D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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今回で14巻分は終わりです。ライザーは良いキャラしていると思います。


第134話 抱く危機感

 大一は苦しそうに呼吸をするが、同時にドッと安心感が身体を満たしていくのを感じた。自分の手札はことごとく破られて、相手の圧倒的な強さに押し込まれていく感覚は絶望的であった。しかしそんな状況を覆せる可能性を抱くほど、かつて戦った目の前の男とその眷属たちの援軍は頼もしかった。

 ライザーはギガンから目を逸らさずに後ろにいる大一に問う。

 

「大丈夫か、兵藤大一」

『な、なんとか…』

「無理だけはするなよ。雪蘭、こいつを守っていろ」

「お任せを」

 

 チャイナドレスの少女…「戦車」雪蘭が大一の横に立つ。彼女だけではない。爆発女王の異名を持つ「女王」ユーベルーナ、「騎士」のカーラマイン、「戦車」のイザベラ、「兵士」のマリオンとビュレントがいる。大一の視線に気づいたのか、雪蘭が話し始める。

 

「他の眷属も来てここのスタッフと合流しているわ。私達は最低限の瓦礫を退かしてから、先行して来たのよ」

「その通りだ。そしたらシトリー眷属と会って、お前が奇妙な奴と戦っていると聞いたんだ」

「奇妙な奴とは…言われたものだな」

 

 感情の籠っていない声でギガンが反応する。彼の方はライザーの登場に面食らってこそいるものの、そこまで気にしている様子ではなかった。

 この岩のように動じない態度が、ライザーの神経を逆なでしていた。

 

「レイヴェルはどこに行ったか分かるか?」

『いいえ…ただ一誠達が敵のリーダーの下に行っています。あいつらがいるから無事だと思いますが…。俺と一部のシトリー眷属は残って魔法使いたちを拘束していたのですが、そこにあのギガンという男が現れたんです』

「そうか…だったら、あいつを倒してレイヴェルの居場所を問いただしてやる…!」

 

 肌を刺すような熱さの炎がライザーの身体を纏う。その魔力はかつて一誠と対峙した時と比べると、強くなっていることが確信された。

 それでも油断できない。あのギガンという男の実力、能力はそれほどの相手であるのは、実際に戦った大一が一番理解していた。息を切らしながら、大一はライザーの背中に相手の特性を伝えた。

 

『あいつの攻撃は岩が主体です。体自体を岩石化させたり、駅のホームの床など岩に関するものに同化して操ることもできます。同化して隠れられると、しっかりと感知しないと居場所を突き止められません。腕力と防御力は凄まじいものです』

「俺らの不意打ちで打ち崩せなかったからな。しかしフェニックスの力はあんなもんじゃねえよ。すぐに見せてやる、そして後悔させてやるさ!」

 

 ライザーは再び炎の竜巻を発生させるとそれを撃ちだしていく。ギガンはわずかに目を細めるが、身体を岩石化させるとその攻撃を防いでいく。熱気と勢いは間違いないが体勢を崩されるほどではない。このまま床に同化してまとめて動きを封じようかと考えたが、その直後に頭部に強烈な爆発が襲った。「女王」ユーベルーナによるお得意の爆発である。彼女の攻撃でもギガンには傷を負わせることは出来なかったが、この爆発の衝撃には気を取られた。しかもそれが顔のみを集中的に連続で爆発するものだから、彼としては堪ったものでは無かった。

 爆発で視界が防がれているタイミングでカーラマインが一気に接近する。炎を纏った剣で一太刀入れるも、当然のように傷はつかなかった。

 

「硬いにしても限度があるだろう…!」

 

 苦虫を嚙み潰したような表情でつぶやくカーラマインであったが、すぐに体勢を整えると、移動しながら連続で剣を振り始める。そこに援護を加えるようにマリオンとビュレントが魔力の塊を四方八方から撃ち出していき、多数の手数で攻めたてていった。

 ようやく攻撃が落ち着いたと思ったところで、ライザーがギガンの目の前へと現れて至近距離から高熱の炎の塊でぶつけた。その威力はすさまじく、ギガンも大きく態勢を崩した。

 しかし気怠い目はライザーから離さずに、炎でふらつきながらも強引に巨大な腕で彼を鷲掴みにする。

 

「あー…うっとうしい。統制が取れている動きは面倒だな」

「クソ…放しやがれ…!」

「ならば頭である奴を潰すだけだ」

 

 そう言うとギガンはライザーを掴む腕を岩石化させて、そのまま自分の腕ごと床に叩きつけた。ホームが揺れたかのような錯覚を覚えるほどの勢いと同時に、ライザーの苦しむような声が小さく聞こえる。そのまま彼は動かなくなった。

 

「さてこれでひとり。後は順番だな」

 

 ギガンは前に出るが、その後ろから巨大な火の鳥が襲いかかる。すぐに反応して振り返って岩石化したパンチでその鳥を打ち消すが、瞳は苛立ちに溢れていた。

 

「今の程度でやられるかよ」

「決まったと思ったが…なるほどフェニックスの特性か。それでも今の攻撃は相当なものだった。それで復活するとは、耐久の方も相当鍛えているな」

 

 炎と共に復活したライザーは不敵に笑う。ギガンの一撃はたしかに破格の威力ではあったが、復活の特性を持つフェニックス家の彼には十分に対抗することが出来た。もっともそれでも完全にダメージを無効化にすることができず、少しだけ出血していたのだが。

 

「負けてから鍛えているからな」

「しぶとさは一級品ということか」

「そう思ってもらって構わないぜ。おっと、俺の方ばかり見ていると碌なこと無いぞ。しぶとい奴ってのは他にもいくらでもいるからな」

 

 ライザーの言葉に疑問を浮かべるギガンであったが、間もなく彼の背中に強い衝撃と燃えるような熱さを感じた。あまりの威力にわずかに吐血すると、苦悶の表情で後ろを振り返る。離れた場所に息を切らした大一が座り込んでいた。

 復活間もないライザーの不意打ちは、ギガンへの攻撃だけでなく大一に向かっても炎を撃ち込んでいた。彼はそれを錨で受け止めると、周辺の瓦礫を雪蘭にセットしてもらい、その瓦礫に伸縮性に優れるシャドウを引っかけた簡易式スリングショットを作り出すと、炎を纏った錨をギガン相手に撃ちだしていた。硬度、重さは十分な上に、速度と炎も相まったその威力は見た目以上の衝撃をギガンへと叩きこんでいた。

 ギガンは軽く舌打ちすると、口から流れた血を軽く拭う。それとほぼ同時に彼の耳元に連絡用魔法陣が現れた。

 

「…わかった、時間だな」

 

 魔法陣が消えた後、ギガンは周囲を見渡す。垂れ下がった眼は相変わらずだが、その瞳には奇妙な光が宿っているように見えた。

 

「久しぶりの感覚だったな。今度会うかはわからないが、その時は全力で殺してやろう」

「待て!レイヴェルをどこに連れて行った!」

「…すぐわかる。俺は退散させてもらおう」

 

 ギガンは自分の腕を床と同化させると、自身の周囲を隆起させて刃のような岩を出現させた。天井まで伸びる刃は彼の巨体を隠し、ライザー達が全て破壊する頃にはギガン自身もその姿を消していた。危機が去って数十分後、戻ってきた一誠達は手傷を負った大一とシトリー眷属を心配し、ライザーはレイヴェルの無事にようやく胸を撫でおろすのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 襲撃のあった翌日の夜、大一は自室のベッドに座っていた。全身には包帯を巻きつけており、前日のギガンとの対決の痛みを物々しく語っている。これでもアーシアから回復は受けていたのだが、それでもなお彼が受けた傷は大きかった。

 だが彼は身体の痛みを気にしている余裕は無かった。彼の眼の前には通信用魔法陣から現れた半透明のサーゼクスが立っていたからだ。

 

『だいぶやられたようだね…これほどならもっと後にすればよかったかな』

「お気遣いありがとうございます。しかし主からの連絡を蔑ろにするわけにもいきませんので」

『…わかった。なるべく簡潔にいこう。早朝に報告があってから、事態は非情にややこしくなっている。それはキミも察していることだろうと思う』

 

 サーゼクスの言葉に、大一は無言で頷く。今回の魔法使いの襲撃において、作戦を指揮したリーダーの正体が判明した。名をユーグリット・ルキフグス、かつて戦死したと思われていたグレイフィアの弟にあたる人物であった。グレイフィアと同等のオーラを持っていたため結界を通過し、魔法使いたちの侵入の手引きが出来たのだ。

 さらに彼が連れていたグレンデルはかつて滅ぼされたにもかかわらず、肉体を持って蘇り一誠達と交戦した。それどころか龍殺しの効力をものともしなかったという報告が出ている。

 結果的にはユーグリットがグレンデルを止めて、そのまま彼がいたフェニックスの涙の偽物の工場が次元の狭間に消えたことで事態は一度終止符が打たれる形になった。

 

『ユーグリット…その名はよく覚えている。グレイフィアの身内だ。そして彼が「禍の団」に関与、いやその団員として活動しているのは非常に問題だ。これによりグレイフィアを筆頭にルシファー眷属全員に疑いがかかっている』

「裏で『禍の団』と繋がっているというものですか?」

『まあ、そんなところだね』

 

 サーゼクスは小さくごまかすような笑みを浮かべるも、その心労は決して軽いものでは無かった。行動の制限、世間から眷属たちに向けられる疑惑の念、新魔王を快く思わないものからの圧迫、他勢力からの非難、そしてなによりも愛する妻への心配…数え上げたらキリがなかった。

 そしてそれを察せられないほど大一も鈍くは無いため、サーゼクスの態度に気の利いた言葉のひとつも出せない自分を恨めしく感じた。

 

「申し訳ありません。私が彼を捕えることができれば…」

『そもそもキミは会うことを許されなかったらしいじゃないか。謝るのはお門違いというものだよ。むしろ私としてはキミの存在は幸運なんだ。現状、グレイフィアはもちろんのこと、他のルシファー眷属も大なり小なり制限が加えられている』

「…私だけが自由に動ける立場ということですね」

『もちろん、キミが大きく動く必要は無い。いつも通りにリアスやイッセーくん達をバックアップしてくれるだけでいい。しかし…もしかしたらいずれ非常に難しいことを頼んでしまうかもしれない。それは覚悟して欲しい』

 

 サーゼクスの言葉は大一に責任を感じさせないようにするには少々物足りないと言わざるをえなかった。事の重大さ、頼まれるという行為、これらは大一が背負い込む理由としては十分であった。むしろ余計な気づかいを感じさせない言い方のおかげで、大一に遠慮という感情が芽生えなかったためマシなのかもしれないが。

 

「…私は自分のやるべきことをするまでです」

『…無理だけはしないでくれよ。炎駒が心配するだろうが、私も彼と同じくらいキミを心配しているんだ』

「お心遣い感謝します」

『…そろそろ時間だ。また連絡するよ』

 

 あまり腑に落ちていない表情でサーゼクスは通信を切る。残された大一は静かに、それでいながら悔しそうに唇を真一文字に結んだ。

 接敵した後に戻ってきた一誠達が疑念の表情であったのを覚えている。ユーグリットにグレンデルとその件は彼らに動揺を与えたのは間違いないだろう。

 しかし大一にとってはそれに、ギガンへの敗北による悔しさが加わっていた。まるで歯が立たず、圧倒的な力の前でねじ伏せられたその想いは改めて自分への無力感を思い知らしていた。そして後輩たちを助けられなかったことに心を砕くような苦しさに拍車をかけていた。総じて今回の一件は疑問と後悔が入り混じり、大一にとって今後を明るく照らす要因には程遠いものであった。

 考えたあげく、ようやく彼の口から出た声は震えていた。

 

「…強くなるぞ」

(当然だ。今度は負けねえ)

『協力するよ。神器としてね』

 

────────────────────────────────────────────

 

 あくび混じりに眠そうなギガンは大きな部屋に来たが、そこにいる者は誰一人として彼が入室したことに気づいていなかった。

 白黒の髪の青年は熱心になにかの作業に集中しており、紳士はソファに座って静かに紅茶を飲んでいる。別の椅子に座っている法被姿の女性はテーブルに並ぶ食料を次々とかきこんでおり、対面に座る帽子を深く被った少年は疲れたようにジュースをストローで飲んでいた。

 

「帰ったぞ」

 

 ギガンの声は決して大きくなかったが、全員がその声に気づいたように作業を止めて扉にいるギガンに視線を向けた。

 これに歓迎の意を示したのは白黒髪の青年であった。

 

「おー!ギガン、よく帰った!無事で何よりだ」

「まあな。バーナとモックも帰って来ていたのか?」

「ほんの30分前にね」

 

 ギガンの問いに帽子をかぶった少年…モックが答える。声もその見た目相応のものであったが、疲労感漂っているように感じられた。

 そして今度は紳士がこの会話に入ってきた。

 

「ユーグリットはどうしたのかね?」

「もうすでに別の方で動き始めている。俺が殺しきれなかったことには苛立っていたが…まあ、そこまで問題にはしていないようだった。それにどうもグレモリー眷属の一部とアザゼルが吸血鬼領地に向かったようで、そっちを気にしていたな」

「吸血鬼領地か…だったらボスの護衛に行かせたあいつに連絡だけは入れた方がいいな」

 

 作業する手はすっかり止めた青年は、考え込むようにあごに手を当てて呟く。そのままブツブツと小声で自分の考えをまとめ始めるが、今に始まったことでは無いのでその場にいる誰もが指摘しようとしなかった。

 呟く青年のことは放っておき、紳士はギガンとの話を続ける。

 

「しかしアザゼルがいなかったら、私が行っても良かったな」

「万全は期するべきだろう。あんたは俺と違って、アザゼルなんかに見られれば一発で正体を看破されるからな」

「僕たちのなかでは唯一、各勢力が知る可能性のある男だからね」

 

 モックの口出しに、紳士は肩をすくめる。彼の指摘に対してあまり良い感情を持っていないことは明らかであった。

 そしてギガンは未だに呟き続ける青年に声をかける。

 

「ところでリーダー、そろそろ報告していいか?」

「しかしどっちにしても…ああ!?えっ、うん。よし、話してくれ」

「…気にしていた男だがな、あんたの予想通りだ。『異界の魔力』を持っていたよ。触れた瞬間に繋がったのが分かった。ただ本人が気づいているかは微妙だな」

「あー…やっぱりか。となれば、『異界の地』に足を踏み入れたことがあるな」

 

 ガチャガチャとしたやかましい音が急に止まる。女性がビンの酒を一気に飲み干して、口の中を流し込むとギガンの方を向いた。

 

「なんだ、その話!?あたしは聞いてねえぞ!」

「バーナ、どうも我らのリーダーが英雄派に潜入していた頃にそういう相手に出会ったようなんだよ」

「信じられねえ…あの魔力を得るには100年はあの地に居続ける必要があるんだぞ」

「リーダーと同じく例外2人目ということだ。そして仮定が証明されたと言っても過言ではないんじゃないかね」

 

 紳士が冷静に話す横で青年は頷く。満足とは言えない表情であったが、納得はしていた。

 

「まあ、ディオーグの融合が影響したということだな。もっともこの魔力があったところで大きく戦況が変化するわけじゃないんだ。しっかりと感知できるような輩がいればすぐにバレるんだし。ただこれからは我々の隠密行動もやりにくくなることを懸念しなければならないな」

「それでこれからどうする気だ?」

「どうするもなにも、ボスもユーグリットも魔法使いどもも吸血鬼領地に行くなら、我々はかく乱しかないだろ。人手はボスの護衛につけているし、他の勢力どもが変な動きをしないように周辺をかき回すぞ」

 

 リーダーと呼ばれる青年の言葉に全員小さく頷くと、再び気が抜けたように各々のやることへと戻るのであった。

 




次回から15巻分ですが、原作でもほぼ番外編みたいな内容なのでそこまで引っ張るつもりはありません。
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