D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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クーフーとの勝負回です。こいつも一筋縄でいきません。


第115話 最後の英雄派

 最強の龍の力と「悪魔の駒」を8つ身体に宿した兵藤一誠と、最高峰の神滅具を持つ英雄派のリーダーである曹操の戦いは一言で表せないほどの苛烈さと凄みが感じられた。片や仲間と子ども達の期待を背負い、片や人間としての誇りと強者とのぶつかり合いへの昂り…互いに想いをぶつけ合うこの戦いは何人たりとも介入を許さなかった。

 皆がこの戦いに釘付けになっている中、もっとも視線を逸らすように思えない男が後ろを振り向く。

 

「…なんだ?」

 

 ヴァ―リの小さな呟きと同時に、彼の視線の遥か先で爆発が起こる。規模こそ小さいが、リアス達の注意が逸れたのは間違いなかった。

 すぐに小猫が耳を出して感知を始めると、目を細めた。彼女が感知した存在は何人かの悪魔とたったひとりの人間…。

 

「この感覚…ジークフリートと一緒にいた英雄派の幹部です」

「クー・フーリンの末裔ね」

 

 リアスは静かに顎を撫でながら気を引き締める。一誠が戻ってきたとはいえ戦いは終わっていない。テロリストがまだ暴れているのであれば、そちらの鎮圧に精を上げるのは当然のことだ。

 そんな中、祐斗が一歩前に出て進言する。

 

「僕が行きます。相手は手数の多さとスピードが武器でしたから、僕なら対応できます」

「わかったわ。小猫、あなたもお願い。敵の位置を把握しなきゃ」

「…わかりました」

 

 小猫は気合いを入れるように拳を強く合わせて短く答える。彼女が大一へ向ける感情はリアスも理解していたが、その確固たる信念を感じられる瞳には感心を抱かざるをえなかった。小猫は強い、一誠がいなくなったと思った時に腑抜けた自分と違って、その心の強さは頼りがいのあるものであった。

 しかし相手は英雄派の幹部。ひとりといえど、祐斗と小猫だけでは心もとなく感じた。リアスはもうひとり誰かに声をかけようと思案するが…。

 

「私も行きますわ」

「朱乃、あなたは…」

「大丈夫よ、リアス。いつまでも落ち込んでいては、それこそ大一に何を言われるものか分からないわ」

 

 肩を小さくすくめて朱乃は笑顔を見せる。その表情が無理をして強がっているものであることを見抜くのは、長年の付き合いであるリアスにとってたやすかった。同時に彼女がこの言葉を曲げようとしないことも理解していた。朱乃をこのまま行かせても不安は残るが、リアスとしても最も信頼できる相手に任せたいのも事実であった。

 

「…3人とも気をつけなさい。なにかあったら、すぐに連絡を」

 

────────────────────────────────────────────

 

 最前線を飛ぶ小猫は油断なく感知を行う。リアスから任された3人は、クーフーがいると思われる場所に向かっていた。相手は英雄派の幹部であったが、全員が各々の方法でパワーアップしていたグレモリー眷属だ。勢いも感じられる今、傍から見れば負ける気は微塵の欠片も感じられない。しかしそれは彼女らの精神的なものを考慮しない考え方であった。

 自分は幸運だ、小猫は感知を続けながらそんな言葉を哀しみという真逆の感情に包みながら考えていた。自分が初めて憧れと尊敬を抱いた男の死を知った時、ヘドロのように嫌悪的な感情が湧きだすのを感じていた。ようやく彼との関係性を望んだ方向へと向ける一歩を踏み出したというのに、その矢先に相手が死んだとなれば悲しまない方が不可能というものだ。

 しかしそれでも幸運なのだ。まだ深い仲でない関係性は、彼女にとって喪失感の悲しみよりも大一への敬愛と自立心を強めていた。心の中では禍の団への嫌悪と彼の仇討ちの闘志がメラメラと燃え盛っている。

 勝つことへの執念を感じるほどに、後ろを飛ぶ朱乃のことが気にかかった。大一との関係性は仲間も知るところであり、共に幾度も支え合ってきた仲なのだ。しかも一誠と違ってわずかに希望を抱いた矢先に、死の報告がなされたのだ。どれだけ凛々しく振る舞っても、彼女のことを知る人物であれば頭ごなしに安心できないのは当然だ。

 小猫自身、朱乃に匹敵するほど大一に入れこんでいれば同じような悲しみを抱えた可能性もあったのだ。それを考えるほど、自分は幸運だと思うしかなかった。ただ心残りは思いだす大一の表情ですら気難しい雰囲気であり、もっと頼れる笑顔を自分に向けて欲しいと思ったのだが。

 5分ほど飛び続けたところで、小猫が指をさす。そこにはひとりの男を複数の悪魔が取り囲むように倒れていた。

 

「いました」

 

 その合図と共に3人は降下し、地面へと着地する。彼女らの存在に気づいたクーフーは振り返ると、冷たい視線を向けた。

 

「ああ、貴殿らか」

「英雄派の幹部クーフー。こんなところで何をやっている?」

「答える意味があるか?」

 

 肩をすくめながらクーフーは答える。周囲に倒れている悪魔たちはいずれも中級クラスの魔力を有していた。さしずめ、ソーナたちと同様に避難活動をしていた際にクーフーと接敵して戦ったというところだろう。結果は明白であったが、彼らはまだ息があったのは幸いであった。

 倒れている悪魔たちに祐斗が声をかける。

 

「逃げてください。ここは僕らが請け負います」

「す、すまない…」

 

 言葉も短く、動ける悪魔たちは肩を貸し合ったりしてその場から去っていく。妙な動きを見せたらすぐに斬りかかろうと思い祐斗は剣を構えていたが、意外なことにクーフーは視線を向けるだけでまるで動こうとしなかった。去っていった悪魔たちはまるで眼中に無いかのような素振りだ。

 

「…英雄派もあなたと曹操だけだ。これ以上の抵抗は無意味だよ」

「ほう、ジャンヌもヘラクレスもゲオルクもやられたのか。…所詮、そんなものだったか」

 

 敵に向けた視線よりも冷たい口ぶりに祐斗は憤然とする。いくら敵であっても、まるで仲間と思わないその態度は情愛の深さと結束力が強みのグレモリー眷属からすれば、気持ちの良いものでは無かった。

 

「冷たいね。仲間をそんなふうに扱うなんて、英雄が聞いて呆れる」

「別にどう思われようと構わんさ。それでなにか変わるわけでもない」

 

 キッパリと言い放つクーフーは神器を取り出して、戦闘態勢に入る。

 

「さて、超獣鬼との戦いもあったから赤龍帝は戻ったのだろう。おそらく曹操と戦って、某には貴殿らというわけだ」

「悪いね。その戦いに水を差そうとは思わないんだ」

「どっちが勝とうがどうでもいいさ。どのみち、英雄派には戻れない。それならば某が…いや、俺がやることは今後のためにも目の前にいるお前らを叩きのめすだけか」

 

 クーフーの口調が僅かに変わる。これまでの武人的な要素は排除され、感じられる雰囲気は不気味なことこの上なかった。曹操やゲオルクのように上位神滅具を持っているわけでもない。他の幹部と同様に神器を使って敵と戦う、ただそれだけの相手で、実際に京都や疑似空間でその姿を見てきた。

 しかし今のクーフーはまるで人が変わったように、残虐性と狡猾さが見え隠れしている表情をしていた。これが彼の本性ということだろうか。

 これには祐斗達も警戒を強めて、戦闘態勢に入る。

 

「どちらにせよ、キミ一人に負けるつもりは無い」

「…私たちも全力でやるだけです」

「大一の仇はここで取らせてもらいますわ」

「ああ、俺だってたったひとりでお前らを相手にするなど、そこまで思い上がっていない。だから数だけでも合わせよう」

 

 そう言うとクーフーはどこからともなく魔法陣が描かれた紙きれを2枚取り出して放り投げる。するとそこから2匹の魔物が出現した。1匹は3メートル近くある筋骨隆々の体格に、両手には巨大な斧を持っている。頭は牛そっくりでその眼は祐斗達を見据えていた。もう1匹は横幅2メートルもある巨大な怪鳥であったが、その全身は骨で構成されておりところどころに苔が生えていた。いずれにしても見た目は不気味な上に、それに劣らぬほど強い魔力が祐斗達を不安にさせる。

 

「これで同数だ。言っておくが片手間で勝てるほど弱い魔物じゃない」

「まさかこんな手を残しているとは…」

「朱乃さん、祐斗先輩。ここは───」

 

 小猫がリアス達への連絡を提案する前に吹き飛ばされ、後ろのビル壁に叩きつけられる。凄まじい速度で怪鳥が突っ込んで小猫に突進したのだ。

 

「「小猫ちゃんッ!」」

 

 朱乃と祐斗の叫びが響くが、小猫はすぐに瓦礫を退かして額から流れる血を拭う。

 

「大丈夫です…この程度で…ッ!」

 

 小猫は突き刺すような鋭い視線を怪鳥に向けると、瓦礫を持ち上げて狙いを定める。そのまま投げつけた瓦礫は怪鳥に命中するが、わずかに怯んだ程度であまりダメージは感じられなかった。軽く舌打ちした小猫は猫又モードになると、そのまま空へと飛び立った。

 

「やれ、ミノタウロス!」

 

 小猫の行く末を見守っていた祐斗と朱乃に牛の頭をした魔物…ミノタウロスが大きく斧を振り下ろす。地面にも突き刺さる斧の威力だけでも、この魔物の腕力が察せられる。

 素早く左右に分かれて攻撃を避けると、祐斗は聖魔剣を創り、朱乃は手のひらに強い魔力を纏わせる。ミノタウロスは祐斗の方を向いて斧を押し込むように振ってきた。祐斗はそれを聖魔剣で防ぐと、朱乃はがら空きの背中を狙ってビームのように伸びる電撃を放った。

 しかしこの攻撃にクーフーが介入し、彼女の攻撃を盾で防いだ。これにより朱乃とクーフー、祐斗とミノタウロスの対決となる。

 

「魔力の攻撃ならこれで防げる」

「その神器の特性は聞いていますわ。あなたの戦法も。大一のためにも負けるつもりはありません」

「…だが、これは知らんだろう。禁手化!」

 

 クーフーの声と共に、彼の神器である「他属性槍」が光り輝く。短槍は縦に伸び、十字の切っ先の左右は斧のような曲線を描いた刃が展開され、先端の部分もひし形へと変化した。

 朱乃は驚愕の表情を浮かべるが、すぐに防御魔法陣を展開させる。これでもかなり魔力を込めたものであったが、クーフーの変形した槍の一振りはたやすく防御を打ち砕いた。

 すぐに後退して距離を取る朱乃は静かに自分の手のひらに視線を落とす。深い裂傷からは無残にも血が流れていた。

 

「魔法陣は破壊されたけど防ぎ切ったはず…」

「俺の新たな禁手『切り開く威風の斧槍(クリアル・マジェスティー・ジャベリン)』だ。生半可な防御で防げると思うな」

「それ以外にも効果があるのでしょう?」

「教えると思っているのなら、相当なバカだな」

 

 苛立ちながらクーフーが大きく下から斧槍を振り上げる。巨大な斬撃が衝撃波として朱乃に襲いかかってきた。魔法陣で防ごうにも、先ほどの二の舞どころか致命傷になりかねないと思われる。

 朱乃は向かってくる斬撃に匹敵するほどの大きさの雷光を撃ち出す。ぶつかり合う攻撃は巨大な爆風となって、周辺に煙を広げていった。

 互いに視界がぼやけるのを機に、朱乃はブレスレットを装着すると堕天使化を行った。敵の新たな禁手の特性を完全に理解できない上に、その攻撃力は今の自分に防げるものではない。そのため早々に決着を狙うが…。

 

「違うな」

 

 視界もおぼつかない戦塵の中で、クーフーのハッキリとよく通る声が響く。その一言に朱乃はびくりと身体を震わせると、間もなく神器で一気に接近してきたクーフーの斧槍の石突を腹部に入れこまれた。

 突然の不意打ちに朱乃は身体をくの字に曲げるが、すぐに喉を掴まれる。そのまま手近なビルへと彼女を投げ飛ばし、強引に身体を叩きつけた。

 朱乃は苦しそうにせき込みながら立ち上がる。足取りはいまいちおぼつかなく、覇気が感じられなかった。

 

「違う。疑似空間で俺に向けた雷光の時よりも間違いなく覇気がない。堕天使化ほどの強化した貴様が、今の俺の攻撃に対応できない…明らかに弱くなっているな、姫島朱乃」

「バカにしているの…!」

「油断はしていない。だからこそ気づいたんだ。他の英雄派の奴らは自分の力におごりすぎていた。曹操も含めてな。倒せるはずの相手を見逃し、余計な戦いを吹っ掛ける。挙句の果てには『魔人化』だ」

 

 小さく、しかし不満が全て込められたようなため息を吐きながらクーフーは据わった眼で朱乃を睨みつける。

 

「俺は違う。それ故にお前の微妙な違いに気づいた」

「…あなたの感じ方次第じゃない。私はテロリスト相手に屈しないッ!彼だってそうしたはずだもの!」

「…なるほど、兵藤大一か」

 

 鼻で笑うクーフーの姿に、朱乃は心を貫かれたような錯覚に陥った。痛くも痒くもないはずなのに、豊満な胸へと無意識に手を当てていた。

 

「この短い間に、何度か奴の名を口にしている。お前は全く無意識だったかもしれないがな。思えば疑似空間でも…恋仲だったか?」

「…だったらなんだというの」

「さあな。だがあの男は死んだ。弟を助けて己は犠牲となる。美しくも思えるが…奴が戻らないという結果は盤石となった。それを実感しながらも戦うのは、なんとも哀れなものか。」

「黙ってッ!」

 

 悲痛な叫びと共に朱乃が雷光を撃ち出すが、クーフーは盾で真正面からそれを防ぐ。魔力による攻撃を防ぐ盾であったが、本来の朱乃の実力であれば勢いで弾き飛ばすことや、盾の大きさを遥かに超えるような大規模な攻撃を撃ち出すこともできたはずであった。しかしそのひとひねりとも言えない攻撃は、今の彼女には出来なかった。

 

「朱乃さん、立ってくださいッ!このままじゃやられます!」

「大一先輩のためにも生きてください!」

 

 祐斗と小猫が必死に鼓舞しながら、それぞれの相手と戦う。ミノタウロスは祐斗から目を離さずに巨体に見合わない反射神経で彼を攻め立て、怪鳥の方は何度も小猫の仙術を交えた攻撃を受けてもすぐに起き上がりしつこく彼女を狙った。そのおかげで2人とも援護もままならない。

 クーフーは言葉通り油断しない男なのだろう。朱乃に付け入る隙を見つけた彼は、舌戦でも入念に彼女の心をえぐっていく。その証拠とばかりに朱乃は呼吸が荒くなり、その眼からはボロボロと涙がこぼれ落ちていく。もはや彼女の様子は、元来の美しさとも相まって一種の美術的作品のように絶望を表現していた。

 間もなく、クーフーの斧槍の突きが弾丸のように斬撃となって飛んでいく。それは彼女の堕天使の翼に小さな穴を開けて彼女を怯ませると、再び急接近して朱乃の腹部に強烈な蹴りを入れこみ、そのまま足で押し倒した。

 

「哀れだな、グレモリー眷属。本来の力を出せずに死ね」

 

 殺意を持って斧槍を振りかぶるクーフーに対して、朱乃はすっかり戦意を喪失していた。大一が生きている希望があった時は必至に戦った。ジークフリートにも、ジャンヌにも、彼が生きて戦っていると信じていたからだ。しかし一誠から真実を聞いたとき、自分の中で目に見えない何かが音を立てて崩れ去った気がしたのだ。その後、何度も自分を鼓舞した。仲間に心配をかけないように、その悲しみを押し殺すように、必死で戦う士気を上げようとした。

 それでもダメだった。いくら大一が選んだ道とはいえ、愛する存在が戻らないという現実に直面させられるとそれが毒のように心を悲しみで蝕む。一度は希望を抱いてしまったからこそ、この落差がさらに彼女を苦しめ心に穴を開けるどころか、心ごと砕き割るほどの喪失感に襲われた。

 そんな状態の彼女にはもはや反撃する余力は無かった。今はただ涙に濡れた眼で、相手の振り下ろそうとする刃を見ることしか出来なかった。

 

「…ごめんなさい、みんな」

 

 たった一言だ。己を救ってくれた親友、ようやく和解を果たした父親、信頼する仲間達への謝罪はクーフーにも聞こえない小さな声で呟いていた。絶望と謝意に満ち溢れた朱乃であったが、ここで死ぬことで彼に会えるかもしれないという暗い希望すら芽生えてしまっていた。間もなく彼女に斧槍の切っ先が振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかしその切っ先は彼女に届かなかった。突然、クーフーが横に吹き飛んだのだ。クーフーはすぐに体勢を立て直すと、忌々しくその原因を睨みつける。視線を向けた相手は朱乃ではなく、倒れている彼女の前に立っていた。

 

『ごめん、遅くなった!』

 

 兵藤大一が息を切らして立っていた。

 




こういうベタな展開もいいと思うんですよ。
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