やっと例のチーム結成ですね。
吸血鬼の事件でもっとも好転したことは、間違いなくギャスパーが一皮むけたことだろう。それは彼自身が目覚めた新たな力ということだけではない。吸血鬼の領地を去る前、彼は父と会ってハッキリと決別の意を示し、さらにヴァレリーを目覚めさせるために決意を示した。元より土壇場での気持ちの強さは発揮していた彼であったが、今回の一件に通してその赤い瞳に強い光が宿っているようであった。彼の決意の引き金になったヴァレリーはグリゴリの研究施設に移されることになった。
しかしこれは身内ゆえに感じられるものであり、大局的に見れば今回の一件が残したものはマイナス要因でしかなかった。その原因はリゼヴィム率いる新生「禍の団」である「クリフォト」の存在である。
吸血鬼の領地から戻った数日後の深夜、一行は駒王学園に集まっていた。オカルト研究部や生徒会だけでなく、グリゼルダやデュリオといった天界チーム、刃狗と幾瀬鳶雄、サイラオーグとシークヴァイラの冥界関係者、加えて初代孫悟空とヴァ―リチームもいた。
これほどの壮絶なメンバーが集まる中、彼らはアザゼルから現状の各勢力の動きについて聞いていた。他勢力にとってもリゼヴィムは無視できる存在ではなく、和平を結んだ勢力同士でクリフォトへの対抗策が協議されている。グレートレッドとトライヘキサがぶつかる余波だけで世界が滅びる可能性もあるため、手段も選ぼうとしない神話体系もあるが、オーディンやゼウス、ミカエルなどが彼らを止めているようだ。これまで非協力的であった勢力ですらも重い腰を上げて動き出す辺り、リゼヴィムの危険性は認知されていた。
ひとしきり説明を終えたアザゼルが、注目を集めるように人差し指を立てる。
「ひとつ、各勢力の首脳から提案がされている。吸血鬼2大派閥の領土がどちらも蹂躙されるなんてことがあったんじゃ、各勢力もこの先不安で仕方ないだろう。どの神話もクソ強い神様のひとりぐらいはいるが、おいそれと自ら赴いてテロリストと戦うのもあらゆる体裁が付きまとってできないときている。そこでリゼヴィムの野郎どもとまともに張り合えて、すぐさま現地に赴ける、突出した実力を有した対テロ組織のチームが必要となった」
キッパリと言い放つアザゼルはこの場に集ったメンバーを見渡す。この時点で彼が言おうとしていることなど、容易に感づけた。
「そのチームが各勢力の自由が利いて強い者ほど都合がいい。そう、ここにいるお前たちが対テロリストの混成チームとして挙がっている。悪魔、堕天使、天使、吸血鬼、妖怪、ヴァルキリー、死神、獣人、人間、そしてドラゴン───。混成チームとしちゃ、破格といってもいいだろう。何よりも物凄く動きやすい」
アザゼルの提案に集まったメンバーは次々と賛成の意を表明する。リゼヴィムの危険性は彼らも知るところであったし、この状況で結束しない理由はないだろう。
ただこの中でデュリオだけが首をひねって腑に落ちない様子を見せていた。アザゼルが少し意外そうに問う。
「どうした、何か不満か?」
「名前が必要なんじゃないかなーって思っただけです」
デュリオの提案には少々面食らったが、その内容は的外れでもなかった。テロ対策チーム、直接的すぎて仰々しさが残る名前だ。メンバーも実力者ぞろいでありながら、政界などの公的な立場とは離れている特殊性もあるのだから。
「───『D×D』」
ポツリと呟いた小猫に皆の視線が集中する。彼女も本当に思いつきで提示したものであったため、恥ずかしそうにしながら言葉を続けた。
「いえ、異形たちの混成チームなのでなんとなくそう感じてしまって…」
「『D×D』の意味は?グレートレッドみたいにドラゴンの中のドラゴンという意味?」
「いいえ、デビルだったり、ドラゴンだったり、堕天使の堕天───ダウンフォールとか」
リアスの問いに小猫は続ける。この回答にアザゼルはうんうんと言葉を噛み砕くように頷いた。
「まあ、Dから始める単語で無理矢理こじつけてもいいんだけどな。名前が必要だってのは確かなことだ。なるほど、『D×D』か…。『D×D』たるグレートレッドを守るという意味でもわかりやすいかもしれん。俺はそれでもいいと思うが、お前達は?」
「変な名前でなければいいんじゃないスかね。無難だと思いますよ」
「儂はどうでもいいさね。まあ、若いもんたちに任せるわい」
提案者のデュリオ、年長者の初代孫悟空が頷く。彼らが納得すれば十分であった。もっとも大一の中ではディオーグがこの空気にそぐわない苛立ちを感じていた。アザゼルの「グレートレッドを守る」という発言が気に食わなかったようだ。頭の中で声を荒げないのはありがたかったが、調子が狂う気持ちもあった。もっとも先日のリゼヴィムの勧誘を受けてから、どこかずれたような感覚が大一の中に内在していたのだが。
チーム名がまとまったところで、一誠がアザゼルに疑問をぶつける。
「…俺たちみたいなチームが動き出して、他の勢力で嫌な顔する者が出るのでは?」
「まあ、それは仕方ないところではある。だが、そうは言ってもお前たち以外に適任の者がいないからな。そうだ、お前に大義名分をやろう」
アザゼルはいやらしい笑みを浮かべながら、一誠の肩に手を置く。いたずらを提案しようとする少年のような雰囲気があった。
「───おっぱいは正義だ。お前はおっぱいドラゴンだ。だから正義ってことにしとけ」
「い、いいんですか?そんなので…」
「イッセー、リアスの胸を見ろ?どうだ、正義だと思えてこないか?」
なんと無茶な理論だと大一は思った。同時にアザゼルは間違いなく、弟の扱いというものを理解しているのを実感した。その証拠に彼の表情は見る見るうちに興奮の感情に包まれていった。
「は、はい!だいぶ正義に思えてきました!」
「よし!お前は大義名分を得たぞ!お前らもそういうことで納得しておけ!テロ対策チーム『D×D』の大義名分はっ!」
「『おっぱいは正義』ッッ!」
アザゼルに続くように一誠は声を張り上げる。これには部屋にいる者達が呆れたように嘆息をした。シャドウも愚痴を漏らしたくなったのか、大一の肩から少しだけ姿を見せて目を細める。
『まったく、こんな奴が希望とは世も末だな…ぬおっ!どうした、大一!?』
「あれがさ…冥界のヒーローというのがさ…俺にはさ…わからなくてさ…」
「気にしなくても大丈夫よ。たまに放心状態になるだけだから」
うなだれたように頭を下げる大一にシャドウは驚くが、隣にいた朱乃が説明する。彼も一誠のスケベさには慣れたつもりであったが、直接的に目の当たりにすると未だに神器の影響とは別ベクトルで感情がマイナスへと傾くのであった。
そんな彼をスルーして話は進んでいく。アザゼルがデュリオに指を突きつけた。
「リーダーは…ジョーカー、お前がやれ」
「いえぇぇぇぇぇえええっ!?じ、じ、自分ですか!?いやいやいや、マジでどうしてなんスか!?」
「悪魔や堕天使がリーダーってのは体裁的にまずい。どう見ても世間的に悪役イメージで固まってる。その点、天使ならいいイメージで満載だ。特に人間から天使になったってのはポイントが高い。人間にもイメージがいいぞ」
「そ、そんなことで…?い、いや、俺、そういうのは…」
明らかに乗り気でなく、断りたい雰囲気を醸し出しているデュリオであったが、その逃げ道を封じるかの如くグリゼルダが強い口調で彼に話す。
「デュリオ、これは大変名誉なことです。やっておきなさい。いいえ、やりなさい。『切り札』を体現した役職にいる以上、やるべきです」
「…あー、はい。わかりました。やりますです!えー、そんなわけで俺がリーダーってことでひとつよろしくです」
天界の力関係が垣間見られる中、締まらない形でリーダーが決定し、そのままサブリーダーも初代孫悟空に決定した。ディオーグがアザゼルに、大一が一誠に負の感情を向けている中、今度は神滅具持ちということでシャドウがデュリオに不満を持ったようで、大一の中に引っ込んでくだを巻き始めていた。
大一の中でネガティブな感情が渦巻く一方で、まったく逆に友好な様子を見せるメンバーもいた。アザゼルがヴァ―リチームをこのチームに参加させて、彼らへの嫌疑を晴らそうということを主張すると、ヴァ―リがアルビオンに問う。
「アルビオン、宿敵と組むことに不満はないのか?」
『私は構わん。それよりも赤いの、今度は千年前の戦いについて語ろう』
『うむ、俺も構わん。なあ、白いの。いやー、昔話は楽しいなぁ』
「…随分、仲が良いな」
あまりの雰囲気の違いに、さすがのヴァ―リも戸惑いを隠しきれていない様子であった。そんな宿主を意に介さず、アルビオンは元気に答える。
『我らが揃えば乳だの尻だのもう怖くないのだ。なあ、赤いの』
『ああ、おっぱいだろうがヒップだろうがドンとこいというものだ!俺たちはそんなものに屈しない!』
『『ねー』』
長年悩ませていた二天龍の対立は意外な形で決着を迎えた。実際、先日の吸血鬼の領土で一誠がユーグリットと戦った際に、以前取り込んだ白龍皇の力を一部使えるようになっていた。白い龍を出して自身の攻撃を反射させるというもので、先日の戦いではユーグリットを退けさせることに成功したらしい。アザゼルの見解ではドライグ自身の新たな目覚めということらしいが。
「あいつのエロさが…こういう結果を招いても…俺は万に一つも納得できなくて…」
『ぬああああ!二天龍ばかりだ!神滅具ばかりだ!どうしてチクショウッ!』
(…いつか食いちぎる)
穏やかな二天龍と、混沌と化した大一達というなんとも奇妙な雰囲気がそこにあった。
また「禍の団」に加担していたヴァ―リチームの件を少しでも払拭するために、オーディンが全てを承知の上でヴァ―リを養子にするという提案をしていた。アザゼルとしても堕天使という悪印象を与えやすい自分よりも遥かに安心して預けられる相手であった。
アザゼルがこの話をヴァ―リに振ると、彼は少し考えて答えを出す。
「お互いに利益が出そうなときは協力しよう。あとは独自にやらせてもらうさ」
「それは合意と見ていいんだな?」
明言はしないヴァ―リだったが、彼は黒歌とルフェイに視線を送る。
「…黒歌とルフェイは基本的にそちらに預ける。こちらでも必要になったら呼ばせてもらうが。黒歌、ルフェイ、ここは任せる」
「任せられたにゃ」
黒歌は敬礼ポーズで了承し、ルフェイはこくりと頷く。これを機にアーサーが一誠に対して、妹のルフェイの契約の話を持ちかけていると、黒歌はまだうなだれている大一にひらりと近づく。
「ということで、よろしくにゃん♪」
「正解がわからねえよ…俺が慣れればいいのか…でもそれは違ってくるし…あっ?えっ?ああ、今後も滞在するってことだろ。はいはい…」
「聞いているのか聞いていないのかわからないですわ…」
大一の戻りように朱乃はやれやれといった様子で首を横に振る。
「だ、大丈夫だ。聞いていた…と思う」
「ルシファー眷属がそれではダメでしょうに…」
「は、反省します…」
「にゃはは、だったら大一も赤龍帝ちんみたいにおっぱい大好きになればいいのに。私だったら、いつでも大丈夫よん」
「あらあら、聞き捨てならない言葉ですわね」
「姉さま…!」
朱乃と小猫がメラメラと闘気を出すようにプレッシャーを見せるが、黒歌は面白そうに笑うだけでわざとらしく胸の谷間を見せつける。そして大一の方は少し思案したような表情を見せると、上着を彼女の肩にかける。
「…そういうのは大事な人のためにするものだ」
「おっと、スマートな対応にゃ。あんたらしくない」
「頼もしい先輩から習っただけだ」
大一の頭の中にはフェニックス家の3男の顔が思い浮かぶが、どこまで学んだことの効果が発揮されるのかは理解していない上に、そもそも彼から教授された女性の扱い方を実践しきれていなかった。それでも黒歌は面白そうにしているが。
一誠とルフェイの魔法使いの契約も一段落ついたところで、初代孫悟空が一歩前に出る。
「さての。若いもんで強くなりたい奴はおるかねぇ。お前さん達はこれより儂が一から鍛えるでな。───全員、最低でも上級悪魔、上級天使クラスに成長してもらわんとこれを結成した意味がないぞぃ。ゆくゆくは最上級クラスになってもらうわけじゃい」
この言葉に全員の士気が大きく上がる。これから相手にするのは、最高峰の悪魔や邪龍達。それを踏まえれば、かの伝説の人物からの指南は非情に頼もしいものであった。初代孫悟空やアザゼルとしてはこのチームにテロリストだけでなく、今後の未曽有の危機にも対抗なりえる切り札と考えているようであった。
特に二天龍には期待が寄せられているようで、初代孫悟空は一誠とヴァ―リを骨の髄まで鍛えるつもりのようであった。それこそ将来には神クラスとも戦えるほどまで…
「ま、今は目先の大悪党───リゼヴィム・リヴァン・ルシファーへの対応じゃろうよぃ。常々、儂はお主らの神滅具を持って生まれたもんは生まれた時から課せられておると思うてるわい」
「…課せられている?」
「神をも滅ぼす具現。儂は神滅具の登場は神器システムのバグなどではなく、世界の必然だと思うておる」
────────────────────────────────────────────
同日のほぼ同時刻、特殊な結界を張り巡らせた奇妙な屋敷のとある部屋に出向いた人物はゲラゲラと不快な笑い声を響かせていた。
「うひゃひゃひゃっ!愉快だねえ!ついに俺らも表舞台に参上ってやつだな!」
「いきなり来たかと思えば、やかましいな…」
やれやれと呆れた様子で黒髪と白髪が入り混じった青年が疲れたように頭をかく。幾度となく顔を会わせた組織のボスであるリゼヴィムの様子にため息交じりであった。リゼヴィムの横にはユーグリット、リリス、無角が立っている。
青年は無角を確認すると、労わるように手を上げる。
「久しぶりだな、無角。長期間の吸血鬼の領地での護衛、お疲れ様」
「それが我の仕事だったまでよ」
そう言うとリゼヴィムの傍を離れて壁に寄りかかる。それで身体が休まるのかとユーグリットは不思議そうに一瞥したが、特に釘づけにされるような興味も無かったため再び青年へと視線を戻す。
リゼヴィムはざっと部屋を見渡す。相当な広さを誇っていたが、青年以外にはひとりの中年の紳士がソファから立ち上がって自身に視線を向けているだけであった。
「ありゃ、もうちょっといなかったか?えーっと…あいつ以外にもいただろ?」
「他のメンバーはもうすぐ帰ってくるよ。あと彼の名前は『ブルード』だ」
「ああ、そうそう!昔の名前で憶えちゃっているから、すぐ出てこなかったわ!ごめんねー☆」
「気にしないさ」
紳士…ブルードは肩をすくめて答える。名前を忘れられたことよりも、リゼヴィムのおふざけ極まった態度の方を気にしているようであった。
すると別の扉から3人の人物が入ってくる。岩のような巨漢、帽子を深く被った少年、ド派手な法被を着た女性だ。
「おっと、ついに全員集結だな。おひさー、キミたち♪」
「…ああ、ボスですか。どうも」
「うっせえな!こちとら仕事終えて帰ってきたんだから黙ってろ!」
帽子をかぶった少年、モックは小さく頭を下げるだけ、法被姿の女性、バーナは荒々しい口調で反応する。ギガンに関しては無言であった。
「なんか、俺ってボスなのに扱い雑じゃね?」
「そりゃ、3人は吸血鬼の領地の動きを感づかれないように騒ぎを起こしていたんだぞ。ようやく収拾がついて戻ってきたからな。もっと言えば、俺とブルードも別のところで引っ掻き回していたんだ」
「おっと、それはおじさん感謝感激♪お礼がてらにハグしてあげたいな♪」
リゼヴィムの態度にいちいち反応するのも面倒になった青年は、手近な椅子にドカリと座るとボスへと視線を向ける。
「それでどうしてここに?」
「いやあ、本拠地戻るにあたってここが一番近かったからな。宣戦布告もしたし、いよいよ俺たちも本腰を上げて動きまくるぜ。邪龍復活はすぐすぐとして、お次はトライヘキサだ」
ニヤニヤと笑うリゼヴィムは悪意に満ちていた。悪魔を体現しているような残虐非道な考え方、性格が表情や動作のひとつひとつに込められているように思えてしまった。
青年が呆れと感心が入り混じった不思議な感情を抱いていると、ユーグリットが一歩前に出る。
「それにあたっては私の方で少々考えがあります。次の作戦では私を主導にさせていただきたいのですが」
「おっと、いいね!ユーグリットくん、そういう意欲大事よ~!100点上げちゃいたいね♪」
「お任せください、リゼヴィム様。聖槍を手に入れられなかったハーフの分まで働きはしますよ」
「露骨に喧嘩売ってくれるな、ユーグリット…!」
ユーグリットの発言に青筋を浮かべながら青年は答える。たしかに聖槍を奪うことは英雄派に潜入していたひとつの目的でありそれを達成することは出来なかったが、神器の研究成果や聖杯、聖十字架でトライヘキサの封印を解くことへの貢献、その名も知らぬ封印場所の発見など貢献は十分にしているつもりであった。
「なに、ハーフのあなたよりは目的を遂行できると自負しているだけですよ。しかも人間の血の方が濃い」
「そのおかげで英雄派に潜入できていたんだよ!このシスコン悪魔が!」
「身内でドタバタやっているのも時間の無駄だろう。さっさと本拠点で次の作戦をまとめようではないか」
ユーグリットと青年が火花を散らすのに対して、ブルードが間に入って2人を抑える。この光景をリゼヴィムはニヤニヤと笑みを浮かべながら眺めていた。とはいえ、さすがにずっとここで時間を潰すつもりも無く、軽く手を叩いてこの小競り合いの終焉を伝えた。
「まあ、ブルードの言う通りだな。あっちで聖十字架の魔女ちゃんも待っているし、まずは聞かせてもらおうじゃねえの。ユーグリットくんの作戦をさ」
「ええ、ある女性についてなんですが…」
併せてオリキャラチームもようやく全員出揃いました。
次回から17巻に入っていきます。