D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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かなり面倒な雰囲気になってしまいました…。


第146話 悪魔でいられる理由

 邪龍の業火が広がる吸血鬼の城下町から少し離れた場所、肌に刺すような風が吹く中でアザゼルはそれ以上に強烈な攻撃をいなしていた。

 

「さすがは伝説の人物。簡単に崩せないな」

「そもそも負ける気なんてまったくねえよ」

 

 アザゼルは光の槍で向かってくる刀をいなしながら舌打ちをする。無角が振る鞘に収まった刀は、身長160センチ前後の持ち主よりも長く、さらに鞘ごと伸びてまるで鞭のように縦横無尽に動き回る。しかも鞘に収まっているはずなのに、その攻撃は斬撃として辺りの地面や彼の光の槍に斬り跡を残していった。

 多頭の怪物のようにあらゆる方向から絶え間なく襲ってくる太刀筋にアザゼルは防戦を強いられたが、これで降参するつもりも微塵も無かった。小さく息を吐くと、翼を展開して素早く後ろに下がりそのまま空へと上がる。そして自分の両側に巨大な光の塊を作り出した。

 

「これでどうだッ!」

 

 塊から光の矢を連射し始める。攻撃の軌道、速度共に様々で特に手数の多さはずば抜けている。いくら相手の刀が変幻自在とはいえ、刀一本で防ぎきるには至難の業であった。

 しかし無角は特別驚いた様子も無く、刀を伸ばし自身を囲むドームのような形へと形成していく。向かっていく光の矢はこの刀のドームにぶつかり、ことごとく防がれていった。

 アザゼルは息を整えながら、下へと降りていく。なんとも不気味な感覚が肌に伝わった。リリスと共にリゼヴィムの護衛をしているだけはあるその実力は、この短時間でも十二分に理解できた。

 

(だが…何者だ?)

 

 アザゼルの違和感は無角の実力というよりも、その存在の不透明さであった。全身に包む鎧から魔力こそ感じられるが、あまりにも普遍的であり種族の特定には至らない。持っている刀にしろ、アザゼルの攻撃を防ぐ辺り並みの刀剣類ではない。しかし神器の類ではないのは、研究者である彼がよく理解していた。大一や小猫のような感知を得意とするタイプであれば、正体を掴めたのだろうか。せめて種族だけでも分かれば、敵に協力している可能性のある勢力の特定にも繋がるが…。

 アザゼルは小さく嘆息する。一誠が発動させた新たな力、大一の身体に巣食う謎のドラゴン、リゼヴィムの話した異世界の存在…今の時代だけでも未知の存在が数多く確認されるのに、まだ現れるのかと感心すら覚えた。

 疑問が渦巻く中、無角は刀のドームを解除する。鎧で包まれた顔はアザゼルへと向いていた。

 

「堕天使の元総督、その実力は確かなものだ。それ故に、貴殿があんなガキどもに肩入れをするのが不快だ」

「テロリスト相手に協力するよりマシだろうよ」

「我々が世界を混乱に招いているのは否定しない。しかし原因の一端は貴殿らにもあるのだよ」

 

 無角の言葉に、アザゼルは小さく頷く。いくらでも聞いてきた言葉であった。3大勢力の同盟が決められてから、この類の言葉はいくらでも聞いてきた。もちろん難癖のようなものもあれば、ぐうの音も出ないほどの怨恨が込められている場合もある。

 しかしその主張がどうであれ、ここで止まるわけには行かないのもアザゼルは承知していた。

 

「文句はいくらでも受け付ける。3大勢力の同盟で起こった弊害も知っているからな。しかし良い方向に向かっていることも確かにあるさ」

「我が気に食わないのは…なぜ貴様らが正しい存在のようにいられるのかということだけだ」

「各地で暴虐の限りを起こしているお前らよりは、よっぽど信頼を勝ち取っている」

「過去の戦争含めて相応のことはしているだろう?」

 

 その言葉を手掛かりにアザゼルは敵の正体を予測し始めるが、間もなく刀を振りかぶった無角を見て、この思案は中断させられるのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 リゼヴィムとしては大一の勧誘がどこまで本気であったかと思うと悩むところではあった。戦力としては弱くないが目をかけるほどではなく、性格的にも馬が合うようには思えない。

 しかしオーフィスやグレートレッドに迫るほどの龍の存在はトライヘキサに並ぶほどの興味を駆り立てられたし、犠牲の黒影のネガティブな噂は彼の悪魔的価値観の心を躍らせる。加えて、自分に狙いをつけた瞬間の大一の視線は間違いなく「正義」とは違う愚直な黒い想いを感じられた。そもそも初めて会った時に、アザゼル以外に警戒した様子を見せた大一はどうも他のメンバーとは立ち位置が違う印象を受けていた。

 そしてなによりも仲間が裏切った事実に一誠達がどういった絶望を抱くのか、その光景は垂涎の的になりえると思うと、リゼヴィムとしてはひとつのお楽しみとして勧誘を行う理由になりえたのだ。

 油断なく、しかし動揺が見て取れる大一にリゼヴィムは言葉を続ける。

 

「迷っているなあ!いいねえ!やっぱり俺の見込み通りだ!お前さんは、『悪魔』としてやっていける性質があると思うぜ?それは化け物龍と合体しているから?それとも真っ黒い感情に呑まれる神器を扱えるから?それともその経験の両方か?あるいはお前さんの生まれながらの気質か?いっぱい選択肢があると迷っちゃうね☆」

『…俺は…友達の顔に…武器を振り下ろしたことがある…』

 

 黙り込んだままかと思ったら、大一は出し抜けに呟く。その内容がリゼヴィムの悪辣な感情を大きく昂らせた。

 

「へえ…他には?」

『…悪魔になってからもはぐれ悪魔や敵対した堕天使を殺した…。向かってきた魔物だって倒した…』

 

 ぞわぞわと体の産毛が逆立つ気分になる。大一の口から洩れ出る言葉は後悔に塗れていた。これほど真面目な男が堕ちていく可能性があると思うと、更なる興味を抱かせる。こうなれば次は矛盾したところを突いていきたい。

 

「殺しは慣れているってことだな。どうだい?そんな感じだと反りが合わない時もあるんじゃない?」

『…一誠達は強いし、信念もある。でも俺は…わからなくなる。妖怪たちや吸血鬼たちの価値観を目の当たりにして、まるで生き方の違う龍の過去を知って、神器のおかげで自分の黒い感情にも向き直った。降りかかる火の粉を払っても…それで…自分が正しいと思えない』

 

 大一の迷いが手に取るように感じられる。大切な仲間に同調はしても、本心から共に歩んでいけない、そんな彼の矛盾的な気持ちが可視化されているようであった。この男が責任を投げ出して、好き勝手にやる姿を見たいとリゼヴィムはハッキリ思った。そして高鳴る想いを口にする。

 

「うひゃひゃひゃっ!そんな小難しい中でよくやれるもんだ!それだったら、こっちに来てみねえか?重いものを下ろした瞬間、世界が変わるぜ?」

『…変われるのか。あんたについていけば』

「任せておけって!悪魔として、最高の生き方を教えてやるよ!」

 

 ニヤリと誘うような笑みをリゼヴィムは口元に浮かべる。これに対して大一はゆっくりと近づいていき、そして…

 

「はあ~、つまんね。お前も結局、そっち側。『正義』ってやつか」

 

 昂った熱が一気に冷めていくのをリゼヴィムは感じる。万にひとつでも面白い光景が見られると思った彼の視線の先では、片手に抱えるリリスが展開した防御魔法陣が、大一の振る錨を完全に防いでいたところであった。

 

『本気で勧誘できると思っていたのかよ…!』

「そういうお前さんだって、わざとらしい下手くそな演技をしていたじゃねえの?」

 

 リゼヴィムの言葉を大一は否定しなかった。少しでも彼を倒すための算段を考えていたが、相手の油断を誘って一撃を与えようとしたのは事実だからだ。もっとも彼の一撃はリリスに防がれた上に、リゼヴィムにもあっさり感づかれたようだが。

 

『俺がやれることをしただけだ』

「よく言うわ~。化け物が英雄の真似事なんて出来るわけねえだろに?俺の言う通り、もろもろ投げ出して好きなように生きた方が楽だぜ?」

 

 リゼヴィムの言葉に特別反応はしない大一の腹部から黒影の腕が伸びる。リリスの顔面目掛けて向かっていくが、リゼヴィムがそれを防ぐと、今度はリリスが魔力の塊を撃ち出して吹き飛ばした。

 空中で体勢を立て直した彼は考えをスッキリさせるように頭を大きく振ると、リゼヴィムに鋭い視線をぶつける。

 

『化け物なのは百も承知。英雄になろうとも思わない。そもそも俺は投げ出しても、また別のものを背負うような面倒くさい性格なんでな。あんたと一緒に行ったところで、悩むのは変われねえよ。それに…簡単に下ろせるほど軽くないんだよ』

 

 口から血反吐をペッと吐き捨てながら、大一は答える。責任ある立場、自分と共に生きる存在、信頼する仲間と愛する人たち…苦しみや後悔以上に大切なものを抱えているのだから、リゼヴィムの甘言など元より聞き入れるつもりは無かった。それに何よりもこの悩み続ける状態こそ、大一という人物を形作っているのだ。

 

『俺が何者かは俺が決める』

「化け物になって全てを失ってもか?」

『その時はその時だ』

「いつか後悔するぜ、小僧」

 

 一瞬だけ垣間見える背筋が凍り付きそうな声色に、大一は意図せずに身体が震えるのを感じる。もっともリゼヴィムも自分のキャラじゃないと思ったのか、すぐにゲラゲラと笑ってふざけた調子を見せた。

 

「いや~、それにしても惜しいわ!いい感じの逸材を見つけたと思ったんだけどなぁ!ちなみに一緒にいるドラゴンくんや神器の方はどうよ?俺と一緒に悪辣の限り暴れて見ねえか?優遇するぜ」

『面白い誘いだが、残念ながら俺の身体は小僧から離れられねえんだ。無理な話だな』

『僕は元より大一と生きていくつもりだ。お前の誘いなんてお断りだね!』

「うっわ、連続で振られておじさんショックだわー!もう悲しすぎて、心折れちゃう!」

「だったら、ついでに身体も吹っ飛べ!」

 

 復帰したヴァ―リが弾丸のように突っ込んでいく。リゼヴィムはそれをひらりと避けると向けられた敵意に対して嬉しそうに笑った。大一に抱いた感情の昂りが再発したような印象であった。

 

「うひゃひゃひゃっ!ヴァ―リきゅん、やっとお目覚め♪その強い思い!やっぱりお前さんも同じだぜ!俺と同じで戦いを求めるもの!こんなに俺様の考えについて素質のある子達は向かってくるなんて、おじさんとしては複雑だわな!」

 

 リゼヴィムさらりと言い放った発言に、ヴァ―リの動きは一瞬止まる。その言葉が意味することに、彼との血縁故かそれ以上の衝撃を受けたようであった。

 

「せっかくだからもうちょっと相手してあげたいが、やりたいことをやるには引き際も肝心!ということ、さいなら~♪」

「クソっ…!待て、リゼヴィム!」

『だから落ち着けって、ヴァ―リ!』

 

 この場から離脱していくリゼヴィムを、ヴァ―リと大一はそのまま追い続けるのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 リゼヴィムを追っていた城下町の先にいたのは、一誠とアザゼル、そして再び黒い怪物となっていたギャスパーであった。リゼヴィムの横には鎧武者の無角と、なぜか見知った一誠の禁手と同じ鎧が立っていた。その姿を確認したシャドウが率直に疑問を口にする。

 

『なんだ、あれは!?赤龍帝のガキの鎧とまるで同じじゃないか!』

『感覚はエロガキの鎧と同じだが、中の奴はあの銀髪メイドとほとんど同じだな。何者だ?』

『…そうか、あいつがユーグリットか!』

 

 ディオーグの感知によって、その正体を理解した大一は錨に魔力を溜める。視線の先にルシファー眷属として目的の相手がいるのだから、自然と気持ちも焦燥感に駆られた。

 そんな中、ユーグリットが素早く転移型の魔法陣を展開させる。この場から離脱しようとするのは明らかであった。その様子に、一誠とヴァ―リ、ギャスパーが詰め寄っていく。

 

「待て、リゼヴィムッ!」

「てめえも待て、ユーグリッドォッ!」

《ヴァレリーの聖杯を返せッ!》

 

 ヴァ―リと一誠の撃ちだす魔力の塊、ギャスパーが向かわせる黒い獣たち、これらはリゼヴィムに直撃しても何事も無かったように霧散していった。

 

「残念♪その力が神器に関わっている以上、俺には効かないぜ?」

「それ以外で攻めればいいだけだ!大一、やるぞ!」

『了解!』

 

 アザゼルの言葉と共に大一はシャドウで作り出した腕をロープのように回転させると、その勢いで魔力を込めた錨を投げつける。ほぼ同時にアザゼルも光の槍を数本投げつけるが、それらは無角が伸ばした刀によって弾き飛ばされた。

 

「いやはや、甘いっつーの!んじゃね♪また盛大にテロすっから応援してくださーい!今度も伝説の邪龍くんを連れてくるよ!

 あ、そうだ。俺たちの名だ。『クリフォト』、いい名だろう?『生命の樹セフィロト』の逆位置を示すものだ。セフィロトの名を冠する聖杯を悪用するってことで名付けてみた。悪の勢力って意味合いもあるよねん♪ちゃお☆」

 

 最後の最後まで舐めきった態度を取ったまま、リゼヴィム達は転移の光に消えていった。あとに残されたメンバーは息を切らして、彼らが消えた辺りに視線を向けていたが、ヴァ―リは怒りで全身を震わせていた。

 

「…俺の夢はグレートレッドを倒すことだった…。俺の夢は奴と一緒なのか…ッ!違う、俺は…俺は、あいつとは…違うッ!」

 

 憎々し気に胸にたまった感情をヴァ―リは吐き出す。そこに込められた思いを完全に理解できる者は恐らくその場にいなかった。

 とはいえ、彼ほどではないにしろ他のメンバーも間違いなく実感した。リゼヴィムという男の危険性を。




次回あたりで16巻はラストになります。
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