D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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キャラが多くなってきて、整理がつかないことが増えてきました。


第129話 移り変わる日常

 吸血鬼との会談から数日後、兵藤家にある巨大な転移魔法陣が展開されている部屋にオカルト研究部とソーナが、リアス達の見送りのために集まっていた。吸血鬼の領地は幾重にも特別な結界が張ってあり、かなり辺境の地に集落を構えているため、何度も魔法陣で転移した後に小型ジェットや車を駆使して目的地まで向かわなければならなかった。長い道中であるが、目的地であるルーマニアの天候が回復したおかげで予定よりも早く出発することになった。

 魔法陣の中央でリアスはギャスパーを抱きしめる。

 

「…あなたのことは私が守ってあげるから、何も心配しなくていいわ。ヴラディ家とのことも私がきちんと話をつけてくるから」

「はい、部長…」

 

 ギャスパーもすっかり安心しており、リアスを昔から知る人物が見れば感涙でもしそうな成長ぶりであった。

 リアスは微笑むと、朱乃と大一に顔を向ける。

 

「2人とも、あとは頼むわね」

「はい、リアス」

「お任せを」

 

 短いながらも信頼に溢れた3年生のやり取りの横で、一誠も祐斗と拳を合わせる。おそらく最も模擬戦をして、互いに高めてきたであろう男同士の結束は強かった。

 

「リアスのこと、頼むぞ」

「もちろんだよ」

 

 各々のやり方で感情を形にする中で、アザゼルもソーナとロスヴァイセに笑みを向けた。

 

「じゃ、学校のほう、あとは頼むわ。ソーナ会長♪ロスヴァイセ先生♪」

「「忙しいので早く帰ってきてください」」

「んだよ、つれない反応だ」

 

 バッサリと切り捨てられたアザゼルは不満げに肩をすくめる。年末近くで忙しくなっているのもあるが、これまでの関係性とアザゼルの軽薄性が明らかに分かる瞬間に仕上がっていた。

 それでも元堕天使のトップだけあって釘を刺すべきところは忘れない。彼は全員にフェニックス家の件の注意喚起と、オーフィスに何やらアーシアを任せるような発言をしていた。なぜかアーシアは赤面して恥ずかしさと覚悟を前面に出しており、大一は心配が増幅されたが追及する気までは起きなかった。

 

「…行ってくるわね」

「ええ、良い報せを心待ちにしてます。何かあったら、必ず駆けつけますから」

「うん。わかってるわ」

 

 最後に一誠とリアスは互いに見つめ合ったまま、数秒間手を握り続ける。心配の籠った別れを惜しむ短い時間を終わらせると、3人は魔法陣の光に包まれていった。

 

────────────────────────────────────────────

 

「父さん、風呂掃除終わったよ」

 

 リアス達が吸血鬼の領地へ向かったその日の夜、大一はソファで釣り雑誌に目を通している父親に家事をひとつ終えたことを告げる。兵藤家には巨大な浴槽はあるが、母の注意喚起により女性陣のみのものとなっており、もともとあった風呂は男性陣が使っていた。もっとも一誠はこっそりと大浴場を使用しており、この風呂場を使っているのは大一と父だけであったのだが。

 

「おう、ありがとな。風呂も入れてくれた?」

「10分も待てば入れるだろうよ」

「手際が良いなー。今日は大一が風呂掃除だったし、先に入りな」

「俺はやることあるから、そっちが先でいいよ」

「そう言われたら甘えるが…イッセーにも声かけるか」

 

 父はちらりと上階に目を向けるような仕草を見せる。両親は一誠が大浴場の方を使っていることは知らなかった。

 

「別にいいと思うぞ」

「でもあいつ、かなり落ち込んでいたからな。せっかくできた彼女が用事あって不在にもすれば仕方ないが…」

「大丈夫だって。人肌恋しくてもすぐになんとかなるよ」

 

 大一は身に入っていないような声で答えた後、あくびを大きくする。たしかに一誠はへこんでいた。リアスと離れることは仕方ないこと、その覚悟は決めていたが数時間後には彼女の温もりに飢えている状態であった。

 ただこれについて大一は気にしていない。いつも一緒に寝ているならアーシアもいるし、ゼノヴィアを筆頭にリアスがいない隙を狙って距離を詰めようとしている話し合いをしていたのを、すでに小耳に挟んでいたからだ。

 

「…まあ、お前が言うなら大丈夫なんだろうな」

「そういうこと。あいつを慕う奴はいっぱいいるからな。それじゃ、1時間くらいしたら俺も戻るから」

 

 それだけ言い残し、大一は自分の部屋へと向かう。今さらではあるが、父母が一誠に対して抱く想いはなんとも複雑であった。そのエロい性格に辟易している面はあるが、それ以上に愛情を向けている。弟の出生を踏まえれば当然だと思うが、それ故に大一は兄として違った立ち振る舞いを意識していた面はあった。

 やがて彼は自分の部屋に入ると、そのまま机に向かう。魔法使いの書類に目を通すだけでなく、3年生としての進路の件も考えなければならなかった。もっとも駒王学園はエスカレーター式で大学に上がるのだが、それでも高校を卒業する以上は将来に向けた兆しを書かなければならなかった。

 彼がペンを取るために義手を着け直そうと緩めたところで、扉をノックする音が耳に入る。間もなく断りなく女性が入ってきたが、彼の部屋を当たり前のように行き来するのはひとりしかいないため、書類から目を離さずに淡々とした反応をしていた。

 

「だ、大一。いいかしら?」

「ん、いいよ」

 

 朱乃の声に大一は軽く返事をするが、どうも少しだけ声を震わせていたので疑問に思った大一は書類から目を離し、部屋に入ってきた彼女に目を向ける。ほんのりと頬を染める彼女の表情は恥じらいに満ちており、同時に相応の色気を醸し出していた。

 

「…どうかしたか?」

「あのね、リアスもいないから…その…埋め合わせの件をお願いしたいの」

「ああ、この前の話だな。…ん?リアスさんがいないのって関係あるか?」

「そっちの方がまだ緊張しないかなって…感づかれることもなさそうだし…」

「…ごめん、話が見えないんだが」

「そ、そうよね。お風呂まだだものね。でも初めてだから今のうちに話しておきたかったの。や、優しくしてほしいから…」

「待て待て待て!埋め合わせってそういうことか!?」

 

 朱乃のか細くなっていく声に対して、大一は驚愕と緊張を乗せた声で反応する。彼にとって彼女が求めていることは予想とはまるで違うベクトルのものであったため、うろたえるのと同時に比較することすらおこがましいほどの緊張が襲ってきた。

 頭の中でとにかく落ち着くことを言い聞かせながら立ち上がる大一に、朱乃は上目づかいに問う。潤んだ瞳と紅潮した頬は誰が見ても美人といえるものであったが、同時に余裕の無さが見受けられる。

 

「…ダメ?」

「いやダメっていうか、予想外というか…そもそもどうしてこのタイミング?もしかしてリアスさん達への対抗意識か?」

「ま、まったく無いわけじゃないけど…リアスとイッセーくんに先を越されるのもあれだし…」

「誓って言えるが、あの2人はまだそこまで行ってないんじゃないかな…。アーシアも一緒にいるし」

「それに…この前、あなたが私を支えてくれるって…言ってくれたから」

 

 朱乃は静かに身体を惚れた男へと寄せる。呼吸は荒く、全身が強張っている。それでも己の抱く感情を吐き出したかった。

 

「…嬉しかったの。あなたが遠くに行っていないことがわかって…だからもっと近づきたくなる。あなたともっと一緒にいて、絶対に心が離れないんだと確認したいの」

 

 埋め合わせなど所詮は口実に過ぎなかった。不安とは違う。先日、大一が支えてくれると約束してくれたのだから。むしろそれによって愛する相手を求めたくなった。彼を失ったと思ったゆえの反動もあって、朱乃はいよいよ本気で求めていた。

 互いに時間が止まったような錯覚を覚えるが、その感情は濁流のごとく激しいものであった。欲望という一点に忠実であるならば、彼は朱乃の要求を受け入れただろう。しかし彼の心身は理性に対して行動を選択していた。

 大一は密着する朱乃の肩に手を置くと、上を向いて大きく深呼吸をする。新鮮な空気が頭の中の燃え盛る想いを冷たく鎮める。そして彼はしっかりと彼女と視線を交わらせた。

 

「…俺も朱乃とはもっと近づきたいよ。でもここじゃ誰が見てるか分からないし…。あなたとの本番は…その…誰にも邪魔されたくないから…」

「…ごめんなさい。私が冷静じゃなかったわ」

「いや、朱乃が謝ることじゃないって!俺が期待に応えられなくて…あー…なんと言えば良いかな…とにかくごめん!今は別の方法で埋め合わせをさせてほしい!」

「…わかったわ」

 

 朱乃の答えを聞いて安心した大一であったが、すぐに彼女の方から口づけををする。触れるだけではなく、呼吸が止まるような深さと情熱がそこにあり、朱乃からすれば覚悟のキスであった。

 その彼女の覚悟に応じるように、大一の静まったかと思われた感情の昂りも再燃する。このままでは戻ってこられなくなると感じたが、心のブレーキを利かせることに集中すると朱乃の行為に流されるままになり、そしてまたブレーキに集中するのを強くするという悪循環…見方次第では好循環に陥った。

 だがこういったものは偶然の事象により、空気が一変する。大一の緩めていた義手が音を立てて床に落ちたのだ。止まりそうもない展開は、この予測不能の事象によって中断された。

 互いに肩で呼吸する状態であったが、結果としてこれは幸運であった。おかげで扉で見ている人物に気がつけたのだから。そこにはニヤニヤと笑顔を浮かべる黒歌と眉間にしわを寄せる小猫が立っていた。これには大一も朱乃も思考が停止して固まらざるをえなかった。

 

「…いつからいた?」

「わりと最初から。赤龍帝ちんと話して、スイッチちゃんが転移魔法陣を使っている間にお風呂も入ったし、そろそろ行こうかなって思っていたの。その前にあんたにもちょっかい出そうかなと思って。そしたら白音に見張りとしてついてこられちゃったにゃん。それにしても…へえ、そこまで関係性が進んでいるんだ♪」

「…先輩達は時と場所をわきまえるべきです」

 

 ぐうの音も出ない小猫の正論で殴られた2人は気まずさと冷静さを取り戻す。やろうとしていたことが色ボケとしか言いようがない行為なのだから、反論もできないしそんな気力も湧かなかった。夏のソーナ戦の前にも似たようなことはあったが、それ以上の羞恥心が彼らを襲う。

 

「ほれほれ、白音。このままじゃどんどん後手に回るにゃ」

「…姉さまの態度も不快です」

「ちょっとした煽りじゃない。時間が無いから混ざれないのが残念なところね。いやー、いいもの見れたわ」

 

 からかうような笑みをしたまま、ふわりと流れるような動きで黒歌はそのまま退散する。この後、父から風呂が空いたことを告げられるまで小猫によるお説教が続くのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 リアス達が旅立ってから数日後、校舎屋上の片隅で大一は頭を抱えていた。彼らの学生生活は平穏そのものであったが、彼は先日の進展に自問自答を繰り返していた。

 

(もっと良い断り方があったのかな…俺はどうすればよかったのかな…)

(うるせえぞ、小僧!ここ数日、それしか悩んでねえじゃねえか!)

『大人になる直前の少年だねえ…。いっそのこと、あの場で3人同時に抱くというのも手ではあったかな。あー、でも悪魔が出生率低いとはいえ、この年でゴム無しはマズいか』

 

 何度も悩んでいる大一に対して、ディオーグは苛立ち、シャドウは冷静に分析する。たったひとつの身体の中で3人分の意見と考え方が広がっていくのも、当事者たちにとってはすでに慣れた状況であった。

 

(あんな取るに足らねえ女どものことで悩むなら、いっそのこと関係を断ち切れ!)

(そんなことできるか!あー、朱乃や小猫を傷つけてしまったかな…俺がもっと甲斐性を持てれば…)

『甲斐性は大切だな。ハーレム形成といっても、考えなしにやるなら問題なんていくらでも起きるわけだし。つまりいよいよ僕のような恋愛マスターの出番というわけだな。数々の生物に憑りつき、あらゆる感情を見てきた僕が…』

(狂わせることしかやってこなかったんだろうが。お前、それで前に小僧に断られていたじゃねえか。諦めろ、影野郎)

『ぼ、僕だっていろいろ役に立てるんだよ!戦闘以外でもさ!』

 

 ディオーグの言う通り、大一はシャドウに恋愛方面で期待はしていなかった。今の彼にとって必要なのは、こういった不安を共に考えてくれる先駆者であったが、仲間もルシファー眷属も他の大人達にも打ち明けるにはかなりシビアな話題であった。紅葉辺りも考えたが、彼との価値観の違いも十分すぎるほど理解していたため、これにも二の足を踏んでしまう。悪魔としての親友がいれば話は別なのかもしれないが…。

 悩みすぎて一種の吐き気すら感じる大一であったが、そんな彼に話しかける人物が現れる。同じクラスの大沢と飯高であった。

 

「やっと見つけたぞ、大一。授業近くにこんなところいるとは、俺らでも分からなかったぞ。サボりか?」

「そんなことしないよ…ちょっとひとりで考え事したかっただけだ。わざわざ探しに来てくれたのか?」

「当然だ。この時間中に前に話したサークルの件について煮詰めるつもりだったからな。あとお前の弟とグレモリーさんとの関係性について」

 

 胸を張って答える大沢であったが、その内容にはがくりと拍子抜けするような印象を受けた。大一はディオーグとシャドウの頭の中での主張を振り払いながら、大沢達に提案する。

 

「…別に無理に今やらなくてもいいんじゃない?」

「いーや、話し合う。俺は納得できないことを先延ばしにしたくない方だからな」

「なんとなくだが、お前にそういうところがあるのは分かってきたよ」

 

 大沢のハッキリとした声色に押されつつある大一に、飯高が耳打ちする。痩せて長身にもかかわらず、軽い身のこなしであった。

 

「悪いな。大沢の奴、グレモリーさんのことが好きだったから特に気にしているんだよ」

「あー、なるほど…お前は大丈夫なのか?」

「まあ、学園祭の関係で他校の女子との連絡先を交換できたし。姫島さんの件はお前がいるからな。お互いに幸せにいこうぜ」

「おお、それはおめでとう。となれば、まずは大沢を落ち着かせないと───」

 

 ひっそりと話していた大一は不自然に言葉を切る。彼だけではなく、頭の中で騒いでいたディオーグとシャドウも同様であった。どれだけ思考の波に飲まれていても、日常の中でしかも友人が近くにいるのにもかかわらず、本来であれば感じるはずもない存在を察知すれば、すぐに緊張感を抱くほど彼らの感覚は鋭敏になっていた。

 

(どっかから転移してきたのか?急に来たな)

『おいおい、これって…』

(…どうやって入り込んできたんだ)

 

 大一はすぐに校舎に通じる扉へと目を向けるが、それが強烈な勢いで吹き飛ぶ。そこにはローブを被った人物が2人立っていた。学校には似つかわしくない不気味さ、感じられる魔力の感覚、そして向けられる敵意…禍の団が駒王学園を襲撃してきたのであった。

 




やっと本編が動いた気がします。
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