D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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今回から12巻のスタートです。現状の展開は原作と大きな差はありませんので、心情の方を出来るだけ…。


補習授業のヒーローズ
第110話 冥界の危機


 シャルバ・ベルゼブブによって冥界に現れた「魔獣創造」のアンチモンスターの脅威に衝撃を受けなかったものはいなかった。魔獣たちは冥界に出現した後に、各地の重要拠点へと進行していた。彼らは冥界を滅ぼすという、生まれながらに持った残酷な使命を抱いていた。

 最も巨大な魔獣を筆頭に、人のように二足歩行もいれば、獣のように四つの手足で地を駆けるのもいる。目がひとつしかなかったり、頭が魚のようにしなやかだったりと、その見た目の多様性も恐ろしさに拍車をかけている。さらにこの巨体から独自に小型のモンスターを生みだす性質まで備わっており、後手に回ることは怪物の戦力を増強させることを意味した。

 これらの魔獣の中でも最大のサイズを誇るものを「超獣鬼(ジャバウォック)」、その他の12体の大型の魔物を「豪獣鬼(バンダースナッチ)」と名付けられ、その名はたちまち各勢力へと広まっていった。特に超獣鬼の方は、異常なまでの堅牢さと回復性能を誇り、出撃した皇帝ベリアル率いるチームの攻撃をまったく意に介していなかった。

 併せて、問題の種となったのはこの魔獣の混乱に乗じて、息を潜めていた旧魔王派が各地で活動を再開したことだ。ここまで含めてシャルバの計画であることは疑いようもない。さらに言えば、これを機に上級悪魔の眷属が反旗を翻しているという情報も入っている。熟されてきた鬱憤が最悪のタイミングで噴出した事例であった。

 同盟とこれに協力する勢力は事態の鎮圧化のために動いているものの、終息の兆しが見えないのは精神的な疲労に直結する。

 グレモリー家の屋敷にいた祐斗は腑に落ちない様子でため息をつく。この未曾有の危機に、グレモリー眷属は行動を起こせずに意気消沈していた。原因は火を見るよりも明らかである。一誠と大一の死であった。

 龍門を通って戻ってきたのは、「悪魔の駒」が8つのみ。いずれも「兵士」のもので、門からはサマエルのオーラを微量ながらに感じた。裏でハーデスが動いていることに確信を持った彼女達からすれば、サマエルの呪いによって仲間の命の灯火が吹き消されたことが想像つく。過去にも駒だけが残る事例はあったが、その際に命が助かったことはなかった。

 祐斗と小猫は2人で、屋敷に来たライザー・フェニックスの対応をしていた。これから兄と共に魔獣の討伐に向かうのだが、一誠の死を聞いてリアスを訪ねていた。もっとも当の本人はすっかり閉じこもっていたのだが。

 重い空気がフロアにこもる中、レイヴェルがひとりの男性と共に現れる。フェニックス家の次期当主で長兄のルヴァル・フェニックスだ。妹への激励と、微力ながらの支援としてフェニックスの涙を渡しに来ていた。

 

「リアスさんもリアスさんの『女王』も彼らの死で酷く落ち込んでいる。こんなときに冷静であるべきはおそらくキミだろうね。情愛の深い眷属でありながら、仲間の死に耐える。見事だよ」

「ありがとうございます」

 

 感情を出さない静かな声で祐斗は対応する。実際はルヴァルが言うほど、祐斗に余裕はなかった。自分を助け、共に研鑽を続けていた最高の親友がいなくなった時の祐斗は心に爪を突き立てられたような痛みと悲しみを感じた。出来ることなら、感情のままに苦しみを吐き出したいと何度も思った。しかしリアスを筆頭に、多くの者が悲しみに暮れる中、自分まで崩れてしまってはいよいよチームの瓦解は必死に感じ、思いとどまっていた。

 リアスは部屋に閉じこもり、朱乃は放心した様子。アーシアは何度も涙を流し、必死に悲しみと戦っていた。小猫は彼女らほど崩れた印象は無かったものの、眼に力はなく表情の暗さに拍車がかかっていた。レイヴェルの方も兄のフォローがあったとはいえ、涙が止まる様子は見られなかった。

 本来であれば、大一あたりがフォローに奔走していたのだろう。自分の感情はひとまず抑え、仲間のためにやるべき行動に舵をきっていたはずだ。一誠が皆に光を与えるならば、兄の方は皆が立つ土台になっている。

 しかし現在はその男もいなかった。戻ってきた彼の「悪魔の駒」にはわずかにひびが入っており、一誠と共に必死で戦い抜いたことが察せられる。

 

「では行くぞ、ライザー。お前もフェニックス家の男子とならば業火の翼を冥界中に見せつけておくのだ。これ以上、成り上がりとバカにされたくはないだろう?」

「わかっていますよ、兄上。じゃあな、木場祐斗。リアス達を頼むぜ」

 

 フェニックス家の兄弟は魔獣討伐のために屋敷を去る。頷きはしたものの、祐斗の心から陰りのもやは払えなかった。

 屋敷に残ることを選んだレイヴェルは溢れ出る涙を拭いながら、震える声で話す。

 

「…こんなのってないですわ…。ようやく、心から敬愛できる殿方のもとに近づけたのに…」

「…私はなんとなく覚悟はしていたよ。…激戦ばかりだから、いくら先輩たちが強くてもいつか限界がくるかもしれないって」

 

 瞳の奥にシャッターが下りたような印象の眼を背けながら小猫は力なく答える。言葉の内容とは裏腹に、覇気はまるでなかった。しかし今のレイヴェルにそこまで感じ取れるほどの余裕はない。

 

「…割り切りすぎですわよ…ッ。私は小猫さんのように強くなれませんわ…っ!」

「…私だって…いろいろ限界だよ!やっと想いを打ち明けられたのに、死んじゃうなんてないもん…っ!」

 

 小猫のせき止めていた感情が流れ出る。彼女からすれば長く心を悩ませていた想いをようやく打ち明けることができたのだ。これから先を期待できるはずの大きな一歩を踏み出したのに、その相手はこの世から去ってしまった。

片や紆余曲折を経て前向きな関係を築き、片や眷属とは違いながらも大きく想い人との特別な立場として接近できた。互いに想い人は違うものの、そこに感じる敬愛の念は本物であった。後輩2人は互いに苦しみを分かち合うように泣いていた。

 その様子に心を痛める祐斗に、また違う訪問者が現れた。堕天使幹部のバラキエルだ。

 

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 負の感情を朱乃は幾度となく経験したと思っている。母が死んだ時が顕著で、その後も多くの場面で経験してきた。それでも悪魔になってから、リアスと共に生きる道を選んでからはそれ以上の喜びを経験してきた。最高の親友と強くなり、大事な後輩から尊敬され、父とも和解を果たした。

 その中でも、もっとも色濃く思い出に残る男の存在は不思議なものであった。いまいち馬が合わないところから始まり、時が経つにつれて共に親友を守る同志となり、気がつけば傍にいることが一番安心できる相手になっていた。だから好意を抱かれていることを彼の口から聞いた時、その安心をさらに熱くし、感情を昂らせたものであった。

 それほど惚れ込んだ相手が死んだ。可愛がっていた後輩で、大一の弟である一誠も死んだ。これらの現実に向き合うことが彼女には出来なかった。失いかける経験なら以前もあった。しかしまだ助かる見込みはあった上に、これほど感情が傾く前の話なのだ。今回の失意の気持ちはその時の比ではない。

 その彼女の心を示すかのように電気のつけていないフロアは暗さに支配されていた。明かりをつける気にもなれない。ただ座っているだけである今の彼女の頭は、感情に潰されてまったく働いていなかった。

 だからこそ、フロアにバラキエルが来ていたのも、自身の目の前に来るまで気がつかなかった。

 

「…朱乃」

「…とう、さま」

 

 声の出し方を忘れていたかのような雰囲気の反応であったが、その彼女に父親は諭すように声をかけて抱きしめる。

 

「話は聞いている」

「父さま…私…」

「いまは泣け。父はお前が泣き止むまでここにいよう。だが、お前は若手悪魔の代表格となりつつあるグレモリー眷属の『女王』なのだ。すぐにその力を冥界のために役立てなければならない。…彼ならきっとそうしたはずだろう」

「…うぅ…父さま…大一が…」

 

 朱乃は大粒の涙を流しながら、バラキエルの胸でむせび泣く。共に両翼として存在した心の支えがいないことに向き合った彼女は、その苦しさを吐き出していった。

 

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 眷属たちが悲しみに暮れていた時、その主であるリアス・グレモリーの心の活力は枯れかけていた。率先して檄を飛ばすべき…頭では理解していることもまったく行動に移せなかった。

 何度も涙を流した。仲間の眷属の悲しみも見てきた。それでも彼女は己を奮い立たせることができなかった。最愛の男、信頼を置く親友、この2人の死は情愛深いことで有名な彼女の心を大きくえぐった。

 ライザーもソーナも彼女を訪問したが、自室の扉の門は固く閉ざされ、心ごと来訪者を拒否していた。もっとも2人とも丁寧に断りを入れてから領域に足を踏み入れるタイプなのだ。3人目の来訪者は入ることをひとつ宣言しただけで彼女の部屋へとグイグイと入り込んできた。

 

「情けない姿を見せてくれるものだな、リアス」

「…サイラオーグ。何をしに来たの…?」

「ソーナ・シトリーから連絡を貰ってな。安心しろ、プライベート回線だ。大王側にあの男が現在どのような状態か一切漏れてはいない」

 

 いつものように世間話をするような調子でサイラオーグは話す。レヴィアタンからの打診でソーナたちは首都リリスの防衛と民間人の避難に向かったが、リアスをよく理解している彼女はもっともうってつけの相手に連絡を取っていた。来訪したサイラオーグは祐斗に案内されて、リアスの元に訪れていた。

 サイラオーグは相変わらずの力強さで冥界の危機を説く。リアスほど期待された若手悪魔が前線に立たないなどそれこそお笑い種だろう。だが彼女は一向に沈み切った態度を崩さなかった。

 

「…知らないわ」

「…自分の男が行方知れずというだけでここまで堕ちるか、リアス。お前はもっといい女だったはずだ」

「彼がいない世界なんてッ!イッセーがいない世界なんてどうでもいいのよッ!…私にとって彼は、あの人は…誰よりも大切なものだった。あの人無しで生きるなんて私には…」

 

 感情が再び悲しみに昂ったが、サイラオーグはきっぱりと言い放った。

 

「あの男が…赤龍帝の兵藤一誠が愛した女はこの程度の女ではなかったはずだッ!あの男はお前の想いに応えるため、お前の夢に殉ずる覚悟で誰よりも勇ましく前に出ていく強者だったではないかッ!主のお前が、あの男が愛したお前が、その程度の度量と器量で何とする!?」

 

 サイラオーグの言葉は理路整然としたものではなく、あまりにも感情的なものであった。そのはずなのに、心を震わせる説得力が間違いなく込められていた。一誠と真っ向から拳でぶつかり合った彼ゆえか、それとも元来からの雰囲気からか、ともかく彼の言葉はうつむいていた彼女に勇気を与えるには充分であった。

 

「それにお前は彼らが死んだと思っているのか?」

 

 その言葉に、リアスも祐斗も言葉を失う。サイラオーグは彼女らの反応にニヤリと笑みを浮かべた。

 

「それこそ滑稽だ。ひとつ訊こう。お前はあの男に抱かれたか?」

「…抱いてももらえなかったわ」

「ハハハハハハッ!なら、やはりあの男は死んでいない。お前を、愛した女を、そして周りであの男を好いていた女がいるのに兵藤一誠が死ぬものか。奴がお前を抱かずに死ぬわけがあるまい。兄の方だって似たようなものだ。クイ―シャ相手に意地でも引き分けに持ち込むような執念深く義理堅い男だ。それこそ今でも喰らいついているだろうさ」

 

 笑うサイラオーグに、リアスはすっかり面食らっていた。妙な説得力は、不思議と彼女を奮い立たせていたのだ。

 

「俺は先に戦場で待つ。必ず来い、リアス。そしてグレモリー眷属!あの男が守ろうとしている冥界の子ども達を守らずして何が『おっぱいドラゴン』の仲間かッ!」

 

 去り際の一誠のライバルの言葉は、彼女らにわずかな希望を投げかけていた。

 

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 この日の夜はあまりにも静かであった。彼らにとってはそれも当然かもしれない。本来であれば、もっと大勢の仲間たちと共にいるはずの英雄派の幹部であったが、現在の作戦ではジークフリートとクーフーの2人だけで動いていたからだ。ローブを深く被った彼らは冥界の騒ぎとは無縁の廃屋を進んでいた。

 

「グレモリー眷属がアジュカ・ベルゼブブの元に向かったらしいぞ。どうする?」

「どうするも何もないだろう。こっちは作戦を遂行するだけだ。旧魔王派の連中も殺気立っているからね」

 

 肩をすくめながらジークフリートは答える。彼らはある作戦に当たり動いていたのだが、それに伴って旧魔王派のメンバーと合流する予定になっていた。

 

「某は無理だと思うがな…。あの男はたしかに独自の価値観を持っているが、そんな男がこれほどまで長く今の政府で仕事をしているのは打算抜きに何かあるように思える」

「そんなこと言って、本音は協力するのが納得しないだけだろう?」

「もちろん、それもある。仮にも英雄派として動いているのだ。人間としての化け物共を打ち倒す気で某はいるのだから」

 

 ジークフリートは軽くため息をつく。信念は立派なものだが、それ故にクーフーの柔軟性の皆無な雰囲気には度し難いものがあった。だからこそ未だに掴めない部分も多く、彼との行動は気疲れする。

 

「…一理あるが、僕は同意しないな。曹操についていくって決めたんだから」

「それで結構。だが、某にもあのドーピング剤を勧めないでもらおう」

「ジャンヌやヘラクレスじゃないんだから、僕はしないよ。…そろそろかな」

 

 ジークフリートは目を細めると、その視線の先に複数人立っているのが映る。今回の協力者ではあったが、クーフーはその相手に悟られないように、必死に失望と苛立ちの感情を粉々に砕くように努力していた。

 




サイラオーグが熱血コーチみたいに感じました。こう見ると、グレモリー眷属って決してメンタルは強い方じゃありませんね。
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