが、特に敵を一気に蹂躙したのは間もなく一誠からの倍加の力を譲渡されたリアスと朱乃の攻撃だろう。元より大規模な魔力の攻撃を得意としていた2人であったが、一誠により倍加の力を受けたその破壊力は辺りの死神を大幅に減少させた。かつてコカビエルと対峙した時よりも、はるかにその威力は凌駕していた。

 

『お前の弟も動いたな』

『あいつは無理に前衛に来なくてもいい気がするんだけどな…』

 

 ディオーグの言葉に、大一は苦々し気に呟く。ドラゴンブラスターを2発、リアスと朱乃に譲渡までしたため、彼のドラゴンのオーラの消費は激しかったが、ジークフリートに誘い出される形で駐車場へと出陣していた。

 しかし相手の想像以上に一誠は動き、向かってくる死神を殴り飛ばしている。悪魔としての経験は1年にも満たない彼であったが、修行の積み重ね、はるかに格上である強者との戦い、多くの支援など様々な要因が積み重なった彼の実力は下級の死神の動きをハッキリと見切っていた。

 

「サイラオーグや曹操と戦っていりゃ、このぐらいの死神じゃ束になってもお前の相手にならないだろうよ。ま、俺にとっても同じだ」

 

 一誠の横にアザゼルが降り立つ。お世辞という言葉から遥か離れた意味を含んだ発言に、アザゼルは笑っていた。

 

《死神を舐めてもらっては困ります》

 

 不利な状況を覆しつつあった中、駐車場に寒気を感じる不気味な声が響き渡る。漆黒の刀身の鎌に、他の死神とは少し違った黒いローブ、無数にいる死神の中にいても間違いなく気づくであろう異様な雰囲気を纏った人物が現れた。

 

《初めまして、堕天使の総督殿。私はハーデス様に仕える死神の1人───プルートと申します》

「…ッ!最上級死神のプルートか…ッ!伝説にも残る死神を寄越すなんてハーデスの親父もやってくれるもんだな!」

 

 アザゼルは衝撃と苛立ちを隠さずに言葉を叩きつける。プルートとしてはアザゼルがテロリストと結託して同盟勢力を陰から崩そうとする、という理由づけがすでに済んでいたらしい。あくまで理由づけであり、彼らの本心は死生観がまるで違う厄介な悪魔や堕天使への否定であったが。

 一瞬、プルートの姿が消えたかと思うと、アザゼルが人工神器の槍を出して相手の鎌とつばぜり合いを起こしていた。力の温存ができないほどの相手であるため、アザゼルは素早くファーブニルの力を持つ黄金の鎧を展開させるのであった。

 その一方で、ジークフリートは一誠を前にいくつもの名剣を抱える。

 

「さて、キミの相手は僕じゃないとダメなんだろうね」

「悪いね、イッセーくん。───彼は僕がやる」

 

 激突は必死かと思われたが、そこに高速で祐斗が割り込んだ。彼らの因縁の濃さについては一誠も理解するところであった。仲間を信じ一歩下がろうとする一誠であったが、そこにドライグの声が響いた。

 

『相棒!』

 

 アザゼルとプルートの勝負の時とは違う金属音が聞こえる。一誠の横から突っ込んできた何かが同じく上から落ちてきた何かとぶつかっていた。

 10秒もかからないぶつかり合いは突っ込んできた相手が引き下がることでその正体が判明した。一誠の隙を狙っていたクーフーとそれを察知して防いだ大一であった。

 

「仕留め損ねたか」

『前も同じような不意打ちしようとしていたからな。祐斗があいつとやるなら、俺がお前の相手をしてやる』

『ちょっとは楽しませてくれよ、雑魚が!』

 




11巻もだいぶ佳境に入ってきましたね。
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