やっぱり会話させやすいキャラの違いあるな…。
第124話 深夜と早朝
魔獣騒動から幾ばくかの日数が経過したある日の夜、兵藤大一は生島の店で皿洗いをしていた。いつもは数少ない店のスタッフと共に生島がやっているのだが、そのスタッフは友人の結婚式で休み、生島自身も弟夫婦が揃って風邪でダウンして看病と甥の面倒を見るために出向いていたため、店の片づけを行っていた。その多忙でも店を短時間でも空けていたあたり、生島の並々ならぬ思いが察せられる。
「生島さんの弟さんは悪魔を知らないんですかね?以前、親の世代から悪魔のことを知っていると聞いたのですが」
大一と並んで皿洗いをしているロスヴァイセがふと疑問を口にする。さすがにこの量をひとりの悪魔に頼むのは生島も躊躇しており、契約を取っている2人を呼んでいた。
「知ってはいるらしいですよ。ただ結婚する際にそういったものとは、一切関係を断ち切ったのだとか。生島さんも最初はそうだったんじゃないですかね」
「えっ!?生島さんって結婚されていたの!?」
「俺も話を聞いたことしかないんですけど、奥さんとは病気による死別だったようです。お子さんがいたかまでは知りませんが…」
「へ、へえ…ちょっと驚きましたね」
言葉以上の驚きをロスヴァイセが感じていたのは、火を見るよりも明らかであった。大一自身もこの話を初めて耳にした時は、驚きすぎて失礼な内容を口走りそうになった。もっとも生島の正体が、悪魔になる理由を作った亡き友の父親であることを知れば、その比では無いほどの衝撃に包まれるのは疑いようもないだろうが。
「うーん…生島さんが結婚…結婚…」
「ロスヴァイセさん、気にしすぎですよ」
「ご、ごめんなさいッ!」
びくりと身体を震わせるロスヴァイセの表情は、どこか羞恥を感じさせるものであった。オーディンの彼氏いないことへの冗談も酷かったが、ロスヴァイセ自身が男女関係について気にしすぎている印象もあった。とはいえ、教師を務めてはいるが彼女の年齢は大一と変わらないことを考えれば、当然の感情でもあるのだ。
皿洗いの手を止めることは無く、再び2人は話の渦へと飛び込む。
「でも周りを考えれば仕方ないことだと思います。その…恋愛についていろいろ考えちゃうのは…」
「まあ…最近は特に激しいですからね」
含みのある言い方で大一は反応する。ここ数日、一誠に好意を抱く者達へのアプローチの凄まじさは、彼らもよく知るところであった。魔獣騒動での一件から我慢が噴出したかのように、朝は多くの者が彼のベッドに潜り込み、部活中にも遠慮ない様子が見られる。
これには一誠も喜びと困惑が入り混じっている様子で、アザゼルを筆頭に年上のロスヴァイセや祐斗に相談を持ちかけていた。大一も一誠から相談は受けたが、まるで答えを出すことはできなかった。一誠としては、兄の女性関係はあまり波風立たない印象を持っていたようだが、実際のところは彼も祐斗に相談しており、シャドウやルシファー眷属の件で忙しくしていたことで、あまり困った雰囲気が表に出なかっただけだろう。そもそも一誠とは数が圧倒的に違ったのも大きな要因ではあったのだが。
「あいつなりにハーレムについては考えているんだな、とは思いましたね」
「大一くんも意識するべきですよ。小猫さんのこともあるんだから」
「…努力します」
ロスヴァイセの発言に、大一は少しだけ面食らう。小猫の件について、彼女にまで知られているとは思わなかった。ましてや彼女は疑似空間にいなかったのだから。ただ小猫も我慢をせずに言動に好意を表明することが増えていたため、気づくことに時間はかからないのも当然であった。
微妙な空気のままこの話が展開されるかと思われたが、このタイミングで皿を洗う大一のぎごちない手つきにロスヴァイセは心配そうに視線を向ける。
「義手の調子は慣れなさそうですね」
「これでもマシになった方ですよ」
大一は洗った皿を水切りかごへと慎重に置く。落とすような心配は無くても、たまに意識を怠れば動作にぎこちなさが現れるのは未だに確認された。かつて一誠が愛する人のために片腕を犠牲にしていたように、兄である彼も似たような道を歩むのは、なんとも褒められたものでは無い似方であった。
「あんまり無理してはいけませんよ。あとは私がやっても…」
「それはダメですよ。俺だって依頼されている身ですし、あと少ししかありませんから」
その後、2人とも黙々と作業に集中し、5分後には全ての皿洗いを済ませた。ロスヴァイセはぐっと体を伸ばし、義手の指を曲げ伸ばししている大一に向き直る。
「お疲れ様でした」
「ええ、お疲れ様です。さて生島さんが帰ってこない場合は連絡を寄越すと言っていたけど…」
「まだみたいですね。もうちょっと待ちましょうか」
「この空き時間に魔法の勉強でもしたいところですよ」
「熱心な心掛けですが、今の大一くんなら私よりも優秀な人に教えてもらえるじゃないですか。マグレガーさんとか」
ロスヴァイセの言葉に、大一は軽く首を振る。彼からすれば、疑似防御魔法陣を習得できたのも、魔法の練度を上げて術式について学べたのも、彼女の指導能力を実感しており、今さら他の人から教えてもらうつもりは無かった。
「俺にとって魔法で一番頼もしいのはロスヴァイセさんですよ。多くのことを教えてもらっているんですから」
「…お世辞が過ぎますよ」
先ほどとは真逆で今度はロスヴァイセの方が面食らった表情になり、恥ずかしそうに頬をかく。直接的な尊敬を向けられて戸惑ったのは間違いなかったが、ロスヴァイセ自身はそれをどこまで理解していたのかは謎であった。物理的にも彼女よりも大きな相手から、尊敬の念を向けられたのも起因しているのかもしれない。
「もっと俺も力になれればよかったんですが…」
「今でも十分ですよ」
「ただルシファー眷属になって、以前のような方法が取れなくなったのかと思うと…」
「たしかにレーティングゲームの参加もできないですからね」
大一がルシファー眷属になったことは秘匿されており、知っているのは一部の関係者だけであった。サーゼクスを筆頭とした魔王達、グレモリー眷属、シトリー眷属などの有望な若手悪魔たち…他にもいくらか何人かいたが、少ない人数では無かった。それでも公の場では、彼の所属はリアスの母親ヴェネラナの眷属となっていた。これは社会的騒動を避けるためもあったのだが、サーゼクスとしては魔王の眷属と縛られないようなフットワークの軽い下僕の必要性を感じていたようで、大一の存在が公にされない理由の一端を担っていた。
どちらにしろ、今の彼はグレモリー眷属ではない。そのため、レーティングゲームの参加や公の場での付き添いなど、これまで当たり前のようにやってきたことも不可能になっていた。
「祐斗くんとかテクニックが僕だけ…と言ってうなだれていましたね」
「ああ、グレモリー眷属としての評価が最近ではパワー一辺倒な印象ですからね。でも小猫の仙術とかあるし、朱乃もロスヴァイセさんから防御関連について教わったりしているって聞きましたが」
「ええ。やっぱり彼女の才覚は素晴らしいものですよ。ただちょっと元気が無いような気はしますが…」
「それって───」
「ただいま~!ごめんね、遅くなっちゃって!」
話の展開を打ち破るように、店のドアを勢いよく開けて生島が現れた。顔のしわには疲労の色がはっきりと刻まれており、寒くなってきた時期にもかかわらず額からは汗が噴き出していた。
「あら、全部終えてくれてありがとね。本当に助かったわ~」
「泊ってこなくて大丈夫だったんですか?」
「義妹のご両親が来てくれたから大丈夫よ。それと悪いんだけど、お水くれないかしら?」
大一が近くのコップを取って水を入れると生島に渡す。彼は椅子に座ると同時にそれを一気に飲み干すと、もう一杯のおかわりを要求した。コップを受け取った大一がまた水を入れている最中に、ロスヴァイセが彼にハンカチを渡した。
「どうぞ、使ってください」
「本当にロスヴァイセちゃんもいい子だわ。絶対にいつか好い相手見つけてあげるからね!」
「親戚の世話焼きさんみたいになっていますよ」
大一が生島に水のおかわりを渡すと、彼はそれを半分ほど飲み、ハンカチで額の汗をぬぐいながら反論する。
「いいじゃないの。私はそういう立場が一番合っているんだから。私からすれば娘が出来たようなものよ!…そういえば、悪魔って一夫多妻、一妻多夫がOKだったわよね?なんだったら、大一ちゃんどうよ?」
「前にも言いましたけど、見境なさすぎです」
「だって、私の知る一番可能性のあるイイ男って大一ちゃんだもの。…まあ、いいわ。私は大一ちゃんともこのまま長い付き合いをしたいものね。グレモリー眷属を止めたと聞いた時は冷や汗ものだったけど、契約は続行と知って安心したわ!長いこと変わらないと思っていたことが変わるって、やっぱり不安だもの!」
生島は遠慮の無い豪快な笑い声を発する。疲労を吹き飛ばそうとするような勢いに、大一もロスヴァイセも苦笑い気味で反応した。相変わらずの豪快さがそこにあったが、変わらない相手を見るのは今の大一にとって心地よかった。生島はすでに大一と義手の件、シャドウの件についてはリアス達から内々に聞いており知っていたが、大きな心配をしてくれたのと同時に変わらず接してくれる。それが彼の精神に良い方向を与えていた。
彼の言うことは正しい考え方であろう。長く続くと思っていたことについて急にはしごを外されるのは、感情のある生物なら不安を抱いて当然のことなのだから…。
「…あっ」
大一は誰にも聞こえないほど小さな声を漏らす。生島の言葉で、朱乃の件について思い当たることがあったのだ。それを自覚した今、彼女と話す必要性を感じた大一であったが、その時間を取ることに苦慮するのであった。
────────────────────────────────────────────
生島の仕事を終えての翌日、早朝のトレーニングを終えてから朱乃と話をつけようと思っていた大一であったが、朝からそれどころではない騒ぎがあった。トレーニングから戻ってくると、ちょうどリアス、一誠、レイヴェルが誰かと話をしていた場面に鉢合わせした。リアスは半ば気が立っていたのに対して、会話の相手は飄々とした様子で受け答えをしていた。黒い着物をはだけさせており猫耳が頭から生えているその女性は…
「げっ」
「おっ、大一じゃない。久しぶりにゃん♪」
誰なのかわかった瞬間に、思わず否定的な声が漏れだした大一を無視して、黒歌は跳ねるように近づく。
なぜかいる来客に呆然気味の大一であったが、よく確認すればルフェイも一緒にいた。黒歌は小猫から仙術を教えて欲しいと言われ、ルフェイの方は魔法使い選びのアドバイザーとして来たと説明するが、リアスもすっかり憤慨と困惑に支配されていた様子であった。
「どうして白龍皇側のあなた達が私達の家にいるの?敵地に等しいのよ?」
「スイッチちゃんは難しいこと考えすぎにゃー。そんなだから、脳みそにいくエネルギーがお乳から飛び出すようになるのよ?」
「大きなお世話よ…。というよりも、スイッチちゃんって何よ…!…はっ!まさか、以前この家に来た時に転移用魔法陣のマーキングをしたのね!?」
「ピンポーン♪おかげさまで一瞬で来られるようになったにゃ。いつでもここのおっきなお風呂使えるってわけね」
「あ、あの、これ。アザゼル元総督よりのお手紙です」
ルフェイから手紙を受け取った一誠はリアスと共にそれに目を通す。すでに勝手すぎる了解は取っているようであった。
(マーキングとか気づいていた?)
(興味ねえから感知もしなかった)
『神滅具持ちのチームか…ハッ!』
頭の中で面倒そうな声で反応するディオーグと、神滅具関係者ということで勝手に敵意を向けているシャドウの声が響く。
そして目の前ではリアスが諦めたように手を額に当てていた。
「たまにしか来ないから、気にしないで。ね、スイッチちゃん?白音のこと、ちゃーんと鍛えるから♪」
「…勝手になさい。その代わり、小猫のこと、頼むわよ?それと必要な時は力を貸しなさい。悪魔らしくギブアンドテイクよ」
リアスと黒歌の約束が取り決められる中、一誠が大一に近づいて小さく言う。
「いっそう賑やかになりそうだな」
「お前のそういう楽観的なところが羨ましいよ」
結局、兵藤家にヴァ―リチームの女性2人が通うことになった。
あんまり新スタートを切った感じありませんね。