D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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今更ですが原作14巻はレイヴェルメインの巻でしたが、私の方では全然でした。
代わりと言ってはなんですが…。


第133話 岩石の男

 作戦は実にシンプルなものであった。大一と由良が攻撃をして注意を引かせて、ギガンの攻撃を誘発する。出来るだけ離れることで遠距離の岩石攻撃を発動させると、それを防ぐことで生半可な一撃ではやられないことを相手に実感させる。そこから花戒と巡のコンビネーションで足止めと相手の苛立ちを募らせる。そのタイミングで感知しやすい攻撃を行うことで、ギガン自身が直接攻撃のために接近してきたところを狙い、椿姫が割り込んでカウンターを決める。この一連の動きは完璧に再現された。

 そのおかげでギガンの片腕は粉砕され、仰向けになった巨体にはまるで活力が感じられなかった。それでも警戒して近寄れず、大一が目の前の倒れた巨体を感知した。

 

『…魔力も生命力も感じられません。おそらく死んだはず』

「ここまで上手くいくとは思いませんでした」

 

 肩で息をしながら椿姫が誰に向けてでもなくポツリと呟く。「王」不在という不安を最も強く抱いていたのは指揮を執った彼女だろう。椿姫の心に背負った重さを察するに余りある反応であった。

 しかしこの男を倒すことが出来たのも彼女のおかげであった。即興の作戦ではあるが単純ゆえに全員が役割を果たせ、しかも効果は絶大であった。これには唯一眷属でない大一も敬意を感じる。

 

「…彼は何者なんでしょうかね?」

 

 倒れたギガンを見ながら花戒が疑問を口にする。「禍の団」の構成員であることは本人が口にしていたが、その割には魔法使いには目もくれていない。この男には何かしらの仕事があったようだが、その目的が明かされていないのだ。

 

「いずれにしろ、彼の身体も運び込むためにも人手が必要となります。憐耶達と合流して、瓦礫を退かさなければなりませんね」

 

 シトリー眷属は仲間達と共に後退した草下と仁村のもとに戻ろうとする。ひとまず戦闘に区切りがついたことで、気持ちに余裕が生まれていた。

 その一方で、大一は未だに緊張感を抱いていた。もっともそれは戦いの緊張感とは別物で、ギガンについての疑問が深まっていたからだ。クーフーに対してわずかに感じた同じ魔力は、静かに潜みながらも自分を惹きつけるような感覚であった。また「禍の団」でありながら、独自の立ち回りをしていた点もクーフーと重なる。それらを踏まえると、この男から得られるかもしれなかった情報は少なくなかっただろう。

 ただ大一が緊張感を抱き続けて龍人状態を解除していなかったのは、幸運であった。その理由は間もなく行動によって証明される。

 

『危ない!』

 

 叫ぶと同時に大一は義手から黒い影を伸ばすと、由良を捕まえて自分の方へと引っ張り込む。由良はこの突発な行動に驚くも、身体を引っ張られて間もなく彼女が先ほどまでいたホームの床から巨大な突起が出現していた。そのままであれば地面から強襲を受けていたのは間違いなかった。

 すぐに椿姫、巡、花戒もその突起から距離を取ると、再び戦闘態勢を取った。驚いた由良の方は少し荒い呼吸をしながら大一に礼を言う。

 

「せ、先輩、ありがとうございます」

『気にするな。それよりも…』

 

 大一の視線は突起の根元から移動して少し先の誰もいない床へと到達する。そこから大きな腕が生えだすと、落ちた穴から這い上がるような動きで全身を岩石化させたギガンが現れた。

 

「避けた上に俺の場所も感知している…まあまあだな」

『お前、やられてなかったのか…!』

「あの程度じゃまだまだ」

 

 まるで地面から生まれてきたような雰囲気であるギガンは、岩石の身体を元の状態へと変化させる。筋骨隆々の大男には先ほどのカウンターによるダメージはまったく見受けられず、相変わらず気怠そうな目で彼らを見ていた。

 間違いなくカウンターを決めたと確信していた椿姫はギガンへの驚きを隠しきれない声で問う。

 

「さっきのカウンターをどうやって避けたというの…!」

「お前らの煙を利用しただけだ」

『…ああ、そういうことか』

 

 この場で唯一納得した様子を見せたディオーグの声に、大一がさらに追及する。

 

『どういうことだ?』

『お前らが目くらましに使った煙の中でこいつは分裂かなんかであの偽物と入れ替わったんだよ。そして本体は床に同化して姿をくらませ、油断したところを襲撃したんだ』

『あの岩石が偽物なのが信じられない。あれには生命力もあったんだぞ』

『可能性を挙げるとしたら、あのデカぶつは自分が作り出した岩にも生命力を付随させられるってことなんだろうよ。あいつ自身の生命力が強くないからこそ、見分けがつかずに気づけなかったってところか』

 

 ディオーグの考えは実際正しかった。足止めと目くらましのために行ったあの煙の中で、ギガンは岩の分身を作り上げて自身はその場の床と同化していた。そしてただ静かに次の一手を決めるチャンスを伺っていたのだ。ディオーグの言葉を証明するかのように、先ほどまでカウンターを受けて倒れていたギガンの分身は石となってその場に崩れていった。

 

『むしろ本調子でないとはいえ、俺の感知すら欺いた早業も見事なものだ。相当な手練れだな、こいつは』

 

 感心するディオーグであったが、彼以外のメンバーは別ベクトルに緊張を昂らせていた。短いながらも全力を出した彼らのコンビネーションがまるで通じていなかったのだ。再び戦うにしても、ギガンに与えられた精神的なショックは決して小さくない。

 また大一は他の皆以上に危機感を抱いていた。ディオーグと融合して数か月経ったが、彼ほどの実力者が感心する相手もほとんど見てこなかった。それ故に彼の反応が、いかに相手が強者であるかを証明しているのを理解していたのだ。

 

「さて、仕切り直しといこうか」

 

 軽く拳を合わせて鳴らすと、ギガンは片腕をホームの床へと突っ込ませる。正確には拳がボロボロの床の地面を一体化させていた。そのまま腕を下から上に持ち上げると、刃のように尖った岩が地面を割って飛び出して一直線に大一達へと向かっていく。

 翼を広げると大一達は宙に浮いてこの攻撃を避けた。駅のホームとはいえこれほど開けた場所にはそれなりの高さもあるため空中の回避も可能であったが、これを見越していたかのようにギガンは岩石を砲撃のように発射してきた。

 飛んでくる岩石は大一と由良が前に出て防御魔法陣と盾で防ぎきる。先ほどよりも連射して視界は遮られやすく、おまけに一撃の重さも上がっていた。空中ゆえに姿勢も崩しやすく、この岩石の攻撃に大一も由良も動きが止められた。ようやく攻撃が止んだかと思えば、今度はギガンの姿が再び消えていた。

 

「どこに───」

 

 呟く椿姫の言葉は続かず、代わりに何かを叩いたような音が響いた。大一がその音で後ろを振り向くと、椿姫が上からギガンに殴りつけられてそのまま床へと叩きつけられた。岩石を撃ち出して注意を引きつけている間に、今度は天井に同化して真上から彼女を奇襲したのだ。

 

『副会長!』

 

 シトリー眷属が叫ぶが、椿姫は床にうつ伏せに横たわったまま答えなかった。わずかに呼吸で身体が動いていることから生きているだろうが意識は完全に途切れており、殴られた時の音から相当なダメージを負ったのは間違いなかった。

 

「まずひとり」

「よくも!」

 

 花戒は魔力を変化させて水流と電撃で攻撃するも、ギガンは全く気にせずに腕を岩へと変化させて攻撃を防ぐ。そのまま落下していくのを見ると、巡と由良が追っていった。倒れた椿姫を追撃するように思ったのだろう。

 しかし実際は彼女に攻撃はせずに、プールに飛び込むように床へと飛び込んでまたもや同化した。そのまま降りた地点周辺から床を隆起させると岩の触手を数本伸ばして、降りてきた2人の身体を締め付けた。

 

「こ、これは…!」

「苦しい…!」

 

 伸びた地面の締め付けは縄で縛られるのとは訳が違った。凄まじい圧力が全身を包み、身体の骨を全身折ろうとしているかのような苦しみを感じる。花戒が岩の触手に対してすぐに魔力を撃ち込むが、多少欠けるだけでその締め付けは緩まなかった。

 

「このまま圧殺だな」

「や、やめてよ!」

 

 どこからともなく聞こえるギガンに対して、花戒は半分涙声で抗議する。しかし彼女の訴えは届かず、巡は気を失い、由良も呼吸を荒くさせて虚ろな表情になっていった。

 このままさらに2人を倒せると思ったギガンであったが、次の瞬間に岩の触手が根元からバッサリと斬り砕かれた。さらに潜んでいた床に魔力の塊が数発飛んでくる。ギガンが床を少しだけ隆起して盾のように防ぐ間に、落ちてきた巡と由良を黒い影が静かに捕らえて地面に下ろした。

 

「…硬いな、その錨」

 

 ギガンの言葉に、大一は無言で睨み返した。シャドウに魔力を通すことは出来ないが、錨に魔力を込めることは変わらず可能であった。そこでシャドウで伸ばした腕で魔力で硬度を上げた錨を持ちハンマー投げの要領で回転しながら、岩の触手を一気に砕くことに成功した。

 せき込む由良と降りてきた花戒に、大一は指示を出す。

 

『由良、花戒。椿姫さんと巡を抱えて、草下たちと合流しろ。そして一刻も早く援軍を呼んでくれ。その間、こいつは俺が止める』

「無茶ですよ!あの男、相当強いです!いくら先輩の実力でも…」

『やらなきゃいけない時はあるものだ。全員が生き延びるにはこれしかない』

 

 それだけ言うと、大一は脚を強化して一気にギガンに接近した。牽制がてらに魔力を撃ち込みつつ、錨を持ったシャドウの手を車輪のように回していた。回転を伴って伸ばした錨の一撃はなかなか強烈で、ギガンをわずかに怯ませた。簡易版のモーニングスターのような武器となった錨とシャドウの合わせ技を、大一はアクロバティックな動きと共に加えていく。腕力と質量では劣るものの、体格差の違いから運動性と小回りの利き方において優位に立つことが出来た。

 おかげでギガンの拳は空振り、錨の攻撃に集中する必要もあるので地面に同化することもできなかった。

 

『そらそらそら!僕の柔軟性があればこれくらい余裕じゃい!』

「珍しい神器だが…その程度だ」

『だが俺の錨の硬さにはお前も警戒するほどだろう?』

「否定はしない。ただそんな動き方でやってもお前がバテるだけだ。全員殺されるのに、疲れてまで時間稼ぎをするのも無意味だと思わないか?」

『誰も殺させない』

 

 大一は相手の顔面に向かって魔力を撃ち込む。攻撃力の無さは本人が一番理解していたが、多少なりともギガンの目くらましに成功した。後ろではシトリー眷属が移動しているのを感知し、大一の動きはさらに激しくなる。

 

「あー、うっとうしい…よく自分が一番危ない状態に身を置けるものだな」

『守らなきゃいけない人たちがいるんだ!当然だ!』

「その言葉には同意しかねるな。まあ…とりあえず俺も終わらせよう」

 

 大一が大きく飛んで錨をギガンに叩きこもうとした時、彼の動きはピタリと止まった。いつの間にか彼の脚を床が飲み込んでいたのだ。

 

『いつの間に同化を…!?』

「範囲は狭くなるが、脚だけでも動かせる」

 

 答えるギガンの脚はいつの間にか駅のホームの床と繋がっていた。これにより床の岩を操って、大一の脚の動きを止めていた。さらに浸食は進み下半身を飲み込まれた大一は怯み、その隙をついたギガンの拳が彼の上半身を殴りつけた。先ほどと違って大一は硬度を最大まで上げて防御姿勢も取っていたが、飛んで衝撃を緩和することもできずに硬さと衝撃の合わさった一撃は意識を朦朧とさせる。

 この瞬間に大一を岩が飲み込み続けて、あっという間に血を流す彼の頭だけが見える状態となった。

 

『くっそ…抜けられねえ…』

「このまま圧殺か、それとも俺が殴り殺すか、一気に伸ばして天井に頭を直撃させての窒息死もできるな」

『ふざけるな…!こんなので負けるか…!』

 

 最後のあがきのように大一の後頭部からシャドウが伸びて横からギガンの頭部を狙うも、視線を大一から離さずに彼は向かってきた影を掴んだ。

 いよいよ万策尽きたと感じる大一であったが、魔力を込めるのは止めない。あらん限りの力で拘束を振りほどこうとするも、地面の締め付けは一向に変わらなかった。

 しかしその執念の表情を見たギガンは感情の籠っていない声で言葉を紡いだ。

 

「なぜここまで必死に戦える。諦めずに仲間を守ろうとする」

『理由なんて掃いて捨てるほどあるさ…!』

「…羨ましいものだな。生きる理由、戦う理由がそれほどたくさんあるとは」

 

 岩石化したギガンは拳を振りかぶると、渾身の右ストレートで捕えている岩ごと大一を正面から殴り飛ばした。大一の力でも動かなかった岩はバラバラに砕かれ、彼の身体は受け身も取れずに地面へと叩きつけられた。

 

「はあ…後はさっきの小娘ども…いやまだやるのか」

 

 呆れた声でギガンは呟く。その視線の先にはまともな呼吸もできない状態の大一が血にまみれながら立ち上がろうとしていた。義手は完全に外れており、血に濡れていない部分が少ない程であったが、その眼には朦朧とする意識の中にも確かな炎が宿っていた。

 

「今の俺のパンチで死ななかったのは褒めてやる。だが次は無いぞ」

『ああ…くっそ…次は…』

「ろくに考えも回っていないな。気力だけで立っているのか。終わらせてやろう」

 

 ギガンは歩みを進めていく。もはやこれ以上の戦いを長引かせるのは面倒であり、無意味だと感じていた。すでに雌雄は決したのだ。

 だがこの日、ギガンの方も大一達と同様に驚くことになった。突如、彼の頭部が爆発したのであった。ダメージこそ無かったものの複数回爆発し、不意打ちとしては十分であった。さらに幾重もの斬撃が飛んでくるが、これは身体を岩石化して防ぎきる。先ほどのシトリー眷属が戻ってきたものだと思ったが、太刀筋がまるで違うように思えた。極め付きは猛烈な炎の竜巻が大一の周りに展開されてギガンを寄せつけず、その中から現れた鳥を形どった火炎が命中するのであった。

 

「…誰だ?」

「それはこっちが訊きたいくらいだ。レイヴェルをどこに連れて行きやがった…!」

 

 炎の竜巻が止むと、大一の隣には激情をたぎらせたライザー・フェニックスが眷属を引き連れて立っていた。

 




じゃあ、お兄さんに頑張ってもらいましょう。
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