D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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基盤づくりが…長い!


第140話 吸血鬼の世界

 謁見から数時間後、リアス、ギャスパーが話し相手としてヴァレリーに、アザゼルが神器の関係でマリウスの息のかかった吸血鬼に呼ばれて不在の中、他のメンバーが向かったのは城の地下の一室にいた。豪華な内装に相応のシャンデリアと家具も揃っており、貴族の一室として十分であった。

 部屋の主はまだ30代ほどの男性で、金髪とどことなく幼さを残す顔はギャスパーの面影を感じさせた。彼の父親にあたるヴラディ家の当主なのだから当然でもあるのだが。

 リアスが不在のため、朱乃が前に出てあいさつをする。

 

「はじめまして、私達はリアス・グレモリー様の眷属悪魔です。私はリアス・グレモリー様の『女王』、姫島朱乃と申します。このたびはごあいさつだけでもと思いまして、この場に馳せ参じていただきました」

「どうぞ、お座りください。アレ、いえ、ギャスパーについて、話をしに来たのですね?」

 

 ヴラディ家の当主は落ち着いた声でソファーへと促す。朱乃が座り、その後ろを残りのメンバーが控えた。

 すでに彼はリアスと話をして、互いの情報を交換しているのだが、それに伴って彼はここに幽閉されているのだと話す。もっともその声は焦燥と緊張を持つ内容とは対照的に落ち着いており、この状況を受け入れている雰囲気を作っていた。

 しかしそれ以上に気がかりなのは、彼の発言でギャスパーのことを何度も「アレ」と呼んでいたことであった。全員がその引っ掛かりを感じていたようで、朱乃がヴラディ家の当主に質問する。

 

「アレ、ですか」

「アレは…ギャスパーは悪魔としては機能しているのですね。リアス様からそれを聞いた時、正直驚きました」

 

 実の父親とも思えない言い方であったが、ヴラディ家の当主にもそれ相応の根拠があった。

 ギャスパーの母親はギャスパーを生んで間もなく亡くなっている。その原因はショック死であった。なんでも生まれた時のギャスパーは人の形とは程遠い姿をしていた。黒くうごめく物体であり、人でも吸血鬼でもない不気味な異形が母体から現れたことに衝撃を受けて、ギャスパーの母は死に至ったのだと言う。加えて、その場に居合わせた産婆などが次々と呪殺され続け、数時間後には普通の赤ん坊の姿に落ちついた。

 この事実はギャスパー自身も知らず、下手な刺激によって再びその異形の存在になることを危惧したようだ。

 

「…グレモリーの皆さん、我々はアレを吸血鬼としても人間としても認識できないのですよ…。異形の存在としか、識別できないのです。あれをハーフとしていちおうの扱いとさせましたが…それが正しかったのかさえ、わからないのです。そして、正体がわからぬまま私達はアレを外部に出してしまった…」

 

 困惑を顔に浮かべながら、ギャスパーの父は重々しく話す。閉鎖的とはいえ彼自身、当時からそれなりに多くの経験を積み、ヴラディ家当主として生きてきた。そんな彼ですら、あの存在には恐怖と混乱しか感じなかったのだ。

 そんな彼に対して、一誠と小猫は正面から言い放つ。

 

「むかしはあいつがどうだったのかわかりません。けど、いまギャスパーは悪魔です。俺の後輩です。たとえ、体が闇に塗れようとも仲間ですから」

「…ギャーくんは私の大事なお友達です。初めて出来た、同い年のお友達なんです」

 

 たとえギャスパーの正体が得体の知れない存在であっても彼と過ごした時間が消えるわけではない。彼の父親が恐怖する気持ちの大きさに勝るとも劣らないほど仲間達がギャスパーへ抱く意識は強いものであった。それは彼の力を目の当たりにしても同様であった。

 もっとも大一は実際にギャスパーのその奇妙な力を目の当たりにしたわけではない。リアスや小猫から聞いたものの、その異質さを肌で感じたわけではないため、ヴラディ家の当主の話をどこまで呑み込めたかも自信が無かった。それでも仲間達同様にギャスパーへの思いを変えることは無く、同時にそもそも異質さでは自分も似たような状況に陥っているのだから悩むこともなかった。

 

「…やはり、グレモリー眷属なのですな。リアス様にも同様のことを問い、同様のことを言われました」

『人間でもなく、吸血鬼でもないのなら、ギャスパーは悪魔です。何せ、私がこの手で悪魔に転生させたのですから。正体がなんであれ、紛れもなく、あの子はグレモリー眷属の悪魔ですわ』

 

 小さく笑みを浮かべながら、2度もギャスパーへの信頼を目の当たりにした父親は言葉を続ける。

 

「…我々には理解しがたい感情ですが、なるほど。あの力を見た上でそうおっしゃられるのなら、アレは少なくともあなた方に救われたと思っていいのでしょうな」

 

 ヴラディ家は少なくともギャスパーを歓迎していない、しかし同時に彼の行く末が決まったことに安堵はしているようであった。

 しかしこの話し合いでは、彼の正体に行きつくことは出来なかった。

 

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「なんとも難しい話だな…」

 

 部屋に戻った大一は首元のシャツのボタンを外して、胸に溜まっていた空気を吐き出す。ここ数時間で彼の入り混じった重い感情が、これだけでも軽減された。

 ヴラディ家の当主との話を終えたメンバーは用意された大一の部屋に集まり、今日の出来事について話し合っていた。ただ一誠と小猫は吸血鬼のメイドに案内されて、ヴァレリーの下へと向かっていた。ギャスパーとリアスとの話の中で興味を抱かれたのだろう。

 

「聖杯を利用したやり方、伝説の旧魔王とオーフィスのコピー、ギャスパーくんの正体…本当にたくさんだったわ」

「あの吸血鬼は気に食わなかった!」

 

 イリナのつぶやきに、隣に座っていたゼノヴィアは声を荒げて紅茶を煽る。マリウスに対して直情的に振舞ったことは褒められたものでは無いが、その想いに同調しない者はいなかった。大一としても妹の力を利用して好き勝手にしているマリウスの言動は、あまり気持ちの良い感情を抱かけなかった。

 ゼノヴィアを「まあまあ」と落ち着かせつつ、アーシアは首をひねる。

 

「イッセーさんやリアスお姉様、小猫ちゃんがどうにか話をつけてくれないでしょうか」

「あのマリウスという吸血鬼がそう簡単に納得するはずがないだろう。ましてや、あんな桁違いのボディガードもいるくらいだ」

 

 悔しそうにゼノヴィアが答える。あの場にいた全員がクロウ・クルワッハの圧倒的な存在感を目の当たりにした。あの存在がいれば大きな態度を取れることも納得であった。

 もっともルシファー眷属として大一はそれに勝るとも劣らないほど、もうひとりの人物に危険を感じていたのだが。

 

「加えて、リゼヴィムだものな…」

「そういえば、大一くんはあの人のことを知っていたんですか?」

「ルシファー眷属の打ち合わせで顔は知っていました。実力、カリスマ、そして恐ろしい残虐性…多くのことが警戒事項でしたね」

「吸血鬼のクーデターだけでも厄介なのに、これでは尚更ですわ」

 

 リゼヴィムの存在は冥界に取っても長い間の懸案事項であった。先日のユーグリットの存在も相まって、冥界を大きく揺るがすものであるのは間違いない。吸血鬼と邪龍にこの存在が加わることで、現状は非常に厳しい事件に昇華されたのは間違いなかった。

 

「なんとかなりそうなのは、ギャスパーくんの件くらいですね」

 

 どことなく重い雰囲気が部屋に蔓延する中、祐斗が発言する。実際、ギャスパーの身柄はリアスとヴラディ家の当主で話はだいぶまとまっており、彼を悪魔として正式に迎え入れることは問題ないと思われた。

 細々と見える希望を何とかするしかないが、戻ってきたギャスパーからマリウスがヴァレリーを解放するという約束をしていたことを聞いて、それすらも暗雲が出てきた気がした。

 

────────────────────────────────────────────

 

「あー、案外、普通なんだな、吸血鬼の町って」

 

 純白の雪景色に立ち並ぶヨーロッパ風の建物を見ながら一誠が言う。この地に来てから2日ほど経過していた現在、一誠、大一、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、ロスヴァイセの6人は吸血鬼の城下町の下見をしていた。リアス、朱乃はヴラディ家当主とギャスパーの件についての話の進め合い、祐斗は2人の護衛、ギャスパーは小猫と共にヴァレリーからのお茶の誘いに応じていた。アザゼルの方は未だに戻っていなかった。

 城下町で彼らが町民から受ける視線は物珍しさの一言に尽きた。閉鎖的な社会を色濃く体現している吸血鬼にとっては、よそ者の存在は目につきやすく直視はしないものの興味ありげにチラチラと視線を向けていた。

 

「よそ者だとわかるみたいだね」

「城下町とはいえ、閉鎖された世界だもの。やっぱり、外の世界から来た人って、空気が違うんじゃないかしら?ほら、ゼノヴィア、私達が任務で外国に行くと浮いたじゃない?」

「そういえばそうだな。教会で育った者が任務先の外国で最初にぶつかる障害は異文化の壁だね」

「私も日本に来たばかりの頃は知らないものだらけで戸惑いました」

 

 この雰囲気に一番慣れているのは、ゼノヴィア達であった。教会の戦士として活動していた彼女らは文化の違いに直面する機械は多く、レイナーレに連れられて日本に来たアーシアも一誠と出会った頃は幾度も困惑していたようであった。

 ただ吸血鬼たちの生活が完全に閉鎖されているわけではなかった。移動手段には車やバイクが使われており、時代の違いをあまり感じさせなかった。

 

「…あとをつけられるのは好きではないんだけどね」

 

 出し抜けにため息をつきながらゼノヴィアは呟く。少し離れた場所から数人の吸血鬼たちが監視の目を光らせていた。ツェペシュ派の城に滞在している身としては当然であったが、これに対して穏やかにできる者はいないだろう。

 そんな中ずらりと並ぶ各店舗に興味深そうに視線を走らせていたロスヴァイセに、一誠が声をかける。

 

「ロスヴァイセさんがついてくるなんて意外でした」

「当然です。私は駒王学園の教師であり、あなたたちは生徒なんです。これは言わば引率ですね。今回のルーマニア入りも課外授業に他なりません」

 

 ハッキリと答えるロスヴァイセであったが、この町並みに一番興味深げに動いていたのは彼女自身であった。それに対して大一が半分呆れたように首を振っていると、ゼノヴィアが彼に対して口を開く。

 

「私は先輩がついてくるのも意外だったな。例の奴が城にいるから残って調べるものだと思っていた」

「アザゼルからいろいろ言われているのもあるんだが…正直、今の俺にやれることも無いんだよ」

 

 リゼヴィムのことを踏まえれば、彼について調べることを優先させる必要はあっただろうが、現在のように監視の目があり、実力的にも下手な動きをすれば察知されかねない。結界のおかげで他のルシファー眷属に連絡は取れず、強引に行ったところで傍受されて己の正体を晒しかねない。要するに、ルシファー眷属として大一ができることはほとんど無く、仲間達と行動することが精神的にも安定していた。

 

「…やっぱりディスカウントショップはなさそうですね…吸血鬼の世界でも値段均一ショップは流行ってもいいと思うのですが…」

「ハイハイ、行きますよ」

 

 呟くロスヴァイセを半分引きずるように大一は誘導する。どっちが引率かわかったものじゃない光景に一誠は苦笑いをするが、それよりも風変わり…というよりも意外な人物が彼の視界に入った。

 あるアクセサリーの露店の前で、リゼヴィムに付いていたリリスがちょこんと座っていた。店主も困惑しており何度か話しかけるが、まるで彼女は反応を示さなかった。彼女の姿を確認した一行は困ったように視線を交わらせるが、その中で一誠が決心したように進んでいく。そしてリリスの横につくと露店の商品をひとつ指さした。

 

「…これ欲しいのか?」

「………」

 

 リリスは何も答えない。ただじっと露店の商品を見ていた。

 

「これください」

 

 一誠はリアスから渡されたこの国の通貨を店主に渡して、赤いドラゴンのアクセサリーを買うと、そのままリリスへと渡した。

 

「ほら、じゃ、じゃあな」

 

 一誠はそのまま仲間達と共にその場を後にしようとするが、なぜかリリスはてくてくとついて来て彼の服の袖を引っ張った。表情は変わらず、しかし興味深げに一誠へと視線を向けていた。

 

「…な、なんだよ」

「…おなか、へった」

 

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 目の前に広がるルーマニア料理を皆が口にするが、その中でも一心不乱に食べ進めているのはリリスであった。結局、彼らはリリスを連れて近くの料理屋へと入っていった。基本的にはルーマニア料理であったが他国の料理も出しており、多種多様に楽しめた。もっとも一誠は豆腐を食べて渋い表情をしており、他国の食べ物については決して味が保証されたものでは無かったようだ。

 ただ本場の料理の味は間違いないようで、大一の頭の中ではディオーグとシャドウが舌鼓を打っていた。

 

(悪くねえな。焼いた肉も美味いが、このチーズってやつがいい。味がだいぶ変わる。また違った美味さがある。もっと食いまくれ、小僧!)

『ブルンザか…けっこう癖があるけど、ここのは良い感じだね。デザートも楽しみだな』

 

 おそらく現状で食事を最も楽しんでいるのがこの2体だろう。これに対して一誠達は彼らと同じくらい食事を堪能していそうな少女の方が気がかりであった。

 

「美味いか?」

「…わからない」

 

 一誠の問いにリリスはソースをベタベタにつけた口元で答える。そんな彼女の口をアーシアが綺麗に拭いてあげていた。そして再び食べ進める。見た目がオーフィスにそっくりのため、何度も家で見てきた光景であった。

 この状況はある意味、新生「禍の団」についていろいろ聞くチャンスではあったが、監視の目がある上に世間ではそもそもオーフィスが兵藤家にいること自体が伏せられているため、彼女の方がオーフィスと認識されることがほとんどなのだ。加えて、彼女自身がどこまで話せるのかも不明であるため、今は共に食事をするだけしか選択肢が無いのは当然であった。

 リリスは食事を一区切りすると、今度は隣に座る一誠の服の匂いを嗅ぎだした。

 

「…リリスとおなじにおいがする」

「…あー、オーフィスの匂いが移っているとか?」

「…なつかしいにおいもする。あかい、おおきくて、あかいドラゴンのにおい」

 

 この一言に大一のフォークの手が止まり、同時に頭の中で騒いでいたディオーグもシャドウもピタリと言葉を止めた。オーフィスの分身体である彼女もまた、赤龍帝やグレートレッドのことを認識したことには驚きを隠せない。さすがにディオーグのことは分からなかったのか大一の方には見向きもしなかったが、それによってディオーグが苛立ちや不満といった悪辣な言葉を発しなかったため、それが大一やシャドウにとってはより大きな驚きになった。

 一方で、一誠は気を取り直したように自己紹介をする。

 

「俺は兵藤一誠だ。こっちはアーシアと俺の兄貴の大一、そっちはゼノヴィア、イリナ、んで、ロスヴァイセさん」

「…ひょうどう、いっせい…ひょうどう…いっせい…」

 

 全員が『よろしく』と対応するのに対して、リリスは表情を変えずに反芻するように言葉を繰り返した。一誠が「イッセー」でいいことを話すが、それに対してリリスは今度は黙り込んでしまった。オーフィス以上に感情に波の無い様子に、尚のこと不思議な底知れなさを感じさせた。

 リリスはそのまま特に何も言わずに立ち上がった。

 

「なんだ、帰るのか?」

「…リゼヴィム、まもる、リリスのやくめ」

 

 それだけ言い残してリリスは去っていった。あっという間の出来事に困惑した彼らであったが、大一の中ではその想いをシャドウが吐露していた。

 

『意味わかんない奴だったな。ある意味、オーフィスのコピー体ってのは納得だけど』

(同意するよ。というか、ディオーグ。お前、よく何も言わなかったな)

(…オーフィスじゃねえんだから興味もねえだけだ。それよりも飯だろうが!)

 




ディオーグは存在自体はハッキリ分けて考えています。
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