D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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ソーナさんは本当によくここまでやるよ…。


第131話 魔法使いとの対決

 静寂に包みこまれる深夜であったが、最寄りの駅に集まっていたメンバーの心情は静かさとはまるで無縁であった。襲撃犯たちへの怒りはそれほどのものであった。

 大一達がこの場所に来たのは、襲撃犯からの連絡があったからであった。連れていかれた3人を返すにあたり、グレモリー眷属、兵藤大一、紫藤イリナ、シトリー眷属で地下のホームに来るように指示されていた。グレモリー眷属と分けられている辺り、すでに大一の立場は一誠達とは違ったものであることは周知の事実のようであった。

 指定された地下ホームは冥界とも通じている。大一達も夏休みに利用した駅だ。この場所を通じて冥界から侵入しても感知は出来るはずなので侵入経路とは考えにくいが、グレモリー領にある列車用の次元の穴はすでに封鎖されている。さらに駅周辺を3大勢力のスタッフたちが囲んでおり、相手を追い詰めている状況とも見られる。

 準備万端ではあったが、突入前にゼノヴィアがふと疑問を提示する。

 

「グレモリーの指揮は誰が執る?」

 

 至極単純だが当然の疑問であった。リアスが不在である以上、副官である朱乃あたりが候補に上がりそうなものだが、ソーナが眼鏡を上げながら答える。

 

「問題ありません。有事のため、生徒会、オカルト研究部の指揮は私が執ります。リアスにもそのように任されておりますから。『王』不在で当惑することがあるでしょうけれど、私の指示に従ってくれますね?」

『はい!』

 

 ソーナの問いに全員が反応する。夏のゲームでの苦戦、格上のアガレス家に戦略によってもぎ取った勝利、彼女の実力においてはグレモリー眷属はよく知るところであった。

 敵地へと赴く前にソーナがグレモリー眷属のメンバーに現在の使える能力などを確認している頃、一誠が大一を小突く。

 

「どうした?」

「いや…あの人って誰かなと思ったんだけど、兄貴知っている?」

 

 一誠の視線の先には外国人男性が静かに立っていた。髪は灰色で目元が隠れるほど長いが、それを差し引いても整った顔立ちであった。それ以上に目を引くのはサイラオーグに匹敵するほどと思われる肉付きの良い体格であった。

 

「いや、知らねえが…椿姫さん、そちらの方は?」

「ええ、こちらの男性は駒王学園大学部に在籍する大学生の方でシトリーの新しい『戦車』です」

 

 椿姫の返答に、一誠は驚愕し大一は腑に落ちたように頷く。男性は大きな反応は見せずに、静かに短く自己紹介を行う。

 

「…ルー・ガルーと呼んでくれ」

「私達はルガールさんと呼んでいます。2人もそのように呼んであげてくださいルガールさん、今回は外でのバックアップをお願いします」

「…ああ」

 

 椿姫の指示に頷いたルガールはそのままこの場を離れる。その後ろ姿を見ていると、今度は天井から声が聞こえた。

 

《マスター、周辺の準備は整ったようですぜ》

 

 グレモリー眷属が天井に目を向けると、シトリーの魔法陣から頭だけひょっこりと逆さまに出している。ただしその顔は髑髏の仮面に覆われており、その仮面は見覚えがあるものであった。

 一誠は天井を指さしながら叫ぶ。

 

「グ、死神(グリム・リッパ―)じゃないっスか!」

「こちらは私の新しい『騎士』───」

《…あっしはベンニーアと申します。…元死神であります》

 

 天井からふわりと降りてきた小柄な死神は自己紹介と共に髑髏の仮面を外す。眠そうなぼんやりとした目つきに金色の瞳は深い紫の長髪と合っており、この格好でも可愛らしさを抱くほどの少女であった。

 死神といっても彼女は最上級死神のオルクスと人間の間に生まれたハーフで、ハーデスのやり方についていけずにソーナ相手に打診を入れたとのことだ。しかもソーナが元々予定していた「騎士」の当てが外れたタイミングでだ。

 この情報だけではとてつもない怪しさを抱かせる彼女であったが、ソーナはある一点に置けることで信頼して眷属にしたのだと話す。

 ベンニーアは色紙を1枚、一誠へと突き出した。

 

《おっぱいドラゴンの旦那。あっし、旦那の大ファンですぜ。ほら、マントの裏はおっぱいドラゴンの刺繍って具合です。サインをひとつお願いできませんかね?》

 

 全員が納得できて、大一のみが納得したくない理由であった。もちろん母型の血が濃い彼女からすればハーデスや父のやり方に辟易していたのは事実であるが、おっぱいドラゴンのファンという肩書きがそれ以上の説得力を有しているのも事実であった。

 サインを貰って小さく満足げな表情をするベンニーアに、ソーナが声をかける。

 

「ベンニーアもルガール同様、外でのバックアップをお願いできますか?」

《イエッサーですぜ、マスター。同期の大柄あんちゃんと共に外で待機してやす》

 

 ベンニーアは足元に魔法陣を展開させるとそこに潜り込んで消えていった。悪魔たちとはまるで違う転移の仕方に小さな関心を大一が抱く中、ディオーグとシャドウが先ほどのメンバーについて会話する。

 

(あの獣のような生命力の男に死神のチビ女…実力を試してみてえな)

『はー、シトリー眷属は吸血鬼対策であのメンツを選んだのかねえ…。いかにもな特徴持ちだ。しかし死神から裏切り者とは…組織である以上は仕方ないものかねえ。まあ、敵勢力に起こったことが自分達では起こらない、そんな考えは傲慢もいいとこだ。こちらも可能性は考えることだね』

 

 シャドウはいつもの甲高い声を崩すことなくあっけらかんと忠告する。その言葉は誰にも気づかせることなく大一の心を曇らせた。否定したい憶測を後押しするような意識が、己の身の中にあるというのは居心地が悪かった。だが今後の戦いや立場から最悪の状況は想定しなければならないのだ。

 大一は自分を落ちつけるように深く息を吐く。

 

(…わかっている。少なくともその可能性を否定するわけにはいかないからな。まずはやることをやるだけだ)

『僕に狂わされた時よりも割り切りが良くなった?』

(俺だって色々な経験してきただけだよ)

 

 大一が短く答え終える頃には、ソーナが一誠の現状の出来ることを把握して作戦を組み立てていた。間もなくソーナがメンバーに作戦を伝えると、一行は駅のエレベーターから降りて地下へと向かっていった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 冥界行き用のホームの奥へと進んでいくと、早々に不穏な気配が感じられた。それを機にソーナが立案した陣形を整えると、先へと進んでいく。そして通路を抜けたところで地下の開けた空間に足を踏み入れた。そこには視界から外す方が難しいほどの多くの魔法使いで埋め尽くされていた。総数はゆうに100を超えていると思われる。

 その数を相手に早速啖呵を切ったのは一誠であった。

 

「来てやったぜ?俺の後輩はどこだ?」

 

 この言葉に魔法使いたちは小さく笑ったり、肩をすくめたりと多様な反応を見せていたが、決して気持ちの良い反応とは言えない。

 一誠の言葉に返答はせずに、ひとりの魔法使いが前に出てきた。

 

「これはこれは、悪魔の皆さん。『若手四王』のグレモリー、シトリーの皆さんが俺たちのために来てくれるなんて、光栄の限りだ」

「あなたたちの目的はなんですか?フェニックス?それとも私たちでしょうか?」

「どっちもですな。ま、フェニックスのお嬢さんは大事に扱っているんで。そうしろと、リーダーの命令なんですよ」

 

 どうも相手の話しぶりではフェニックスの件についてはすでに終わらせているようであった。そしてもうひとつの目的であるのはメフィストフェレスを筆頭とした魔法使い理事から高い評価を与えられた「若手四王」の実力を試したいというものであった。

 話していた魔法使いが指を鳴らすと、他の魔法使いたちが攻撃用の魔法陣を展開させる。

 

「やろうぜッ!悪魔さんたち!魔力と魔法の超決戦ってやつをよ!」

 

 この言葉を皮切りにあらゆる属性の魔法、使役された魔物が一斉に向かってくる。感知するのも途方無く感じるほどの攻撃であったが、全員の耳につけられている通信装置からソーナの声が響いた。

 

『───では、見せようじゃありませんか。若手悪魔の力を───。駒王学園の悪魔を敵に回したことを後悔させてあげましょう』

 

 早速動いたのは前衛にいたゼノヴィアであった。エクス・デュランダルから放たれる聖なるオーラを斬撃へと変化させた攻撃で向かってくる魔法を一気に打ち砕いていく。中衛のロスヴァイセも彼女の後ろから魔法によるフルバースト攻撃で、相手の魔法を一気に落としていく。

 大一も龍人状態に変化すると、シトリー眷属「戦車」の由良と共に前に出る。大一は魔力を込めた魔法陣を展開させ、由良の方も巨大な光の盾を発生させて敵の広範囲の攻撃を防いでいく。

 

『良い盾だな、由良』

「先輩の防御にも負けませんよ」

 

 彼女の盾は人工神器「精霊と栄光の盾(トゥインクル・イージス)」、精霊と契約してそれらを宿らせることで特性を変えるというものであった。シトリー眷属は彼女以外にもアザゼルから人工神器を渡されており、それを見事に使いこなしていた。

 最初の攻撃を凌ぎきって攻撃に転じると、「騎士」の巡が相手の防御魔法陣ごと叩き斬る。彼女の人工神器「閃光と暗黒の龍絶剣(ブレイザー・シャイニング・オア・ダークネス・ブレイド)」はその攻撃力に定評があった。もっともこの神器自体はアザゼルは黒歴史的なものだったが…。

 これにイリナも参戦して量産型聖魔剣で敵を斬り伏せていくのが視界に入ると、魔力を撃ち出していた大一の口からディオーグの重い声が漏れだす。

 

『おい、小僧!接近して攻めるぞ!』

『今回の俺らは防御と感知、かく乱が役割だ。積極的には攻めない。一誠だってそうだしな』

『チッ!つまらねえ!』

 

 ディオーグは苛立つように舌打ちする。食い下がらない辺りは彼としてもチームへの貢献という感情があるからだろうか。

実際、今回の戦いで兵藤兄弟はバックアップ的な面が強く、一誠もスキーズブラズニル(一誠は「龍帝丸」と名付けたらしい)に掴まって戦場を動き回っていた。彼の役目は匙のラインを使って仲間達への譲渡を決めることであった。

 匙がヴリトラ系の神器を使って捕縛と魔力を搾り取ると、一誠は彼のもとに降り立って力を譲渡する。匙は自身に繋がっていたラインをロスヴァイセに渡すと、敵は魔法の力を抜かれて倒れていくのに対して、彼女の方は強力なオーラを纏い攻撃が強化されていった。

 こうなると匙も狙われるが、彼は「兵士」の仁村が護衛して向かってくるのを徒手空拳でなぎ倒していった。

 苦心した魔法使いは今度はキメラの軍団で攻めたてるが、前衛のゼノヴィアがそれを斬り伏せていく。パワーはもちろんのこと、擬態と閃光のエクスカリバーの能力も使うことで多様なキメラ軍団を瞬く間に薙ぎ払っていった。さらにソーナの助言もあって、支配の能力を使い炎を操ることにも成功させている。

 すでにこの戦場ではソーナの戦略がことごとく嵌っており、相手もそれには気がついていた。

 

「シトリーの頭も狙えッ!」

「会長や後衛陣をやらせないわ」

 

 魔法使いたちは標的を後衛にいるソーナに定めるが、今度は「僧侶」の花戒が人工神器による結界で防いでいった。

 数が通じないなら破壊力とばかりに相手は巨大な岩石を出現させる。その質量は見ただけでも間違いないものであったが、それに対して朱乃が動いた。彼女が撃ち出した雷は東洋の龍の形をしており、その巨大な岩石を激しい炸裂音と共に打ち砕くと落ちてくる破片含めて飲み込んでいった。

 

「───雷光龍。イッセーくんの気をこの身で受け続いていたら、このような特殊な技ができるようになりましたわ」

『…大一の彼女、まだそれをやっていたのかい?』

『仕方ないだろ。一誠の龍の気を散らせることができるのリアスさんと朱乃だけなんだから…。それよりもシャドウ、お前も集中しろ』

 

 朱乃がロスヴァイセから学んだ防御術式で弱点であった防御の低さをカバーする中、大一は向かってくる魔法の影に隠れさせるように右腕からシャドウを触手のように伸ばす。そのまま魔法を撃っている相手の足元に潜み、不意を突いて体勢を崩させることで狙いを狂わせて同士討ちをさせていった。視認されにくい見た目と攻撃が飛び交う戦況のおかげで、予想以上に影が感知されづらかった。

 一誠が再び譲渡をすると、さすがに相手も危惧したのか彼に狙いをつける。これもシトリー眷属「僧侶」の草下が使う人工神器である大量の仮面が防いでいった。攻撃、サポート、防御を的確に役割を決めて遂行していく、全員の特性と能力をハッキリと把握するソーナだからこそできる芸当であった。

 ダメ押しとばかりに敵が出してきた巨大な氷塊を譲渡によって強化された椿姫の神器で、氷塊よりも強烈な威力のカウンターが魔法使いを襲い、この隙に一誠が全員に行きわたるようにラインを渡した。これにより全員がいつでも譲渡の力を得られるようになり、間もなく相手の魔法使いたちを全滅寸前まで追い込んだ。

 

『どうやら、初手は私達の勝ちのようですね』

 

 数十分後、敵の戦列は完全に崩れ去っていた。向かってくる魔法は相殺するか防ぐかで対応し、現れる魔法は強化した攻撃でねじ伏せる。狙いがずれて同士討ちやカウンターもあるため、下手な攻撃もはばかられる。手傷を負わせても後ろに下がってアーシアが回復できる。2つのチームをあっという間にまとめ上げて、高い戦果を出せたのはソーナの計算によるものであったのは明白であった。

 これには大一も舌を巻く想いであった。同級生のため彼女の実力は理解しているつもりであったが、「王」としての資質はリアス以上であると思わざるを得ない。もっともソーナ自身は、グレモリー眷属の個々の能力の高さを評価し、リアスが下手に策を練るよりも突っ込ませる方が戦果をあげられることと考えて仕方ないものだと判断していたが。

 完全に諦めたのか、いきなり魔法使いたちが降参とばかりに両手を上げる。

 

「…わかったわかった。俺たちの負けだよ。というよりも、リーダーが来いってさ」

 




14巻も終盤に差し掛かってきましたが…。
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