D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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原作では「曖昧で薄っぺらい」と言われたユーグリットですが、オリ主は一誠ほどその辺りに敏感になれないので実力差が…。


第158話 奮戦

「大一くん…」

「待っていてください、ロスヴァイセさん。今助けますよ」

 

 敵の力で動きを封じられ絞り出すような声を出すロスヴァイセに、大一は落ち着いて答える。アリッサがピンチの状況を引き受けてくれたため、彼は学園に戻ろうとしていた。幸い、ライザーから受け取ったフェニックスの涙によりバーナから受けた傷を治癒出来たが、その道中に結界が壊れるわ、奇妙な力を感知するわと心の方は大いに揺さぶられることの連続であった。

 そんな中、赤龍帝に似た感覚とロスヴァイセが学園から離れていくのを感知した大一はすぐに最悪の予想に行きつき、その後を全力で追っていった。そして彼の考えは的中していたことはすぐに証明されることになった。

 ユーグリットは不愉快そうにあごに手を当てる。

 

「こうして話すのは初めてですね、兵藤大一。どうやってモックから逃げ切ったのですか?」

「お前に話す義理はないな。それよりも彼女を連れて行かせはしない」

「あなたごときに出来るでしょうか?」

「俺のことを警戒していたと思っていたがな」

 

 大一の発言にユーグリットは小さく首を曲げる。注意を向けさせるような攻撃とモックの発言、そしてユーグリットがロスヴァイセを連れているこの状況を踏まえれば、感知されるのを警戒してモックによって学園から自分を引き剥がしたように思えた。

 実際その予想は当たっており、ユーグリットは苛立ちを隠しながら肯定する。

 

「…ええ、警戒していましたよ。ディオーグの感知能力はこちらも知るところです。私が隙を見て、彼女を奪う前に感づかれてはいけませんからね。だがあなたとの一騎打ちで負けるつもりはさらさらありません」

 

 ユーグリットの纏う赤いオーラが増大する。レプリカとはいえ何度も目の当たりにしてきた神滅具と同じ力を感じる。加えて、グレイフィアにそっくりな強大な魔力、大一としても相手にするには腰の引ける想いであった。

 彼は小さく息を吐くと、魔力を全身に集中させる。筋肉が隆起していき、龍人状態へと変化して眼前の男に警戒を強めた。

 互いに相手へと向かっていくと、大一の魔力を込めた蹴りと、ユーグリットの倍加させた拳がぶつかり合う。強烈な一撃のぶつかり合いに2人ともその場に釘付けになるが、間もなく吹き飛ばされたように後退する。

 今のぶつかり合いだけで、敵の才能を垣間見た大一は荒い呼吸で敵を睨む。

 

『強い力だ…それほどの実力があれば新魔王の政府でも十分にやっていけたはずだ。それなのにお前は俺らの敵でいる。それほどリゼヴィムの考えに賛同しているのか』

「否定はしませんよ。悪魔は邪悪であるべき、凶悪で恐ろしいもの、それを世界に知らしめるべきだとも思っていますよ。それどころか私はあの人を通して、『悪魔』の恐ろしさを全ての存在に証明したいのです。ましてや、私はルキフグス家のひとり。ルシファーの血を引く者の隣にいるのはおかしくないでしょう」

『…悪魔を孤立させるというのか。しかしそれだけじゃないだろう。お前にとってあいつがグレイフィア様以上だとは思えない』

 

 彼の脳裏に先日のグレイフィアの表情が想起される。彼女の強さと優しさを悪魔になってから目の当たりにし、後に同じルシファー眷属として強く実感することになっていた。それゆえに彼女が見せた悲哀と憂愁は、大一の心に鉛のように重いものを投げ込んでいた。

 ユーグリットは鎧の頭部を解除して顔を見せる。どこか空虚な印象の瞳は、敵の恐ろしさを一層際立たせていた。

 

「私は自分の欲望に従って生きているだけです。あなたの弟から学んだのですよ」

『一誠から?』

「そうです。私にとって憧れであった姉が去り、絶望と苦悩に雁字搦めになりながら、肉体的にも精神的にも潰れかけていた。長年そのような状態である私が、好き勝手に振舞って冥界に新たな風を吹き込む赤龍帝を。子どもたちに『英雄』としての悪魔を見せて影響を与えるあなたの弟を。それを知って私は、自分も好きに生きていいことに気づいたんですよ」

 

 一誠が「英雄」として悪魔の未来を作っていく子どもたちに影響を与える一方で、彼はリゼヴィム自身を「悪魔」のあるべき姿として示そうとしていた。無論、それは悪魔の種族を孤立させることになるが、ユーグリットはそれを心から渇望していた。

 真面目だ、目の前の男を見て大一はそう思わざるをえなかった。もっと早く自分を解放しても良いはずなのに、彼は悩み続けていた。多くの苦悩を抱えてきた結果、もはやユーグリットの心は大きく砕かれていたのだろう。特殊な悪魔の家系の立場、敬愛する姉が悪魔の領域を超えた存在である男と一緒になり彼の下を去ったこと、それを解放するきっかけが彼とは大きく立場を異にする一誠であることは皮肉にも思えた。

 

「そんな私がこれからやろうとしていることは非常に単純ですよ。リゼヴィム様の目的を達成させる。それが結果的に私の望みにも繋がるのですから。アグレアスは頂きました。あとは彼女だけです。彼女が研究していたのはトライヘキサに封印を施そうとするものでした。それは我々にとっては目的に大きく近づく内容ですし、彼女ほどの聡明さと才能があれば我々にとって大きな利益となるでしょう。そしてなによりも彼女は───」

『グレイフィア様を思いだすか』

 

 自分の考えを言い当てられたユーグリットは静かに微笑み、そのまま肯定する。

 

「…ええ、そうです。彼女は私の姉になれるかもしれない、それはとても重要なことです」

『そうか…やはり尚のこと負けるわけにはいかない』

 

 大一にとって、ユーグリットがロスヴァイセに抱く感情はなんとなく予想していた。わざわざ敵地付近まで行って接触してきたこと、グレイフィアとの会話、彼自身が姉の影を追って凶行に及んでいることが窺えた。

 

「さてこれ以上、話していても埒が明かないでしょう。こちらも小手先の手段を使わせてもらいますよ」

 

 パチンとユーグリットが指を鳴らすと、遠くの背後から爆発音が鳴る。学校での爆発が起こったことが明らかであった。

 

「詰めの甘いあなた方のことですから、裏切り者の魔法使いは生かして捕らえただけでしょう?その者の体には仕掛けをしてありましたからね。いざとなったら、爆発してもらおうと。加えて、あそこにいるメンバーは我々の中でも屈指の実力者、あなた方ばかりが上手くいくと思わないことです。これ以上の被害を心配するのであれば、戻ってもいいのですよ」

『…俺は弟や仲間達がその危険を乗り越えられると信じている。だから俺はお前を逃がさないことに、ロスヴァイセさんを助けることに全力を尽くすだけだ』

「なるほど、覚悟はあるようですね。しかし大きな思い違いをしています。あなたが私に勝てる道理がない。力の差は先ほどの一撃で実感したのではないですか?」

 

 ユーグリットは再び鎧を全身に覆うと、赤いオーラを纏っていく。見る見るうちに力が増幅されていった。

 

「『赤』の力を得た私の実力、その身に刻ませましょう」

 

────────────────────────────────────────────

 

 一誠達は驚きに溢れていた。いきなり魔法使いが大きな爆発をしたのだ。これについて彼らと対峙するブルードが特別気にしていない様子で言葉を紡ぐ。

 

「ふむ、ユーグリットはあれを作動させたか。まあ、裏切り者からこちらの情報を抜かれるよりはいいだろう」

「お前らがやったことか…!」

「我々以外の手が加えられていたらさらに問題だろうな。しかし、たかだか学び舎ひとつによくそこまで怒れるものだ…おっと」

 

 ブルードは身を翻して、リアスが撃ちだした滅びの魔力を避ける。彼女は怒りの感情をそのまま声に乗せて、敵を睨みつける。沸々と怒りが湧き上がってくるのを彼女は感じられた。

 

「学び舎ひとつ?そこにどれだけの子ども達の希望が、私の幼馴染の大きな夢が詰まっていると思うの!あなた達のような外道が、それを否定していい理由にならないわ!」

「気の強い女性だ。現魔王の妹だけはあるな」

 

 リアスの激情を目の当たりにしてもブルードは態度を変えずにさらりと流す。敵の態度とソーナの絶望した様子がリアスを筆頭に彼女らの怒りを加速させた。

 一方で、ブルードは1枚の魔法陣が描かれた紙を取り出す。

 

「多勢に無勢…とまではいかないが、私でも厳しいな。ということで増やさせてもらおう」

 

 彼が紙を上に向けると、そこから巨大な魔物が現れる。下半身は蛇のようにしなやかだが、上半身は筋骨隆々の身体が特徴的であった。

 

「東洋と西洋、それぞれの龍のキメラだ。なかなか面白いだろう?」

「邪龍か!?」

「いやいや、それほど名のある者ではない。だが私の秘蔵の1匹、量産型邪龍よりも遥かに強い」

 

 ブルードの召喚した魔物は身体をくねらせて学園に突撃しようとする。その巨体がぶつかれば完全に崩壊することは目に見えて明らかであったが、それを祐斗、朱乃、小猫が攻撃して注意を自分たちへと向けた。

 

「この召喚の仕方…冥界で見ましたね」

「ええ、わずかに見えた魔法陣も見覚えがありましたもの」

「感知しましたが、間違いありません」

 

 猫耳を出した小猫はリアスと一誠に向けて話す。

 

「部長、この魔物の感覚は覚えがあります。以前、英雄派のクーフーが私たちと戦った時に感じたものと同じです」

「だとすれば、この男こそがその元凶ってことね。尚のこと、あなたを倒さなければいけない!」

「私をねぇ…そう上手くいくかね?」

「お前をさっさと倒してロスヴァイセさんを助けに行かなければならねえんだ!」

 

 リアスと一誠がブルードに相対する。上空で戦う魔物には祐斗、朱乃、小猫が、その付近で呪いの炎と聖なる炎をぶつけ合う匙とヴァルブルガ、邪龍軍団にはゼノヴィア、イリナ、サイラオーグが獅子奮迅の戦闘を見せていた。ソーナもなんとか踏ん張り、シトリー眷属に爆発の消火やあぶれた邪龍を倒すなど指示を飛ばしていく。『D×D』が尽力するのをブルードはすさまじく冷たい視線で眺めていた。

 

「不愉快な光景だ…昔じゃ想像もつかないほどに」

「お前が何者かは知らない!でもこれ以上、皆を傷つけさせるわけにはいかねえ!」

 

 空中で魔法陣に乗るブルードに、一誠は高速で接近すると激しい拳打を行う。激しいラッシュであったが敵はそれを最小限の動きで避けていった。今度は回転して強烈なソバットを放つが、それも寸前のところで避けられる。

 たかだか数十秒の猛攻であったが、ことごとく避けられることに一誠は苛立ちを感じた。

 

(しっかり狙っているはずなのに当たらねえ。これほど速い上に、動きが洗練されている)

『落ち着け、相棒。攻撃の狙いがずれているぞ。そこまで素早い相手じゃないから、しっかり狙っていけ』

 

 一誠の疑問にドライグが落ち着くように促す。この言葉がさらに一誠の疑念を加速させた。2人が敵に抱いた感想はまるで違っていた。

 

「イッセー、下がって!」

 

 介入するように真横からリアスが滅びの魔力をうねる水流のように放つ。複数の魔力の攻撃を、ブルードは渋い表情で手に展開した防御用魔法陣で攻撃を逸らしていく。しっかりと足場用の魔法陣を展開しながら、彼は指を複数回鳴らす。すると周囲にいくつかの魔法陣が展開され、様々な属性の魔法が撃ち出された。

 リアスは魔力で相殺させ、一誠はジグザグに動いて回避していく。しかしかってくる攻撃の軌道は絶妙であり、一誠はいくつかの炎と風の魔法をかすめた。鎧のおかげでなんとかダメージは無いものの、その威力は決して油断ならないものであった。リアスの方も撃ち出した相殺の攻撃を外して、魔法陣で防御せざるをえなかった。

 

((おかしい…))

 

 一誠もリアスもまったく同じ感想を抱いた。先ほどからブルードの攻撃や動きにはどうも違和感を抱いていた。まるで動きが読めているかのように的確であるのだが、同時にあまりにも上手くいなされているような気がするのだ。目の前の敵を避けるにはあまりにも強すぎる相手であると確信した瞬間であった。

 

────────────────────────────────────────────

 

『くそッ…!』

「あなたごときでは私には勝てない」

 

 ユーグリットが縦横無尽に駆け回り、ヒット&アウェイの連続で大一に打撃を与えていく。硬度を上げて防御力を上げていはいるものの、敵もレプリカのブーステッド・ギアで攻撃力と速度を上げており、一撃だけでも足元がよろめくほどであった。それを連続で受けているのだから、じわじわと手傷を負っていく。

 横から来るのを感知して錨を振るが、直前に後退されて魔力の塊を数発撃ち込まれた。体重を上げて踏ん張って耐える大一に、ユーグリットは露骨に嫌悪感を示す。

 

「まったく苛立ちますよ。あなたという男は」

『お前としっかり話をしたのは今回が初めてなのに、そこまで嫌われるとはな』

「ええ、嫌いですよ。私はあなたを心から軽蔑しています。兄という立場でありながら、才能も実力も弟よりも遥かに弱い。それだけでも腹が立つのに、あなたは私にとって大切な姉のために戦おうとしているのですから」

 

 ユーグリットからすれば、大一の存在は不愉快極まりなかった。弟の兵藤一誠の実力は彼も認めるところであったが、一方で兄という弟や妹にとって特別な存在にも関わらず相応の強さを感じられなかった。姉の存在に特別性を見出している彼からすれば、大一の存在はそのものが忌むべきものであった。そんな男がグレイフィアのため、ロスヴァイセのために自分と相対している事実にも腹が立つ。

 その想いを受けた大一は額から流れる血を拭って答える。

 

『俺に怒るのはけっこうだ。しかしだからといってこのまま引き下がるわけにもいかないんだよ』

「あなたじゃ『英雄』にはなれない」

『そんなことは自覚している。俺は子どもを救うような「英雄」じゃない。それでも少しでも悲しみを減らすために、戦わなければいけないんだ。大切な仲間であるロスヴァイセさんを、そして敵であるお前を救うためにも』

「…私を?」

 

 意外な一言にユーグリットは呟き、それに対して息を荒げながら大一は続ける。

 

『そうだ。お前は自由に生きているつもりのようだが、その実態はグレイフィア様を思う気持ちに囚われている。その証拠がレプリカのブーステッド・ギアだ。それを身につけて模倣したところで、お前がサーゼクス様や一誠のようになれるわけじゃない。

 グレイフィア様やロスヴァイセさんにそれぞれの人生があるように、お前にはお前の積み重ねてきた人生があるはずだ。そんなお前が絶望と後悔に苛まれ続けるのを、俺は助けたいんだ』

 

 一気に想いを吐き出した大一は、魔力を一気に身体にまとわせる。瞳には力強い光が宿っており、しっかりとユーグリットを見据えていた。仲間だけではない、苦しんでいる男を彼は救いたかった。そして絶望を感じて心が壊れている彼を助けるためには、ここで打ち勝って再びグレイフィアに会わせることが必要だと強く感じた。

 

「…知ったような口を利くな」

『Boost!!』

 

 ユーグリッドは小さく呟くと、力を倍加させる音声が鳴り響く。ふっと姿が消えたと思ったら、大一の懐に入り込み顎を大きく蹴り上げた。

 大きく体勢を崩す大一に、ユーグリットは間髪入れずに強化した拳で何度も殴りつける。

 

「知ったような口を利くな!貴様ごときに何がわかる!姉を奪われた!あの悪魔とも言い難い化け物から!私の全てをだぞ!その時の絶望など、貴様のような未熟な兄に理解されてたまるか!」

 

 ユーグリットは大一の顔面に蹴りを入れる。寸前のところで再び力を強化しており、何度も打撃を受けて魔力が弱まっていた彼は後方に吹き飛ばされた。

 すぐに体勢を立て直して着地するが、そこにユーグリットは接近して大一のみぞおちに拳を鋭く入れこむ。拳には魔力も込められており、その一撃は彼の体をくの字に曲げさせた。

 

「いずれドライグの意志も奪い支配し、私は本当の「赤龍帝」になる!姉が、ロスヴァイセが私を認めるほどに特別な存在に!貴様ごときにそれを邪魔されてたまるか!」

『Boost Boost Boost Boost Boost Boost Boost!!』

 

 鳴り響く倍加の音は拳の魔力をさらに増大させていき、腹部からの強烈な爆発が大一を襲った。全身から血を吹き出し、口からは煙を吐きながら彼は背中から倒れていった。

 肩で息をしながらユーグリットは踵を返してロスヴァイセの下に戻ろうとする。魔力を使いすぎたのを感じた彼は急いでこの場を離脱しようと考えた。これ以上の時間を稼がれては援軍が来て、彼女を連れていくことがさらに困難になるだろう。

 彼の視線にはボロボロと涙を流すロスヴァイセの姿があった。彼女の視線はユーグリットのさらに後方へと向けられていた。

 

「だめ…これ以上…立たないで…!」

 

 彼女の悲痛な声を聴いたユーグリットは衝撃を受けて振り返る。全身から煙を上がり、血を流している。呼吸も壊れた機械音のように怪しいものであった。本来であればそのまま倒れ込んでおかしくないほどの状態なのは明白であった。

 それでも唯一の手に持つ錨を支えに大一は立っており、今もなお龍人状態を解除せずにその眼で見据えていた。

 

『お前だけは…この俺が…なんとかしなければならないんだ…!』

「まだ立つか…力も点でバラバラな貴様が『赤』を制御する私に勝てる道理はない。次で諦めるべきだ」

 

 もはや怒りで口調も落ち着かないユーグリットであったが、大一は面食らったような不思議な表情をしていた。

 そして吐息して何かを決心したかのように姿勢を起こすと、錨の先に魔法陣を展開させた。

 

『…なるほど。それならば、これでどうだ!』

 

 魔法陣から大量の霧がまき散らされる。それが昨日、魔法の授業で子どもに教えたものと同様であるものだとロスヴァイセは気づいたが、このタイミングで出す理由は分からなかった。

 一方でユーグリットは注意深く辺りを見渡す。魔力の妨害は無く、本当にただ視界を封じるためだけの霧であった。このままロスヴァイセを連れて離脱することも考えたが、大一の感知能力を踏まえればそれは賢明でない。逆にこの霧に乗じてロスヴァイセを連れて逃げることも疑ったが、あの手傷でそれが出来るとは思えない。そうすると思いつくことは…

 霧が薄くなってきたあたりで、大一が突如目の前に現れる。これに対してユーグリットは特別驚かなかった。この状況であり得るとすれば、不意打ち以外考えられなかったのだから。

 現れた大一には両腕があり、右腕の方を大きく振りかぶっていた。シャドウによって形成されているだろうが、左腕も黒く染まっていた。霧と併せて混乱を誘うためだろうか。姑息な手段しかできない相手に、ユーグリットはさらに苛立ちが加速される。

 相手の黒い腕を硬くできないのは知っている。となれば、警戒するべきは左腕の一撃であった。おそらく右腕の攻撃を咄嗟に防いだところで、左腕で殴りつけるつもりだろう。

 ユーグリットは落ち着いて左から来るはずの攻撃に備えていた。

 

(そういえば奴の錨はどこに───)

 

 その疑問がよぎった瞬間、ユーグリットの顔面に右の拳が痛烈に入った。鎧越しでも感じる硬く重い一撃は、彼の身体を大きくよろめかせた。

 大一はさらに左腕でユーグリットの肩を掴むと、意向返しのように腹部へと右の拳を入れこんで殴り飛ばした。

 完全に油断して地面へと叩きつけられたユーグリットはせき込みながら、立ち上がり鎧越しに自分を殴り飛ばした相手を睨みつける。

 

「貴様ッ…!」

『さっきのお返しだ。もう負けない』

 

 大一は両腕の拳を力強く握りしめてユーグリットに対峙するのであった。




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