「そうやって首都にたどり着きました。ディオーグが朱乃達を感知したと言うので急いで行ってみたら、クーフーと戦っていたのでそこで合流したんです」
大一が話をまとめると、アザゼルは困り顔で顎を掻く。
「つまり紆余曲折あって、『犠牲の黒影』と協力して次元の狭間から脱出し、行き倒れていたところをそのアリッサという女に助けられて、冥界に送ってもらった…短くまとめるとこれでいいんだな?」
「ええ、そういうことです」
「まーた、イッセーとは別方向で壮絶なことになっているな、お前は…」
最高峰の龍から力を得た一誠も信じられなかったが、兄の大一も同様に豪運と覚悟で乗り切ったのは脱帽であった。
だがこの説明でリアス達はあまり納得したような表情をしなかった。その原因はやはり「犠牲の黒影」が大一の神器として存在していることだろう。この不満を直接言葉にしたのは一誠であった。
「それで…兄貴はそいつを信じたのかよ」
「ああ、そうだ。こいつに助けられたからな」
「俺は納得できねえよ。兄貴をあんなに酷い目にあわせた奴だぜ。どれだけやっても手放しで信じることは出来ない」
「…お前がそんなふうに俺を心配してくれたことは嬉しいよ。でもこいつには、そうやって心配してくれるような奴がいなかったんだ。扱える俺が心配をするくらいはいいだろ?
アザゼル先生、実際のところはどうですか?」
シャドウの件については、大一も仲間に受け入れてもらうのは難しいのは承知のうえであった。仲間の思いを理解しているからこそ、粉骨砕身に説明をしても彼の心配と神器への敵意で納得を得られないのは当然であった。
それを理解していたからこそ、アザゼルの同席を望んだ。神器の理解が深く、オーフィスを呼び込んだ彼であるのならば、メンバーの中で唯一納得を得られると踏んでいた。
そして事実、全員の視線がアザゼルに向かっている。大一に振られたアザゼルは軽く目を閉じて思案すると、間もなく彼らしくない厳かな声で話す。
「…俺個人の見解を言わせてもらうなら、神出鬼没のこの神器は出来る限り、管理下に置いておきたい。そして今の話を踏まえれば、お前がそいつをコントロールできるのなら…今の戦力が必要な状況では大丈夫だろう」
「ありがとうございます」
「ただ忘れるなよ。こいつの犯してきた混乱は、本当に多かったんだ。少しでもこいつのせいで何かが起こるのであれば…」
「俺含めて責任を取ります」
きっぱりと言い放つ大一に迷いは感じられない。全員が納得してこそいないが、この場で決着をつけるのは不可能だろう。全員がわかっていたことだからこそ、この場では当事者である大一と立場的な面でアザゼルが尊重された。
「…保留だな、この件は。ただせめて黒影の口から俺らに協力する理由を聞いておきたい気もするが…」
『ええ~。僕としては大一の神器として生きるだけだが…まあ、あえて言うなら禍の団が僕を尊重してくれるとは思えないからね。それなら僕を使える相棒と一緒にいる方がいいだろ?』
「…まあ、神器の気持ちっていうのならそういうことになるのかね」
『ちょっとは分かっているな。さすがにこの使えない悪魔どもよりも理解あるわ~!』
「な、なんだと、この残虐神器!兄貴が許しているからって俺は許していないからな!」
「…引きちぎってやりましょうか。どうせ再生するんですから」
「修理したデュランダルの錆にしてやってもいいぞ…!」
『やれるものならやってみろ!今の僕は負ける気しねえぞ!』
「バカ!止めろよ、シャドウ!」
シャドウの煽りに、一誠、小猫、ゼノヴィアがギラギラと苛立ちを見せ、それを祐斗、ギャスパー、アーシアが後ろから抑える。大一の方も伸びているシャドウを抑えるように手を当てた。緊迫していた空気が打って変わり、すっかり弦が弛んだような緩さが割り込んできた。
やれやれといった様子でリアスは手を額に当てるが、同時に大一への不安が少し拭えたことに安堵するのであった。
これを機にアザゼルは話題を転換する。中級悪魔の昇格試験の結果だ。
「まず、木場。合格!おめでとう、今日から中級悪魔だ。正式な授与式は後日連絡があるだろう。とりあえず、書類の面だ」
「ありがとうございます。謹んでお受けいたします」
「次に朱乃。お前も合格。中級悪魔だな。一足早くバラキエルに話したんだが、伝えた瞬間に男泣きしたぞ」
「…もう、父さまったら。ありがとうございますわ、お受け致します」
祐斗は穏やかに、朱乃は赤面しながらアザゼルから合格通知を受け取る。これには仲間達も祝い、特にリアスも大一も心の中でガッツポーズを取る想いであった。
一方で、一誠は緊張を募らせる。実技はともかく、筆記の方は彼にとってそこまでの自信が無かったようだが…。
「最後にイッセー。お前も合格だ。おめでとさん、中級悪魔の赤龍帝が誕生だ」
「や、やったぁぁぁあああ!今日から俺も中級悪魔だ!やったー!マジうれしいっス!」
両手を上げて大声を上げる一誠にアーシア達が祝福する。その光景に大一は胸を撫でおろす思いであった。
(あー、よかった。祐斗や朱乃は間違いなく大丈夫だと思ったけど、あいつはどこか不安なところがあったからな)
『中級…ふん、さっさとあんな奴を追い越してやろうぜ。僕らの方が強くなるさ』
(勝手な基準で計られて嬉しいものかは疑問だが…まあ、影野郎の考えには賛成だ)
(はいはい、頑張ろうな)
野心をたぎらせる同居人を抑えながら、大一は答える。もっともそのくらいの気持ちは必要にも思えた。アザゼルの話では、一誠の復活劇がすでに悪魔の上層部にも伝わっており、そのおかげで現魔王反対派の中には畏怖している者もいる。一誠の強者を引き寄せる力はもはや不可能なことを探す方が難しいだろう。
こんな弟を超えようと思うのならば、ディオーグやシャドウ並みの野心は必要に思えてしまう。
大一が考えを巡らせている中、一誠がひとつ気になることを問う。
「あの、先生、『禍の団』…英雄派のその後の動きはどうなんですか?」
「ハーデスや旧魔王派の横槍もあってか、正規のメンバーの中枢がやられたからな。奴ら英雄派が行っていた各勢力の重要拠点への襲撃も止んだよ。お前らのおかげで正規メンバーを何名か生きたまま捕えることもできたし、いま締め上げていろいろ尋問しているところだ。曹操たち神滅具所有者は…ろくなことにはなっていないだろうな」
アザゼルは何とも言えない表情で答える。魔人化という手段により、強力な回復手段を受け付けなくなった英雄派の末路は厳しいものがあるだろう。また曹操、ゲオルク、レオナルドの神滅具所有者は天界の方のシステムで、神器が未だにどこかにあるのは確認されているため奪われた可能性も否定できないようであった。
そんな中、祐斗が大一へと目を向ける。
「そういえば、大一さん。クーフーが召喚した魔物の弱点がどうしてわかったんですか?」
「ああ、それなんだがな…疑似空間でシャルバ・ベルゼブブが召喚した魔物の魔力の流れがまったく同じだったんだよ。ちょっと奇妙なほどにな」
「ああ、あのドデカい虫のキメラみたいなやつか」
納得するように頷く一誠であったが、一方でリアスは眉をピクリと動かす。
「ちょっと待って?だとすれば、クーフーはシャルバに支援をしていたということ?」
「そればかりはなんとも…」
「うーん、あいつの消息はこっちでも掴めていないんだよな。そもそもいくら冥界が混乱状態だからって、魔法陣であっという間に逃げるのも奇妙だが…」
「魔法陣と言えば、先生。もうひとつお聞きしたいのですが、『異界の地』って知っていますか?」
「お前が次元の狭間から出た時に、たどり着いた場所だな。あるにはあるが、おとぎ話みたいな場所だよ。行き場所が無くなった者が、気がついたらたどり着く場所と噂されている」
「えらく伝聞的な言い方ですね」
「実際、どこにあるかまで把握されていない伝説の地みたいなものだからな。と言っても、ヴァ―リチームが探したことのある伝説、逸話の類であまり戦力的な面で注目されないような地だ。あんまり気にしすぎるなよ」
「そうですか…」
大一がアザゼルの同席を望んだのは、自分を助けてくれたアリッサの住む「異界の地」と呼ばれる場所のことを知りたかったのもあった。どうもこの話だけでは、ヴァ―リチームに聞いた方が望みの回答を得られそうであったが、彼自身なぜあの地に興味を抱いたのかは説明できなかった。
大一が思案する一方で、アザゼルは皆に声をかける。
「クーフーの方も同様だな。あいつが英雄派の残党をまとめ上げる可能性はあるが、曹操ほどではない。奴らの最大の失点はお前らに手を出したことだな。見ろ、奴らを返り討ちにしやがった。成長率が桁違いのお前らを相手にしたのが英雄派の間違いだ。触らぬ神に祟りなしってな。あ、この場合は触らぬ悪魔に祟りなし、かな?」
「腫れ物のように言わないでくださいよ!俺たちからしてみれば襲いかかってきたから応戦していただけです!なあ、皆!」
一誠の問いに同意するように仲間達が呼応する。実際のところ、彼らの戦績は目を見張るものがあるのだから当然の反応と言えるだろう。もっとも不安材料はあった。英雄派が奪ったオーフィスの力、いまだに勢力として残っている禍の団と油断はならない。それでも一誠と大一が戻り、見事に英雄派の核を倒したことで間違いなく彼らの勢いはついていた。
その様子を見ながら、シャドウは大一の中で呆れたように言葉を紡ぐ。
『ケッ!そんな言い草じゃ、いつか足元救われるんだよ。なあ、大一?』
(…あっ、ごめん。聞いていなかった)
『おいおい、勘弁してくれよ。それともやっぱり大一も、仲間達の余裕に賛成か?』
(うーん…まあ、ほどほどに慢心しないようにというところだな。少なくとも、俺はあいつらほど強くないから、余裕もないよ)
『よしよし、キミからそういう言葉を聞けて僕は満足だ』
(うるせーぞ、影野郎。考え事している時に口を挟むな。潰すぞ)
『も、申し訳ない…!』
びくびくしながら反応するシャドウに、大一は苦笑いをする。ディオーグを取り込んだときにも思ったが、ひとりで平穏に過ごせる日はこないだろう。しかしそれは悔やむことでは無く、また一歩前に進んだことと新たな仲間が出来たことに喜ぶものであった。
一方で、リアスはよく通る声で話し始める。挙げた手は3本の指が立てられていた。
「いつ来るかわからないものに対する備えも大事だけれど、私の当面の目的は3点ね」
1点目が神滅具所有者のゲオルクを一方的に蹂躙したギャスパーの謎の力、2点目は魔法使いとの契約の件である。いずれにしても無視できるものではなく、吸血鬼の名家とのコンタクトを取ったり、魔法使いの情報を仕入れたりと準備を進めている。そして彼女にとって重要な3点目は…
「ところでイッセー。試験前に約束したこと覚えているかしら?それが私の当面の目的の最後の1点なのだけれど?」
「今度の休日、デートしましょう」
「ええ、楽しみにしているわ、愛しのイッセー」
リアスも年相応の少女、その想いはしっかりと惚れた相手に伝わっており、同時にその相手である一誠も少し照れくさそうに答えた。てっきりそのまま2人だけの空間が作られるかと思われたが、ゼノヴィアやイリナ、アーシアなどもデートを求める。祐斗やアザゼルなどもふざけてこの乗りに参加し、オカルト研究部は笑いとツッコミに溢れていった。
『大一は参加しなくていいのか?』
「弟相手にギャグでも言いたくないな。せっかくあいつへの罪悪感も払拭したし、俺は俺なりにやっていくよ」
大一は肩をすくめると、一誠を見る。仲間達に慕われる弟の姿を見れば、自分の選択は間違いでなかったと確信するのだ。同時に今度は必ず弟を追い越して前に立つという気持ちが湧き上がってくるのを感じた。もっとも今の彼にはそれ以上に気になることがあるのだが…。
再び、思考の渦に飛び込もうとしていた彼であったが、いつの間にか隣にいた朱乃から声をかけられる。彼女は義手となった右腕を触っていた。
「…感触は無いのよね」
「まあ、こればかりはしかたないよ」
「わかっている。あなたが戻ってきたんですもの。私も前を向かなくちゃ…だから、私達もデートしましょう。リアス達に負けていられないわ」
「デートはいいが、リアスさんに対抗意識燃やさなくても…」
「私らしいでしょう?なんだったら、ベッドの上でもいいですわ」
にっこりと微笑む朱乃に、大一は苦笑い気味で受け答える。その掴みどころのない雰囲気は、大一が心から惚れた女性であり愛し合える関係を続けられるのが心から嬉しかった。そこに割り込むように小猫が入ってくる。
「…私だって先輩とデートしたいです。今度はしっかりと約束だってしたんですから」
「あらあら、大一ったら後輩までたぶらかすなんて」
「朱乃さんには…負けません」
「ぼ、僕はまた先輩とトレーニングしたいです。また鍛えてください」
「私もいっぱい魔法を覚えましたからね。また教えますよ」
小猫に続いて、ギャスパーやロスヴァイセも会話に加わり、部室はガヤガヤと騒がしくなる。仲間達の笑顔、今後への意気込み、改めて自分は生きて帰ってきたと実感し、心が熱くなるのを感じるのであった。
これほど幸せな空間なはずなのに、大一の心から不安が完全に払拭できないのは、先ほども話題に上がった男…クーフーの存在であった。首都リリスで、彼の神器と錨がぶつかっていた際、わずかであるがこれまで感じなかった魔力の違和感があったのだ。この場で彼への言及がほとんど無かったのは、彼の不安の芽を結果的に育てることになった。
しかし同時に腑に落ちたこともある。京都から帰ってきた際に、ディオーグが大一に対してはぐらかすような態度を取ったのは、おそらく彼がクーフーについて同じように違和感を抱いたかもしれないということであった。
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ある日、大きなフロアではソファに男性が座って読書に耽っていた。190㎝はあろうかという高身長がスーツ姿によく似合っており、ふさふさの黒髪や思慮深い表情は洗練された中年の紳士という印象を与えた。彼に見合うように部屋の内装は品の良い家具が揃っているが、不揃いな大きさがちぐはぐな印象を与える。
そんな部屋の扉をひとりの青年が荒々しく開ける。黒髪と白髪が同じくらいの割合で交じっており、ギラギラと鋭い眼は苛立ちを表していた。身体には包帯が巻かれており、強烈な怪我をうかがわせた。男は入るなり、行動同様に荒い口調で悪態をつく。
「ああ、くそっ!グレモリー眷属どもめ!いつか絶対潰してやる!」
「穏やかじゃないな。傷が開くぞ」
「いつまでも寝ているわけにはいかないんだよ」
本から視線を外さない紳士の忠告に、包帯を巻いた男…クーフーは苛立ちながら答える。英雄派の幹部としての武人的な佇まいはまるで見られず、荒々しさと狡猾さが表情に表れていた。
「あんたが貸してくれた魔物どもがいなければ厳しかったな。だがシャルバにも渡したのを含めて、全部使いきってしまった」
「構わんよ。どうせ邪龍どもが復活するまでの繋ぎだ。切り札の2匹は残っているしな」
「そう言ってもらえると助かる」
クーフーはソファに勢いよく腰掛けると、紳士が用意してくれた紅茶を飲む。温かい飲み物というだけで芯から安堵した。
対面に座る紳士は本を閉じると、クーフーにハッキリとした視線を向ける。
「しかしまあ…長い期間の英雄派の潜伏、ご苦労だったな」
「その言い方は好かないな。あいつらが本当の意味で英雄と足りえる存在なら、もっと力を貸していたさ。旧魔王派にも言えるが、結局は期待外れだったわけだ」
「だがわざわざ本物のクーフーを殺して、成りすましていたんだろう?」
「クーフーリンの末裔と言っても、悪魔などとは無縁かつ人との繋がりも絶っていたような男だ。そもそも神器を持っていたようなことにも、気づいていなかった。仮に英雄派が先にあの男を見つけても、神器を利用されて終わっていただろうよ」
「つまり結末は変わらなかったと」
紳士の問いに、当然ともいうようにクーフーに成りすましていた男は頷く。ポットから2杯目の紅茶を補充した彼は、今度はすぐには飲まずにその温かさを肌で感じていた。
「とにかくキミが戻ってきたことで、我々も本腰を入れて動くことになるわけだ」
「他の奴らは?」
「吸血鬼の領地でボスの護衛、魔法使いどもとの話し合い、かく乱のために過激派の唆し…それとユーグリットが動くと打診が来たが…」
紳士は迷うような表情で話すが、男の方は特に気にする様子もなくあくびを噛み殺しながら答える。退屈というわけではない。すでに彼の頭の中では、どう動くかが決められていただけだ。
「こっちからも誰か出せばいいんだろ?ギガンに任せよう。俺の方もちょっと気になることがあるしな」
「ふむ…私も教会の奴らを調べてみよう。出来れば神滅具の在処も知りたいが…」
「無理だと思うぜ。英雄派の拠点に曹操どもはいなかったし、どうも攫われたようなんだ。帝釈天辺りがきな臭いかな。
まあ、神滅具は上手くいけば程度のものだし、英雄派に行ったのもボスの命令だからな」
「そうだったな。まあ、無理はしないでおこう」
紅茶を飲み終えた紳士は見惚れそうになる優雅な動作で部屋を立ち去る。実力を知っているがゆえに、その後ろ姿には無意識に笑みが浮かんでしまうのであった。ここにいないメンバーも含めて、協力者の存在に男は頼もしく感じる。このメンバーがいれば、グレモリー眷属はおろか3大勢力にも負ける気はしなかった。
しかしそれでも彼にとって大きな懸念すべき存在はいる。直接的に関係するかどうかは未知数だが、彼にとっては十分な理由があったのだ。
「ディオーグか…」
原作を読んで「禍の団」はもっと強くてもいいんじゃない?と思って、追加した軍団です。
ただシリアス展開多かったので、しばらくは違う方面の話を書いていきたいと思います。またアンケートやろうかな…。