D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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こういう場ではどうしてもオリ主の出番がありませんね。


第127話 吸血鬼との会談

 空気は季節相応に冷え込み、一切の音も無い夜の世界は不気味さを際立たせる。この日の深夜、その闇に相応しい吸血鬼が来訪し会談する予定になっていた。すでに旧校舎にはリアス率いるオカルト研究部全員、アザゼル、シトリー眷属からソーナと椿姫、そして見慣れないシスターが集まっていた。シスターはグリゼルダ・クァルタといい、天界のスタッフを統治するイリナの上司に当たる女性であった。エクソシストの中では五本指に入る実力な上に、ガブリエルのQ(クイーン)でもある彼女は、イリナ同様に天界側からのスタッフとなる。すでに一誠やアーシアとは出会っているが、それ以上に深い付き合いのある相手がいた。

 

「ゼノヴィア?私と顔を合わせるのがそんなに嫌なのかしら?」

「…ち、違う。た、ただ…」

「ただ?」

「…で、電話に出なくてごめんなさい」

 

 きびきびとした態度のグリゼルダに対して、ゼノヴィアは気弱に言葉を発する。ゼノヴィアとは同じ施設で育っており姉代わりでもあったためか、グリゼルダに頭が上がらなかった。いつもと違うゼノヴィアの様子にリアスを筆頭に仲間達が目を丸くする。イリナと、先日出会っていた一誠とアーシアは少し苦笑しており、それぞれの反応がゼノヴィアにとってグリゼルダがいかに特別なのかを証明していた。

 さらに時間は経ち夜が更けていくが、そんな中に冷ややかな空気が流れ込んでくるのを全員が感じた。

 

「来たようね。…相変わらず、吸血鬼の気配は凍ったように静かだわ」

 

 リアスは立ちあがると、祐斗に視線を向ける。彼もそれに応じるように一礼すると部屋を出て、来客を迎えに行った。いよいよ闇の支配者である吸血鬼との会談が始まる。

 

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「お客様をお連れしました」

 

 それぞれが気を引き締める中、丁寧な対応で祐斗は客を招き入れる。入ってきた吸血鬼は少女であった。顔立ちは完璧とも言えるほど整っており、西洋のドレスと相まって人形のような印象を抱かせた。吸血鬼特有の血の気の無さが無機質な雰囲気をより促進させていた。少女の背後にスーツを着た護衛と思われる男女のペアも入ってきたが、全員が吸血鬼の証拠として部屋の明かりによる影が見られなかった。

 

『おーう、位の高い吸血鬼は尚のこと活力という言葉から離れているように見えるな』

(だがあの女には生命力がある。死人じゃねえよ)

 

 大一の眼を通して吸血鬼を確認したシャドウとディオーグが頭の中で会話する。吸血鬼の情報について、大一は書物と伝聞による情報でしか知らなかった。身体を共有する2人が何か知らないかと思ったが、ディオーグが何も知らず、シャドウの方は平民の吸血鬼にかなり昔に一度だけ憑りついた程度で、吸血鬼社会が閉鎖的なものということしか分からなかった。つまり書物以上の話は何も出てこず、前もってリアスやアザゼルから叩き込まれた内容が全てであった。

 少女は丁寧にあいさつを行う。

 

「ごきげんよう、3大勢力の皆さま。特に魔王様の妹君お二人に、堕天使前総督様とお会いできるなんて光栄の至りです。

 私はエルメンヒルデ・カルンスタイン。エルメとお呼びください」

「…カルンスタイン。確か、吸血鬼2大派閥のひとつ、カーミラ派のなかでも最上位クラスの家だ。久しぶりだな、純血で高位のヴァンパイアに会うのは…」

 

 吸血鬼は他勢力と一定の距離を置いているが、そんな彼女らの中でも派閥が分かれていた。数百年前に吸血鬼内で大きな事件があり、それを契機に男尊主義のツェペシュ派と女尊主義のカーミラ派で分かれたようだ。

 席に座るエルメンヒルデに朱乃がお茶を出したのを確認したリアスは率直な疑問をぶつける。

 

「エルメンヒルデ、いきなりで悪いのだけれど質問させてもらうわ。───私達に会いに来た理由をお話してもらえるかしら?いままで接触を避けてきたあなたたちカーミラの者が、突然グレモリー、シトリー、アザゼル前総督のもとに来たのはなぜ?」

「───ギャスパー・ヴラディのお力を借りたいのです」

 

 エルメンヒルデの言葉は全員が予想していないものであり、同時にその視線が一斉にギャスパーへと向けられる。当の本人はびくりと身体を震わせ、明らかに動揺が見える。彼女の指摘を受けて本人含めて、先日の英雄派の戦いでギャスパーが発揮した謎の力が頭の中をよぎったのは当然のことだろう。

 彼女がこの話を持ちかけたのは、吸血鬼社会である出来事が発生したからであった。ツェペシュ側で神滅具を所有していることが判明したのである。多数ある神滅具の中で現在その影や足跡も追えていないのはたったの2つ。その片方、「幽世の聖杯(セフィロト・グラール)」こそ吸血鬼が所持する神滅具であった。曹操の聖槍同様に聖遺物のひとつで、この神器の効果によりツェペシュ派は弱点を克服した身体を手に入れていた。杭も十字架も太陽の光も受け付けない不死性の強い身体を得たツェペシュ派は、カーミラ派を襲撃した。この弱点こそ一種の誇りでもある吸血鬼にとって、この一連の事件は許されざるものであった。

 そこで彼女らが目をつけたのがギャスパー・ヴラディの力であった。詳細までは把握されていないが、彼の常軌を逸脱したその力によってこの吸血鬼同士の抗争にケリをつけることが目的であった。なんでも吸血鬼の間では稀に超常的な実力を持つ者が現れ、ここ最近は否定を受けやすいハーフに多いとのことであった。

 この申し出にリアスは静かながら激情を煮えたぎらせている。愛する眷属を種族間の抗争に駆り出されるのが、彼女にとっては許せないものであり、眷属や長年の付き合いであるものであれば、その感情を理解できるものであった。

 それに気づいているかは不明だが、エルメンヒルデはそのまま話を続ける。

 

「そして、問題の聖杯について。所有者はもちろん忌み子───ハーフではありますが、名はヴァレリー・ツェペシュ。ツェペシュ家そのものから生まれたのです」

「…ヴァレリーが…?う、嘘です!ヴァレリーは僕みたいに神器を持って生まれていませんでした!」

 

 必死に訴えるギャスパーの様子はこれまでの彼とは違っていた。息も荒く、赤い瞳が見開かれている。ヴァレリー・ツェペシュ、その人が彼にとって重要な存在であることは間違いないようだ。

 そして彼の必死な訴えが無意味であることは理解していた。神器がなにかの拍子で発動することなど、歴史上いくらでも確認されている。観測、特定の早い天界や堕天使達からも逃れるために隠蔽していたのであろう。

 エルメンヒルデは真っすぐにギャスパーへと視線を向ける。互いに赤い双眸には感情が込められており、2人の視線は空中で交じり合っていた。

 

「ギャスパー・ヴラディ、あなたは自分を追放したヴラディ家に───ツェペシュに恨みはないのかしら?いまのあなたの力なら、それが可能ではないのかと私は思うのだけれど」

「…ぼ、僕はここにいられるだけで十分です。部長たちと一緒にいられればそれだけで───」

「───雑種」

 

 エルメンヒルデの冷たい単語が耳に入った瞬間、ギャスパーの表情は曇り始める。それを確認した彼女は淡々と言葉を続けた。

 

「───混じりもの、忌み子、もどき、あなたはいかような呼び名でヴラディ家で過ごしていたのかしら?感情を共有できたのはツェペシュ家のハーフ、ヴァレリーだけ、でしたわね?ツェペシュ側のハーフが一時的に集められて幽閉される城の中で、あなたとヴァレリーは手を取り合い、助け合って生きてきたと聞いておりますわ。ヴァレリーを止めたいと思いませんか?」

『なるほど、良心に訴えかけてきたな』

 

 感心するようにシャドウの甲高い声が大一の中で響く。感情を食い物にしてきた神器ならではの着眼点に感じ、大一は無意識に口内で歯を食いしばった。

 一方で、この言葉にグリゼルダが冷静な声で話し始める。

 

「あなた方はハーフの子たちを忌み嫌いますけど、もともと人間を連れ去り、慰み者として扱い、結果的に子を宿させたのは、吸血鬼の勝手な振る舞いでしょう?民を食い散らかされ、悔しい思いをしながらも憂いに対処してきたのは、我々教会の者です。できれば、趣味で人間と交わらないでもらいたいものです」

「それは申し訳ございませんでしたわ。けれども、人間を狩るのが我々吸血鬼の本質。悪魔や天使も同じだと思っておりますが?人間の欲を叶え対価を得る、または人間の親交を必要とする。我々異形の者は、人間を糧にせねば生きられぬ『弱者』ではありませんか」

 

 グリゼルダに相対するかのように冷静に答えるエルメンヒルデの言葉に、大一は飲み込みづらい感情を感じた。大一にとっての悪魔的な価値観は現在の冥界社会の制度や古くからの考え方に従っているだけで、彼自身が心から同意しているわけではない。それ故に割り切れることも多かったのだが、彼女の価値観はすぐに納得は出来なかった。

 異形の者が「弱者」とするなら、なぜ悪魔になったきっかけとなった友がはぐれ悪魔に殺されたのか、自分が心を砕いて戦ってきたのか…吐きそうな想いを感じた。これが清濁併せ吞むということだろうか。意図しない汗が噴き出すのを大一は感じていた。

 

「手ぶらで来たわけではありませんわ。書面を用意しました」

 

 エルメンヒルデはアザゼルに書を渡す。その書面の題を見たアザゼルは軽く息を吐いた。

 

「…カーミラ側の和平協議についてか」

『───ッ!?』

 

 アザゼルのつぶやきに全員が驚くが、考えてみればそこまでおかしいものでもない。閉鎖的な吸血鬼が3大勢力に出せる最大の切り札となれば、外交カードなのは当然であった。

 もちろん外交としての手順としては逆だろう。きっちりと和平関係を結んでから協力するというのが筋ではある。

 しかしここで断れば、分け隔てなく和平を持ちかけている3大勢力の説得力は薄まり、同時に不信感が露呈する。それを見越したカーミラ派が1枚上手であったのだろう。

 

(狡猾…いや別に取引としてはおかしくないのか)

『慢心は足元をすくう…とは言わないが、まあどこもかしこも平和のために協力というのは甘い考え方だね』

 

 大一はしっかりと唇をきっちりと結ぶ。怒りは多少感じるものの、それ以上に他の勢力の価値観を強く意識してこの世界の難しさを感じるのであった。

 このままではギャスパーが連れていかれるのを危惧したリアスは怒りに身体を震わせていたが、隣に座るソーナが手を握ってなだめていた。

 対して、完全に主導権を握ったエルメンヒルデはニンマリと口角を上げている。

 

「ご安心ください。吸血鬼同士の争いは吸血鬼同士でのみ、決着をつけます。ギャスパー・ヴラディをお貸しいただければ、あとは何もいりませんわ。和平のテーブルにつくお約束と共にヴラディ家への橋渡しも私どもがおこないましょう」

「待てよ。仮にギャスパーをそっちに送ったとして、無事にこちらに返すつもりはあるのか?いや、まだ貸すとは言ってないけど!いちおう、その辺を訊きたい!」

 

 このまま重苦しい空気で進むかと思われた中、一誠がたまらずにエルメンヒルデに訊いてしまう。これには彼女も蔑みを隠しきれず不満げな視線を向けた。一誠の発言に大一は驚いたが、すぐに一歩前に出て頭を下げる。

 

「失礼しました。私の弟が権利も無く、エルメンヒルデ様に意見したことのご無礼をお詫びします」

「…あなたは?」

「兵藤大一と申します。リアス様の母君、ヴェネラナ・グレモリー様の下僕で、かつての縁からこの地で同盟の仕事をしています」

「赤龍帝の兄…ほんの噂程度は聞いたことがありますね。以後、気をつけてくださるかしら?」

「寛大なお言葉ありがとうございます。以後、気をつけます」

 

 大一は感謝を示すように頭を下げると、そのまま下がり祐斗と挟むように一誠の横につく。一誠はまだ納得していない様子であったが、リアスが深く息を吐いて自身の激情を抑えようとする姿を見て、とりあえず気持ちを抑えた。

 

「グレモリー次期当主の眷属一人を犠牲に、吸血鬼と休戦協定、か。おまえらカーミラ側の言い分は雑な言い方をすると、こういうことだな?」

「犠牲になるとは決まっておりません。早々と決着がつけばそれにこしたことはありませんわ」

「俺たちの介入は嫌なんだろう?両者の仲介、もしくはどちらかについて加勢ってのは?戦力不足だからこそ、ギャスパーが必要なんだろう?」

「いえ、あくまでも我々の決着は我々の手でおこないます。アドバイザーぐらいでしたら、いかようにも」

 

 アザゼルの話にもエルメンヒルデは乗ってこなかった。身勝手のようにも見えるが、大一としては価値観の違いをより鮮明に直面させられた気がした。それは京都での零との会話で味わった感覚に似ていた。

 

「以上ですわ。今夜はお見通りできて幸いでした。自分の根城に吸血鬼を招き入れるという寛大なお心遣いに感謝いたしますわ、リアス・グレモリー様」

「…ええ、今日の貴重な会談ができて良かったわ。あなたたちのことがよくわかったものね」

「それでは、ごきげんよう。この地に従者を置いていきます。何かありましたら、その者に取り次いでください。では、よいご報告をお待ちしております」

 

 危惧されていた会談が突き刺すような空気のままで終結した。エルメンヒルデは氷の微笑を崩さず、リアスは瞳から憤怒の炎が消えなかった。

 

────────────────────────────────────────────

 

「…相変わらず、吸血鬼は好きになれない…ッ!」

 

 会議が終わってから10分ほど経ったところで、ゼノヴィアがテーブルを叩いて感情を吐き出す。それでも感情のままに手を出さなかったことをグリゼルダが褒めていた。

 実際、相手の姿勢にまったく不快感を抱かなかった者はいなかっただろう。その独特な価値観に加えて、嫌みな雰囲気を出しているのだから気持ちの良い感情は持てないのも当然だ。種族の違いの難しさをより鮮明に、大一は感じていた。

 ここで問題なのは吸血鬼の要求を呑むかであった。外交を進めるに越したことは無いが、全員が大切な仲間であるギャスパーを売るつもりはさらさら無かった。ことさら情愛に深いことで有名なグレモリー眷属がそれを行うことにも疑惑を向けられかねなかった。とはいえ、外交の件も無視するわけにはいかないが…。

 

「ぼ、僕、行きます!」

 

 思考に翻弄される中、ギャスパーは決意に満ちた瞳で言葉を続ける。

 

「…吸血鬼の世界に再び戻るつもりはありませんし、ここが僕にとってのホームです。で、でも、ヴァレリーを助けたい!彼女は…僕の恩人なんです。おかげで僕はあの城から抜け出て、ここにたどり着けました。…1度は死にましたけど、それでも今は優しい主がいて、頼れる先輩がいて、一緒に遊んでくれる友達もできました…。こんなに幸せになれたのに、彼女だけ辛い目に遭っているのかもしれないと思うと…。きっと理不尽な扱いを受けていると思うんです!

 僕、ヴァレリーを助けたいです!そして、絶対に死にません!ヴァレリーを救って、ここに戻ってきます!」

 

 ギャスパーの言葉はその小さい身体に反するように、大きく重い響きがあった。いつもの可愛さに目が向き、引っ込み思案な要素は無く、グレモリー眷属で培った男らしさがそこにあった。

 そして下僕の覚悟を無下にするような感性は、リアスは持ち合わせていない。彼女は一瞬微笑むと、力強く立ち上がる。

 

「───行くわ、私。今度こそヴラディ家とテーブルを囲むつもりよ。まずは私が行ってこの目であちらの現状を確認してくるわ。ギャスパーを派遣に関してはそれからでも遅くはないと思うの」

 

 現状を知るために、ギャスパーの主として筋を通すためにリアスが先行して吸血鬼の領地に行くことが決まる。他のメンバーは後発部隊として残るが、彼女の護衛として「騎士」の祐斗も同行し、さらに相手の信用を勝ち取るためにも神器に詳しいアザゼルも行くことが決まる。

 先の見通しが霧にかかった現状に不安は抱きつつも、吸血鬼の領域に彼らは踏み込む決意をするのであった。

 




吸血鬼も多くの作品で取り上げられていますよね。
私は「吸血鬼ノスフェラトゥ」が好きです。
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