D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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あんまり魔法使いって印象に残らないです。…読み方が浅いのでしょうか?


第125話 魔法使いの契約

 ある日の放課後、げっそりとした表情で部室に入ってきた一誠を見て、大一は不思議そうに顎を撫でる。ゼノヴィアから話を聞いたところ、松田と元浜の話し合いで少々揉めたらしい。リアスが呼び捨てにされていることやレイヴェルと仲が良いなどの言葉を聞いただけで、その話の方向性と一誠の気持ちは察するにあまりあった。

 だがこの日はいちいちそれを気にしている暇はない。悪魔にとって重要な案件をこなさなければならないのだから。

 全員が集まったのを確認したリアスは立ち上がり、見渡すように話し始める。

 

「さて、皆、今日集まってもらったのは他でもないの。今日から例の件、『魔法使い』との契約期間に入っていくわ」

 

 この言葉に緊張感が走り出す。各々が決めた魔法を生涯かけて学ぶ…それが魔法使いという人種であった。先人たちが積み上げたものにさらに貢献するのも良し、独自に自分の道を切り開いても良し、共通するのは特定の分野の魔法への情熱であった。

 そんな魔法使いが悪魔と契約するのはいくつか理由がある。第一に揉め事になどに巻き込まれた時のための後ろ盾だ。様々な技術を研究、調査する以上、騒動に巻き込まれることも少なくない。

 第二に悪魔と契約することで悪魔から技術や知識を得られるというもの。これにより魔法使いの研究は飛躍的に上がる。もちろん契約する悪魔によって得られる知識も技術も違うため、これは相当に重視される。

 そして最後に純粋な魔法使いとしてのステータスであった。名高い悪魔と契約すること自体が、魔法使いにとっては大きな財産になるのだという。

 要するに、魔法使いにとって悪魔というのは今後の研究を深めるためにも必要不可欠な存在であった。

 この重要な契約にあたり、魔法使い協会のトップが魔法陣を通して立体映像として部室に現れた。赤と青のオッドアイが特徴的な中年男性が、ゆったりと椅子に腰かけている。どことなく怪しげな雰囲気を醸し出しているが、リアスに向けた笑顔は穏やかであった。

 

『これはリアスちゃん。久しいねえ』

「お久しぶりです、メフィスト・フェレス様」

『いやー、お母さんに似て美しくなるねぇ。キミのお祖母さまもひいお祖母さまもそれはそれはお美しい方ばかりだったよ』

「ありがとうございます」

 

 一通りのあいさつを済ませたリアスは、仲間達にこの悪魔について紹介する。

 

「皆、こちらの方が番外の悪魔にして、魔法使いの協会の理事でもあらせられるメフィスト・フェレス様よ」

『や、これはどうも。メフィスト・フェレスです。詳しくは関連書物でご確認ください。僕を取り扱った本は世界中に溢れているしねぇ』

 

 どこかのんびりした調子であいさつをするメフィスト・フェレスであったが、冥界の中でも知名度、実力共にずば抜けた存在であった。特にオカルト研究部との繋がりを感じさせるのは、あのタンニーンの「王」であるところだろう。五大龍王の一角を眷属にするという規格外の事実だけでも、実力の一端が垣間見られる。

 また冥界の中でも古株でありながら、その独創的な考え方から旧四大魔王とはまるで反りが合わなかったため、現在のサーゼクス達との関係性は良好であった。

 それもあってか、リアス、ソーナ、サイラオーグ、シークヴァイラの4人の若手悪魔「若手四王(ルーキーズ・フォー)」にも非常に協力的であった。そして仲の良さは、悪魔だけでは無かった。

 

「わりぃわりぃ、俺だけ会議が長引いてな。お、メフィストじゃねぇか!」

『やーやー、アザゼル。この間ぶりだねぇ。先にリアスちゃんと話をさせてもらっていたよ』

「ああ、魔術師の協会も大変なもんだな。それより、今度、こっちで飲まないか?いい酒を手に入れてな」

 

 遅れて入室してきたアザゼルに会うなり、メフィストは談笑が始まる。どう見ても初対面とは思えないやり取りであったが、メフィストは以前からアザゼルを通じてグリゴリの情報網を頼りにしていた。それは逆もしかりであり、同盟により裏でコソコソする必要が無くなったようだ。

 この光景を見ていた大一の頭の中でシャドウが話し始める。

 

『こういうのを見ると、3大勢力が同盟を組んだと思って見に来ていた自分がバカバカしくなるね』

(まあまあ。そのおかげで俺らも恩恵を貰っているじゃないか)

『でもこういうのって続けていると、そのうち大きなしっぺ返しがありそうじゃない?』

(関係ねえ!降りかかる厄は叩きのめすだけだ!)

(振り払う程度でお願いします…)

 

 ディオーグの聞くものを震え上がらせるような好戦的な声に、大一は小さく表情を歪ませる。このやり取りだけでもこれから行うことから注意が逸れそうになるものであった。

 間もなく、メフィスト・フェレスによって大量の書類が送られてきた。雨のように大量に送られてくる書類は、魔法使いのアピール文書のようなもので一種の履歴書でもあった。

 全員で大量の書類を分けるのに時間を要する。大一としては、この時に右肩から出てきたシャドウによる3本の黒い腕が役立ったのは幸運であった。

 数分後、全員の書類がまとめ上げられる。中でも一番多かったのはやはりというべきか、リアスであった。グレモリー家の次期当主であり、これほど有力な眷属を抱えていれば、その人気はもっともであった。

 次に人気なのは悪魔歴の短いロスヴァイセ。彼女の魔法の技術に目をつけた者は後を絶たなかった。

 そして3番目は、なんとアーシアであった。回復という能力は魔法使いにとっても大きなメリットであり、引く手数多とのことだ。

 とはいえ、数が多い=良いというわけではない。この中から本当に信頼関係を築き、なおかつ互いにメリットをもたらせる相手を選ぶとなれば、魔法使いの質も重要なのだ。事実、数の少ない小猫やギャスパーにもなかなか粒ぞろいなものが揃っている。

 みんなが書類を見たり、他の仲間と情報を共有する中、メフィストが一誠の書類の数を見る。アーシアに次ぐ量であったが、彼は少し意外そうな表情であった。

 

『冥界で人気者であり、殊勲をあげる赤龍帝くんへの指名率が思ったほど伸びなかったねぇ。それでも十分すぎるほどに多いけど。案外こちらの若い子達はミーハーってわけでもなさそうだよ』

「魔法使いの連中はステータスも重視するが、それ以上に業界内の体裁を気にするからな。特にエレガントではないものに関しては少々手厳しい。イッセーの人気が俗すぎるものだと判断したのかもな。本人もエロ技ばかりだしな」

「そ、それも関係しますか…」

 

 少したじろぐ一誠に対して、アザゼルがケタケタと笑う。まったく悪意を感じられないのが質の悪さを感じさせる。

 

「あと、大一の存在もあるな。別に赤龍帝って肩書きにこだわらなければドラゴンなら扱いやすそうな方に流れたのかもしれない。まあ、こいつもシャドウの件が表沙汰になれば、どうなるかわからないがな」

(てめえ、それは俺が寝ている小童ドラゴンより下だって言うのか!)

『余計なお世話だ、マッド神器研究者!』

「アザゼル先生、あんまり煽らないでください。頭の中がめちゃめちゃ騒がしくなるんですよ」

 

 冷静にツッコミを入れられるあたり、怒涛の魔法使いの書類を捌き切るくらいには落ち着いたようであった。とはいえ、魔法使いの選考はこれで終わりじゃない。これからもまだまだ来るため慎重を期した。

 ひとまず大量の書類を魔法陣で転移させる中、メフィストがレイヴェルに興味深そうな視線を向ける。

 

『そこの女人はフェニックス家の者かな?』

「は、はい。レイヴェル・フェニックスと申します」

『うん…これはうちの協会だけに届いている極秘の情報なのだけれどね。どうにも「はぐれ魔術師」の一団が「禍の団」の魔法使いの残党と手を組んでフェニックスの関係者に接触する事例が相次いでいるんだよ』

「…それはどういうことなのでしょうか?」

 

 なんとも不気味な情報に、リアスはメフィストに問いかける。禍の団に流通しているフェニックスの涙であったが、最近は闇のマーケットでフェニックス家産でないフェニックスの涙が出回っている情報があった。しかも効果まで純正に等しいものであり、情報のもたらした不穏な雰囲気は一層濃くなった。フェニックスの涙の模造品が出回り、それに伴いフェニックス家に接触する禍の団…これに緊張感を持たない方が無理というものだろう。

 だがアザゼルの言葉がその緊張感をさらに張り詰めさせた。

 

「どうにも『禍の団』の旧魔王派、英雄の残党、陰に隠れた魔法使いどもをまとめようとしている輩がいるようでな。そいつが実質的な現トップだって話だ。詳しい情報はこれからだが…嫌な予感ばかりがする。奴らの戦力は確実に破滅の一途なんだけどな。戦力減少の歯止めが利かない状態で何をするつもりなんだか」

 

 こうして奇妙な空気を残したまま、この日はお開きとなった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 その夜、大一は台所にいた。作業をしている間も、頭の中ではディオーグやシャドウと共に今日の会話で思いついた疑問について話し合う。

 

(クーフーが率いている…とは思えないんだよな)

(まあ、あのガキはただの敗残兵だろ)

『でもさ、無視できる存在ではないよね。英雄派の残党をまとめ上げているのかな?あっ、でもあいつは戻るつもりは無いみたいなことを大一の仲間に言っていたのか』

 

 大一達がアザゼルの話を聞いて真っ先に思いついたのは、先日捕り逃したクーフーであった。朱乃達の話ではいまいち協調性を感じられない立ち振る舞いであった。だがシャルバに協力した可能性の高さなどを踏まえると、まったく禍の団に協力していないとも思えない。禍の団が一枚岩でないことを知る大一としては、彼がなんらかの理由で英雄派にいたと思えてしまった。

 ただアザゼルの口ぶりからすれば、禍の団全体をまとめ上げようとしていることが考えられる。となれば、オーフィスがずば抜けた実力を持っていたように、相応の実力とカリスマ性が予想された。そうなれば先日ルシファー眷属に迎え入れられた際の打ち合わせで挙がったある男の名前が脳裏に浮かぶが…

 

『現状で早計は禁物だ。まずは魔法使いを選んだ方がいいよ』

(あんなのいるか?メリットがねえ)

(見聞を広めれば強くなれると思うぞ。それに場合によっては、名を広めることに繋がるかもしれないからな)

 

 予想はしていたが、ディオーグの否定的な意見に大一は首を振る。今後の悪魔として生きていく以上は避けて通れないものだ。使い魔と違って無視していいものでもない。

 

『僕らを助けてくれたあのアリッサっていう女の子にお願いできればよかったかもね』

 

 シャドウの言葉に、大一もディオーグも疑問符を浮かべる。なぜこのタイミングで彼女の名前が出てくるのかがわからなかった。

 

(なんでアリッサ?)

『え?だって、あの子って魔法使いでしょ?』

(そうなの!?魔法なんて使っていたか!?)

『転移の魔法陣使っていたじゃないか。しかもあれってオリジナルだと思うよ。そう考えれば相当な手練れだ。というか、大一はなんだと思っていたんだよ?』

(てっきりはぐれの悪魔かなんかかと…魔法を使う悪魔だって普通にいるし)

(悪魔や人間の類じゃねえだろ。あの女に生命力なんて感じなかったぞ)

(『はあ!?』)

 

 間髪入れずに出てくる様々な意見に大一もシャドウも素っ頓狂な声を上げる。なんてことない話題のはずが、あっという間にクーフー並みに不審な印象を抱かざるを得なかった。

 

(…いや、これはおかしいだろ。そもそも魔法使いが冥界へ行くのは契約した上で余程の力が無いとできないと、メフィスト様が説明していた。アザゼル先生の話では彼女がいた「異界の地」というのは死人や落ちぶれた存在が迷い込むようなおとぎ話のような場所…なんだってそんなところに生命力もない女性がひとりでいたんだ?)

『ま、まさかあれって死後の世界とか…!』

(そういうのは、あのハーデスとかって奴の管轄だろ。だいたい俺らは死んでねえ)

(妙な話だな。アザゼル先生や炎駒さん達にも相談するか…)

 

 呟く大一は胸がざわつく感覚がある。悪魔になってから頭痛に悩まされていた日々は過ぎ去ったが、今度は気持ちが落ち着かず不安を覚えることが多くなっていた。それでもルシファー眷属に打診しやすくなったのは、彼の鉛のような重い感情を少しでも軽くさせていた。

 

『だったら、あのマグレガーって奴が一番だな。魔法に詳しいところから当たろう』

(…どうでもいいけどよ、小僧。てめえ、台所にいるだけで甘い物を食わねえのかよ)

(甘い飲み物は淹れたから勘弁してくれ。…よし、できた)

 

 大一は2人分のココアを淹れると、マグカップを持ってゆっくりと台所を出る。時刻はすっかり遅かったため両親はおらず、おかげで両手が塞がっていてもシャドウによって扉を開けることが出来た。

 

(ありがとよ、シャドウ)

『というかさ、誰に持っていくのさ』

(朱乃に。さっきリアスさんと後輩たちに魔法使い選びのアドバイスを終えたところを見たからな。部屋にいるだろ)

『おいおい、深夜デートかよ。いいぞもっとやれ』

(…茶化すなよ。話さなければいけないことがあるんだ)

 

 間もなく大一は目的の部屋の前にたどり着く。肩から形成されるシャドウの腕で扉をノックする。

 

「朱乃、まだ起きているか?」

「ええ、入って」

 

 半ば身の入っていない返事を聞いて、大一は彼女の部屋の扉を開ける。和風で品の良い家具が揃えられているが、端々に可愛らしい小物が見える。すでに寝間着の薄い着物姿になっていた朱乃は自分の椅子に座りながら、机にたくさん置いてある魔法使いの書類に目を向けていた。目の動きからまるで集中していないことが窺える。

 

「どうかしたの?」

「休憩しないか?ココアを淹れてきた。俺がしっかり淹れられるのってこれくらいだけだからな」

「…うん、いいよ」

 

 ふっと安心したような、それでいてぎこちなく感じる笑顔で朱乃は応じる。大一から手渡されたココアを両手で持つ彼女は絵のように美しかった。

 

「…なんかこういうの久しぶりな気がするわ」

「俺もそうだよ。とても嬉しい」

「お世辞を言っても何もしてあげないわよ」

「本心だよ」

 

 静かにココアを飲む音以外、何も聞こえなかった。緊張感は無いはずなのに、朱乃はどこか気まずさを感じていた。その理由について自覚はあったのだが、いまいち表に出すことははばかられた。しかし間もなく、その心の引っ掛かりに大一の方から言及する。

 

「俺がルシファー眷属になったこと、やっぱり気になる?」

「…わかっちゃったかしら?」

「気づけたのは最近だけどね」

「あらあら、正直なんだから」

 

 朱乃はココアを持つ手と静かに下ろすと、しっかりと大一の瞳を見つめ直す。

 

「…本音を言うとね、とても寂しかった。仕方ないとはわかっているんだけど、あなたと共にリアスの…親友の力になることに慣れていたから。あなたが生きて戻ってきてくれたのは嬉しいの。でも…義手の件や神器の件、そしてルシファー眷属の件…不安になっちゃったのね」

「朱乃…」

「謝らないでね。私が勝手に悩んじゃっているだけだから」

 

 朱乃はようやく栓をしていた感情を言葉に出来た。死んだはずの愛する男が生きて戻ってきた、それだけでも本当は喜ぶべきことなのだが、その後に荒れ狂う海のように感情を揺さぶられることが続いた。変わっていないはずなのに、大一がまるで手の届かない場所へ向かっていくのが彼女の心をじわじわと締め付けていたのだ。

 そして大一も先日の生島との会話で、ようやくそのことを自覚した。当然、惚れた女性を不安にさせたことに自分を責めたが、死の淵を経験した彼もようやく勇気を常備するだけの覚悟を持ち合わせていた。

 大一はココアを手近なテーブルに置くと、朱乃に近づいて触れるだけのキスをする。

 

「だ、大一…」

「…俺の方からするのは珍しかったかな」

 

 不意打ちに朱乃が赤面するのに対し、大一の方も勝るとも劣らないほど顔を赤らめていた。それでも持てるだけの勇気を奮い起こして、大一は言葉を続ける。

 

「…俺は一誠みたいに奇跡を起こして大きくことを変えることは出来ない。でも、朱乃が安心しているために寄り添うことは出来る。リアスさんの件だって同じだ。不安になっても俺があなたを支えることに変わりない」

「…きざなセリフ」

「正直、かなり頑張った…」

「でもそうやって愛してくれるから好きだわ」

 

 そう言って朱乃もキスを返す。心に抱え込んでいた不安の氷塊は溶けており、我ながら甘い女だと彼女は思った。もっともそんな甘さを彼女は享受し続けるつもりであったが。

 

「そうだわ。そろそろ大一に埋め合わせしてもらわなきゃ」

「あー…たしかに事あるごとに言っている気がするな、俺」

「良いこと思いついたから、どこかでお願いするわね」

「それはもちろんいいが…これは?」

「これはまた別よ。ライバルに先を越されないためのね」

 

 そう言って、朱乃は大一の首の後ろに手を回し気のすむまで身体をすり寄せる。このまま書類を読み進めることは無いと思われたが、リアスが朱乃に相談に来たことにより大きな進展は見送られることになった。

 




ヒロインを決めて良かったと思う今日この頃です。
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