D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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オリ主が別行動することが増えてきたので、原作既読じゃないとかなり厳しくなってきたかもしれません。いちおう分かるくらいには書くように意識はしているのですが…。


第151話 主との会話

 夕暮れ時、一誠達よりも少し遅れて帰って来た彼の耳に入ったのはユーグリットが現れたという情報であった。一誠とロスヴァイセのデートは駅ビル近くの大型百円ショップで行われていたが、そこに敵の方から接触してきた。その狙いは…

 

『…なるほど、ロスヴァイセが狙われたか』

 

 現在、一行はグリゴリにいるアザゼルに定期連絡として一連の事情を説明していた。連絡用魔法陣に映る半透明の彼の表情は思案に満ちていた。ユーグリットの狙いは、ロスヴァイセの勧誘であった。彼女が学生時代に書いた『黙示録の獣について』というタイトルの論文に目をつけて、トライヘキサ復活の鍵になると考えていた。もっともロスヴァイセ自身、この論文はまとまらずに破棄したものであったが、敵は当時の彼女のルームメイトを襲いその記憶の断片から辿ってきたようだ。

 アザゼルの話では、名うての魔法使いが襲われている事件についてひとつの共通点があった。それは全員が「獣の数字666」に関する研究をしていた者であることだ。しかも一般的な視点だけではなく、あらゆる角度から研究と考察を深めた者達ばかりで、クリフォトは彼らを手当たり次第狙っていることになる。最悪の場合を想定して、アザゼルも何かしらの用意はしているようだが…

 

『ま、こっちの協議の末に出た答えもどこまで信用できるか見当もつかん。捕らえられた術者の持っていた情報がどれほど封印術式に影響を及ぼすかわかったもんじゃないからな。

 ひとつだけ簡単に訊く。ロスヴァイセ、お前は「666」の数字をどう読み解こうとした?』

「…私は異説である『616』の方で研究していたんです。そちらの数字で各種関連書物、歴史上の出来事と照らし合わせながら数式、術式を組み立てていきました」

『───っ。…そうか、やはりな』

 

 ロスヴァイセの研究について、アザゼルは予想の範囲内であったようであまり驚きは見せなかった。この話について、2人以外のメンバーはピンと来ておらず、アザゼルが説明した。

 

『数ある黙示録の研究者たちが、「666」という数字に焦点を合わすなか、一部の術者が異説である「616」からのアプローチをはじめたという。今回、拉致された魔法使いのすべてが「616」からのアプローチを始めたという。今回、拉致された魔法使いの全てが「616」から「獣の数字」を調べていた者達ばかりだ。多くの研究者は「616」が本来の解釈とは見ない。俺たちがグリゴリもそうだと信じていたほどだ。…それでも奴らがこう動いたということは、「聖書の神」は「616」でトライヘキサの封印術を編んだというのか…』

 

 説明の途中で、アザゼルは自分の仮説をぶつぶつと呟き始めた。研究者気質の彼が己の考えに没頭することなど珍しくなかったため、誰も指摘しなかった。間もなくアザゼルはハッと我に返ると咳払いをして再びロスヴァイセに言う。

 

『よし、とりあえず、お前が学生時代に書いたという論文を、覚えている限り、紙に書いてこちらに回せ。その論文がどこまで666に関して触れているのか、こちらで調査してみよう』

「…少し前から、書き起こしてありました」

 

 ロスヴァイセの手元には魔術文字と術式が書かれたレポート用紙があった。彼女はそれを小型転移型魔法陣の上に乗せて、アザゼルへと転送した。

 軽くレポートに目を通しながらアザゼルは感心しながら話す。

 

『しかし、お前も大したもんだ。自然と祖母と同じものを調べていたなんてな。血は争えないというやつなんだろう』

 

 アザゼルの言葉に、大一は額に嫌な汗が噴き出すのを感じる。数時間前まで彼は彼女と共にいたのだ。下手をすれば、あの瞬間に狙われていてもおかしくなかったのだ。その危険性と恐ろしさを強く実感させたのは、ロスヴァイセが複雑な表情を浮かべたまま押し黙っているのを見てからであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 冥界の中でも相当な広さを誇る旧都市ルシファード、その名前の由来はこの地にかつてルシファーがいた為であった。今でこそ冥界の首都はリリスであるが、その規模や賑わいからしても冥界の中でも特別な意味を持つ場所である。大一もこの地の病院には何度か足を運んで不眠の原因を探ってもらったし、リアス達はここで若手悪魔の集会を行ったのだから、馴染み深さと規模の大きさは理解している。

 その地に佇む巨大なビルの一室にスーツに身を包んだ大一はひとりの男性と会っていた。

 

「ここで話すと波風が立ちそうな気もします」

「だが私も魔王としての仕事がある。それに旧魔王を崇拝している者たちが全員ここに住んでいるわけではないからね」

 

 対面に座るサーゼクス・ルシファーは小さく笑う。そこは応接室であったが、造りは簡素なもので置かれているソファやテーブル、棚などもきらびやかさには無縁なものであった。事務用の部屋であるのと同時に、そもそも滅多に使われない部屋であるようだ。その証拠に腰を下ろすソファも固く、お世辞にも座り心地が良いとは言えなかった。

 サーゼクスは軽く目をこすりながら、大一に話す。

 

「悪いね。わざわざ来てもらって。リアス達と学校の見学に一緒に行くはずだったのに。しかしどうしてもこの時間しか取れなくてね」

「いいえ、主のお呼びがかかったのですから当然のことです。この後、向かうつもりですし」

 

 この日、一誠達はアガレス領土にあるソーナの「誰でも通えるレーティングゲームの学校」の見学に向かっていた。本来であれば、大一もそこに同行する予定であったのだがサーゼクスとの話もあったため、時間をずらして遅れて向かうことになっていた。いくら教師として勧誘を受けているとしても、どちらを優先させるべきかは明白であった。

 大一の言葉にサーゼクスは微笑む。

 

「そう言ってもらえると助かるよ」

「…サーゼクス様、少し痩せましたね」

 

 大一の言葉にサーゼクスは無言で笑顔を崩さない。何度も民衆に見せてきたであろうリーダーとして安心を示す笑顔であったが、どこか弱々しくも見えた。目の下にはうっすらとくまが出来ており、頬も少しこけている。ユーグリットの存在による疑惑の念が連日の激務を誘発させ、彼の身体を間違いなく追い詰めていた。

 しかし身体的疲労以上の苦労を彼の表情は映していた。その理由を言及しなくても事情を知る人物たちは予想できたであろうし、実際それが正しかった。グレイフィアと会えないこの状況は彼の心を枯らしていた。

 

「ご無理なさらないでください…と言っても難しいでしょうね」

「ははは、まあそうだね。こればかりはどうしようもないよ。

さて大一くん。ちょっと私の方でいくつか話したいことがあるんだ」

 

 サーゼクスの雰囲気が張り詰めたことに、大一も姿勢を正す。今回、サーゼクスが大一を呼び出した理由は、ここ最近であったいくつかの重要な情報をまとめるためであった。

 

「まずここ最近、連中が各地で引っ掻き回しているという情報が入っている。キミらが吸血鬼領地で戦っていた際もオーディン様の管轄であるアースガルズの一部と冥界のはずれで旧魔王派の残党が暴れていた。おかげで吸血鬼の方から注意を逸らされたのは間違いない」

「クリフォトの策略でしょうね」

「私もそうだとは思う。しかしそれにあたり疑問に思うのは、これを主導したと言われる奇妙な連中だ。混乱の最中で確認した相手の中に、神器を扱う青年や岩のような巨漢がそれぞれいたらしい」

 

 大一の眉がピクリと動く。真っ先に思い浮かべた2人はいずれも大一が戦い、手を焼いた相手であった。

 

「彼らは追跡しようにも煙のように消え去り、尻尾を掴むこともできない。しかし間違いなくクリフォトと繋がっていると断言できる。実際に戦ったキミがいるからね。そこでだ。キミの方でなにか敵に思い当たる節は無いかな?」

「クーフーとギガンにですか…正体とかに心当たりはないですが、ひとつだけ共通していることがありました。戦った際に奇妙な感覚があったんです」

「奇妙な感覚?」

「言葉で説明するのは難しいのですが…なんというか…感覚的なもので、私の魔力に繋がりを感じたんですよ」

 

 大一は首をひねりながら答える。自分の中に流れる魔力の一部が、パズルのピースが互いにハマるようにかっちりと繋がるのを想像したが、それを口頭で説明するとなると非常に難しいものであった。

 しかしサーゼクスはこの回答を噛み締めながら、思慮深く頷く。

 

「…ハッキリとしたことは不明だが、やはり何か共通点があるということかな?魔力的な面であれば、感知に秀でた者に調査させるのが一番か…」

「サーゼクス様、彼らの正体はやはり不明なのですか?」

「そうだね。加えて、判明している2人ですら共通点がわからないんだよ。英雄派の残党に、悪魔の魔力を持つ謎の巨漢…不明というならば先日アザゼルと戦った鎧武者も素性がわからないな。私が思うに敵も『D×D』のような混成状態なんだろうね。

 そうだ、例の鎧武者が出たから本題に移ろう。リゼヴィムの件なんだが…」

「ええ、先日の吸血鬼の領地で接敵しました」

 

 大一はそのままリゼヴィムと戦った時の動きをそのまま伝える。特に長年ルシファーとして警戒対象であったリゼヴィムと直接対決した大一からは、その時の肌で感じた経験を聞いておきたかったようである。

 一連の戦いについて聞いたサーゼクスは考え込むようにあごに手を当てる。

 

「錨は防御した…ということは少なくともキミの錨は神器無効化の対象にならなかったわけだ」

「そのようです。今さらですが構造はほとんど神器と同じらしいのに奇妙な感覚ですよ」

「キミの力もリゼヴィムの能力も不明な点は多いからね。加えて護衛のリリスか…アザゼルからも報告は聞いたがやはり厄介だな。あとはどういうことがあったかな?」

「…どこまで本気かわかりませんが、私を勧誘してきました」

 

 一瞬迷った後に、大一はリゼヴィムが勧誘してきたことを話す。これにはサーゼクスも目を細めて、興味を持ちながらも愉快とは程遠い感情で傾聴した。

 

「…なるほど。危険な思想に加えて、なかなか失礼なことだ。それについて聞きたいのだが…」

「私は裏切りません」

「そこは疑っていないさ。むしろキミがそれで何か悩んでいないのかは不安になったけどね」

 

 サーゼクスの視線は、心を見透かしているかのような印象を大一に与えた。彼の言葉通り、リゼヴィムの勧誘は確かに大一に動揺を与えていた。それは悪魔として敵の甘言を信じたからではない。しかし圧倒的な格上の存在が垣間見せた一言が、いずれその未来を本当に実現させてしまうような不安を感じさせた。全てを失い、後悔に苛まれる日…多くのものを手に入れてきたからこそ、その心配は深刻になりかけていた。

 しかし目の前の男にそれを伝えるのは、気持ちにブレーキがかかった。頼れるのは間違いないが、今のサーゼクスにこれ以上の負担を強いるのは心苦しいものがある。

 大一は小さく首を横に振った。

 

「ありません。なにも」

「…そうか。では、これは私一個人の意見として聞いて欲しい。リゼヴィムは『正義』とか『悪魔』にこだわっているようだが、それで全ての人が分類されるわけじゃない。誰しもひとつはそういった面を持っているはずだ。私も含めてね。

 だからこそ、どのように選択をして行動するかは非常に重要なのだろう。それが自身を形作り、周りからの評価にもなるだろうからね」

 

 サーゼクスの言葉の意図を大一は読めなかった。困惑した表情は表に出さなかったが、彼はそれすらも見透かしたように身体を少し前に出して諭すように話し続けた。

 

「大一くん、難しいかもしれないが自信を持って欲しい。キミのやってきたことは自信を持っていいものだ。そしてイッセーくんやリアスを超えていける可能性にも繋がると私は思っている」

「…私なんかに期待しすぎですよ」

「秘蔵の駒を使ってでも、眷属にしたいと思ったんだ。そういった感情を持つのは自然なことだろう?」

 

 サーゼクスの笑みにつられるように、大一も笑みをこぼす。不思議と暗く沈みかけていた感情が穏やかになるのを実感した。サーゼクスがどこまで大一の心配を見抜いていたかは不明であった。しかし不安定になっている土台を補強するように、自信をつけさせるという手法は今の彼にとって効果的であった。

 改めて自分の主には叶わないと思いつつ、あの日に眷属となった選択は間違いでなかったとハッキリと実感した。

 

「ありがとうございます、サーゼクス様」

「礼を言われるようなことはしていないさ。私にとっては正当な評価のつもりだよ。だからこそ例の学校で教師の勧誘を受けたのだろう?」

「知っていたんですか…」

「セラフォルーから聞いてね。いい教師になれると思うが、選ぶのはキミ自身だ。自分の心に従うんだよ」

「元よりそのつもりですよ」

「しかしこうでも言わないと、キミは断る選択肢を考慮しないだろう」

 

 大一を眷属にしてからまだほんの数か月にも関わらず、サーゼクスはすでに彼の扱いを心得ていた。

 せいぜい30分程度の会話であったが、次の予定もあるためサーゼクスとの会合は終わりを迎えようとしていた。2人はソファから立ち上がるが、その時にサーゼクスが待ったをかける。

 

「おっとそうだ。大一くん、頼まれてほしいことがあるんだ」

「なんでしょうか?」

「少し待っていてくれよ…」

 

 サーゼクスは書類机へと向かうと引き出しから封筒を取り出し、大一の前に戻ってくる。

 

「アガレス領土に行くにあたり、グレモリー城を経由するだろう。その時にこれをグレイフィアに渡して欲しいんだ」

「手紙ですか…」

「キミなら大丈夫だろう」

 

 いたずらっぽく笑うサーゼクスに対して大一も頷く。古くから使われているであろう殺し文句は、大一の自信をつけるにあたり更なる効果をもたらしていた。彼もこれがサーゼクスとグレイフィアの安寧に繋がることを理解していたので、主の力になることをより実感していた。

 




思えば17巻はメインメンバーとの絡みがかなり少ない…。
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