D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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うだうだ悩むから、こういう極端な形でしか断ち切れないと思います。


第112話 ケジメ

 英雄派ジークフリートとの戦いは苛烈であった。しかし蓋を開けてみれば、本調子を取り戻したグレモリー眷属の実力によって見事な勝利をつかむことに成功した。

 英雄派を退けた祐斗達は、アジュカ・ベルゼブブに兵藤兄弟の悪魔の駒を見せる。アスカロンは駒へと姿を戻していたが、先ほどの不思議な奇跡は彼らに希望を残していた。彼らが生きているという希望だ。

 アジュカはチェス盤に駒を置くと、魔法陣を展開させて調べ始める。静かに頷きながらそれぞれの駒へと視線を移していくが、一瞬だけ眉間にしわを寄せた懐疑的な表情を見せた。間もなく、彼は駒を指でさすりながら思慮深い表情で語る。

 

「4つの駒が『変異の駒』になっている。ひとつひとつの価値にばらつきこそあるが…恐ろしいことだ。例のトリアイナの分と真紅の鎧がこれらを表しているのだろうか。兵藤一誠が引き出した天龍と悪魔の駒を組み合わせ───調和のスペックは、想像を遥かに超えるもののようだね。あのときに調整したかいがあったというものだ。先ほどの現象も実に興味深かった。…彼の意志が駒にダイレクトに反映されているのか」

 

 規格外の力を持つものでも駒をひとつに収められる「変異の駒」、一誠の身体に宿っていた駒の内4つがそれに変化していた。一誠の得た乳力しかり、アジュカがリアスとの試練の際に彼の駒を調整したことしかり、あらゆる要因が積み重なったことでこのような結果を生んだのだろう。

 そしてアジュカが解析をしたところ、これらの駒の最後の記録情報に「死」の文字はなかった。さらにドライグの魂も今なお神器の中に宿ったままであった。これらの情報から総合すると一誠は次元の狭間で生きている可能性が高いというものだ。

 サマエルのせいで肉体は完全に使い物にならないが、魂は生きている。そうなればクローン技術の応用などで新しい身体を用意し、これに魂を付着させることで再びこの世に生を受けることが可能になっていた。もっともその身体に神滅具が備わるかは確定ではないが、悪魔の駒を使えば再びリアスの眷属として存在できる。

 一連の説明を受けた祐斗は心臓を鷲掴みにされたような気分になった。煮えたぎる感情がゆっくりと全身を駆け巡るのを実感する。その感情はアーシアとリアスによって言葉として噴出した。

 

「うえぇぇぇぇぇんっ!イッセーさぁぁぁぁんっ!」

「…イッセー、生きているのね…。そうよね、彼が死ぬはずないもの!」

 

 安堵と歓喜をグレモリー眷属は感じた。兵藤一誠が生きているという事実が彼女らにもたらしたものであった。

 リアスは期待するようにアジュカへと続けて問いかける。

 

「大一の駒も死んだという記録は無いんですよね?」

「…ああ。ここにある駒はすべて最後の記録にその類のものは無い。ところで彼の話になる前に俺の方からもひとつ訊きたい。これが兵藤大一の駒で間違いないんだね?」

 

 アジュカはチェス盤から駒をひとつ取って、リアス達に見せる。彼が悪魔になるきっかけとなった「兵士」の駒で、一誠のと違い小さなひびが入っていた。

 

「間違いありませんが…なにかおかしいことがあったのでしょうか?」

「ふむ…調べたところ、ここにある悪魔の駒はすべて兵藤一誠のものとなっている。この駒の最後の所有者も含めてな。魔力の感覚や俺が調整を加えた形跡が無いから、最近までの所有者は違ったのだろうが…」

 

 疑問と同時に背中がひやりとする感覚を彼女らは覚えた。大一の中にあった悪魔の駒が一誠のものになっているのならば、彼はどこへ消えたというのだろうか。一誠とは違い行方をまるで確定できない事実に、祐斗は隣で朱乃が静かに生唾を飲み込む音を聞いた気がした。

 

「兵藤大一、いったい何をしたんだ?」

 

────────────────────────────────────────────

 

 次元の狭間はその名の通り、あらゆる次元の隙間に存在しており完全な静寂が支配する無の空間であった。ただ目が覚めた一誠の目に映った景色は、静寂とは相反するようなきらびやかさを感じさせるものであった。万華鏡のような様々な色が混ざり合ったようなもので、その流れにボロボロの空間の名残や機能停止したゴグマゴグが流れるものだから、不自然さが際立つ。

 しかし目が覚めた一誠からすれば、こんなことは取るに足らない現実であった。彼がもっとも危惧していたのは、自分の身体が禁手の鎧になっていたからであった。彼の肉体がサマエルの呪いによって限界を迎えていたため、ドライグが魂を鎧へと移したのだが…

 

『…なんてこった!体がなければリアスとエッチできんじゃないかぁぁぁっ!』

 

 ドライグは一誠の発言に不意を突かれた。身体が無くなったことに対して、感じる絶望は様々であろう。性欲の件も決しておかしいことではない。しかしこれが真っ先に挙がるのは、さすがにドライグも驚きを隠せなかった。

 そんな相棒の想いはいざ知らず、一誠は悔しさに鎧となった身体を震わせていた。生身でないため性行為は出来ず、堅牢な硬さのおかげで胸を揉むにしても実感を得られない。肌と肌が触れ合う柔らかなコミュニケーションは、この姿である以上不可能であった。最近になってリアスと恋仲になったことが彼の悔しさに拍車をかけていた。それでもハーレム王を諦めるつもりは無かったのだが。

 すっかり悲しみに暮れた一誠であったが、そのおかげか意識はハッキリして徐々に自分が何をやっていたのかを思いだす。元をたどればオーフィスを救出するために、兄と共に疑似空間に残ったのだが、その相手はなぜか近くで地面を叩いていた。幼子が砂場で遊んでいるような様子で、この不思議な空間とはかけ離れた一幕だ。

 

「えいえいえい」

『お、おまえ、何をしていたんだ?』

「グレートレッド、倒す」

 

 一瞬、オーフィスの言葉を一誠は理解できなかった。しかし冷静になって辺りを見渡せば、彼が立っていた地面はどうにも違和感を覚える。赤い岩肌が特徴的だと思っていた地面であったが、その割に生物のような活力に満ちている。違和感を抱いた一誠は走り出すと、ほどなくして先端へとたどり着いた。巨大な突起物は角であり、さらに少し先にはドラゴンの顔が見えた。彼が立っていたのはグレートレッドの背中であった。

 

『…な、なんで、俺、グレートレッドの上にいるんだよ…?』

『お前はシャルバを倒した後、崩れゆく疑似フィールドで力尽きた。そのあとすぐにフィールドも完全に崩れきったのだ。そこに偶然グレートレッドが通りかかった。そこでオーフィスはお前を連れて、グレートレッドの背に乗ったのだ。ちなみにだが、すでにあれから幾日が過ぎている』

 

 ドライグは一誠に説明するが、彼は自分の強運に驚いていた。次元の狭間はかなり広大な空間であるにも関わらず、グレートレッドが通りかかったことで助かったのは運が良いという言葉に尽きる想いであった。もっともドライグからすれば一誠が持つ他者を引き寄せる力によって起きた事象であり、一種の必然にも感じたようだ。

 加えて、オーフィスが一誠を助けたのも大きかった。彼女は律儀にも一緒に人間界に帰るというドライグの約束を守ろうとしているようだ。その純真な精神性に、一誠はやはり彼女のことを嫌いになれなかった。

 ドライグによって現状を整理すると、「悪魔の駒」のみが抜き出されて龍門へと向かったこと、この龍神2体が一誠に力を貸しているためこの次元の狭間でも生きていられること、そして歴代の所有者が彼の魂を救ったことであった。

 

『彼らの残留思念がサマエルの呪いから、お前の魂を守ったんだよ。彼らが身代わりになって呪いを受けている間に、お前の魂を肉体から抜いて鎧に定着させたのだ。絶妙なタイミングだった。一瞬でも判断が遅ければ、いまここに俺もお前もいない』

 

 ドライグの話に一誠は少し不全感が残る。これまで様々な局面で力を貸してきてくれた先代の所有者達であったが、最後の最後まで自分のために助力してくれたことには感謝と同時にこれから先の付き合いもあったことを考えると、やりきれない想いであった。

 

『…気持ちはわかる。だから、彼らの最後の言葉を聞いてもらえるか?彼らの最後のメッセージだ』

 

 籠手の宝玉から映し出されたのは歴代の赤龍帝達の満面の笑みであった。この直前に、一誠はかつて似たようなシチュエーションがあったことを思いだすが、それに想いを馳せる間もなく、映し出された者達が声を揃えて一言だけ残す。

 

『『『『ポチっとポチっと、ずむずむいやーん!』』』』

 

 おっぱいドラゴンの歌の一節に、一誠は完全に拍子抜けの気持ちになった。アザゼルやサーゼクスが力を貸したこの歌の効果は冥界の子どもどころか、戦いに明け暮れた生活もあったはずの彼らにすら影響を与えていたようだ。画面の隅にいた白龍皇の先輩にすら助言(という名の尻押し)を受けた一誠は、投げやり気味にこのやり取りを感動的なものとして考えることでひとまず納得することにした。

 そんな一誠の様子を確認したドライグは、再び彼に声をかける。先ほどよりも気を引き締めた印象の声色であった。

 

『さて、もうひとつ話さなければならないことがある』

『さっきのでもう十分味わったぜ…』

『今度は真面目な話だ。いやさっきのも真面目ではあるんだが…』

『やっぱりドライグも思ってはいたんだな』

『お前も原因の一端ではあるんだぞ、相棒…。いや、とにかく今はどうでもいい。兵藤大一のことで話さなければならない』

『ああ、兄貴のことか。でもさ、ここにいないなら龍門を通って皆のところに戻ったんじゃないのか』

 

 一誠は軽く後ろを振り返る。魔力も何も感じない。おそらくひとりで龍門を通って脱出したに違いなかった。そうであれば、兄が自分の無事を仲間達に知らせることを一瞬だけ期待したが、そもそも兄が自分の生存を知っているのかが分からなかった。

 どこか気楽な一誠に対して、ドライグは不穏な声の調子を崩さなかった。

 

『いや…あいつは戻っていない』

『…戻っていないってどういうことだよ?』

『今から俺が見たことを全て話す。その上で…俺を責めればいい』

 

────────────────────────────────────────────

 

『兵藤大一、お前も早く脱出しろ。お前まで犠牲になることはない』

「その前にやることがあるんだ。ドライグ、頼みがあるんだ」

 

 崩壊していく疑似空間の中でドライグは大一に対して脱出を促す。一誠の身体の浸食は進んでおり、彼を助けるための策を考えるためにも大一に構っている暇はなかった。

 一方で、大一は丁寧に背中から降ろして横たわらせた後、手早く錨を取り出して静かに瞑目する。感知に集中している様子に見えたが、その意図を掴むことは出来なかった。

 ぱちりと目を開けると、大一は錨の切っ先を横たわる一誠の宝玉へと当てた。攻撃するようなものでは無く、ただ触れるだけのもの。傍から見れば、なんとも度し難い光景ではあったが、ブーステッド・ギアに宿るドライグはすぐに彼が何をしたのか気づいた。

 

『何をやっている!?お前、自分の魔力や生命力を渡すなんてッ!』

「…大した量じゃない」

『馬鹿を言うな!渡された量で分かる…お前だってあれほど戦ったんだッ!これほどの量を渡せば、お前の命の方が持たないぞ!』

 

 大一の行為は至極単純であった。彼の使う「生命の魔生錨」は力を引き上げるものであった。これによって元々下手な魔力の表面化を可能にし、ディオーグの力も引き上げて龍人になれる。そこで思ったのだ。もしかすると、自分の魔力や生命力を表に出して、それを他の人に渡すこともできるのではないかと。リアスが直接触れて魔力を流し込むように、一誠が譲渡の力を他者に渡すように。

 そして彼の考えは見事に的中した。錨の先には彼自身の魔力と生命力が丁寧にまとめられ、それを瀕死とはいえ神器を通して一誠に渡すことができた。

 

「これで少しでも一誠を助ける糧にしてくれ。肉体が少しでも生きれば、魂を汚染するのには時間がかかるはずだ」

 

 がくりと脚に力が入らなくなった大一は錨を支えになんとか立ち続ける。ドライグの言った通り、相当な量を渡したことで彼自身もかなり弱っていた。

 

『それにこの感覚…「悪魔の駒」まで相棒に…!』

「…あれ、そうなのか?自分では実感無かったんだが…なんだよ、この錨もまだまだ出来ることあるんだな…。でもちょうどいい…これでさらにサマエルの呪いを遅れさせることが…」

『お前がここまでする必要は無いだろッ!まだ助かる命なのに…兄だからってそこまでやるのかッ!』

 

 ドライグは感情のままに大一へと言葉を投げかけた。年上の兄だから弟を守る、兵藤兄弟がそういった義理堅さに忠実な関係でないことはドライグもわかっていた。

 しかし目の前の男は、弟を助けるために自身の持つものを大量に渡した。それこそ文字通り、本人にとって致命的になるまでだ。

 

「兄だからか…それもある。ただ兄弟愛なんていいものじゃないがな」

『だったら、そこまでしなくても…』

「こいつが命を落としかけた時に何もしてやれなかった。その後悔によるケジメをここでつけるだけだよ」

 

 大一は静かに答える。結局、どうあがいても大一自身は弟を死なせたことへの罪悪感を払拭できなかった。一誠が気にしていなくても、他の誰かが大一の責任じゃないと主張しても、彼自身がその想いをしつこい羽虫のように振り切れずにいた。そうなれば、形式上でも大一が納得するような方法を選ぶことで、その感情にケジメをつけるしかなかった。そこで選んだのが、命を引き換えにしてでも弟が生き残る確率を上げることであった。

 どっちにしても疲弊した大一が無事に脱出できる確率も高くなかった上に、生き残るのであれば英雄として期待が寄せられる一誠の方を生かすのは、彼にとって当然の選択であった。だがそれを口に出すようなことはしたくなかった。

 

『こんなことをしても…こんなことをしても、相棒は喜ばない!相棒はお前に対して、そんなことを思っていないはずなのに…!お前の人生だって、まだまだこれからだろうがッ!』

「…悪いな。俺もわがままでさ、こいつを助けられなかった後悔を重ねて生きていけるほど強くないんだよ…。そういう意味ではその荷を下ろすチャンスが今ってことか…」

 

 自分でもわかるほど声が弱くなっていく大一の言葉は、ドライグに向けられているのか、自分に向けられているのかが分からなかった。ただ隣ではオーフィスがジッと彼のことを見つめていた。

 

「…最後に身勝手で悪いんだけどさ、2人ともどうか弟のことを頼む。こいつを…リアスさんの元まで届けてやってくれ」

「わかった」

 

 オーフィスは短く答えるのに対して、ドライグは答えに詰まっていた。最後の最後まで責任を押し付けるような方法を取ってしまう自分に呆れながら、大一は軽く笑いながら嘆息した。

 

『こんなの間違っている…!』

「そうだよ、これが正しいわけがないんだ。俺はいつも失敗ばかりだからさ…そんな方法しか取れない…」

『───ッ!相棒は俺らがなんとかする…!』

 

 ドライグの言葉を確認した大一はふらつきながらその場を去ろうとする。何かの間違いで死体が残ってしまった時、弟にその姿を見られることを危惧したのだろう。弟への気づかいか、利己的な理由か、しかし今のドライグにはその背中が大きく、悲しく感じた。

 大一の背中がまだ確認できる頃、疑似空間が音を立てて完全に崩壊していく。崩れゆく岩盤の中に、弟に命を懸けた兄の姿は消えていく。オーフィスがちょうどグレートレッドへと飛び移った時には、彼の姿は確認できなくなった。

 




オリ主は一誠のような引き寄せる力みたいものがあるわけがありません。
お疲れ様、オリ主。
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