ギャスパーメインの今回ですが、最初はあまり絡みの無かったキャラ達で。
第137話 彼への評価
冥界にある一角のレストラン。値段は安くメニューも大衆的なものであり客層も身分や種族問わずに入り乱れるという珍しさがあったが、それゆえに人目を気にせずに集まることが出来た。
ある休日、炎駒から頼まれた資料(今は立場のおかげで手続きがかなり手間を取るらしい)を渡した大一はそのまま帰路でこのレストランに立ち寄り、約束の人物たちと食事を取っていた。
「どうもお前は立場を間違えている気がするよ」
片手に持つワイングラスに視線を向けつつライザーが呟く。すでに3杯目であったが、酒は相当強いようでまるで酔った様子が見られなかった。
山盛りの野菜サラダを頬張っていた大一はレモネードで口の中の物を押し込むと、ライザーに問う。
「何がです?」
「ルシファー眷属であることがだ。別にお前を軽んじているわけではないけどな」
「まあ、自分の実力的に未熟なのは確かですが…」
「だからそういうことじゃねえって。どうも俺はお前が兵藤一誠達と比べると、しがらみに囚われているなと思ってな。その年齢で冥界の仕事をこなすものじゃねえだろ」
「ウチの場合はリアスさんやロスヴァイセさんも似たようなものですから」
「王と下僕、子どもと大人の立場を同等にするなってことだよ」
ライザーはそう答えて、カプレーゼにフォークを刺す。荒々しい雰囲気と異なって、その動作の滑らかさはさすが貴族の出身であると思わせるものであった。
「たしかに大一殿は貧乏くじを引いている印象ですな。京都の時でもそうでしたし」
ケタケタと笑いながら、隣にいる紅葉が話す。零の勢力も現在は京都妖怪たちと共に3大勢力に協力しており、半ば独立している故のフットワークの軽さも相まって冥界にも日常的に出入りしていた。零の方は未だに3大勢力への協力はそこまででもなかったが、紅葉は交流を深めることには積極的で、ライザーも他勢力との親交には前向きであり、大一の紹介の下で何度か連絡を取り合った。互いに方向性の違うタイプではあるが、コミュニケーション能力の高さもあって瞬く間に打ち解けたようだ。
そんな紅葉のズバリとした指摘を否定するように、大一は手を振る。
「俺はそう思わないよ。このバックアップで少しでも仲間が集中できるなら、それに越したことは無いだろう?」
「完全に縁の下の力持ちですな。ライザー殿、昔から大一殿はこんな感じでしたのかな?」
「まあ、リアスのフォローに回ったりとこういう裏方気質ではあったが…もっと評価されてもいいと思うぞ?」
「身の丈以上の評価はすでに頂いています。それにおかげでライザーさんや紅葉のようないい友人も出来たのですから」
「ワハハ、お褒めの言葉嬉しいですぞ!ライザー殿も心配しすぎです。本人は気にしていないんですから」
「そういうものかね…」
大きなハンバーガーにかぶりつく紅葉とワインを片手に持つライザーの姿はなんとも対照的な雰囲気を放っていた。片やはみ出し者の妖怪が集まり評価など気にしないような独特の集団、片や冥界の名家で純血悪魔として名声と隣り合わせに生きてきた。この違いが露骨に表れた反応にも見られる光景であった。
一方で大一は肉料理に手を付け始めながら、ふと思い出した疑問を口にする。
「そういえばライザーさん、おっぱいドラゴンの関連で出演しているって本当ですか?」
「ああ、敵役だけどな」
「それでもかなりの人気ですぞ。大一殿は見ないのですか?」
「多分死んでも見ることは無いと思う…」
首を横に大きく振りながら大一は答える。どれだけ命をかけようとも、責任を感じようとも、彼がおっぱいドラゴンに対して肯定的な感情を持つことは出来なかった。むしろケジメをつけたことで、より関わり合いになりたくないものがあった。ある意味全力で関われば、多少は彼が名を売れる要因になったかもしれないが。
「まあ、少しでも名が売れれば眷属を得るのもいいんだがな。あとは『僧侶』だけだし」
「ライザー殿は女性だけを下僕にしてハーレムを形成していると聞きましたよ」
「納得できる相手がいれば男でもいいけどな」
余裕ある笑みでライザーは答える。一誠との対決との敗北から、彼はかなり変化していた。敗北からのトラウマ克服が成長を促し、上級悪魔としての格を引き上げていた印象を抱く。
だがその経過を詳しく知らない紅葉からすれば、感じる方向性が違うのも当然であり…
「つまり…両刀ということですか!?」
「そういう意味じゃねえよ!」
「悪魔は本当にいろいろな方がいるものですな。赤龍帝殿のようなスケベ根性もいれば、酒乱もいましたし、男女両方いける相手もいる。…ハッ!まさか自分と親交を深めたのはそういう狙いで!」
「だから俺はそっち方面じゃねえ!」
「ライザーさん、この機会にちょっと本気でお聞きしたいのですが、ハーレムを作るにあたって意識するべきことはなんでしょうか?」
「お前はいきなり喰いつくな!?」
どこからともなく取り出したメモ帳とペンを持つ大一に対して、ライザーはツッコミを入れる。大一としては女性関係に悩むことも増えてきており、相談できる相手を渇望していた。同じ悪魔で年上で相応の恋愛経験を期待できる人物…ライザーはその条件を兼ね備えていた。
「いや女性関係で悩むこともあって…」
「恋愛話とな!私もそういうのは好きですよ!」
「お前は本当に楽しそうだな…まあ、いいぜ。指南してやるよ。それがお前の弟にいい影響を与えて、レイヴェルを安心させるかもしれないからな」
「ありがとうございます!」
この後の食事の時間はライザーによる恋愛講座が行われることになった。数時間後に緊急事態が起こることを知らずに…。
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「リアス達が!?」
一誠の驚愕した声が兵藤家にVIPルームに響く。オカルト研究部、ソーナ、椿姫、グリゼルダ、デュリオが一堂に会して視線を向けていたのは、魔法陣から映し出されるアザゼルの立体映像であった。
『ああ、どうにもツェペシュ側の方で大きな動きがあったようでな。ツェペシュ、カーミラ、両領域の境界線上が一時的混乱状態になった。あちらでクーデターが起きたと見ていい。リアスや木場はそれに巻き込まれた可能性が高い。というよりも拘束されているだろう。こちらはリアスに通信ができん。そちらも同様じゃないか?』
アザゼルの指摘通り、朱乃がすぐに通信用の魔法陣を展開させるが通じなかった。このタイミングで起きたクーデターの大きさを察せられた。しかもアザゼルの話では、このクーデターによりツェペシュ側のトップが入れ替わったようだ。詳細は不明だが、生命の理を操る神滅具の存在が確認されている以上、先日に接敵した滅んだはずの邪龍の存在が想起される。このクーデターに禍の団が関わっている可能性が高いことを推察するには充分であった。これについてはカーミラ派も同様の見解を示している。
『お前らを召喚することになるな。てなわけですぐに飛んでこい。リアス達と合流しつつ、ツェペシュ側の動向を探らなければならん。お前たちの戦力が絶対に必要だ。何せ、ツェペシュの反政府グループ以上に危険な者が関与しているだろうからな』
「もちろんっスよ!主たるリアスを守るのが俺やグレモリー眷属、いや、オカルト研究部の務めですからね!なあ、皆!」
『もちろん!』
アザゼルの言葉に拳を打ち付けながら応じる一誠の言葉に、オカルト研究部のメンバーは応じる。もっとも大一だけはアザゼルが僅かに意味深な視線を送ったことに気づいて、静かに頷くだけではあったが。
とはいえ、他種族の混乱に首を突っ込むのだ。大戦力で向かうわけにもいかない。ましてやユーグリットの件で町の防衛も必要であるため、今回向かうメンバーはレイヴェルを除いたオカルト研究部に加えて、シトリー眷属の新メンバーであるルガールとベンニーアのコンビが向かうことになった。アザゼルの話ではヴァ―リも吸血鬼の領土に潜入しているため、神滅具所有者をそれぞれに配置するという形ができた。
『詳しいことは現地で話す。───では、準備ができ次第、こちらにジャンプしてくれ。カーミラ側に受け入れ用の転移魔方陣を敷く。状況開始だ』
『はいっ!』
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早々に自室で旅支度を終えた大一は他のメンバーよりも早く転移魔方陣のある部屋へと到着していた。見送りのためにソーナやレイヴェルも集まっており、彼女らと話して仲間が来るのを待っていた。
「ライザーお兄様に付き合わせて申し訳ありません」
「いや、自分としてはありがたい限りですよ。悪魔として気兼ねなく相談できる相手はいなかったのですから」
「おやおや、私やリアスでは不満だったというわけですか」
「からかうのは止めてくださいよ…」
「ふふっ、冗談です」
ソーナは口に手を当てて小さく笑う。想い人よりも大人びた雰囲気が目立つ男を自然と手玉に取る光景は、ちぐはぐながら納得できる不思議な雰囲気を醸し出しているとレイヴェルは思った。
ソーナは軽く眼鏡を上げる。この動作が特別な話題を出すときなどのものであるのは、大一も理解していた。
「ところで話は変わりますが、シトリー出資で学校を建てたことは聞いていますか?」
「ああ、その件ですね。聞いていますよ。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
大一の言葉にソーナは微笑む。グレモリー家の屋敷に出入りすることも多くなった彼は少し前にジオティクスから聞いていた話だが、ソーナの夢であった下級悪魔、転生悪魔でも通えるレーティングゲームの学校をついに創設したのだと言う。職員の雇用や反対意見の続出などの問題、ソーナ自身まだ学生の身であり本格的な稼働まではまだまだ先ではあるが、すでに入学を希望する子供も多く彼女の夢に向けて大きな前進を図れたのは間違いなかった。
「まだまだ前途多難ですが、なんとかやっていきたいところです。お姉様の力を借りずともね」
たしかに今回の学校については、セラフォルー・レヴィアタンの政治活動として容認させた面があった。そのためおいそれとサーゼクス達が援助できないものがあったが、ユーグリットの件を踏まえると結果的に良い方向に転がったと言えるだろう。
「お姉様は大一くんを眷属に欲しがっていたようです」
「サーゼクス様が取り合い合戦をしたのは耳に挟みましたが、具体的にどういうことをやったのかは知らないですね」
「内容までは知りませんが、3番勝負を行ったのは聞いています」
ソーナの回答に大一は苦笑いをする。正直なところ、魔王が取り合うほどの価値が自分にあるようとは思えなかったが、現実に彼らは行ったようだから下手な口出しは出来なかった。
「ま、まあ、ありがたい限りです」
「実を言うと、私も少し期待したんですよ。お姉様が大一くんを眷属にすることに。少々考えがありましてね」
「考えと言いますと?」
「ひとつの提案として聞いて欲しいのですが、将来的に大一くんもその学校で教員になりませんか?」
意外な提案に大一は内容をすぐに飲み込めずに、何度か瞬きする。そして間もなくその言葉を認識すると、傍から見て手が千切れると思えるほど強く横に振った。
「いやいやいやいや!俺には荷が重い話ですよ!」
「ルシファー眷属という肩書きの方が遥かに大きい印象ですがね」
「それを言われたらなんとも…というか、レヴィアタン様の名で行っているから表立った支援は無理ではないですか?」
「だから将来的にですよ。私は大一くんならいい先生になれると思います」
「俺が戦いの中で使うものは特異な借りものばかりですよ。それで教えられることと言っても…」
大一自身、ソーナの評価には懐疑的であった。以前よりも強くなったとはいえ、それはディオーグやシャドウといった特別な存在の力を借りている面が非常に強い。トレーニングや勉強を妥協してはいないが、彼が教えられるようなものがあるとは思えない。
しかしソーナは首を横に振って否定した。
「私がこれまであなたの能力しか見てきていないと思っているんですか?その勤勉さ、悪魔としての知識や心構え、裏打ちされた実戦経験、これらは全てレーティングゲームに活かせると思っています」
「し、しかし…」
「それと忘れないでもらいたいのですが、私はリアス達と同様にあなたがディオーグと融合する前から知っているのですよ。あなたの強さの本質も理解しているつもりです」
ソーナのよく通る声とハッキリした言い方は、大一を面食らわせた。彼女との付き合いはたしかに長いものの、同じ眷属でなかったためここまで評価されているとは思わなかった。以前よりも自分を認めるようにはなったものの、直接的に言葉にされるのは慣れないものがある。同時に心に熱いものが込み上げてくるのも事実であった。
「私はとてもいいと思います。そもそも大一お兄様はレーティングゲームでは間違いなく実績を残しているので、外堀が冷めてからでも今後の選択として十分にありえるのではないでしょうか」
「レイヴェル様…」
「呼び捨てですよ、お兄様」
「あっと…これは失礼」
レイヴェルの評価にも、大一は困ったように頭を掻く。世間的な評価はさておき、身内や近しいものには間違いなく信頼されているのを改めて肌で感じた瞬間であった。
「まあ、今すぐに答えを出して欲しいというものではありません。頭の片隅にでも置いていただければと思います。ロスヴァイセさんにもそうでしたので」
「俺よりもよっぽど重要な人に声をかけているじゃないですか」
「私は必要だと思う人に話しているだけですよ」
冷静に答えるソーナの眼鏡がきらりと光ったような印象を受けた。リアスと幼馴染というだけあって、彼女も強い信念を感じさせるものがある。
間もなく他のメンバーたちも集まり、いよいよ吸血鬼の領土へと出向く準備が整われた。
なんだかんだで交流の幅が広がっていると思います。