上空で大一は神器を手に持ち、辺りを警戒していた。ひやりとした空気に、夜とは思えない空の白さ、そして周辺には感覚を鈍らせるような魔力の流れを感じる。隣にいた朱乃が周辺に霧と幻術を展開させていたからだ。
すでにレーティングゲームは始まっていた。この試合では駒王学園全体のレプリカがフィールドになっており、彼らはその別空間にいた。
リアスの指示を受けて、敵が攻め込む前にこちらに有利な状況を作るために朱乃は霧と幻術を張っていた。特に序盤は8人もいる相手の兵士を削ることに集中するつもりだ。全員が女王へとプロモーションしたら、それこそ手が付けられないのだから。
大一はそんな彼女の護衛として共に動いていた。朱乃を倒せる相手など早々いるものかと思われたが、無駄な体力を消費させるわけにはいかないし、グレモリー眷属の最大戦力でもあるのだから当然なものだ。
自身の仕事を全うしながら、朱乃は口を開く。
「イッセーくんのこと、心配?」
「心配じゃないと言えば噓になるが、まあ大丈夫だろう。あいつなりに頑張っていたし。むしろあの技を本気で使うつもりなのかという不安はあるが…」
「あらあら」
大一のげんなりした表情に、朱乃は苦笑い気味の笑顔を見せる。彼の頭には弟が特訓中に編み出したある技を危惧していた。それは相手が女性ならば触れると服を破けさせる『洋服破壊(ドレス・ブレイク)』という技だ。特訓中に見せてもらった時、大一は地に膝をついて大きくため息をついた。
いくら勝負事といえ、あの技はくだらなさに加えて、倫理的に受け付けないものが彼にあった。悪魔に倫理観を求めるのも違うような気はしていたのだが。
「使って欲しくはないが…でも勝たなきゃいけないしなぁ…」
「勝負ごとに手加減は無用よ」
「そうなんだけどさ…認めたくはないよ」
一誠への信頼はあるのだが、同時にこの信頼が嬉しくない方向にあるのも事実であった。間違いなく弟はその技を使うという信頼だ。
この話が長引くことに嫌気が差した彼は強引に話題を変えた。
「それにしてもサーゼクス様も見ているのには驚いたな。グレイフィア様が審判役を務めているからなのか…知っていたか?」
「いえまったく。炎駒様からも連絡はなかったの?」
「忙しいから、あの人から俺に連絡を寄こすことはめったに無いしなぁ」
今回のライザーとのレーティングゲームは、魔王ルシファーであるリアスの兄サーゼクスも見ていることが判明した。彼らからしても雲の上ともいえる相手が注目しているのは、否応なしに緊張が張り詰めるものであった。
「ダメだな…どうもいつもの調子って感じじゃない」
「うふふ、私達もまだまだ未熟者ってことかしら。らしくないと思われるかもしれないけど、意識しないと手が少し震えちゃうくらいだもの」
朱乃が自分の手を見て呟く。雷の巫女などと通り名はあるものの、レーティングゲーム自体は初めてなのだ。
大一も汗が止まらず、いかに自分が慣れていないかを改めて知らされた気分であった。そんな自分自身を知るからこそ、彼女のプレッシャーは計り知れないものなのが想像ついた。
「後輩の手前、弱みを見せるわけにもいかないしな」
「あらあら、私やリアスにも見せようとしないくせに。見栄だけは相変わらずですわ」
「それだけ言えるのなら、心配して損した気分になるよ。まったく…」
大一は呆れるようにため息をつく。今に始まったことではないが、彼女との距離感の取り方は本当につかめないものであった。それでも悪魔の先輩として、リアスの両脇を固める仲間として信頼を置いていた。ゆえに彼女の発言はある意味いつも通りで安心した。
互いに視線はライザーの拠点である生徒会室の方へと向ける。
「主のために、親友のために負けるわけにいかないわね」
「やることをやるだけさ」
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戻った大一は祐斗と共に森で待機する。予定では序盤は一誠と小猫を足止めして体育館ごと敵を焼き払う、一方で大一と祐斗は先行して運動場周辺の森に相手をおびき寄せて一網打尽にすることであった。
大一は木の上で隠れていた。魔力の感覚から3人で動く別動隊がいるのは分かる。そして彼女たちがこの森へと進んでくることも。そして彼女たちが進むほど罠が発動し、それらが打ち崩されていくことを。その時、離れたところで巨大な爆発音と、それに合わせるようにグレイフィアのアナウンスの声が聞こえる。
『ライザー・フェニックス様の『兵士』三名、『戦車』一名、リタイヤ』
このアナウンスで一誠たちが上手くいったことが分かる。一気に4人もリタイヤに追い込んだのは、幸先が良かった。さらに相手の足が止まったところで大一は別の場所に潜んでいる祐斗に連絡を取る。
「…誘い込めたな。そろそろ行くぞ、祐斗」
『了解です』
耳の通信装置で祐斗に指示を出すと、大一は木を降りて彼女らの前に姿を現す。メイドのような服を着たたれ目女性、同じくメイドのような服を着た快活そうな女性、エジプトの踊り子のような女性とタイプはまったく違ったが、全員が兵士であることは分かっていた。
「『女王』への昇格を狙って、早々に拠点を目指したんだろうが…」
「残念だったね。もうここから出られないよ。キミたちはウチの『女王』が張った結界にいるからね」
「しまった!」
今回のゲームでグレモリー眷属が大きな利点となったのは、フィールドが駒王学園のレプリカであったことだ。朱乃が発動させた幻術でまずは拠点の場所を勘違いさせる。その状況で試合の序盤で誘い込みやすいのは、プロモーションを狙う「兵士」だ。土地勘があれば移動中に違和感を抱く可能性もあったが、誘い込むのを狙いにした罠もあって上手くごまかせた。その結果、彼らの狙い通りの3人の兵士を結界に抑え込む状況が出来上がった。
だがこの状況にもライザーの眷属は臆することのない反応であった。
「こっちは3人、そっちは2人、数的にはこちらの方が有利だけど戦うつもり?」
踊り子のような女性…シュリヤ―が言う。たしかに相手の人数は3人、しかもゲーム経験豊富なライザー眷属が相手だ。
しかし数的不利があるのは、元より承知の上。こんなことは問題にもならなかった。
「試してみる?」
「『騎士』は兵士3人分の価値があると言われている…そういう意味ではこっちの方が有利だと思うがな」
祐斗が剣を抜き、大一が神器を出現させる。ここで負ける程度なら、元々このような作戦など立ててはいなかった。
兵士の3人が一斉に魔力をエネルギーとして撃ち出す。大一は前に出ると、全て正面から受けた。神器で体中に魔力を行きわたらせた彼には牽制程度の攻撃では揺らぎもしなかった。魔力がぶつかったことで爆風と煙が巻き起こる。
その目くらましを利用して、祐斗は正面からシュリヤ―にぶつかっていく。彼女は腕を交差してその突撃を防ぐものの、押し込まれて一気に後退した。
「「シュリヤ―!」」
残った2人の女性、マリオンとビュレントが後ろを振り返る。そこに遅れて攻撃を防いだ大一が2人を狙って神器で攻めにかかる。
「よそ見禁物!」
彼は距離を詰めて神器を右から左へと大振りをする。マリオンの方は魔法陣で防ぐも吹き飛ばされて、ビュレントは姿勢を低くさせてマリオンを避けつつ大一に至近距離から魔力の塊を撃ち込んだ。先ほどの牽制とは違い、野球ボール程度の大きさながらも魔力の密度が強力であった。おまけに顔面に受けるのだから、さすがに大一も一瞬怯んでしまった。
すぐに踏ん張って姿勢を下げたビュレントを狙って蹴りを入れる。ビュレントも魔法陣を出すもわずかに遅れてマリオンと同じ方向に吹き飛ばされた。
だが彼の視線の先には、ダメージを負いながらも立ち上がる2人の姿が見えた。
「この程度じゃ、リタイヤまではいかないだろうな」
「経験が少ないからって舐めていたわ…でも、これくらいならまだやれる!」
大一がマリオンとビュレントと睨み合っていると、彼らの耳に再びグレイフィアのアナウンスが耳に入った。
『リアス・グレモリー様の『戦車』一名、リタイヤ』
このアナウンスに彼の心がざわめく。最初の脱落の報告から一誠たちが作戦を成功させたのは間違いなかった。ならば、小猫は何があって追い込まれたのだろうか。
「ライザー様の眷属である私達を舐めないことね」
「そのようだな。つまりここでいつまでも戦っているわけにもいかないということだ。祐斗、さっさと勝負決めるぞ!」
「分かりました!」
大一は彼女ら目掛けて大きく飛ぶと、錨を全力で振り下ろす。距離があって目くらましもない大振りのため、2人は左右に分かれてその攻撃をかわした。大一は左に逃げたビュレントを追撃して距離を詰めながら、神器を振り回す。大振りではあるものの一撃の重さを危惧してなのか、彼女は後退していくしかなかった。
一方でマリオンは大一のタフさを厄介に思ったのか、祐斗へと狙いを変える。しかしこれが彼らの狙いでもあった。
シュリヤ―の援護のためにマリオンは近づき、後退せざるをえないビュレントも気づけば彼女らとかなり近い場所にいた。
そこまで追い込むと、すぐに大一が上空に飛ぶ。そしてその突然の動きに相手が気を取られる一瞬、祐斗が持ち前のスピードで3人まとめて斬りふせた。すでに手傷を追っている彼女らに祐斗の持っていた剣の威力は充分であった。
「まとまってくれれば、一気に斬れるんでね」
「さすがの速度だよ、お前は」
『ライザー・フェニックス様の『兵士』三名、リタイヤ』
正直、オリ主がどこまで戦力になれるのかが分からない…。