D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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ちょっと読みこみが浅くなってきたかと思うようなことが増えてきました。
気をつけなければ…。


第130話 学園の襲撃

「なんだ、あれ?うちの学生…なわけがないよな」

「先生、呼んだ方がいいよな」

 

 不思議そうに大沢と飯高が謎の人物に視線を向けて少し扉によって行く中、大一は考えを巡らしていた。感知する限り、悪魔の類ではない。異形の見た目でもなく、怪しげなローブは魔法使いがよく使用しているものであった。最近の注意案件である禍の団と関係するはぐれ魔法使いであると想像するのは容易かった。人数もたったの2人とそこまで警戒するほどではない。しかし場所は校内に出入りする箇所がひとつしかない屋上で、しかも友人がいる状況だ。彼らを危険にさらすわけにはいかなかった。

 ローブの人物は大一に視線を向けると厳かな声で語りかける。もっとも頭まですっぽり覆っていたため、顔はよく見えないのだが。

 

「兵藤大一だな。赤龍帝の兄で噂は聞いている」

「…事を荒立てないでくれよ。ここには一般人もいるんだ」

「我々をはぐれやテロリストと称する貴様らの言葉とは思えないな。この後の展開など分かっているだろう」

 

 大一は内心で舌打ちする。どうせこの後に戦うことになるのは疑いようも無いのだが、交渉の余地すら感じさせないのは焦燥感に駆られる。それどころか感知すれば屋上どころか校舎内、校庭、体育館に複数の魔法使いの存在が感知された。いよいよ事の大きさが重大な印象を受けた大一は言葉を続ける。

 

「そもそもどうして俺のところに来たんだ?」

「なに、こっちもちょっとは武勲を立てないとな。我々なりに力を試したいのだ」

「ハッハー!それに少なくとも現状で一番可能性がある奴を選んだのさ。俺らでも楽に名を上げられそうな相手をな」

 

 もうひとりのローブの男性も言葉を続ける。隣の男と比べるとかなり軽薄な印象を抱かせる話し方であった。

 

「おいおい、甘く見られたものだな。ここには非戦闘員だって───」

 

 大一はひとつあることに気づいて言葉を切る。アザゼルやメフィストフェレスの情報から最近フェニックス家が狙われていること、わざわざ散らばって学園を襲撃したこと、この2点から狙いはレイヴェル・フェニックスであることが推察された。彼女は非戦闘員であるがゆえに、戦いになったら狙われる可能性は非常に高い。

 大一の表情を確認した魔法使い2人は掌から魔法陣を展開させる。

 

「まずはお手並み拝見」

 

 2人同時に炎と風の魔法が展開される。風速によってその火炎は膨れ上がりそれなりに規模を有する勢いで向かってきた。しかも狙いは大一ではなく扉に近い方にいた大沢と飯高であり、彼の緊張と焦りは一気に高まった。

 

「マズい!シャドウ!」

『わかった!』

 

 大一は義手である右腕を上げるとそこから黒い影が触手のように伸びて友人を掴み、そのまま自身の後ろへと引っ張り込む。同時に取り出した錨を左手で掴むと、その先端から魔法陣を展開させて向かってくる火炎を防いだ。

 なんとか防ぐものの、龍人状態になっていない彼では硬度も重さも違う。それどころか肌は普通の悪魔と同じ状態のため、熱気で身体に相当の暑さを感じた。

さらに建物が大きく揺れるのが感じる。体勢こそ崩れなかったが、建物内でもかなり派手な破壊活動を行っているようであった。

 

(時間はかけていられねえが…)

(だったら、さっさと俺を引き出して終わらせろ。後ろの奴らも庇いながらじだと戦いにくいから無視しろ)

(冗談でもそんなこと言うなよ。何があってもほっとかねえ)

 

 ディオーグに対して、大一は冷静に返す。頭の中では悪魔になるきっかけを作った友の顔が浮かんでいた。あの絶望と隣り合わせの後悔を2度も味わうのは、後悔続きの彼ですら死んでも避けたかった。

 後ろにいる飯高の怯えにまとった声が、大一に届く。

 

「な、なにがどうなってんだよ…!なあ、大一!お前やあの人達はいったい…」

 

大一の耳に震える声が聞こえた時、尚のこと龍人状態になれないと思った。ここまでなったら何かしらの方法で記憶の改ざんは必要になるだろう。それでも化け物のような姿へと変貌させて恐怖感を与えるのはためらわれた。

すでに手は打ってあったものの大一が答えに困窮していると、大沢が力強い声で戒める。

 

「うるさいぞ、飯高!今は大一にそれを聞く必要はないだろッ!」

「でもよ、こんなの意味がわからねえよ!し、死ぬかもしれないんだぞ!」

「俺だって意味わからねえよ!でもな、今は大一が守ってくれている!俺らがどうにもできない以上、こいつに今の時点で負担をかけさせるんじゃねえ!大一、俺は信じているからな!」

「…その言葉だけで救われるよ」

 

 大一は短く答えると、魔力をさらに強く入れなおす。魔法陣はより強固になり、魔法使いの撃ちだす炎の魔法を防いでいく。

 視界が炎で遮られる中で、魔法使いの煽るような声が聞こえる。

 

「おいおい、龍の力を見せてくれないのか?俺らの火力はもっと強力になるぜ?」

「所詮はこの程度。薄っぺらいプライドでは何もできずに死んでいく」

「白昼堂々、卑怯な手段を用いてきた奴らに言われたくないな」

 

 彼自身が驚くほど、大一の声は静かであった。同時にその静けさとは対照的な怒りが心の中で沸々と煮えたぎっていく。清濁併せ吞む必要性を知っている彼でも、このようなやり方には相応の怒りを抱いてしまう。

 激情を抑えつつ、大一は己を鼓舞するように独白した。

 

「何もできない?そう考えるのはもう終わらせたんだよ。俺は…俺のやり方で守る!今だ、シャドウ!」

 

 大一の合図と共に魔法使いの影から伸びた黒い腕が後ろから首を絞める。最初に大沢達を後ろへと引っ張った後に、シャドウは魔法使いたちが大一達に撃ち出している炎の影を通って移動していた。そして魔法使いの影に潜むと、合図と共に奇襲をかける。

 不意打ちを受けた魔法使いたちはそれぞれの魔法を解除する。この一瞬を見計らい大一は一気に近づくと、片方の敵の顔面を魔力で強化した左腕で殴りつけた。鼻血をまき散らしながら気絶するのを確認する間もなく、さらに隣にいる魔法使いの腹部に鋭い蹴りを入れこみ、身体をくの字に曲げたところを左腕で振り下ろすような肘打ちを入れて床へと叩きこんだ。たった一瞬の出来事であるが、この連撃により2人の魔法使いは完全に気絶した。

 緊張の糸が途切れたように、大一は荒い息で倒れた魔法使いを見る。いくらか溜飲が下がったものの、その行いを手放しで許すつもりは無かった。

また一方で大沢と飯高が大一へと駆け寄る。2人ともいまいち力が入っていなかったが、その表情は安堵が刻まれていた。

 

「た、助かった…!ありがとう、大一」

「…悪い、いろいろなことに巻き込んでしまった」

「何が何なのかはサッパリだが、とにかく無事であることに変わりないんだ。俺は信じているからな」

 

 大沢は震える手で大一の肩を叩く。運動部に所属する彼であったが、さすがに先ほどの出来事には恐怖を感じており、脚も小刻みに震えていた。それでも信じてくれたことに、大一は畏敬の念すら覚える。

 落ち着かせるように小さく何度か息を吐いた大沢は小刻みに身体を動かしながら大一に問う。

 

「それでどうすればいい?」

「隠れていて欲しい…と言っても安全な場所がわからないからな」

 

 次の動きを考えながら大一は魔法使い2人を屋上の端に寄せて、右腕の義手から伸びるシャドウの影で身体を縛る。この光景に大沢達は驚きと不思議に満ちた目で見ていたが、特に追及はしてこなかった。

 敵の狙いがレイヴェルである以上1年生の教室に向かう必要があるのだが、動くよりも前にディオーグの声が響く。

 

(…撤退しているな。他の奴ら)

(なに?ってことは…)

(的確に足止めされたな。小娘どもの魔力は感じねえ)

 

 レイヴェルが連れていかれたことを理解した大一は静かに顔を撫でる。たたみかけるように今度は縛った魔法使いたちが光り輝き始めた。一瞬、目を抑えるほどの光力が放たれると、彼らの姿は無くなっていた。

 

『やられた時の保険も完璧…』

(用意周到だぜ、これは)

 

 大一は大きくため息をつくと、友を連れて屋上を去るのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 この日の夕方、オカルト研究部と生徒会は旧校舎に集まっていた。すでに全校生徒は下校しており、記憶の改ざんも済んでいる。以前、アザゼルが作って小さな騒ぎになった生徒の記憶を司る装置というものを使って、「学校に変質者が侵入して臨時休校となった」というものになっていた。また破壊された箇所についても補修作業の工事と重なったことに改ざんされている。

 もっとも一般人からすれば、今回の襲撃は大差ないような内容ではあるだろう。恐怖を心に刻み込んだという点において、今回の襲撃には憤りを抑えない方が無理な話であった。それを踏まえれば、大一としては龍人状態にならなかったのは結果的に正解に感じた。下手に変化して得体の知れないインパクトを余計に残すことは避けるべきなのだから。

 さらにレイヴェル、小猫、ギャスパーの3人が魔法使いたちにさらわれた。敵の目的は当初からレイヴェルのみであったが、同じクラスの2人も抵抗してそのまま連れていかれた可能性が高い。ただし狙いがレイヴェルだけでなく、彼女らも対象であった可能性は否定できなかった。

 すでに敵の勢力の狙いから、禍の団と協力するはぐれ魔法使いであるのは予想できる。だが今回の襲撃にあたり最大の疑問点となるのは、敵がどうやってここまで侵入したかであった。3大勢力の重要地点であるこの地はかなり多くの結界やセキュリティーが施されている。にもかかわらず、敵は存在を察知されることなく学園に入り込み散々暴れて、レイヴェル達を連れ去った。かつてコカビエルが暴れた時と比べるとその守りは間違いなく強固なものになっているはずなのに、日中でここまでの襲撃を受けたのだ。

 これにあたり魔法を専門にするロスヴァイセが意見を述べようとするが、彼女の携帯電話の着信音が鳴り響いた。彼女は話を中断して、電話に出るが…

 

「あ、お祖母ちゃん!どした?何か、あったの?…んだ、いま大事な会議中だかんな。え?仕事?心配すなくとも、わたす、元気にやってっからね。お祖母ちゃんが心配すっことなーんにもないんだってば」

 

 ロスヴァイセは特徴的なイントネーションで電話相手である祖母と話す。彼女はいつもやっているかのごとく話し続けるが、他の者からすれば普段のイメージとあまりにも乖離していたため目を丸くしていた。

 大一も鳩が豆鉄砲を食ったような表情になり、隣で同様の驚きを示していた朱乃に話しかける。

 

「なんか…かなり驚いたな」

「ご実家が北欧の田舎とはトレーニングをつけていただいている時に聞いたことあるけど…イメージがだいぶ変わりますわ」

 

 これについてはイリナがかなり聞いたことがあったようで、ロスヴァイセは父母共に北欧の戦士のため祖母に面倒を見てもらっていた。そのため彼女の夢は田舎である地元にディスカウントショップを作ることであった。

 彼女の変容にはディオーグですら興味を持ったようで頭の中で低い声が響く。

 

(あの銀髪女、だいぶ雰囲気変わるな。言い方ひとつでここまで違うものか…)

(お前が驚くことって余程だよな…)

『うげー…あの女ってたしか北欧だよな…』

(なんかあったか?)

『いや北欧って何度か行ったことあるんだけど、ヴァルキリーを筆頭に多くの戦士どもから逃げてきたけど、あの手の方言で話す奴って高確率で手練れが多いんだよ…』

 

 大一やディオーグと違って、げんなりした雰囲気でシャドウは答える。これだけで彼が北欧で経験したことはかなり手痛いものであることを察せられる。裏を返せば、ロスヴァイセの実力が意外な方面から裏付けされた証拠でもあった。

 電話を終えたロスヴァイセは軽く咳払いをして取り直す。

 

「…すみません。まさか、実家からいきなり電話がかかってくるなんて…。ついでなので、魔法の使い手だった祖母にも強固なセキュリティーを突破できる術式について聞いてみましたが…かなり厳しい見解を口にしていましたね。私もその可能性があると思ってはいたのですが…」

「それはなんですか?」

「裏切り者です」

 

 一誠の問いに、ソーナが代わりに簡潔に答えた。この地域一帯は3大勢力の同盟関係でも重要なもので、多くのスタッフが在住する。そのため怪しい者が踏み入れようものなら、誰かが感知できるようになっている。そうなるとここまで深く気づかれずに侵入するには裏切り者の存在が危惧された。それこそ3大勢力の同盟が決められた会談の際に、ヴァ―リが裏から手を引いた時のように。

 そうなれば疑われるのはこの場にいる者達が可能性としては高いが…。

 

「俺たちのなかに裏切り者がいるってんですか!?」

「私も裏切り者がいるなんて信じてません。けれど、襲撃犯は油断のできない相手です。目的はレイヴェル・フェニックスさんなのかどうかすらも断定はできません。しかしただで見過ごすほど、私達も甘くありません」

 

 匙の納得できなさそうな様子をたしなめるようにソーナは話す。彼女のハッキリとした言葉はすでに次の動きを練ってあるのと同時に、今回の一件について襲撃者への並々ならぬ怒りが込められていた。

 

「さて、連れていかれてしまった搭城さんたちについて───」

「会長!」

 

 ソーナの話を遮ったのはシトリー眷属「僧侶」の草下であった。かなり興奮した様子で息を切らしている。

 

「…オカルト研究部の1年生を連れ去った者から、連絡がありました」

 




方言はたまに本当に外国語に聞こえるくらいのものがありますよね。
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