D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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何気にグレイフィアさんとしっかりやり取りした描写を書いたの初めてかもしれませんね。


第152話 女王の願い

 グレモリー城内では少なくとも自由は確保されているグレイフィアであったが、外部との接触は強く禁じられている。共に住むグレモリー夫妻や息子のミリキャス、使用人以外が接触するには派遣された冥界政府の者からチェックを受けなければならなかった。

 当然、大一も例外ではない。ヴェネラナの眷属として来ていることを告げても、身体と持ち物を念入りに調べられる。わざわざ義手まで外すことになったのは気持ちの良いものではなかった。もっともルシファー眷属であることが露呈すれば、問答無用で追い返されるのだろうが。

 10分もかかってようやく確認が済ませられた大一は、客間にてグレイフィアと対面した。

 

「お久しぶりです、グレイフィア様」

「ええ、久しぶりですね」

 

 夫のサーゼクスと比べると、グレイフィアは健康的に見えた。顔の血色はよく、穏やかな雰囲気を醸し出していた。グレモリー家の仕事からも離れているためか服装もメイド服ではなく、クリーム色のセーターにチノパンというシンプルな私服姿であった。

 

「お身体は大丈夫ですか?」

「とても調子はいいですよ。ミリキャスとの時間が取れますし、あの人のご両親も一緒ですから」

 

 グレイフィアの言葉は真実であるが、同時に本音でもないという矛盾をはらんでいた。その寂しさと苦難に気づかないほど大一も鈍感で無かったし、彼女も隠せるとは思っていなかった。

 彼は心配そうに目を細めると、ゆっくりと本題の火ぶたを切る。

 

「…サーゼクス様から手紙を預かっています」

「っ!身体も持ち物もチェックされているはずでは…」

「ええ、体中のあちこちを小突かれましたし、義手まで外されて調べられましたよ。でもこの義手の内側、しかもここまで隠せばわからないでしょう」

 

 大一は義手を外すと装着していた部分から手紙を取り出す。義手に隠していた部分は黒く染まっており、不本意なため息が聞こえてきた。義手の内側にシャドウを張り巡らせて、彼に隠してもらっていた。問われても動かしにくいので神器で補助していると答えることで隠し通すことに成功した。

 目を丸くさせたグレイフィアは納得するように頷く。

 

「神器を使いこなしていますね」

「まだまだですよ。少し曲がってしまいましたが…どうぞ」

 

 大一はソファから立ち上がり、対面のソファに座っていたグレイフィアに手紙を渡す。彼女は逸る気持ちを抑えつつ、それでも隠し切れない感情の昂りに手を震わせながら、封を切って手紙を確認する。

 枚数は4枚、一般的なサイズの用紙であった。そこに書かれている文字、文章を静かにグレイフィアは読み込んでいく。本来であれば、この紙の枚数が数十倍あっても伝えたいことは足りないだろう。それでもこの夫婦の信頼は目に見える愛情と絆の強さを実感していた。その手紙は、彼女の乾いた心に愛情を注ぎ込み、熱く潤し満たしていくのであった。

 せいぜい10分程度しか読んでいなかったはずだが、なによりも貴重な時間にグレイフィアは安堵するように息を吐く。読み終えた手紙を丁寧に折りたたむと、彼女は目に溜まる涙を拭って大一に向き直った。

 

「失礼…らしくない姿を見せてしまいました」

「いいえ、お二人の関係ならば当然のことでしょう」

「あの人の…サーゼクスの愛を感じましたよ」

 

 恥ずかしげもなく穏やかにグレイフィアは答える。彼女とサーゼクスの関係性は非常に有名ではあった。その壮絶な恋愛劇は冥界でも多くの女性の憧れでもあり、以前彼女が兵藤家に来訪した際も朱乃辺りが目を輝かせながらその話を伺ったのだという。

 それでもここまで愚直に夫への思いを口にするのは珍しかった。いつもなら影のごとく一緒にいる愛する相手とこれほど長く離れていたため、この手紙からもたらしたものが彼女の本心を引き出させていた。

 

「サーゼクス様も安心するはずです。次の連絡の際に間違いなく伝えます」

「本当にありがとう、大一くん。あなたのおかげで私もサーゼクスも救われました」

「手紙を送り届けただけで、それほど言ってもらうとむず痒くもなりますよ」

「それでも私にとっては本心です。まさかこういった状況になるとは思ってもいませんでしたから…」

 

 憂いのある声でグレイフィアは答える。そこに込められた思いはサーゼクスだけでなく、敵対しているもうひとりの男を想起させた。

 

「…ユーグリットのこと、気になりますよね」

 

 大一の問いにグレイフィアは頷く。彼女の瞳はわずかに潤んでおり、先ほどの涙とは違う意味が込められていた。

 

「死んだと思っていました。あれほど激しい戦いの中で音沙汰も無く、当時は死んだという情報も聞きました。ルキフグス家を裏切った私ですら、長い間の心残りになっていたんですよ」

「…仲が良かったんですね」

「いつも私のことを慕ってくれていました。姉上、姉上と目を輝かせながら私の後をついてきて、時には横に並んで、時には私を守るように前に立って…あの子は私への尊敬を隠しませんでしたし、そんな弟を私も可愛がっていました。サーゼクスとリアスほどではないですけど」

 

 グレイフィアの言葉には懐かしさと寂しさが入り混じった微妙な感情の起伏が感じられた。ルキフグス家は72柱に属さない「番外の悪魔」の中でも魔王ルシファーに最も近い一族であり、旧魔王派として新魔王派と激突したこともある。しかも彼女以外の一族は消息を絶っていたのだ。それゆえに戦いの中で陣営を超えた大恋愛をした彼女も少なからず自責の念はあり、それがユーグリットが現れたことでより大きなものになっていた。

 

「真面目な子です。悪魔として、ルキフグス家としてその生き方を真っすぐに遂行していた彼は多くの責任や義務を背負っていたでしょう。そんな弟を失望させた原因は私がサーゼクスと恋仲になったことだと思っています。あれほど悪魔としての生き方や家を信じ、私のことを慕ってくれたのですから…」

 

 大一はただ静かに彼女の話に耳を傾ける。かつてはセラフォルーと最強の女性悪魔を争い、ルシファー眷属の中でも最も強い彼女がこれほど思い悩む姿を初めて見た。

 グレイフィアは小さく息を吐くと、大一に潤んだ瞳を向ける。

 

「大一くん、お願いがあるのです。ユーグリットを…私の弟を救ってくれませんか?」

「救う…ですか」

「先ほども言いましたが、あの子はとても真面目です。たくさんの苦しみを背負い、今では私にも勝るとも劣らないほど何かを感じていると思うのです。それこそ自分を見失うほどに。私が彼を止められればいいですが、それは私には出来ません。不躾で無茶なお願いだとはわかっています。それでも…弟を救って欲しいのです。彼自身の人生を歩むために」

「…それは姉としてですか」

「悪魔として、ルシファー眷属としてでもです。挙げればキリがありませんね」

 

 グレイフィアの言葉に大一は額を掻く。この願いがどれほど重いものであるかは彼も自覚していたが、その上でどうしても彼女の口から確認しておきたいことがあった。

 

「ひとつだけ聞きたいのですが、どうしてそこまでユーグリットのことを言いきれるのですか」

「間違っているかもしれません。しかし…姉として彼を見てきましたから。あなたも似たような経験があるのでは?」

「…何とも言えません」

 

 大一とグレイフィアの話はここで終幕を迎えた。

 

────────────────────────────────────────────

 

 大公アガレス家はあらゆる派閥に政治家がいるため、悪魔としてあらゆる方面からの信頼はずば抜けていた。そのため下手をすればセラフォルーの政治的策略として見られかねない「誰でも通えるレーティングゲームの学校」ができたのは、この地で建設を提案したアガレス家の現当主のおかげであることは間違いなかった。

 かつてリアスとサイラオーグがレーティングゲームを行った空中都市アグレアスからすぐ近くにある町アウロス、そこに件の学校はあった。町は冥界随一の農産業を誇っているが、人口は決して多くない上に盛り上がりという点ではアグレアスに欠けていた。

 しかしおかげで穏やかな環境が約束されている。加えて、この地もまったくの無名というわけでなく、今回の魔法使いの集会のように学術的な集まりやシンポジウム、プレゼンテーションが行われていた。近くにアグレアスもあるため、レーティングゲームへの見学も見込める。要するに子どもへの学びにおいて、信頼性がある土地柄であった。

 大一は着替えの入ったバッグを背負いながら、田舎町をひとり歩いていく。手には地図が握られており、時々立ち止まっては確認しながら学校に向けて歩を進めていた。

 

『迎えを頼んだらよかったのに』

(サーゼクス様の件がいつ終わるのかもわからなかったから仕方ないんだ)

 

 やれやれといった様子で話しかけるシャドウに、大一は軽くあくびをしながら頭の中で答える。ソーナが誰かを向かわせることは提案していたが、サーゼクスとの話し合いやその後に何か仕事を任されるかもしれないことを踏まえて、地図だけ貰った彼はアウロスの田舎風景の中を進んでいた。リアス達のように皆で向かえばのんびり穏やかな風景に対して話の花も咲いただろうが、残念ながら今の彼と共にいるのはこの風景に興味を示さず好戦性と握手するようなメンバーであった。

 

『しっかしあの「女王」も無茶な要求をするよね。いくら自分が動けないからって尻拭いを大一にやらせることないじゃないか』

(そう言うなよ、シャドウ。グレイフィアさんはそれほど思い悩んでいるんだ)

『でもさ、あいつに勝つ算段あるのかよ。聞けば模造品とはいえ神滅具の「赤龍帝の籠手」を持っているんだぞ。その力は大一もよく知っているだろう。しかもそいつの地力は想像つかない』

(それは…)

 

 シャドウの言葉に大一は言いよどむ。彼の言葉は全てが正しかった。ユーグリットは次元の狭間で、以前サマエルに毒された一誠の身体を回収していた。それを元に聖杯を利用して、ブーステッド・ギアのレプリカを生成し鎧として身に着けるほどにまで鍛え上げていた。加えて、吸血鬼の領地で一誠が戦った際に彼はグレイフィアにも負けない実力であることを自負していた。それらを思い返せば、大一が言いよどむのも当然であった。

 しかし同時にグレイフィアの願いを無下にすることなど彼には出来なかった。ルシファー眷属としての責任感、彼女の自責の念とユーグリットへの想い、そしてサーゼクスとの絆…多くの要因をあの場で目の当たりにしたのだから、ひとりの悪魔として力になりたいと思うのも必然であった。

 

(また口だけの男に戻るか、小僧)

 

 ディオーグが茶化すように声をかけてくる。これに対してシャドウが文句を垂れた。

 

『ちょっとディオーグ。これは口だけというのは違うだろ。大一が理不尽に任されただけで、元より難しいって話だろうさ』

(どうだろうな。こいつはまだ碌にそいつと戦ってねえんだぞ。それで諸手を上げて諦める方が、よっぽど口だけだと思うがな)

『そ、それは…』

(落ち着けよ、シャドウ。ディオーグの言葉は気にするなって。それが俺の強さだって、こいつはわかっているからな)

(フンッ!)

 

 大一の答えにディオーグは軽く鼻を鳴らす。先ほどの茶化した言い方にも、以前のような苛立ちや軽蔑が感じられないのはすぐに分かった。

 同時にシャドウの気持ちも彼は理解できた。傍から見れば無理難題を押し付けられたと思われるのは、これまでの実績も踏まえればおかしくはない。

 大一を中心にそれぞれ考えを張り巡らせるディオーグとシャドウであったが、彼自身も2体の相棒と同じように独自に思考の網を展開し、その想いを口にする。

 

(…俺はユーグリットと戦わなければいけないと思う)

(ほう…)

『で、でも難しいぜ』

(それは百も承知さ。あいつがどれほど強いかなんて、クリフォトでリゼヴィムの護衛やっている時点で相当なものだとわかる。それでも俺はやらなければいけないんだ。サーゼクス様のために、グレイフィア様のために、そして何よりも俺達自身のために)

 

 ルシファー眷属としてサーゼクスとグレイフィアを筆頭に同じ眷属のために出来ることは間違いなくユーグリットを倒すことであった。しかしそれだけが理由ではない。いずれ一誠を超えるにあたり偽物の赤龍帝を倒すこと、自身の能力や技術の不安に打ち勝つこと、そして冥界の悲しみを少しでも減らすこと…ディオーグ、シャドウ、大一の願いを少しでも大きく前進させるにあたり、これはひとつの目的といっても過言でなかった。

 特に大一にとって、あのサーゼクスの疲れ果てた表情とグレイフィアの涙は強く脳裏にこびりついていた。彼らの悲しみを拭うためにも、大一は戦う覚悟を決めていた。

 そしてもうひとり、もし本当に彼が苦しんでいるのであれば…。

 

(だいぶわかってきたな、小僧)

『うげえ…まあ、赤龍帝も因縁あるみたいだし僕たちが絶対ではないだろうけど…』

 

 自信に満ち溢れたディオーグと波のように不安を揺らすシャドウの声が頭に響く中、ようやく目的地である学校が視界に入った。

 




一気に因縁が出来る形になりました。
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