D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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意外とサクサク進みそうな気がしてきました。


第138話 吸血鬼の領地

 レイヴェル、ソーナ、匙、グリゼルダ、黒歌、ルフェイ、オーフィスの見送りの下、兵藤家の地下にある巨大魔法陣部屋にて、オカルト研究部とルガール、ベンニーアは転移をする。出発前に戦いの心配がなされるような多くの忠告があったが、レイヴェルがライザーからフェニックスの涙を3つも急遽送ってもらったことは、僅かに彼らの心に余裕をもたらしていた。

 今回は相手側の協力もあり余計な手順を踏まなくても、直接吸血鬼の領土であるルーマニアへと向かうことが出来た。

 転移した彼らを出迎えたのは、アザゼルと先日の会談にいたエルメンヒルデであった。

 

「よう、来たか。さっそくで悪いが移動するぞ。詳しい話は移動中の車内でする。エルメンヒルデ、案内を頼む」

「かしこまりました。皆さま、カーミラの領地までよくぞお越しになられました。───手前どもはギャスパー・ヴラディだけでよろしかったのですが…」

 

 露骨に付け足すエルメンヒルデの視線は、お世辞にも歓迎からは程遠いものであった。それでも彼女は淡々と話を進めていった。

 

「到着早々で申し訳ございませんけれど、車まで案内致しましょう」

 

 転移してきた部屋を抜けて地下の階段を上がるも、肌に吹きつけるような猛烈な寒さを感じた。服装は寒さ仕様の制服で防寒着も身に着けているのに感じる寒さは相当なものであることが窺える。

 間もなく外に出た彼らの視界に映ったのは、一面の雪景色であった。人里離れた山奥に位置する吸血鬼の領地ゆえにこの雪景色は非情に幻想的な印象を抱かせた。

 

(この寒さで血の匂いが混じってないのは新鮮に感じるな)

(物騒なこと言うな…)

(事実なだけだ)

 

 血の気の多さを感じるディオーグの感想とは対照的に、アーシアは感嘆の息を漏らしていた。彼女の視線はこの雪景色に映える城下町に向けられており、中央に位置する巨大な城を囲むように建物が建ち並ぶ。

 彼らは吸血鬼側が用意した2台のワゴン車(運転はアザゼルとロスヴァイセ)に分乗し、目的地へと向かっていった。

 2時間ほどかけて移動を終えると、今度は山の中腹にあるゴンドラ乗り場から向かってきたゴンドラに乗り込む。カーミラ派が確保した唯一のツェペシュ側の城下町に続くルートであった。

 ゴンドラに乗って間もなく、アザゼルはロスヴァイセの方に乗っていたメンバーに現状のツェペシュ派について説明する。なんでも現在のトップがギャスパーの話していたヴァレリー・ツェペシュということだ。男尊を基本とするツェペシュ派からすれば、女性でハーフの彼女が選ばれたのは驚きの一言であり、「禍の団」が裏で手を引いていることが推察された。荒事になった場合は、ヴァレリーを助けさえすれば後はどうにか吸血鬼側で処理できるというのが、アザゼルの考えであった。もっともこの話題が出ただけで、ギャスパーが気負うような表情をしており、それを見た仲間達が相応の決心をするのであったが。

 早々に話を切り上げられるが、深夜でしかも雪山しか見えないため、景色を楽しむというわけにもいかなかった。そんな中、ゼノヴィアが単語帳を片手にイリナと話している。学生の立場をもっと堪能するために勉強は欠かせないと感じているようであったが…。

 

「うふふ、私でよかったら日本の言葉を教えてあげるわ」

「いや、イリナの日本の知識は怪しいところが多々ある。独学か、リアス部長や朱乃副部長に訊いた方が確実だ」

「な、何よ!失礼しちゃうわ!」

 

 不満の声を漏らすイリナであったが、ゼノヴィアの方もハッキリと根拠は持っていた。なんでもイリナは弱肉強食の意味を焼肉定食と混合して覚えており、先日のテストで「全ての人が平等に焼き肉を食べられる権利を持つ」というズッコケるような回答を叩きだしたのだという。オカルト研究部は軒並み成績は良いが、外国暮らしが長いメンバーではこういった首をひねるような間違いがあるのだという。

 

「…自称『日本育ち』か。ここまで来るとすごいと思えるよ」

「じ、自称じゃないもん!日本で生まれ育ったもん!」

「はいはい、わかったよ。焼肉定食のA」

「うえーん!ゼノヴィアがいじめるわ、アーシアさーん!」

 

 ズバズバと言い放つゼノヴィアの態度にイリナはアーシアに泣きつくが…

 

「え、えーと…今度、一緒に日本語の勉強しましょうね、イリナさん」

「そんな!アーシアさんまで!ショックだわ!お兄さーん!」

 

 悪気ないアーシアの言葉にショックを受けたイリナは、なぜか大一に泣きついた。

 

「だからって俺の方に来るなよ。一誠がいるだろ」

「だってミリキャスくんが来た時に、イッセーくんですら私を幼馴染だって忘れそうになるって言ってたのよ!」

「お前にはそういう弄りたくなるような雰囲気があるのかね…。まあ、大丈夫だ。お前が自称じゃないのは、皆わかっているから。勉強も間違えたら、次に正解すればいいだけだから」

「でも先輩もテストの成績は悪くないですよね」

「まあ、入試には合格しているくらいはあるさ」

 

 隣に座っていた小猫の問いに大一は答える。悪魔になったのが中学3年生、そこからリアスや朱乃のサポートも受けながら死に物狂いで勉強して駒王学園の入学を果たしたため、座学にはそれなりの自負はあった。

 大一の言葉に朱乃は面白そうにクスクスと笑う。

 

「大一ったらわざわざ入試の回答を手に入れて、本当に点数的に大丈夫だったのか確認していましたわね」

「あれはリアスさんがいざという時は裏口入学もあるとか言うから、不正されていないか不安になったんだよ」

「せっかくの下僕がいざという時に別の学校にいては困りますもの」

 

 学校の話題を皮切りに一誠がふと思い出したように朱乃に問う。

 

「学校といえば、シトリー出資の学校が建てられるって知ってました?」

「ええ、ソーナ会長から聞いてますわ」

「私も聞きましたよ。会長さんから将来的にその学校の教師にならないかとオファーをいただいたほどです」

 

 この会話に聞いていたメンバーのほとんどが驚く。しかし彼女の魔法の能力を踏まえれば、十二分に納得できるものがあった。

 

「それでロスヴァイセさんはどう返事を?」

「まだ考え中です。断る理由もなかったものですから。確かに駒王学園で教員になって教職というもの───人に教えることが楽しいと思えているのも事実ですからね」

「やっぱりロスヴァイセさんの方で十分な気がするんだよな…」

 

 しっかりと説明するロスヴァイセの言葉を聞いて、大一は無意識に小さく呟く。特に誰かに向けて言ったわけではなく無意識にこぼしたものであったが、言葉の意味として興味を引くには十分な言い方であり、気づいた一誠が兄の方を向く。

 

「兄貴、どうかしたのか?」

「いや…実は俺も転移する前にソーナさんに同じことを提案されたんだよ」

「兄貴まで!?」

 

 ロスヴァイセの時よりも周囲の驚きは大きかった。ルシファー眷属として裏方に回ることは増えたものの、まだ学生の身である彼にこのような話が持ちかけられることは、間違いなく意外性に富んでいた。

 

「うわー…ロスヴァイセさんは分かるけど兄貴は意外だな」

「反論できないのが悔しいな…。ちなみに俺も答えは保留にしたよ。ただロスヴァイセさんほど前向きには考えられないが…」

「でも同じような立場の人がいるのは私としては安心ですよ。今度、その学校に見学に行こうと思うので、一緒に行きましょう」

「そうですね。考えるにしても、まずは知らなければ」

 

 ロスヴァイセの誘いに、大一は小さく頷きながら答える。このやり取りに朱乃と小猫が少しだけ危機感を持った表情になるが、誰も気づくことは無かった。

 一方で、話の区切りを見計らって、ルガール、ベンニーアと話し込んでいたアザゼルは大一に声をかけて、近くに来させる。他のメンバーに聞かせたくないのか、かなり声を落としていた。

 

「お前に前もって言っておくことがいくつかある。まずルガールとベンニーアは別行動を取らせる。いろいろ探ってもらい脱出のルートの確保も頼んでいる。これは朱乃も知っている」

「わかりました。お二人ともよろしくお願いします」

「ああ」

《任せてくだせえ》

 

 大一は共に話を聞くルガールとベンニーアは頷く。悪魔としては新人だが、その正体を踏まえればかなり頼れるコンビであった。

 

「これから向かう領域では、立場のせいで少々行動の自由が制限されるだろう。リアスや朱乃はギャスパーの件で動くだろうし、俺もあっちとの話でいる時間は少なくなる。差し当たって、ロスヴァイセと協力してあいつらの面倒を見てやってくれ。なんだかんだでガキなところがあるからな」

「元よりそのつもりですよ」

「悪いな、いつも面倒なことを任せる形で」

「謝らないでくださいよ。ルシファー眷属になってから、そういう覚悟は持っているつもりです」

 

 大一の言葉は本人が驚くほどハッキリとしていた。実際、以前からの裏方的役割や京都での経験などから、彼の意識や立場は他の成人悪魔と大差ないものと言っても過言ではないだろう。

 アザゼルは申し訳なさそうな表情はするも小さく息を吐いて取りなした。

 

「お前を信じるよ。それとちょうどルシファーの名前が出たから言っておく。むしろこれが本題だと言ってもいい。今回の事件において『禍の団』に関わっている奴についてだ」

「そんなに手ごわいんですか?」

「手ごわい上に危険だ。まだ会ってはいないが、情報通りならばな。お前、どうしてサーゼクスの眷属が神器持ち以外で構成されているかは聞いているな?」

「ええ、眷属になった時の打ち合わせで───」

 

 大一はハッとした表情で言葉を切る。アザゼルがわざわざ確認した意図に気づき、頭の中ではある人物の名前と写真で確認した顔が想起された。

 

「…まさか彼が?」

「ほぼ確定だ。とにかく用心してくれ。お前がルシファー眷属だと悟られるのもマズいしな」

 

 胃の中が逆流するような緊張感を抱きつつ、大一はゴンドラに乗る間はアザゼルとの話を続けるのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 ゴンドラに乗ってから約30分後、山をいくつか超えてツェペシュ城下町の近郊にたどり着くと、相手側の迎えの馬車に乗って彼らはリアス達の待つ本城へと向かっていた。ゴンドラが到着する寸前にルガールとベンニーアは音も無く姿をくらまし、すでに別行動を取っているため、現在向かっているのはいつものオカルト研究部のメンバーであった。

 城に着くまでの道中、馬車の窓から見える町の様子は穏やかであり、とてもクーデター後とは思えなかった。住民は町を歩き、店で買い物をし、談笑を楽しむ。普通の人間や悪魔とまるで大差なく、平和を物語っていた。

 大一の視界を通してこの光景を見ていたシャドウが頭の中で呟く。

 

『こいつらも吸血鬼だけど穏やかなもんだ。僕が昔見たのとはまるで違う』

(お前はツェペシュ派の町にいたのか?)

『いや、僕が取りついたのは別の町の庶民吸血鬼だよ。そもそも派閥なんて無かったから、だいぶ昔のことだね』

(それが今は派閥にクーデターまで起きたわけだ…)

 

 アザゼルの予想では住民に悟られぬように最低限の方法でクーデターを成功させており、同時にそれほどの隠密が出来たのは内部による裏切りの可能性を示唆した。聖杯の力の利用や内政に大きな影響を及ぼしているのも想像に難くない。先日のユーグリットの件で裏切り者に敏感になっていた彼らにとっては、なんとも反応に困るものであった。

 間もなく到着したツェペシュ派の本城は、グレモリーの城にも劣らないほどの規模を誇っていた。古風な印象を抱かせる石造りのもので、特徴的な魔力やオーラも感じ取れる。

 馬車を降りて内部に案内されると、魔物を形どったレリーフのある巨大な扉の前で待たされる。その大きさと雰囲気からして、扉の向こうが特別な場所であることは察せられた。

数分後、彼らの下に現れた人物は懐かしい声を喜びに包ませていた。

 

「イッセー!皆!」

「リアス、無事でしたか?」

 

 一誠がすぐさま駆け寄ってリアスに寄り添う。彼女の後ろには祐斗も付き添っており、久しぶりにグレモリー眷属が揃った瞬間であった。

 リアスは笑顔で一誠の心配に受け答える。

 

「ええ、なんとかね。…クーデターのことは察知したようね、アザゼル」

「ああ、何か起こるだろうと思ってこいつらを召喚して、ここまで連れてきた。文句はないだろう?」

「そうね。私もどうにかして皆を思っていたから。ただ、この城に軟禁されていて、どうにも動けない状態だったのよ。けど、王にお招きいただいた割りに今のいままで謁見はなかったわ。そうこうしているうちに先ほど『お客様が来たからついてきてほしい』と言われて…ここに来たというわけ」

 

 一誠はリアスの言葉を確認するかのように、ちらりと祐斗に視線を向ける。

 

「何事も無かったようだな、木場」

「拍子抜けするほど、僕にも部長にも火の粉はかからなかったよ。内部で争っていてこちらにまで手を出すほど、暇ではなかったんだと思う。少なくとも今のいままではね」

 

 祐斗は肩をすくめるがその視線は巨大な扉へと向けられていた。相手からすれば、役者が揃ってから招こうと考えていたようであった。それを裏付けるかのように扉の両脇に立つ兵士がリアス達を促した。

 

「では、新たな王への謁見を───」

 

 巨大な両開きの扉が重々しい音を立てながら開かれていく。これから起こるであろう出来事に、大一としてはこの音同様の重さが肩にのしかかるような想いを抱くのであった。

 




次回辺りで例の人物が出そうです。
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