D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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今回で17巻分はラストとなります。


第160話 残る疑問

 現在、駆け付けた冥界の兵士たちが中心となって戦後処理をしている。町は邪龍の炎や爪痕が残っており、見るも無残な状況であった。アウロス学園もユーグリットの手によって半壊にまで追い込まれたが、幸い完全な破壊は免れていた。子ども達も守れたことも含めて、今回「D×D」の貢献は大きいと言えるだろう。

 この大きな事件の主犯格であったユーグリットは、兵士たちによってサーゼクスの下へと連れていかれた。最後まで虚ろな表情でその真意は読み取ることは出来なかった。そんな彼もグレイフィアには会うことになるだろう。最後の意地を砕かれた彼が、姉との出会いでどこまで持ち直せるか、それは大一にとっての嫌な心残りであった。

 大一はげっそりとした様子で瓦礫を退かしている兵士たちに目を向ける。その身体はボロボロでアーシアの回復を受けて包帯を必要としていた。もっともグレンデルとヴァルブルガの強敵の連戦をした匙と比べればまだマシだろう。禁手にまで至った彼は戦いが終わってから回復を受けて、すぐさま病院へと搬送された。話を聞くだけでも、彼の並々ならぬ想いが伝わってくる。

 このお世辞にも元気とは言えない彼に、一誠が話しかける。

 

「手酷くやられたな、兄貴。休んでなくていいのか?」

「落ち着かないんだよ。しかし悪かったな。お前の因縁の相手を取る形になって」

「俺はむしろ安心したよ。あの時、ロスヴァイセさんを本当に助けられないかもと思ったからさ」

 

 一誠は肩をすくめて答える。実際、あの場で全員が仲間を奪われたと思い緊張感をより強めたが、クリフォトが撤退した際にロスヴァイセの下に大一がいたのを見て心から安堵した。

 

「でもすごいよ。ユーグリットに勝てるなんてさ」

「お前なら充分に勝てただろうよ。俺は本当にギリギリだったからな…」

 

 半ば自嘲気味に大一は答える。実際に戦ってその圧倒的な力量を実感したが、同時に一誠なら間違いなく勝利をもぎ取れただろうと思った。自分の場合は、あの戦いの中で一瞬でも気を抜き、あの土壇場で「三位一体の魔生力」を生みだしていなければ、間違いなく敗北してロスヴァイセを連れていかれただろう。ライザーから貰っていたフェニックスの涙でバーナから受けた傷を回復したのも勝因のひとつであった。

 

「派手にやられたな。悪かったな、今回は参加できなくて」

 

 兵藤兄弟の後ろからアザゼルが声をかける。これに対して一誠は首を横に振る。

 

「いえ、俺たちだって、こんなことになるなんて思いもよらなかったんで…。奴らはあの空中都市の何が目的なんでしょうか?」

「…実は巨大な兵器がついているか、もしくは変形でもするのかね。あそこを担当していたアジュカ・ベルゼブブが何か知っているかもしれない。訊いてみた方がいいな」

 

 クリフォトがアグレアスを狙った理由はアザゼルも皆目見当つかない様子であった。アグレアスは転移の前に人々が地上に転移させられたため、本当に空中都市のみ奪われる形となった。

 また敵にとってもうひとつの狙いであったロスヴァイセについては、ユーグリットの言葉通り666の封印についての研究が目的でもあったようだ。つまり彼女がグレートレッドに並ぶ黙示録の怪物を封じられる可能性を持っていた。

 

「…これからは、あいつの術式解析が鍵を握る。今後はあいつらもロスヴァイセを狙ってくるだろうさ。まさか、あのロスヴァイセたちが俺たちの切り札になりそうだとは、世の中、何が起こるかわかるもんじゃないわな」

 

 アザゼルは疲れたようにため息をつく。改めてグレモリー眷属の規格外の特別性を目の当たりにして、頼もしさ半分、苦労するような想い半分といったところだろう。

 

「それと帝釈天からの伝言だ。初代孫悟空が天帝のもとで行っていた対『禍の団』の先兵、その後釜が曹操となった」

「曹操が!?」

 

 大一が驚く一方で、一誠は腑に落ちたように頷く。今回、結界を破るきっかけとなった聖槍の存在を知る彼からすれば、当然の反応でもあった。一誠からすれば、いずれかつての強敵と再び邂逅することが予感されていた。

 

「2人とも今回、上手くいっても油断するなよ。力を引き出さないと、他の敵たちに勝てんからな」

「こんな紙一重の戦いになって油断はしませんよ」

「俺も兄貴と同じ気持ちですって」

 

 2人はアザゼルの言葉に頷くが、少しして一誠が言いづらそうに切り出す。

 

「…そういえば、アザゼル先生。俺とリアスが今回戦った相手なんですけど、天使の翼があったんです。しかも6枚も」

「…だとすれば、上位クラスの天使の可能性が高いな。裏切り者か?いや、それならばイリナが気づいてもおかしくないな。あいつなら現代の上の天使なら顔を全員覚えているはずだし」

「ブルードと名乗っていました。それと本人は若い奴にはわからないだろうと言っていましたから、先生ならもしかしてと思って」

「ブルード…いや聞いたことねえな。だが貴重な情報源だ。ありがとよ」

 

 アザゼルは一誠の肩を小さく叩くと、そのまま他の兵士たちと話しに向かった。一瞬、見せた微妙な表情はありし日の天使時代を思いだしていたのだろうか。

 

────────────────────────────────────────────

 

 2人は仲間が集まっている休憩所のテントに戻るなり、一誠はリアスと話し込む。内容は教会、天界から援助を求められているというもので、種族間の交流がまたひとつ期待されるものであった。

 一方で、大一もパイプ椅子に座るなり、朱乃に心配そうに話しかけられる。

 

「その怪我で動くのは大変じゃないの?」

「どうも身体が昂ってさ」

「新しい力の影響かしら?」

「緊張から解き放たれて、少し気持ちが落ち着かないだけだよ」

「だったら良いのだけれど、お願いだから無理しないで。義手まで壊れちゃったんでしょう」

 

 朱乃はちらりと大一の右腕へと視線を移す。相変わらず、二の腕の半分より下は無かった。新たな力は本当に腕が再生したわけではないため、今後も義手に世話になるだろう。

 そんな彼の義手は半分以上が焼け溶けたような状態で発見された。周囲は激しく争った痕跡があったのだが、魔力や魔法の感覚は消えており、何者がいたかは感知することは不明であった。当事者でも無ければ…。

 バーナとモック、そして彼女らと相対したアリッサの姿は義手が発見された頃にはどこにも見えなかった。大一はその報告を聞いてから、右腕を重点的に感知したが特別な変化は感じられなかった。ディオーグもわからないと話していたため、おそらくアリッサの転移は1回きりのものだったのだろう。

 新たな敵の存在に加えて、アリッサが話していた「異界の魔力」という言葉が大一には引っかかっていた。近い言葉を考えると、アリッサと出会った「異界の地」が思いつくが、それが何を意味するかは分からなかった。もっともまったく推測の余地が無いわけではない。ここ最近で自分の中に感じた一部の敵との魔力の繋がり、あれがこの謎を解くカギになると思われた。

 大一が思考にふけろうとした時、朱乃が軽く頬を叩く。

 

「無理しないでと言った途端にこれなんだから。休む時は休んで」

「心配ありがとう。わりと辛辣な小言を心配したんだけど」

「ボロボロのあなたにそこまで言うほどじゃありません。それに…危機感もあるし…」

「危機感ってなにが?」

「いろいろ」

 

 はぐらかす朱乃に大一は追及しようかと考えあぐねていると、戻ってきたゼノヴィアがグレモリー眷属を見渡しながら言う。彼女の隣にはイリナも自信満々に胸を張っていた。

 

「そろそろ、皆に話をしておいたほうがいいと思ってね。三学期に入ったら、来年度生徒会の総選挙があると聞いた。私は今度の選挙に立候補する。私は生徒会長になりたいんだ」

「「「「ええええええええええええっ!」」」」

 

 一誠、祐斗、小猫、レイヴェルの仰天した声が響く。あまりの衝撃発言に同級生と後輩は驚いていたが、リアスを筆頭に耳にしていたメンバーは彼女の発言にうんうんと頷いていた。学園行事に並々ならぬ関心を寄せていたのはこれが理由でもあったらしい。

 

「三学期に入ったら、選挙活動をするつもりだ。…オカ研を抜けることになりそうだが、どうしても生徒会長になりたいという野望を持ってしまったんだ。どうか、ご了承を願いたい」

「い、いいんですか?ゼノヴィアがオカ研を離れても?」

「ええ、いいんじゃないかしら。グレモリー眷属ということは変わらないわけだし。ゼノヴィアが動かす学校なんて面白そうじゃないの」

 

 一誠の問いにリアスはさらりと答える。学園の出来事に関しては、とことん楽しむことを優先する彼女らしい反応であった。

 その一方で、アーシアやイリナはゼノヴィアへの全面的な支援を約束しており、3人で張り切っていた。

 そんな彼女たちを見て、リアスは少し寂しそうに呟く。

 

「…三学期になったら、卒業は間近。オカ研も新しい部長を決めなくてはならないわ」

「誰にするつもりか、決めてあったりします?」

「まだ秘密。けれど、朱乃と一緒にもう決めてあるの」

 

 一誠に小さくウインクするリアスを見ながら、大一は朱乃に耳打ちする。

 

「もう決めていたのか?」

「ええ、大一は最近ゲンドゥルさんのことで忙しそうだったから、私とリアスで話したわ。せっかくだからあなたにも秘密ね」

「別にいいけど…まあ、予想はできるかな」

「そういえば、先輩はこの後、ゲンドゥルさんの見送りもするんですよね?」

 

 朱乃との会話に小猫も割り込んで質問してくる。先ほどの戦いでゲンドゥルも相当な消耗をしており、冥界の病院に行くことになっていた。もっとも魔法陣はひとりで展開して、そのまま北欧へと帰ると話していたのだが。

どことなく不機嫌な雰囲気に、大一は首をかしげるが特に気にせずに答える。

 

「ああ、グレモリーの立場で行くよ」

「じゃあ、ロスヴァイセさんと2人でですか…」

「一誠も来るだろ。彼氏役なんだし」

「いや、先輩がイッセー先輩と話しに行く前に、ロスヴァイセさんにバレていることを話していましたよ」

「ああ、その話をしていたのか…まあ、ゲンドゥルさんは許してくれるだろうよ」

「私が心配しているのはそっちじゃないんですよね…」

「小猫ちゃんに同意するわ」

 

 彼女らの反応に腑が落ちない想いを持ちながら大一は、イリナが一誠に嬉しそうに話しているのを見ていた。どちらかというと疲労で頭が回っていないだけであったが。

 

────────────────────────────────────────────

 

「ここで構いませんよ」

 

 学内の隅でゲンドゥルは自分で魔法陣を展開し始める。この間にも彼女とロスヴァイセの間に言葉は交わされず、どことなく気まずい印象を感じられる。

 その空気を打ち破るかのように、可愛らしい声が後ろから次々に聞こえてきた。

 

「ロスヴァイセ先生―っ!」

「おばあちゃん先生―っ!」

 

 彼女らに魔法を習った子供たちがに集まってくる。彼らは寂しそうに2人に話した。

 

「先生、帰っちゃうって本当?」

「もう、この学校に来ないの?」

「先生の魔法、もっと教えて欲しいです!」

「魔法、使えるようになりたい!」

 

 子ども達の訴えに、ゲンドゥルは優し気な微笑みを浮かべながら子どもの頭を撫でる。

 

「私はまた来ますよ。それにロスヴァイセ先生だっていつかまた必ず来てくれるはずです」

 

 ゲンドゥルの言葉に、子ども達は眩いほど輝いた笑顔を見せる。その様子に大一は感嘆の息を漏らす。教師という存在が子ども達にとってどれほど特別であるか改めて理解したのと同時に、自分には不可能な立場だと感じてしまった。

 そして彼女は視線を移してロスヴァイセに真っすぐに伝える。

 

「ロセ、お前が通ってきた道は、学んできた知識は、たとえうちの家系と異なるものだとしても、間違ったものではないんだよ。ほら、見なさい。この子達の笑みはお前が通ってきた先にできたものだよ。それはいまのお前だからこそ、できたもの。もっと、自分を誇りなさい。お前は私の自慢の孫なのだからね」

 

 ゲンドゥルの率直な想いに、ロスヴァイセは口元を手で押さえ、熱く込み上げてくる感情を抑えていた。目からはその想いを反映するように涙が溢れている。

 

「…はい、ありがとうございます」

 

 絞り出すように、しかし心から発した言葉にゲンドゥルは安心したように頷くと、ちらりと大一を見る。

 

「大切な人には率直に伝える、そうですよね?」

「その通りだと思います」

 

 大一の言葉に、ゲンドゥルは満足そうに微笑むと転移の力を強める。魔法陣が更なる光を放つ中、転移前に彼女は再び視線を向けた。

 

「そうそう、大一さん。孫のことをこれからもよろしくお願いしますね。生島さんにも伝えておいてください」

「また来てください。いつでもご案内します」

「ええ、そうさせてもらいますよ。ロセ、今度は本当の彼氏を紹介するんだよ。少なくとも私が任せられる相手でね」

 

 面白そうな表情をしてゲンドゥルは転移の光に消えていった。祖母の最後の言葉にロスヴァイセはどこか緊張を持ち、同時に見て分かるほど気恥ずかしそうに頬を染めていた。

 そんな彼女は小さく大一に問う。

 

「…生島さんに会っていたんですね」

「あー…ごめんなさい。バタバタしていてお話するのを忘れていました」

「…じゃあ、その時の話を今度聞かせてください。その…どこかで2人でお茶をしながら…」

「まあ、いいですけど…」

 

 いつもと雰囲気の違うロスヴァイセへの対応に、大一は少々面食らうが、子ども達を送っている間、その理由を模索しても最後までその理由に思い当たることは無かった。

 




今後も紆余曲折ありそうです…。
次回から18巻分となります。
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