D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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まあ、こういう形に収まるようなイメージですね。


第149話 祖母の来訪

 12月に入って期末テストが帰って、一部で拍手喝采、一部で阿鼻叫喚になっている1、2年生であったが、3年生の注意はどんどん近づいている卒業へと気が向いていた。もちろん赤点を取っていないのが前提ではあるが。

 駒王学園はエスカレーター式で大半はそのまま大学部へと進級する。そのため進路相談もこの時期になると3年生は終わらせてある。おかげでゆっくりと残りの学生生活を過ごすことができる…と思われがちだが、実際はそうでもなかった。

 少なくともオカルト研究部の上級生3人は昼休みに集まって、部室の整理や話し合いをするくらいには忙しかった。メンバーが後輩たちの眼につかないようにするためでもあったが。

 

「リーダーシップという点においてはイッセーくんやゼノヴィアちゃんが良いと思いますわ」

「俺は反対だな。ガンガンやりすぎて、とんでもないことになりそうだ」

「イッセーは今後も冥界の件で忙しくなりそうだしね。ゼノヴィアは…そういえば生徒会長を狙っているというのを聞いたわね。部長のポジションは難しいか…」

 

 リアス、朱乃、大一は旧校舎の部室で紅茶の入ったカップを片手に話し込んでいた。当然のように期末テストを難なくクリアした彼女らは、卒業してからのオカルト研究部の部長と副部長を誰にするかについて話し合っており、それぞれ意見を出し合っていた。

 ほとんど確定であったのは、1年生の頃から所属している祐斗であった。女性2人で固めていた3年間だからこそ新しい風を入れたいというものであった。

 

「祐斗と小猫でいいような気もするが…」

「小猫は私との付き合いこそ長いけど、オカルト研究部としてはイッセーと歴はほとんど大差ないわ」

「2年生に負担を強いるのも少々難しいところですものね」

「私としてはアーシアが1番だと思うわ。私とは違う新たな方針を見せてくれそうだもの」

 

 ズバリと話すリアスであったが、その時に部室にアザゼルが大きなあくびをしながら入ってきた。その場に3人もいたことに軽く驚いた様子を見せる。

 

「おっと、お前らか。せっかくの昼休みに何やっているんだ?」

「来年のオカルト研究部のメンバーについて話し合っていたのよ。アザゼルこそどうしたの?」

「俺はちょっと探し物だ。にしても、そういうことなら俺にも声をかけろよ。仮にも顧問だぜ?」

「私達で決めたかったのよ」

 

 リアスは軽く肩をすくめて、アザゼルの発言を流す。ただこの短い回答が彼女の本音ではあった。残り数か月の高校生活、これを彼女は徹底的に満喫するつもりでいたのだから。朱乃も大一も、彼女の思いを汲み取ったうえで協力する気であった。

 

「まあ、いよいよ高校生活もあと少しだからな。決まったら俺やロスヴァイセには早めに教えてくれよ」

 

 気軽に言ったアザゼルはざっくりと部屋を見渡すと、部屋を出ていく。どうもお目当ての探し物は見つからなかったようだ。しかし彼が残した言葉は3人に対して、目に見えない爆弾を投下していた。彼が発した女性の名前、大切な仲間であるのは間違いないのだが、ここ数日で大きく拗れているのも事実であった。

 数日前、ロスヴァイセは大一に対して、「彼氏になって欲しい」と頼んできた。この依頼の真意は、来日する祖母の前で彼氏として紹介する為であった。ロスヴァイセが異国の地で過ごしているのと、元来の真面目さを危惧して、せめて相手でもいれば安心できると常々伝えていたようだ。祖母を安心させるためにも、ロスヴァイセは彼氏役を頼みたかったようだ。

 しかしここでひとつの問題が発生する。大一がヴェネラナから依頼された件について、迎える女性…ゲンドゥルがロスヴァイセの祖母であった。彼女の紹介前に彼氏が出迎えるのはどうにも体裁の悪さと気まずさが予想されるため、大一は彼女の頼みを断らざるをえなかった。

 これで済めばよかったのだが、迷ったあげくにロスヴァイセは一誠に同じことを頼んだ。同じ屋根の下に住んでいる時間的な面と、実績からもたらされる頼りがいにおいて納得の人選ではあった。しかしそのおかげでリアスも朱乃も大一も全員が微妙な感情を抱かざるをえない。

 

「…仕方ないこととわかっていても」

「簡単に納得できるものじゃありませんわ…」

「祐斗に頼めば良かったんだ…」

 

 リアスは彼氏の一誠のモテっぷりによる不安の加速、朱乃は最初に大一が頼まれたことへの心配、大一は断ったことへの申し訳なさと一誠の女性関係がややこしくなる危惧と三者三様に想いを深めていた。

 

「そもそも別のやりようはあったはずだわ!あー、これでロスヴァイセまでイッセーのことを好きになったら…もう、大一が引き受けてくれたら万事丸く収まったのに!」

「それはそれで私が悩むだけよ、リアス!それに大一ももっと甲斐性見せれば、これほど拗れることにならなかったのに!」

「そこで俺に矛先向かうのはおかしくないか!?」

 

 昼休みの集まりは気がつけば、緊張感や今後の準備とはかけ離れた色恋沙汰による議論へと変化してしまった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 次の休日、スーツ姿の大一はグレモリー領地にある目的の建物で待機していた。目の前には転移用魔法陣があり、ここでゲンドゥルを迎えることになっていた。

 上着の襟とネクタイを正しながら待っていると、頭の中でシャドウの声が響く。

 

『ヴァルキリーか…あんまり会いたくないな。北欧は何回か足を運んでいるが、しつこい奴が多かったんだよ』

(そういう時は力づくで黙らせればいいだろ)

(無茶苦茶言うなよ、ディオーグ。ロスヴァイセさんのおばあさまで、大切なゲストだぞ)

 

 物騒なことを言うディオーグを大一はたしなめる。仮にも今回はグレモリー家の使いという立場であるため、尚のこと粗相は出来なかった。しかしシャドウの件で何かしらの問題があれば、責任を取る必要があるのも間違いなかった。そういう意味ではロスヴァイセの彼氏役を引き受けなかったことは、彼女への不利益の可能性を無くしたため良かったのかもしれないと考えた。

 

『会いたくねえな…あいつらと同じように修行していれば余計な考えをしなくても済んだのだろうけど』

(それはそれで文句たれそうだけどな…)

 

 この日、他のメンバーは軒並みトレーニングに励んでいた。ゲンドゥルが来るまで時間があり、初代孫悟空やヴァ―リも手が空いていたためさらなる研鑽に励んでいた。

 大一は身動き取れないルシファー眷属に荷物や書類を届けたり、ヴェネラナから段取りを確認したりなど別件で動いていたため、その訓練には参加していなかった。日課のトレーニングは疎かにせず、ルシファー眷属からもしごかれ続けているが、仲間との特訓の時間が減っているのも、ある意味では先日炎駒から受けた指摘の不安にも繋がっていた。もちろん初代孫悟空やジョーカーに対して、自分以外のルシファー眷属が劣っているとは微塵も思っていないのだが。

 シャドウも神滅具所有者を中心に特別な力を目の当たりにしていたため、自信の喪失と焦燥感は確かにあった。

 

『神滅具…禁手…』

(出来ることばかり増やしても意味がねえ。それを過不足なく使いこなせるように鍛え、さらに他の要素にも目を向けるんだ。最終的にグレートレッドやオーフィスをねじ伏せられるくらいまでな)

(そこまで行けるかな…。やっぱり出来ることも増やさなきゃ)

 

 3人の人格は話し合っても、完全にまとまった考えに至るのは稀有であった。強さにおいても当然のように考え方に違いは出ている。神器としての能力を優先するシャドウ、あらゆる事象をひっくるめて強さと勝利に貪欲なディオーグ、自信の無さと出来ることを模索する大一と点でバラバラな雰囲気がある。ある意味、これが彼らの連携の難しさを表しているようにも思われた。

 

(俺が本調子なら肉体だけでも十分だが、貧弱な小僧だとな…魔法も全然だしよ)

(実戦で使うにはどうもな…あっ、ロスヴァイセさんに魔法の本返しておかなきゃ)

『おいおい、話せるのか?例の件があってから気まずくなっているんじゃないの?』

(えーい、冷やかし止めろ!)

 

 大一は苛立ち半分に反応するが、シャドウは高い声に浮ついた気持ちを乗せて話を続ける。

 

『まあ、僕としては?男としてもキミの方が上等であることを見せつけて欲しいものだけど?』

(お前、エロ弟の武器が特別ってだけで敵対しているだろ)

『それの何が悪い!くっそ…また神滅具持ちだ…!大一はヴァルキリーの誘いに乗っておけば良かったんだよ!それで僕は優越感に浸れる!』

 

 話の方向が逸れかけていると、魔法陣が強い光を放ち始めた。それに気づいた大一はすぐに姿勢を正し、その光が収まるのを静かに待った。

 間もなく魔法陣から初老の女性が現れた。紺色のローブを着ており、非情に落ち着いた雰囲気が印象的であった。しわの少ない精悍な顔つきは若々しさと力強さを感じられ、腰の曲がっていないしっかりとした立ち姿から真面目さが窺える。銀髪も併せて、ロスヴァイセの祖母というのに納得の雰囲気であった。

 

「初めまして、ゲンドゥルです。あなたがグレモリー家の?」

「はい、兵藤大一と申します。グレモリー家の使いとして参りました。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 ゲンドゥルは丁寧に頭を下げる。一瞬だけ、その眼が鋭く大一を捉えていたが、頭を上げてからは穏やかな表情をしていた。

 

「ところで私の記憶が正しければ、あなたは孫と同じリアス・グレモリーさんの眷属だったと思ったのですが…たしか孫が魔法を教えているのもあなたで?」

「ゲンドゥル様、そこまで知っていたのですか!?」

「孫からの連絡で時々耳に挟んでいましたから」

 

 落ち着き払ったゲンドゥルの発言に、大一は驚きを隠せなかった。抜け目のない辺り、ロスヴァイセよりも長年の経験の違いを感じさせた。

 

「そ、そうでしたか…ええ、ロスヴァイセさんからは多くのことを学んでいます。ただ私は訳あって今はヴェネラナ・グレモリー様の眷属に身を置いているのです」

「だからあなたが出迎えてくれたわけですね。しかし孫から多くのことを…うーん…」

「納得いかれませんか?」

「いいえ。ただあの子は昔から要領が悪くてね」

「とても素晴らしい女性ですよ」

 

 大一の反応に、ゲンドゥルは今度こそ隠しきれない鋭い視線を向けた。それが何を意味するのかは、大一はわからなかったがいつまでもこの場で話し続けるわけにもいかない。

 

「このままだと短い道中での話題が尽きそうですね。行きましょうか?」

「ええ、お願いします」

 

────────────────────────────────────────────

 

 15分後、大一はゲンドゥルを連れて兵藤家にたどり着くと、手作りの菓子と熱いお茶が用意されたVIPルームへと案内する。リアスがそこで仲間達に今回の彼女の来訪の素性や目的を説明していた。ヴァルキリーとしての来歴、アガレス領土で行われる魔法使いの集会、クリフォトが関係していると思われる魔法使い失踪事件、それにあたりいざという時に術の封印をすることとそれをアンチマジックの研究に長けている堕天使に任せる旨、併せてソーナの学校で講演を行うこと…大一は事前の打ち合わせでだいたい知っていたため、驚き少なく凛とした佇まいを崩さずにいられた。

 しかしこの話の最中にも座っているロスヴァイセは気が気でないように見えた。そして話の区切りがついたところで、いよいよ彼女の緊張が最も高まる瞬間が訪れた。

 

「ロセ、私がここに来た理由のひとつ。お前ならわかるね?彼が───そうだと思っていいんだね?」

「そうです。彼が私の彼氏、兵藤一誠くんです」

 

 緊張をほぐすように大きく息を吐くとロスヴァイセは祖母に一誠を紹介する。弟の一瞬見られた腑に落ちた表情を見逃さなかった大一は、ロスヴァイセが事の詳細を一誠に説明していないと思って小さくため息をついた。

 当然、彼の反応は誰も気づかずゲンドゥルは容赦なく話す。

 

「ロセ、おまえは勝手に家を出て、勝手に悪魔に転生し、勝手にこちらで人間界の教員などを始めた…私に心配ばかりかける悪い孫娘です」

「うっ…それは…」

「お祖母さま、それは私が勧誘したことも起因しておりますわ。ロスヴァイセばかりをお責めにならないでください」

「いいえ、グレモリーのお姫様。それに関しては特に問題ではないのです。いえ、厳密に言えば問題は問題ですが、それよりも相談もなく、勢いで生き方を変える孫に私は一言言いたいのですよ」

「…耳が痛いな」

 

 リアスのフォローも気にせず、紡がれるゲンドゥルの言葉に、クッキーをつまんでいたゼノヴィアが呟く。大一も大きな理由があったとはいえ、勢いで悪魔になった面はあるため彼女同様にあまり他人事として聞き流せなかった。

 ただゲンドゥルとしても責めるつもりは無かった。オーディンが忘れたということを踏まえれば、そもそも彼女に文句のつける理由も無かったのだ。

 むしろゲンドゥルの本心は彼女への心配という一点に集約されていた。

 

「勉強や魔法ができても要領が悪くて大いに抜けているお前が遠い極東の地で他人に迷惑をかけずに教職が勤められるのかが…。そこで私は孫に彼氏でもできれば安心できると常々伝えていたのです。そうしたら、いると言うものですから…」

「イッセーくんは頼りになる男性です。で、伝説の赤龍帝で、もう中級悪魔の将来性豊かな人なのですから!」

 

 ゲンドゥルは少し思案したような表情になると、後ろに控えて立つ大一に言葉をかける。

 

「お兄さんとしてはどう思うのでしょうか?」

「わ、私ですか…そうですね、私の弟は冥界では並々ならぬ信頼は勝ち得ていると思います」

 

 まさか振られると思っていなかったので動揺はするものの、大一は短く答える。本音ではあるが、それを直接表明するのは気恥ずかしい思いもあった。しかし自分の感情とロスヴァイセの言葉を天秤にかけた時、彼が優先させるのは考えるまでもなかった。

 ゲンドゥルはその言葉に特別反応もせず、再びロスヴァイセに向き直って話し続ける。

 

「付き合ってどれくらいだい?」

「…さ、三ヶ月です」

「ということは、すでに男女の関係も結んでいると思ってもいいんだね?」

「…そ、それは…まだ結婚をしているわけでもないし…。だ、だいたい!私の貞操観念は、ばあちゃ…お祖母さんが私に植え付けたものです!」

「私は別に嫁ぐ前に関係を持つなとは言ってない。変な男に引っかかって無駄に身体を許すんじゃないと言ったんだよ」

 

 話の方向性がとんでもない方向に向かっていく中、ついにロスヴァイセの我慢のダムが崩壊した。

 

「わ、わたすだって、男の子とエッチなことしてぇさっ!」

「そっだら、さっさと身を固めちまえばいいって言ってんでしょが!しっかりした男の人が2人もいんのに、なにしとったか!」

 

 いよいよ互いに方言丸出しで言い合いが始まりかけて、2人を除いたメンバーはポカンとした様子でそれを目の当たりにしていた。話している内容は孫の男女関係というものなのに、その勢いはあまりにも凄まじかった。

 大一も一瞬迷ったが、リアスが一誠の件で冷静でいられないと踏んだ彼はすぐに大股で2人の下へと近寄る。

 

「お二人とも、落ち着いてください。熱くなっては話もまとまりません」

「…そうですね。とにかく交際を許可します。これで好きな男性と想いを遂げられるのだろう?ほら、今度逢い引きでもしてみんさい」

「い、いや、で、でも!」

 

 途端に慌てるロスヴァイセに、ゲンドゥルは強い瞳で告げる。

 

「今度会う時に改めてその辺のことを訊くからね。お前と───彼氏さんからもね。今日はありがとうございました。私はこれで失礼します」

 

 それだけ言い残すとゲンドゥルはソーナが用意している宿泊施設に向かうために、この場を後にした。大一も彼女のついていき宿泊施設まで送り届けると、その後に一誠とロスヴァイセのデートが決まったことを耳にするのであった。

 




微妙でややこしい人間関係…。
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