D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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たまに邪龍のサイズ感が分からなくなります。


第156話 攻防の激化

「噂の実力、見せてくれよ!」

 

 猟奇的な笑みを浮かべながらバーナは拳を鳴らす。ヴァルブルガとはまた別方向で戦いを求めるような雰囲気を見せる彼女は、大一としても最大限の注意を余儀なくされた。その証拠なのか、体中から汗が噴き出るような感覚であった。

 しかし気持ち的なものだけではない。実際、彼女が現れてから少し暑くなっていた。龍人状態で体温はそこまで変化は無いはずなのだが、じっとりとした汗が流れるのが感じられる。

 

『これは…』

「そんじゃ、行くぞ!」

 

 喜々としてバーナは接近すると飛び上がって踏みつけるように足を振り下ろす。一瞬、受けるかを考えたが、素早いバックステップで大一はこの一撃を避けた。彼女が踏みつけた箇所が焼かれたように煙を上げているのを見て、一瞬の判断は正しいものだと実感した。

 

『炎か?それとも熱?モックという奴の姉弟なら同じような攻撃をしてくると思っていたが、どうも違うみたいだな』

 

 バーナの攻撃の跡を見て、大一は苦々しく呟く。基本的に神器でも無ければ、血縁関係や家柄、種族で特殊能力は決まる傾向がある。リアスとサーゼクス、小猫と黒歌、ソーナとセラフォルーなど身近にそういったメンバーを見ていれば特に実感する。もちろんサイラオーグのような例外はいくらでもいるが、彼女から感じ取れる魔力は非常に物珍しさがあった。

 

『悪魔とは違うこの感覚…精霊か!』

『間違いねえな』

 

 大一の言葉にディオーグも同意する。感知した経験は少ないが、濁りの無い水のように純粋な感覚は精霊のものであった。しかし精霊と言えば、魔法で契約、協力するものが大半であると考えていたため、このように等身大でしかもテロリストに協力している人物がいることに驚きを感じる。

 

「あたしの正体を看破したとこで戦いには関係ねえだろ?食うか食われるかだ!」

『俺好みの性格だ。小僧、気合い入れていけ!』

『言われなくてもそのつもりだ!さっさと勝って、皆の援護に行かなければいけないんだから!シャドウ!』

『合点!』

 

 大一の呼びかけにシャドウが6本の触手となってあらゆる方向からバーナへと向かっていく。腕に足に腹に首にとどんどん絡みつき、一気に締め上げていく。ほぼ同時に彼は錨に魔力を溜めて、その頭を狙おうとした。

 これに対してバーナは全くうろたえずに笑みを浮かべている。

 

「動き止めて攻撃、基本的な戦法だな。しかしもう少し欲しいな」

 

 バーナの身体が赤くなり捕縛していたシャドウを焼き切ると、振り下ろした大一の錨を横っ飛びに避ける。すぐさま彼女は体勢を立て直すと、片手を拳銃の形に構えて指先から魔力を弾丸のように撃ち出した。撃ち出される魔力は真っすぐに飛んでいき、大一の脇腹に命中した。

 

『あっつ!』

 

 肉を焦がす音と共に、不意を突かれた熱さに大一は叫び声を上げる。龍の皮膚によって守られている彼の身体は、ちょっとやそっとの炎では傷どころか熱さも感じないはずなのに、今のバーナの小さな一撃はそんな彼を怯ませるほどの熱さであった。攻撃を受けた箇所を見ると、指を押し当てたようなサイズの火傷の跡が残っており、煙が小さく上がっていた。

 

『くっそ…硬度を上げても当たれば意味がない…!なんだ、この熱さ…!』

「おいおい、この程度でダウンとか興ざめするな。ウチのリーダーの買い被りかぁ?」

「だったら、さっさと勝負をつけてくれよ、姉さん。だらだらやってもいいことがない」

「ったく、もうちょっと余裕を持とうぜ、モック。ほら、これを避けてみな!」

 

 今度は両手を拳銃の形にしたバーナはガンマンのごとく魔力を連射していく。雨のごとく連射される攻撃を回避するのは無理だと判断すると、防御魔法陣を展開して一気に防いでいった。攻撃が当たるたびに焼ける音が響くが、魔力の速度は普遍的なものであったため、打ち破られることは無かった。

 この連射を防いでいる間に、シャドウが口を開く。

 

『さっきの僕の捕縛も熱で焼き切られたから、直接攻撃はダメだね。僕か錨を介する必要があるな』

『ハアハア…接近中心の俺には相性悪いな…しかしあれってただの火じゃないな。これは…』

「動きを止めていると、今度は破られるぞ!」

 

 煙に紛れたバーナが拳を振りかぶって魔法陣を殴りつける。魔力をしっかり上げていたにも関わらず、彼女の真っ赤な液体のようなものを纏ったパンチは大一の魔法陣を砕いていった。破られた魔法陣の一部は赤く染まっており、同時に彼女の腕も不自然にグツグツと音を立てている。

 ことごとく自分の防御が破られる状況に、彼は先日戦ったギガンを思いだす。あっちが身体を本物の岩に変化させて魔力を纏わせていたのに対して、彼女の場合は精霊として持ち前の魔力をこれでもかというほど使用して攻撃力を上げている。違いはあるが、その攻撃力は目を見張るものがあった。

 このまま追撃を受けるのを防ぐためにも、口から魔力を数発撃ちだしてすぐに後退する。ダメージなどほとんど与えられていないものの、距離を取るには充分であった。煙をはらったバーナと再び相対する大一は先ほどの攻撃を思い返す。龍の皮膚を焦がす熱さながらも火とは違う、液体のような流動性と煮立つような音は燃やすのではなく、焼くことに特化したその正体は…。

 

『…お前の能力はマグマか』

「正解だ。元々は炎の精霊のあたしが鍛え上げた結果、更なる火力を生みだしたのがこの力ってわけさ。龍をも焼き尽くすこの火力、とくと味わいな!」

 

────────────────────────────────────────────

 

 小猫と匙のコンビの援護に向かった一誠も苦戦していた。邪龍グレンデルとラードゥンのコンビはその名にふさわしい実力で彼らを追い詰めていたのだ。ラードゥンは幾重にも障壁を張り、一誠の動きを完全に封じていた。彼も真「女王」形態となり何度も敵の創り出す障壁を打ち破るも、ものすごい速度で再生と新たな障壁で足止めしていた。

 この間にグレンデルは大暴れをする。それを止めようとする匙であったが、いかんせんもともとずば抜けた体力で敵を攻め立てる邪龍の力は、搦め手がメインである匙とは相性が悪かった。力を奪おうと伸ばしたラインも、巨体に見合わない俊敏な動きで回避されると強烈な尻尾の殴打で手痛い傷を受ける。そもそもドライグやファーブニル共々にヴリトラがヴァ―リの神器に潜ってしまい、本来の出力を発動できなかった。小猫と仁村が必死に援護に向かおうとするも多勢に無勢、量産型邪龍の妨害でそれも叶わなかった。

 このままでは匙の命が危ない、それを直感した一誠はクリムゾンブラスターで現状の打破を図った。ずば抜けた魔力を持つ真紅の砲撃は、敵の障壁を次々と打ち破り、とてつもない爆音と共にラードゥンに直撃した。

 最上級悪魔にも匹敵すると思われる一撃の煙が晴れると…全身から煙を上げながらも普通に立っているラードゥンの姿があった。

 

『いい攻撃です。まさか、防御障壁を突破されるとは…しかし、私の体も案外硬いのですよ?生身の丈夫さはグレンデルほどではありませんが、障壁込みなら私の方が硬いでしょうね』

 

 ずば抜けた堅牢さに一誠は舌を巻く。攻撃力に定評のあるグレモリー眷属の最高峰の一撃を防ぎ切ったのだから、その衝撃は相当なものであった。

 その一方で、ふらつきながらも匙が立ち上がって、学校を狙うグレンデルにラインを幾重にも繋げる。

 

「…行かせるかよッ!」

『んだよっ!その非力はよぉぉぉぉっ!んなもんで俺の体を引き留められると思ってんのかッ?グハハハッ!無駄だ無駄ァァァッ!』

 

 いかんせん体格差が大きく、グレンデルが身体を揺さぶると、匙はラインに引っ張られて空中に投げ出された。そこにグレンデルの大きな拳が打ち込まれて、匙は受け身も取れずに上空から地面へと叩きつけられた。そのまま何度もバウンドして最終的には付近の風車小屋に激突するにまで至るが、彼は一本たりともラインを保ったまま瓦礫の中から立ち上がる。

 全身を血に濡らし、腕はおかしな方向に曲がり、どこまで意識があるのかは不明なほどグロッキーな状態である匙だが、それでも目は鋭くグレンデルを見据えていた。

 

「…壊させるかよ…学校を…あそこには…あそこには…」

 

 歯牙にもかけないグレンデルが突き進むのを引きずられながらも匙は止めようとラインを引っ張る。

学校を守るためにも、親友の彼を助けるためにも、一誠は必死に障壁を壊していく。

 

『おおっ、やりますな。凄まじいパワーです。このままいけば、私の壁を突破できるでしょう。しかし、学校とあの少年は助からないでしょうね』

『残念だったなァァッ!てめえもこれで終わりだぜッ!グハハハッ!そのあとにあの学校もぶっ壊し確定だぁぁぁっ!』

 

 グレンデルがその巨体で匙を踏み潰そうとした時、近くの民家を捜索していた父兄たちがギリギリのところで匙を助ける。逃げ遅れた人たちがいなかったことで援軍として来てくれたようだが、その実力差は明白である。実際、父兄たちもかなり怯んでいたが、それでも学校を守るために、一誠達が立て直せる時間を少しでも稼ごうと邪龍に立ち向かった。

 

「こ、こいっ!邪龍めっ!」

「あの学校には行かせんぞっ!」

『んだよ、それ。雑魚が俺の楽しみを邪魔しようってか?ったくよぉ、雑魚は雑魚らしく、散ってればいいのによぉぉぉっ!』

 

 グレンデルが父兄を狙って巨大な火炎球を吐き出す。防御魔法陣を展開するも、その破壊力はすさまじく、瞬く間に彼らは吹き飛んでいった。

 

「逃げてくださいッ!このままじゃ、皆さんが死んでしまうッ!」

 

 一誠が叫んで静止するも、彼らは果敢にグレンデルへと攻めていった。どうあがいてもその実力差は縮まらず、身に着けていた彼らの鎧は砕かれ、グレンデルの前に倒れていった。

 一誠がすぐに駆け寄り、通信でアーシアへの救援を求めるが、彼女も戦場を駆けまわって回復に勤しんでいるためすぐには向かえなかった。その証拠にあちこちで爆発が起こり、地響きが感じられる。全員が防衛戦に奮迅しており、手が足りていない状態だ。

 気がつけば一誠たちを囲うように邪龍たちも詰めており、絶望的な現状であった。このまますりつぶされることにならないだろうが、全てを守ることは不可能であった。今のままであればの話だが。

 包囲網を作る量産型邪龍の1匹が不自然に宙に上がる。グレンデルとラードゥンも気づいたようで、1匹また1匹と次々に邪龍たちがなぎ倒されていく。

 

「どうやら、ギリギリで間に合ったか」

 

 息を切らして一誠達の下にたどり着いたサイラオーグが呟く。この頼もしき援軍に一誠は涙した。

 

「サイラオーグさん…ッ!」

「遅くなってすまなかった。アグレアスの戦闘はこちらが優勢になったのでな。俺だけでもと送り出されてきた。聖十字架の炎を大量の闘気を使って無理やり突っ切ってな」

 

 なんとも無茶苦茶な方法ではあるが、アグレアス優勢の報告は彼らに少なからず勇気を与える。同時にグレンデルとラードゥンが学校を狙っていることを知ると、とてつもない覇気と同時に2匹の邪龍を睨みつけた。

 

「させてなるものか…ッッ!滅んでもらうぞ、邪龍どもッ!」

 

────────────────────────────────────────────

 

 一誠達が希望を見出し始めた頃、大一は苦しそうに呼吸をする。身体のいたる部分にやけどの跡があり、酷い手傷が戦いの苛烈さを物語っていた。加えて周辺にはマグマの塊が散らばっており、強烈な熱が周辺に立ち込めていた。吸い込む空気ですら熱を感じて、体力を消耗させていく。

 目の前で立つ女性はいくらか手傷を追っているものの、その鋭い目つきは闘争心を加速させていた。

 

「その戦闘スタイルでここまで食い下がるのはやるじゃねえか」

 

 バーナの言葉に、大一は応対する気力も湧かなかった。一見して苛烈さを押し出した印象であったが、戦いはじっくりと体力を削りながら敵を追い詰めていくものであった。攻撃もしっかりと見極めており、何度かシャドウの捕縛や目くらましを行った上での攻撃を受けても、致命的なダメージを負わずに済んでいた。

 

『強い…』

 

 心からの言葉であった。経験と能力を兼ね備えた彼女の実力は間違いないものであった。邪龍や名高い悪魔や神器使い以外にも敵の層が厚いことが窺える。控えている彼女の弟のモックも一筋縄ではいかない相手であるのは理解できる。

 それ故に、これほどの者が無名であることが疑問であった。以前戦ったギガンも、吸血鬼領地でアザゼルと相対した無角も、出自や経歴が不明であった。

 

『捕縛…それが出来る余裕はないか…』

『マズいよ、これは!救援を求めた方がいいって!』

『それが出来たら苦労しないよ』

 

 シャドウの言葉に、息を切らしながら大一は答える。この熱気でインカム代わりの魔力装置は壊れており、周辺での戦いの苛烈さを踏まえても味方の援護は望めない。

 だがこのまま戦い続けたところで勝機が見えないのも厄介であった。バーナ自身の実力もさることながら、彼女の弟のモックも厄介であった。彼女を止めても、今度は彼と戦わなければならない。今は戦いを見ているだけであったが、先ほどの長距離攻撃を学園に向けられてはすぐにでも止める必要があった。

 おそらく現実的な方法は後退しつつ、味方と共に彼女らと戦うことなのだろうが、敵の実力を踏まえれば更なる被害の可能性もあり得る。そもそも敵が易々と後退を許すとは思えなかった。

 

「考えながら戦うことは大切だ。しかし相手がそれを待つ道理はねえよな!」

 

 バーナが一気に距離を詰めて、マグマを纏った拳を大一の腹に打ち込んだ。彼は咄嗟に右腕の義手で攻撃を受けるが、あっという間に焼かれて義手が壊れるとそのまま拳が彼のみぞおちに入った。

 しかし義手で防いだおかげで、わずかな時間が生まれる。その一瞬に硬度と体重を大きく上げた大一は、間もなく腹部に受けた強烈な熱さに耐えつつ、左手に持つ錨で彼女の身体を大きく殴りつけた。大きく体勢を崩したバーナに、さらに顔面へのハイキックを入れてそのまま吹き飛ばした。

 ようやく痛烈な攻撃を入れこめたことに、大一は安堵の息を吐く。このまま後退も考えたが、バーナに入れられた攻撃と蹴った足の熱さが想像以上のダメージであったため、呼吸を整えるのにも一苦労であった。加えてモックの方が油断なく睨みつけているため、不可能であった。

 大一が壊れた義手を外して投げ捨てると、蹴り飛ばした相手が声を上げる。

 

「ぬあ…今のは効いた…。あたしの一撃を受けて耐えたのは見事だよ…」

 

 蹴りを受けた顔を撫でながら、バーナは立ち上がる。靴の跡が頬についており、口からはわずかに流れる血を彼女は指で拭った。

 手傷を負った姉にモックは声をかける。

 

「手を貸そうか?」

「いらねえよ。ギガン相手に生き残ったから、どれほどか気になったが…楽しくなってきた」

「まったく…学校の方もそろそろ彼らが来るだろうから巻き込み攻撃もできないし、本当に僕は見ているだけか」

「だからこそ、いざという時に魔力を溜めておきな。あたしはもうちょっと色男と戦いたいね」

『褒められている気がまったく無いな』

 

 軽く舌打ちしながら大一は答える。魔力はかなり上げていたが、今の攻撃で気絶にまで持っていけなかったのは手痛かった。

 同時に焦燥感を駆られるのは、モックの発言であった。学園の方で更なる襲撃の可能性が示唆されたため、仲間達に知らせなければならないが、そのためにも素早い後退と合流がより不可欠となった。

 

「この逆境にも諦めないのは褒めてやる。覚悟はあるみたいだな」

『戦いの場で覚悟が無い奴なんていないさ。少なくとも俺はそう思っている』

「ハッ!よく言うよ。あたしはそれを持ち合わせていない奴らをいくらでも見てきたが…いや、どうでもいいことだ。まずはてめえを倒して───」

 

 バーナは突然言葉を切って目を細める。モックも先ほどとは違う訝し気な目つきで大一へと視線を向けていた。

 しかし大一は敵の姉弟の変化を気にしている様子は無かった。身体の中で例の魔力が繋がったような感触を抱くのであった。しかもその魔力を感じるのはバーナでもモックでもなく、義手が取り外された自分の右腕からであった。

 この違和感と同時に彼の片腕に見たこともない紋様の魔法陣が展開されると、その場にいた3人の視界を奪うほどの光が溢れ出すのであった。

 




オリ主もだいぶメンタルが強くなってきたと思います。
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