敵の指定した時間までの残りがもう僅かとなった頃、空には大量の邪龍が町を囲うように滞空していた。一匹一匹の実力も相当な上に、数百は間違いなくいると思われるその数にこれから起こる戦いが壮絶なものになるのは容易に想像できた。
一行は校庭で作戦の最終確認をしていた。作戦立案と指揮はソーナが執り、それぞれ2人1組で学園の防衛にあたる。手数が不利だが、そこはギャスパーが闇の獣を各組に援護として回す予定であった。加えて、アーシアはボートサイズにまで大きくなった一誠の使い魔であるスキーズブラズニルに搭乗して、各組に回復のオーラを飛ばすことになっていた。その彼女を大一とロスヴァイセで護衛しつつ後方支援することになっている。またこの学園を守ると決心した一部の父兄たちもおり、彼らは町の家々を回ってもらい避難に遅れた町民がいないかを調べることになっていた。
最終確認も終えようとしていた頃、校庭にひとつの連絡用魔法陣が展開する。そこに映し出されたのは紫色のゴスロリ衣装が目を引く若い女性であった。
『ごきげんよう、悪魔の皆さん。わたくし、「魔女の夜(ヘクセン・ナハト)」の幹部をしているヴァルブルガと申しますのん。以後、お見知りおきをん♪』
「…『紫炎のヴァルブルガ』。神滅具『紫炎祭主による磔台』の所有者…」
『リゼヴィムのおじさまの命令で、邪龍の皆さんと一緒にぃ、あなたたちを燃え萌えにしにきましたわん。わたくしに萌えてくださると、燃やしがいがあるというものですわん』
若々しさに甘々しさも入った声が癪に障る印象を与えるが、どこか不気味さを纏う雰囲気とその力に彼らは警戒する。ギラリと睨みの視線を一斉に受けるヴァルブルガはわざとらしく応える。
『いやーん、怖いですわねん。悪魔の皆さんが激おこですわ♪うふふ、楽しくなりそう♪』
一瞬、その瞳が恐ろしく暗く口元には相手を軽蔑するような醜悪な笑みが浮かべられた。垣間見える彼女の雰囲気は、大一達に対して敵意と容赦の無さを植え付けていった。
加えて、彼女はそのまま視線を走らせる。
『ロスヴァイセさんってどなたかしら?』
突然の呼びかけに仲間達が視線を投げかけてしまったため、ヴァルブルガはロスヴァイセに気づいた。
『あのねん、いちおう、あなただけは無事に連れてくるよう言われているのん』
「誰にですか?」
『ユーグリットさんよん。彼ね、あなたが欲しいんですってん。いやーん、イケメンくんのご指名なんて羨ましいわん♪』
「行きません。戦います」
きっぱりと答えるロスヴァイセに分かり切っていたように、ヴァルブルガは笑みを浮かべる。
『では、皆さん。よいバトルをしましょうねん』
それだけ言い残して魔法陣ごと消えていった彼女を確認した大一は小さく顎を撫で、それとほぼ同時にシャドウが呟く。
『そんなに彼女がトライヘキサについて可能性を知っているのかな?それとも洗脳して手駒にでもしようとしているのか?』
(…いやそれだけじゃないと思う)
答える大一の脳裏には、彼の所属する眷属内での「女王」の姿が浮かんでいた。彼女の話や一誠とロスヴァイセが報告していたユーグリットの様子などを踏まえると、彼としては敵が彼女に執着する理由を察していた。
いずれにせよ彼がこの戦場にいるのであれば、大一としても戦う必要性を感じていた。それこそがルシファー眷属としての彼の使命でもあった。リアス達やソーナ達とはまた違った決心を抱きつつ、いよいよアウロス学園防衛線が始まった。
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邪龍が攻め始めてからすでに数分が経過していた。量産された邪龍の攻撃は苛烈極まりなく、向かってくる攻撃は強烈なものであった。それでも学園に散らばるオカルト研究部&生徒会のペアは獅子奮迅に戦い続けていた。邪龍相手にもまったく怯まない様子は、日頃からの鍛錬の成果を物語っている。
しかし敵の実力も踏まえれば、まったくの無傷とはいかない。そのためアーシアが回復のオーラを各方面で届けるのは、貴重なことであった。当然、彼女に狙いをつける邪龍もいるため、護衛である大一とロスヴァイセも生命線となる彼女を全力で守っていた。
『また来たか…!』
龍人状態となった大一は魔法陣を展開して邪龍が吐いてくる火球を防いでいく。相手は2匹いたため、しっかりと魔力を上げて防ぐ必要があった。彼が防いでいる隙に、大きく弧を描いてカーブしたスキーズブラズニルの上から、ロスヴァイセが氷と風の魔法で一気に攻めたてる。直撃した1匹は大きく体勢を崩して、隣にいたもう1匹に激突した。そこを狙ったかのように、大一は激突された1匹の口を義手から伸ばしたシャドウで巻き付けて強引に閉じさせた。気を逸らしたところにロスヴァイセが再び魔法を撃ち込み、大一は上から硬度と体重を上げた蹴りを叩きこんで、2匹の邪龍をダウンさせた。
「ただ攻めるだけじゃなく、意志があるのは厄介ですね」
『アーシアが回復役であることに気づいて襲ってきますからね。本当にしつこい…!』
「お二人とも無理はしないでくださいね!」
アーシアが心配するように声をかける。先ほどから回復のオーラを飛ばすたびに、必ずと言っていいほど数匹ほどの邪龍に目をつけられて追いかけまわされる羽目になっていたため、彼女の心配は必然のものとなっていた。
『この学園を守るためだから、多少の無茶はするさ』
「でも倒れてしまっては意味がありませんよ。というか、大一くんもいい加減にイッセーくんの龍帝丸に乗った方がいいのでは?」
『そのサイズだと2人乗るだけで精いっぱいでしょうよ。スタミナならロスヴァイセさんよりは自信がありますし、戦法も飛び回っていた方がすぐに準備出来るから楽なんですよ』
「こういう時まで頑固なんですから…」
半ば呆れたようにロスヴァイセは反応する。しかし実際のところ、遠距離攻撃が主体である彼女の方が安定感はあったため、スキーズブラズニルにはアーシアとロスヴァイセが乗ってそれに追従する形で大一が動くという陣形が成果を上げられていた。
再び移動しようとした時、強烈な爆音が響き渡る。音がしたのは学園の北方面、リアスとベンニーアのコンビが対応していた辺りに紫炎の十字架が確認された。
『…北側より、聖十字架使いが襲来しました。リアス達だけで相対するのは難しいでしょう。一旦、防衛範囲を狭めて4人1組を作ってください。皆さん、後退を始めて───』
インカム代わりの魔力装置から届くソーナの声を遮るように、今度は南西方面から爆炎と黒煙が上がった。間もなく、今度は小猫から通信が入った。
『こちら、南西方面担当の小猫です。…邪龍グレンデルとラードゥンが出現しました』
「立て続けに来ますね…」
ロスヴァイセが苦虫を嚙み潰したように声を出す。敵の戦力の層の厚さを踏まえると、まだまだ仕掛けてきてもおかしくないと感じる。
『本当に…ん?』
同調するように頭を掻いて答える大一はなにかが学園に向かってくるのを感知した。まるで魚群のように数多く向かってきており、その方向を見ると、水の塊が槍のような形を形成して一気に降ってきたのだ。大一の視線で気づいたロスヴァイセも動き、2人で魔法陣を展開してこの攻撃を防ぎきる。
半ば不意打ちのような攻撃にロスヴァイセは不信げに目を細める。
「まったく今度は何でしょうか?」
彼女の疑問をさらに加速させるかのように再びソーナの声が耳に響く。
『全員、聞こえますか?各方面で敵の攻撃と思われる水の塊が飛んできます。ヴァルブルガ、グレンデル、ラードゥンを相手にしながら捌き切れるほど少なくありません。なんとか攻撃の相手を探してください』
敵が一気に攻勢に出てきたことにロスヴァイセはごくりと唾を飲む。このままでは一方的になりかねない状況が徐々に作られてきていた。
「相当な距離からの攻撃ということでしょうか?それとも姿を隠してとか…」
『前者ですよ、ロスヴァイセさん』
大一が校舎の東側に顔を向けながら答える。数キロも離れた遠い距離から、先ほど防いだ魔力と同じような感覚があるのを感知していた。その魔力の感覚が、かつてクーフーやギガンと戦った時に感じたような不可思議な繋がりを抱くようなものに、彼は不信感丸出しでその先を見据えたような視線を走らせていた。
「感知できる小猫ちゃんが邪龍たちと戦っているタイミングを狙ったのでしょうか…?」
『感知なら俺やシトリー眷属もできるが…』
アーシアの言葉に大一はどこか引っかかりを覚えた。感知できる相手を警戒するにしても、その割にはやり方が雑なような気もした。小猫以外にも感知に秀でたメンバーはいるのに、どうして敵はこのタイミングで攻めたのだろうか。そもそもこれほど離れた距離の敵をすぐに感知できた自分自身にも彼は疑問を抱いていた。
いずれにせよ、このまま敵を放っておくと先ほどの水の攻撃も止まらずに向かってくる可能性が高い。この乱戦気味の防衛戦では、長距離からの攻撃は非常に厄介なことこの上なかった。すで他のメンバーがチームで防衛にあたり、敵の主力とも相手している今、自分が向かうことが適任だと考えた大一はソーナに通信を繋ぐ。
『ソーナさん、さっきの水の攻撃の犯人を見つけました。かなりの距離から撃ってきています。俺がすぐに行って止めてきます』
『わかりました。しかし深追いは禁物です。それが敵の狙いかもしれませんから』
『お任せを』
通信を切った大一はアーシアとロスヴァイセを見て小さく頷く。
『さっきの攻撃を止めてきます。ここは少し手薄になりますのでよろしくお願いします』
「お兄さん、気をつけてくださいね」
「無茶しすぎないでくださいよ」
2人の激励を受けて、大一は感知した方面へと向かっていった。
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飛び始めてから数分、邪龍の攻撃を掻い潜った大一は目的の魔力が感知される場所へと向かう。学園から離れてからも、彼に向かって魔力による水の攻撃が飛ばされてきた。水はサメの形をしており、まるで生きているかのように大一を襲ってきたが、彼はそれを錨と魔法陣で突破していく。
わずかに後退していく相手であったが、逃げる素振りは無い。間もなく攻撃を続けていた魔力の持ち主を発見して大一は降り立った。
『お前か、攻撃を仕掛けていたのは』
「まあ、そうだな」
鋭く問う大一の言葉を、相手はひらりと流すように答える。パッと見て同い年かそれよりも下に見えるほど若い印象の少年であった。つばの広い帽子を深く被っており、妙に目つきが悪いように見える。くたびれた黒いフードジャケットとしわだらけの白いチノパンが疲れたような印象をより加速させていた。それでも彼の声はどこか軽い調子であり、ちぐはぐな雰囲気を纏っている。
とはいえ、相手が少年のような見た目でも手を抜く理由にはならない。ましてや例の奇妙な魔力を感じる以上、尚のこと油断ならなかった。
『さっさと終わらせてやる』
錨に魔力を込めた大一は一気に接近して振り下ろす。少年は素早く避けると、両手から魔力による水の槍を作り出して撃ち出してきたが、大一も反応して身体を硬化させてそれを防ぐ。
少年は特に驚いた様子も無く、首を軽く曲げる。
「防御はそこそこ…やるな、兵藤大一」
『俺を知っているのか?』
「そりゃ、敵となる人物は覚えておくさ。おっと僕の名前を聞こうなんて思うなよ。明かすつもりも無いし、知ったところで思い当たる節は無いだろうからね」
『不公平だな。まあ、どうでもいい。とにかくお前を倒して、俺もさっさと戻らなければならないんだ』
互いに再び魔力を込め始めるが、少年の隣にいきなり魔法陣が展開される。見たこともない術式であったが、感じる魔力から何者かがこの場に転移してくるようであった。警戒する大一の一方で、少年は呆れたように小さくため息をつく。
間もなく、魔法陣からひとりの女性が現れた。七分丈のズボンにド派手な赤い法被を羽織った女性は、服装だけでなく髪も主張が強く燃えるようなオレンジ色で短く切られている。整った顔立ちだが、中性的な印象の強い女性は荒々しい声を発した。
「到着だ!さあ、戦いの時間だ!このバーナ様の実力に酔いしれな!」
発言の内容と向けられる敵意から女性も敵であることは間違いなかった。これに対して少年は横目で女性を歓迎していない様子で見る。
「姉さん、どうしてここに来ているんだよ。あっちの担当だろ?」
「グレンデルのバカも無茶を通して配属されたんだから、別に良いだろ?最近は陽動ばかりだったし、せっかく面白い奴と戦えるチャンスが来たんだしよ。それとモック…『お姉様』だと何度言ったらわかるんだ!」
「わかったよ、姉さん」
叫ぶ姉に適当な弟と、なんともデコボコな印象を受ける姉弟であったが、直面しているからゆえにその魔力の大きさを感じた。通常の上級悪魔とは一線を画すその魔力の大きさと、得体の知れない感覚に大一の緊張感は肥大化していく。早々に倒して仲間達の下に戻る必要があるのに、目の前の2人は量産型邪龍よりも厄介なのは明白であった。
法被姿の女性…バーナは唇を軽く舐めて、大一に視線を向ける。ギラギラとしたその眼は闘争心がむき出しになっており、得物を狙う野獣のような印象を与えた。
「おい、モック。手を出すなよ。久しぶりに楽しみたいからな」
「わかったよ。別に任務に支障は出ないだろうし、任せるよ」
「さすが、あたしの弟だ。物分かりが良いな!」
少年…モックの態度とは正反対に喜々としてバーナは数歩前に出る。身体からは湯気が立っており、踏みしめた地面が焼き焦げるような音が聞こえる。今にも吹き出しそうに思えるほど魔力が膨れ上がっていく彼女は、歯をむき出しにしてこれから始まる戦いに喜びを感じている様子であった。
「始めようか、龍交じりの悪魔さんよ!このバーナ・ロッシュの戦いに震えな!」
『…行くぞ、ディオーグ!シャドウ!』
『ちょっとは楽しませてくれよ、女ァ!』
『よ、よし!やってやるぞ!』
大一は大きく息を吐くと相棒たちと共に気合いを入れなおして相対するのであった。
原作との戦いと比べると、敵の戦力は間違いなく増えています。