D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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15巻分ですが、今回と次回あたりで終わらせる予定です。
本編のプールでの打ち合わせ中の出来事だと思ってください。


陽だまりのダークナイト
第135話 男の出会い


 ルシファーの領土にはいくつもビル等の巨大な建物がある。その中にあるひとつの屋敷は他のビルと比べると大きくなかった。しかしその屋敷は地下まで空間が広がっており、そのひとつはそれなりの広さは誇るバトルフィールドであった。現在そこで模擬戦を行われているが、その苛烈さは素人目にもわかるほどであった。

 

「ほらっ!避けねえと黒炭になるぜ!」

『でしょうね!』

 

 スルト・セカンドの猛烈な速度で迫ってくる業火の球に対して、龍人状態の大一は回避を続ける。速度も規模も相当なものであったが、それ以上に目を見張るのは魔力の濃さだろう。向かってくる火球の感覚は一撃だけでも手痛いものであることが察せられた。防御に多少の自信はある大一ですらそう思わざるを得ない。

 

「回避ばかりで勝てるかよ!」

『そんなことわかっていますよ…』

『だから僕がいる!』

 

 火球を掻い潜って大一の右腕から伸びたシャドウが、セカンドの片腕へと巻き付いた。相手に気づかれないようこの手際には、受けた本人も感心したように気を吐いた。

 

「ほう、やるじゃねえか…だが!」

 

 巻き付かれた腕にぐっと力を籠めると、同時に腕が炎を噴き出して瞬く間に影を焼き切った。この一連の行動にセカンドは得意げな笑みを浮かべる。

 

「俺の炎はこの程度じゃ掴めねえぞ!」

『セカンドさんなら、腕力でも十分でしょ!』

 

 そのように答える大一はいつの間にかセカンドとの距離を詰めており、硬度と体重を上げて錨を振る。重い一撃をセカンドは炎をまとった両腕で真っ向からその一撃を受け止めた。

 

「違いねえな。だがそんな俺の腕力に真っ向から挑む気合は褒めてやる」

『そうすることを期待していたでしょうに』

「ハハハ!違いねえ!ほら、もっと全力でかかってこい!」

 

 この後も大一とセカンドの模擬戦は続き、終えたのは1時間後であった。

 ようやく模擬戦を終えると、セカンドは体の凝りをほぐすように両腕を伸ばす。その表情は満足そのものといった様子であった。

 

「いやー暴れたぜ!最近はうるせえ奴らとの話が連続だったからスッキリしたな!お前はもうちょっとその影を自分の体のように扱えればいいな」

「ご助言ありがとうございます…しかしいきなり呼ばれたと思ったら、模擬戦で驚きましたよ」

 

 腫れた頬をさすりながら大一は話す。この日、大一はセカンドから連絡を受けた。重要な話と聞いたため急いで向かったが、いざ出向いたら査問続きで体がなまっていたため模擬戦をしたいというものであった。

 

「仕方ねえだろ。俺の模擬戦に付き合えるやつってそんなに多くないし、他の奴らとは会えねえんだ」

 

 申し訳なさそうな態度など微塵も見せずにセカンドは話す。ユーグリットの一件からすでに数日経過しているが、この短期間でルシファー眷属の立場は厳しいものとなっていた。基本的に眷属同士で会うことは許されておらず、業務をかなり絞り込まれていた。今回はセカンドに我慢の限界が来たため、ある程度の実力を把握しており、余計な詮索が入らない場所を知っている人物…つまり大一がストレス発散に付き合わされていた。もっとも大一としてもルシファー眷属との手合わせは、実戦経験レベルであればグレモリー眷属以上に得られるものが多かったため感謝の気持ちもあったが。

 

「ったく、いつまでこんなこと続くのか…」

「しかし我々はまだマシですよ。グレイフィア様の方はそれどころじゃありませんから」

 

 セカンドのボヤキに、大一は静かに応対する。当然のことながらグレイフィアは特に厳重に注意を向けられており、査問の回数はほかの眷属の比ではない上に監視の目も厳しかった。

 そもそもルキフグス家は前ルシファーに最も近しい立ち位置であり、その唯一の生き残りと思われていたのがグレイフィアであった。しかし実際に生きていたことで彼女が死を偽装したことが疑われており、さらに禍の団にある旧魔王派の存在も相まったゆえにユーグリットの存在は特別危険視されるのであった。

 もっとも冥界政府の驚きなど、グレイフィア当人の衝撃に比べたら取るに足らないものだろう。実際に会ったということで朱乃から真実を伝えられた際には、彼女の表情は誰も見たことがないほどの動揺を見せていた。

 それをセカンドも理解していたからこそ、余計な愚痴は少なくしようとしていた。

 

「わかっている。姉御が一番難しい立ち位置なんだ。俺がどうこう文句を言っても仕方ねえのは理解している。しかしお前が行って捕まえてくれていたらなあ」

「だからさっきも言いましたけど、俺はそもそも来るなと言われたんです」

「冗談だって。…まさかと思うが、お前がルシファー眷属だってバレた可能性はあるか?」

「さすがに無いと思います。そうなれば大なり小なり自分にも影響があるでしょうし…」

「まあ、それもそうか。わざわざ無名の実力者をぶつけてきたくらいだからな」

 

 セカンドの言葉に、大一も短く頷いた。彼の言う通り、ギガンという存在は3大勢力ではあまり話題に上がらなかった。首謀者じゃないこと、ユーグリットや復活したグレンデルの方が話題としては圧倒的であったため、禍の団にはまだまだ強者がいる程度の認識で済んでいたのだ。

 大一としてはギガンの存在は他の2人に匹敵するほど疑念もあったが、魔力の感覚的なものがあったため、特別誰かに相談するということはしなかった。

 ただセカンドに相手の特徴を伝えた際に、新たに敵の正体が転生悪魔の可能性であることに気づいた。何も転生悪魔になるのは人間だけではない。そのため精霊のようにその属性を司るような存在が悪魔になれば、自分の体を別物質に変化させるような芸当ができるのかもしれない。まさにスルトのコピー体である彼だからこその着眼点であった。また特別な悪魔の家系にも特殊な能力を持つ者はいるため、そういった面からも相手の正体を探るのに役に立った。

 いずれにせよ、ギガンも決して油断ならない相手ではない。大一からそれを伝えられたセカンドも、後先考えない性格とはいえ油断ならない気持ちがあった。

 

「こうなると敵の動きが気になるな。わざわざ正体を明かしたのは…」

「…まあ、なにか仕掛けてくる前兆な気がしますね」

「用心しろよ。今の俺らの数少ない頼みの綱でもあるんだからな。そのケガもしっかり治してもらえ」

「模擬戦で傷つけた本人が言いますか…」

 

 生傷を抑えるように触る大一は少し恨めしそうにセカンドに視線を向けるが、当の本人は豪快に笑い飛ばすだけであった。この模擬戦はここで終わりを迎えた。

 

────────────────────────────────────────────

 

 数十分後、最低限の治療を終えた大一はグレモリー家の屋敷へと戻る。何度かルシファー眷属関連の建物は行ったが、妙な疑いを避けるためにも魔方陣の移動を複数回行う必要があり、その面倒さを向かう頻度が増えるほど実感するのであった。さっさと戻ってアーシアに回復してもらおうと考えていたが、その前にリアスの両親には一声かけておくべきだと思った。ましてやヴェネラナの方は、名前を貸してもらっている身なので尚のこと礼儀を尽くさなければならない。あわよくばグレイフィアにも会っておきたかったが、彼女はいまだに査問にかけられている身だ。

 大一は屋敷の転移魔方陣のある部屋から出ると、使用人に対してグレモリー夫妻がどこにいるかを尋ねようとしたが、意外な人物と鉢合わせした。

 

「ん?赤龍帝の兄か」

「あれ?ライザー様」

 

 なぜかライザー・フェニックスが廊下を歩いていた。いつもは着崩しているスーツもきっちりと整えており、「女王」ユーベルーナのみ連れていた。彼らがその場にいる理由を察することができなかったが、先日の一件もあって大一はすぐに頭を下げた。

 

「先日は助けていただきありがとうございました」

「あんなの、ただの救援だろ。気にするな。むしろ俺の方こそレイヴェルの件で礼を言わなきゃならないくらいだ。今日もそれでここに来て、今から帰るところだったが…」

 

 ライザーは軽く頬を掻いて話す。どうやら日頃からレイヴェルが世話になっていることと、先日の彼女の救助の件やフェニックスの涙の偽物について解決したことについての謝礼に来ていた。

 あまり柄でもないと自覚しているようであったが、彼がレイヴェルを大切に思っていることについては大一もよく理解していた。その件でわざわざ一誠に対して、たまに連絡を入れているくらいだと聞いている程なのだから。

 この話題を長く続けたくなさそうなライザーは、今度は大一に問う。

 

「お前はどうしてここに?」

「もしかしてルシファー眷属の仕事じゃないですか?傷もなかなかのようですし」

「傷は間違ってはいないのですが…そういえばユーベルーナ様は私の立ち位置を知っているのですね」

「ライザー様も知っているわ。フェニックス家はレイヴェル様の由縁あって、その辺りの情報は把握している」

 

 温和な態度でユーベルーナは答える。かつてはレーティングゲームで争ったこともある相手であるが、その縁もあるからこそ尽くせる敬意が互いに感じられた。

 

「たしかヴェネラナ様の名前を借りているんだったか?」

「ええ、そうです。だから戻る前に挨拶だけでもと思いまして」

「だったら、応接室にまだいると思うぜ。俺らがまさにさっき会ってきたばかりだからな。手土産に家の自家製リンゴ付きでな」

「重ね重ねありがとうございます」

 

 大一が再び頭を下げて、ライザーを見送ろうとする。客人を前にして自分を優先させる気は微塵もわかなかった。

 しかしライザーは動かずに、大一に対してどことなく気まずそうな表情を向けていた。

 

「…あの何か?」

「いや…そういえばお前に対して謝ってないなと思ってな。前にほら…」

 

 ライザーが言いづらそうにしている内容を、大一は察した。おそらく彼とのレーティングゲームが決まった際に「下級」と揶揄したことを指しているのだろう。同時に彼は慌てたように手を振る。

 

「ラ、ライザー様!そんなこと気にしていただかなくても!むしろ自分の方こそ多大な過失があるのに!」

 

 立場を踏まえれば、下級など事実でしかない。むしろ魔王の画策があったとはいえ、弟のせいで一時はすっかりドラゴンに対してトラウマを抱かせることになったのは申し訳なく思った。結果的に一誠と再び戦って復帰したようだが、むしろ立ち直せるのは当然のことのようにも考えていたのだ。

 大一が頭を下げようとすると、ライザーが肩をつかんでそれを止めた。

 

「落ち着け。俺はあのようになってよかったと思っている。努力することを知ったし、視野を広めることもできたんだからよ」

「そう言っていただけるとありがたいですが…」

「お前はちょっと下っ端根性が抜けてねえな。…わかった。お互いに思うことがあるならそれでイーブンということにしよう。反論は受け付けないぞ」

「わ、わかりました」

 

 ライザーの反応に大一は感嘆する。一度手痛い敗北をしていながら、ここまで這い上がってきたその精神力は間違いない強さを放っていた。復帰戦も見通しが立ち始めているようだが、先日のギガンとの立ち回りを見れば相応の期待が持てる。噂ではフェニックス家の子供たちの中では成果を出せていない面があるが、現状では上級悪魔としての振る舞いにおいてリアスよりもしっかりしている印象を抱いてしまう。

 

「まあ、お互いに兄として出来ることはやっておこうじゃねえか。俺はそれすらも怪しいところだが…」

「ライザー様が素晴らしい兄であることはレイヴェル様もわかっていると思いますよ。そうでなければ先日、眷属を連れてすぐに助けに来るなんて出来ないじゃないですか。おかげで私は命を救われた身ですし、ライザー様は素晴らしい人であると私は思います」

「…こういうのは女に言われたほうが嬉しいものだ」

 

 気恥ずかしそうな笑いをこぼしながら、ライザーは上着のポケットを少しまさぐる。間もなく小さな紙と小瓶を取り出すと、それを大一に押し付けるように渡した。

 

「あのこれは…?」

「小瓶は『フェニックスの涙』だ。役立ててくれ」

「そんな貴重なもの、自分なんかにダメですよ!」

「前線に出る機会はお前のほうが多いんだ。俺が持っているよりも活用できる。それと紙の方は、あー…連絡用のものだ」

 

 大一はちらりと紙に描かれた魔方陣を見る。フェニックス家特有の文様が描かれており、ライザーとの連絡を取るためのものなのは明らかであった。

 

「プライベート用のひとつなんだがな。今度またゆっくり話そう。レイヴェルの件とか他にもいろいろ、飯でも食いながらな」

「それって…」

「ライザー様、気軽に話せる同性の相手が欲しいのよ」

「余計なことを言わなくていい!」

 

 ユーベルーナの口出しに、ライザーは少しだけ頬を染めながらたしなめる。兄妹や眷属とのつながりが強く、変わってから他愛ない話や本音を漏らせる同性の悪魔を彼が欲していたのは間違いではなかった。要するに悪魔としての友人が欲しかったようだ。

 大一は一瞬だけ面食らった表情にあるが、すぐに顔をほころばせる。

 

「ライザー様、ありがとうございます。私の方でもご連絡させていただきますね」

「わかった、期待している。それはそうとして敬語やめないか?」

「しかし目上の方にそれは…」

「じゃあ、せめて『様』をやめてくれ。むず痒いんだよ」

「わかりました、ライザーさん」

「…まあ、それでいいよ。ったく、そういうくそ真面目な点も美点なのかね。じゃあな」

 

 そう言い残してライザーは去っていく。その足取りがどことなく軽く見えることに気づいたのはユーベルーナだけであった。

 一方で、彼を見送った後にグレモリー夫妻の元へと向かった大一も意図せずに浮足立っていた。背負い込むことが多かった彼にとって同性の年上の友人というのは、それだけで不思議と嬉しい気持ちになるのであった。

 




焼き鳥と言われますが、ライザーは原作で綺麗にハーレムを形成できているのがすごいと思います。
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