でもデザインいいですよね。
先ほどまで戦いが繰り広げられていた駅の地下ホームは、打って変わってかなり静かになっていた。聞こえるのはせいぜい一部の魔法使いが垂れ流す不平不満程度だろう。
投降した魔法使いたちは次々と捕らえられていく。大一達と敵対していた魔法使いは正規の禍の団の構成員だけでなく、本当にただのはぐれ魔法使いもいた。だからといって学校を襲撃した彼らに恩赦を施すなど言語道断であり、拘束して自由を奪っていった。
一誠、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、朱乃、ロスヴァイセ、ソーナ、匙のメンバーは投降した魔法使いが発生させた魔法陣で転移して敵のリーダーがいる場所へと赴いていた。ソーナを除いたメンバーは敵が来るように指定しており、いざという時のためにも指揮官としてソーナも向かった。そのためこの場には大一とシトリー眷属しか残っていない。この少ない数であったが、先ほどの戦闘で魔法使いたちは戦意を失ったり、気絶したりと抵抗はまるで見せなかった。併せてすでに椿姫が外のスタッフに連絡を取っていたため、あと数分もすれば彼らを連れていくための援軍がやってくる。
大一が影で魔法使いの数人を縛り上げている中、ディオーグの荒々しく不満げな声が響く。
(なんで俺らは呼ばれねえんだ!暴れたりねえ!絶対あいつらもっと強い奴らと戦っているぞ!)
(可能性は高いよな。心配だ)
『わざわざ大一は来るなと名指しされたくらいだから、キミと相性が悪い奴とか?』
シャドウの問いに大一は分からないというように肩をすくめる。シャドウの思った理由があるのか、グレモリー眷属で無いから興味を削がれたのか、それとも別に何か理由があるのか…考えついても小猫たちが実質的に人質である以上は相手の言うことに従うしかなかった。
「痛って!もっと優しくしろよ!」
大一の足元ひとりの魔法使いが吠える。共に影で縛られている2人はすっかり意気消沈していた。ただのはぐれ魔法使いであったが、学校襲撃の反省の色は見られなかった。どうも今回の一件で禍の団に協力したはぐれ魔法使いは揃いも揃って力を試したがる輩ばかりであり、同時にこれほどの混乱を起こしても逃れるつもりでいた。
非難するような視線を向ける大一であったが、シャドウがなだめるように声をかける。
『どこにでも僕のようなはみ出し者はいるもんだ。いちいち相手にしていたらきりがないぜ?』
「それもそうだが…」
頭では理解してもそれを受け入れるのは簡単なものでは無く、同時にシャドウの話す通り今の大一ははみ出し者と認定されてもおかしくない立場を経験していた。いかに自分が悪魔として恵まれているかを実感せざるをえない。
「大一先輩、もうすぐ外のスタッフが来るそうですよ」
「ああ、わかった。ほら立て」
シトリー眷属の由良に言われて大一は考えを払うように頭を振ると、縛っていた魔法使いに指示を出す。不満を漏らした相手は軽く舌打ちして指示に従うと、ホームの後ろの方へと移動していった。
あとは増援を待つだけの単純な作業になると思われた矢先、ディオーグの警戒するような声が彼の頭に静かに重く響いた。
(…なにか来やがったな)
これに反応した大一はすぐに振り返る。一誠達が転移した辺りに魔法陣が展開されていた。紋様は先ほどのものとは違っており、そこから3メートル以上はある大男が現れたのだ。
これほど目立つ男の登場に誰も気づかないはずがなかった。大一とシトリー眷属はすぐに警戒し、捕まっていた魔法使いたちもキョトンとした表情で現れた男に視線を向ける。
現れた男の方はその視線に気にする素振りも無く、首の付近をその大きな指で掻いていた。身が詰まったはちきれんばかりの筋肉をタンクトップに包んでいる。上半身が山のような印象を抱かせるが、身体に対して短い下半身もズボンの上から分かるほど屈強であった。薄い紫の髪は無造作に伸びており、顔は獅子鼻に出っ張った唇と岩を削りだして作ったような雰囲気であった。やる気が感じられない垂れ下がった眼とはまるでミスマッチだ。
「あなた達の仲間?」
「知らねえよ、あんなデカぶつ!」
花戒の問いに近くにいた魔法使いが叫ぶ。彼らにとっても予想外であった謎の訪問者は大きくあくびをした後に軽く首を曲げて全員を見渡した。
「誰だ?」
「誰…あー…ギガンと呼ばれている」
大一の問いに謎の巨漢…ギガンはその見た目にピッタリの低温で答えるも、すぐにぼそぼそと独り言をつぶやく。
「名前…バレるか?いやこんな名前を覚えるのがいない…じゃあ、別にいいか」
「お前も『禍の団』か?」
「『禍の団』…そうだな」
「ほ、本当か!だったら、助けてくれ!俺らは『禍の団』の術者だ!」
後ろで捕えている魔法使いたちが騒ぎ出すが、ギガンはそれに対してまるで表情を変えなかった。そのガタイの割りにはぼんやりとしたやる気の無さが感じられるが、「禍の団」のメンバーとなれば油断は出来ない。魔法使いが話すリーダーに命令されてこの場に来たのかと思ったが、魔法使いの誰もがギガンを知らないのは不思議であった。それとも独自に動いて彼らを救いに来たのだろうか。
そんなギガンを前にして、椿姫が大一の隣に立ってキッパリと言い切る。
「もうすぐここに3大同盟のスタッフが来ます。あなたひとりで何をするつもりですか?」
「もうすぐはない。ここに来る前に手は加えた」
この言葉に疑問を感じるメンバーであったが、間もなく後方にいた草下が声を上げる。
「大変です!通路が大量の瓦礫と岩石で塞がれています!」
「いつの間に…あなたの仕業ですか!?」
「手は加えたと言った。後は仕事だ…」
静かに答えるギガンが手の平から直径2メートルはある大きな岩石を撃ち出す。魔法陣は無く、まるでそこから生えてきたように見えた。大一とシトリー眷属は横に飛んでかわすが、向かってくる岩石は捕らえていた魔法使いたちの一組に向かっていった。
それに気づいた大一は龍人に変化すると、素早く岩石に追いついてそのまま硬度と体重を上げて叩き落とした。後ろで半泣きに叫ぶ魔法使いたちは身体を震わせながらすっかり岩のような大男に怯えていた。
『仲間だぞ…!』
「俺はこいつらを知らないし、興味もない」
怒りに声を震わせる大一の言葉に、ギガンは気怠そうな声で反応する。この様子が彼の神経を軽く逆なでしたのは言うまでも無い。
この男との戦いの必要性を覚悟したシトリー眷属も力を溜め始める。椿姫が長刀を取り出すと、後方にいるメンバーに指示を飛ばした。
「憐耶と留流子は魔法使いたちを連れて出来るだけ奥へ!残りはこの男を抑えます!」
『はい!』
椿姫の言葉にシトリー眷属が一斉に動く。「王」であるソーナがいなくてもその統制は完璧であった。
これに対してギガンはまるで動きを見せなかった。油断ないというよりも下がっていく魔法使いたちに興味が湧いていないようで、ただ戦闘準備をする大一とシトリー眷属を静かに見ていた。
大一は前に出ると椿姫の横に並ぶ。肌を刺すような緊張感がこの場を支配していた。
「…大一くん、あの男が何者かわかりますか?」
『岩石を叩き落として思ったのですが、おそらく魔力によるものです。あの感覚は我々と同じ…断定はできませんが悪魔だと思います』
「断定できないのは?」
『生命力が悪魔特有のものとは違うんですよ。いまいち活気つく感じがしない。しかし使う魔力は悪魔と同等のものです』
「なるほど…そして先ほどの一撃とあの体格を踏まえれば純粋なパワーが武器かしら」
会話の最中、ギガンは再び手の平から岩石を撃ち出す。今度は両手からであり、しかも6個も撃ち込んできた。このサイズの岩石を連射されれば避けるのも一苦労だが、その場にいる全員が間をぬってかわしていく。
反撃に出ようと構えるが、ギガンの動きの方が速かった。見た目と雰囲気以上にスピードは速く、一番近くにいた大一に対して強烈な横フックをお見舞いする。
自身の体を半分以上占めるほどの大きさの拳を受けた大一は一撃で吹き飛ばされる。なんとか空中で体勢を立て直すと、壁に激突する寸前に着地をした。骨をきしませるような痛みを感じるが、この程度で済んだことが幸いとすら思ってしまう。
『ちょっと大一!魔力の上げ方、甘いよ!』
『いや…確かに最高まで上げていないが、かなり魔力は込めていた。硬さと重さは相当なものだったんだぞ。それでもあいつは軽々と腕を振りぬいてきたんだ』
シャドウの警告に大一は油断なく答える。ギガンに視線を向けると、殴ってきた彼の腕自体がまるで岩によって形作られていた。ギガンは腕自体を岩へと変化させてそこから更に魔力を使って強化しているのだろう。様々な悪魔を見てきた大一であったが魔力を別のものに変化させても、身体を別の物質に変化させるのは初めて見た。いよいよ悪魔なのか怪しくなり、先ほどの自分の発言を取り消したい想いであった。
そしてそれ以上に強く疑問を抱いてしまうのは…
『ディオーグ、今の感覚…』
『あの盾と槍を持った変な奴と同じ魔力だな。なぜこいつが?』
ギガンの一撃を受けたと同時に、彼はかつてクーフーと武器をぶつけた時と同じような魔力を感じた。ごくわずかでありながら、クーフーの時よりもハッキリと感じ取れたのは1度感知したことがあるからだろうか。しかしこの魔力は言葉では説明できないような違和感があり、直感的に自分や仲間達の持つ魔力とは違うものであると自覚していた。
『小僧、影野郎、気を抜くな。あれは奇妙な奴だぞ』
『わかっている』
『僕らも充分に奇妙だけどね』
油断なく大一が構える中、対するギガンは大一を殴りつけた岩の拳を軽く開いたり握ったりを繰り返していた。
「ん…なるほど。分かったことだし、次は───」
「隙あり!」
巡が「騎士」のスピードを活かし、一気に通り過ぎる。その間際に強烈な一太刀をギガンの腹部に入れていた。だがギガンは特にダメージを負った様子も無く、気怠そうな瞳で巡を睨みつけた。
「よそ見禁物だ!」
お次は由良が「精霊と栄光の盾」で攻撃を仕掛ける。ただ守るだけの盾ではなく、回転させることでヨーヨーや丸ノコのように攻撃へと転換させることもできた。精霊を宿したことで炎と雷の属性までついており、先ほどは魔法使いたちの防御魔法陣を軽々と破壊していった。
ギガンはこれを岩の片腕で防ぐ。盾は回転を止めなかったが、ギガンの方も直立不動で山のように動かない。やがて音を上げたのは由良の方で盾の回転を止めて自身の手元へと戻した。
この攻防に対して、椿姫がインカムを通して全員に語りかける。
『並みの防御魔法陣なら難なく破壊する巴柄と翼紗の神器を防ぎ、防御に定評のある大一くんをあっさりと破るパワー…これは並大抵の相手じゃありません』
『となれば、狙うのであれば副会長のカウンターですか?』
『そうだと思います』
巡の問いに椿姫は小さく頷いて答える。実際、この場にいる全員が思っていたことだろう。この「戦車」の特性を形にしたような巨漢を倒すにあたり、一番可能性があるのが彼女の神器「追憶の鏡」によるカウンターが確実だろう。
『椿姫さん、その言いぶりだとすでに考えはあるように聞こえますが…』
『察しが良くて助かりますよ、大一くん。伊達に私とも付き合いの長さはありますね。会長ほどではないですが、作戦はあります。ぶっつけ本番ですが…まずは時間を稼ぎましょう。手数で攻めます』
椿姫の合図と共に全員が動き出す。大一と椿姫、花戒は魔力の塊を撃ち出し、巡は遠距離から斬撃を飛ばす。由良は合間に「戦車」のパワーで瓦礫を数個投げつけていた。どの攻撃もギガンはうっとうしそうな表情をするだけでダメージは見られなかった。しかし最初の攻防で彼らもそれはわかっている。この攻撃にあたり5人は足を止めないことが重要であった。これにより短時間であるが、椿姫が全員に作戦を伝えることが出来たのだから。
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同じ頃、一誠達もとてつもない戦いを繰り広げようとしていた。彼らが招かれた場所はフェニックスの涙の模造品を生成する工場であった。次元の狭間の一画に作られた場所で、フェニックス家のクローンを使って模造品を生みだすという非人道的な方法を行っていた。今回、レイヴェルを連れ去ったのはその模造品の精度を上げるために、魔力などのデータを取るためであった。彼女を守るために小猫とギャスパーも連れさらわれてしまい、特にギャスパーの方はかなり手痛い暴行を受けていた。
敵の行いに憤怒を抱くが、それに想いを馳せる間もなく龍門から現れたドラゴンと戦闘になっていた。かつて暴虐の限りを尽くして初代ベオウルフに討伐されたはずの伝説のドラゴン、「大罪の暴龍(クライム・フォース・ドラゴン)」の異名を持つグレンデルであった。
この戦いに一誠はドライグを起こそうとするが…
『…おっぱい…おっぱい、怖いよ』
目が覚めたと思えば、まったく年齢にそぐわない話し方でドライグが反応する。ソーナの仮定ではあるが、精神的な負担と一誠の蘇生に力を使いすぎたため一時的な幼児退行になっているとのことだ。
「ドライグ!いや、ドライグくん!おっぱいは怖くない!おっぱいはとても柔らかくて、いいものなんだ!」
『…ずむずむいやーんって、心の奥にまでずーっと残ってるの…』
一誠の励ましにも、ドライグは怯えたようにトラウマを口にする。ただこんなふざけた状況であっても、彼の意識を引っ張ってこられるチャンスは残っていた。ヴリトラに加えて、もう1匹龍王相当のドラゴンがいればそれが可能であり、同時にこの中で匙ともうひとり、ドラゴンを呼び出すことが出来る少女がいた。
「───我が呼び声に応えたまえ、黄金の王よ。地を這い、我が褒美を受けよ。お出でください!黄金龍君!ファーブニルさんっ!」
アーシアが力強い呪文を唱え終わると、黄金の魔法陣からグレンデル相当の体格を持つ黄金の龍が現れた。かつてはアザゼルの人工神器に身を宿し契約していた五大龍王の1匹ファーブニルであった。前線を引いた彼はアーシアの魔物使いの才能に目をつけて、彼女にファーブニルを契約させていた。
ただしファーブニルにはそれ相応の対価が必要であった。アザゼルはかなりのお宝を用いたが、アーシアの場合は…
『───お宝、おパンティー、いただきました。俺様、おパンティー、嬉しい』
ゲスの極みであった。しかもこれによってファーブニルの協力を得ると、本当にドライグの意識を取り戻すことが出来たのだから極みをさらに上回る酷さが確立されていた。
『───っ。…はっ!お。俺はいったい何をしていたんだ!?あ、相棒じゃないか!』
「うぅ、ようやく戻ってきたんだね、ドライグ…。おまえを復活させるための犠牲はあまりに大きかったんだぞ…っ!」
目に見えないながらも何か大きなものを失ったことに、一誠は本気で涙するが同時にその感情は力となって爆発した。
「アーシアの思いを無駄にはしないッ!禁手化っ!」
カウント無しで一瞬で鎧を身にまとえるようになった一誠を筆頭に、彼らはグレンデルとの激闘を始めるのであった。
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ほぼ同じ時間で大一とシトリー眷属も謎の襲来者を相手に挑み始めていた。
『さて…やりますか!翼紗!』
「了解!」
最初に動いた由良は再び巨大な瓦礫を投げつける。さすがにその大きさは煩わしく思ったのか、ギガンはその丸太のように太い腕で瓦礫を殴り壊す。岩石化させなくてもその腕力は確かであった。
次に彼女とは反対側にいた大一がシャドウを伸ばして相手の脚を絡め取ろうとする。下半身は貧弱に思えたが、それは上半身と比べてというだけであっさりと影を引きちぎられる。
ギガンは腕を伸ばして両側にいた2人に岩石を一発撃ちこむが、2人とも盾や防御魔法陣で防いだ。ギガンとしてもこの2人を倒すのはもう少しパワーが必要だと感じたのか、グッと拳を握って力を入れ始めた。
「動きは遅い…お次はこれよ」
立ったままのギガンの周囲に花戒が魔力による煙を展開させる。殺傷力はまるで無いが、魔力感知を鈍くさせる効果がある。もっとも感知にある程度秀でていれば、苦にもならないレベルであった。
それでもギガンの視界と感知を抑え込むのにはかなり効果があった。このタイミングで巡が地下ホームを縦横無尽に動いて斬撃をあらゆる方向から飛ばしていった。ギガンとしては浴びるほど受けても手傷を追わないものの、煩わしいことこの上なかった。
「さっさと頭数を減らすか…」
小さく呟くギガンは猛烈な回転音が聞こえてくるのに気がついた。それが先ほどの盾だと気づいたギガンはもはや受けるつもりは無く、わずかに身体をずらして向かってきた盾を避けると同時に、その方向に飛んでいく。
煙の一帯を出ると由良が盾を飛ばしていたのが視界に入る。彼女と共にいた大一は防御魔法陣を展開させるが、ギガンからすれば自分に向かってくる相手の行動全てが面倒であった。腕を岩石化させて振りかぶり、その魔法陣ごと叩きのめそうとするが…
「これで…終わりです!」
ギガンが腕を振り下ろした瞬間、椿姫が魔法陣との間に割り込む。その前には「追憶の鏡」が展開されており、ギガンの拳は鏡へと叩きこまれる。
鏡が割れると、その威力をさらに高めた強烈な波動がギガンを襲った。目と鼻の先から向かってくる波動を避けられないギガンの岩へと変化した片腕は砕け散り、その波動の余波も身体に痛烈なダメージを与えていった。自身の破壊力をまともに受けたギガンはそのまま虚ろな瞳で後ろに倒れ込むのであった。
いやー、あっさり勝負がつきましたねー。