D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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冷静に考えれば、天使はどういうつもりでこの部屋を作ったのでしょうか?


第164話 男女の悩み

『お前が悪い』

「そうですよね…」

 

 皆がすっかり寝静まった深夜、大一は自室で連絡用魔法陣を使いながら、ライザーと話していた。いつも隣で眠っている朱乃はおらず、部屋にはベッドに腰掛ける彼しかいない。戻って来てから説明をしたが、最後まで彼女の機嫌は直らずにいまいちぎくしゃくした状態で自室に入っていった。小猫も同様で、腑に落ちない表情を崩さなかった。

 こういった経緯から、感情と反省の吐露を求めた大一は、サーゼクス達への報告を済ませた後、ライザーに相談を持ちかけていた。

 

『お前が知らなかったとはいえ、それで彼女らが傷ついたのは事実だろうが。そうなると後の説明も言い訳っぽく聞こえてしまうものだしな』

「謝罪もしたのですが、それでも甘かったのでしょうか」

『甘いというより、それすらも言い訳になる。またはちょっと距離を置いて整理したい時に、謝られても余計にわからなくなるだけとも取れるな』

 

 うなだれ気味で、大一はライザーの指摘を耳にする。朱乃や小猫への大切な想いは変わっていない。しかし同時にそれを思うほど、もっと上手にフォローを入れるべきだった後悔がのしかかっていった。

 そんな彼の肩から黒い影が、眼玉をギョロつかせながら飛び出して会話に加わる。

 

『いやいや、そうは言うがね。彼女らもちょっと過剰反応だったと思うよ。あの黒猫が大一にスキンシップをしていたのなんて、前から分かっていたことじゃないか』

「しかしな、シャドウ。もっと俺がハッキリした態度を取ればこんなことには…」

『それを言ったら他にも同じような奴だっていっぱいいるって。だいたい拗れたのは、赤龍帝が貰ったあの意味の分からないドアノブのせいで、変な空気が出来上がっていたのもあると思うね』

 

 大一と黒歌が戻ってくる直前、一誠達はトウジの持ってきたあるお土産の説明を受けていた。見た目はなんてことないドアノブであるが、他の部屋のドアノブを交換して扉を開けると、豪華なベッドルームへと繋がる。その部屋は天使が悪魔と愛を育んでも堕天しないという特殊な異空間となっており、もはや誰にも邪魔されない個室へと早変わりするものであった。トウジはこれを一誠に託し、イリナとの孫を期待する発言までしていたという。しかもミカエルお墨付きであるため、天界関係者も煩悩にまみれているのを垣間見ることとなった。ちなみにトウジはアザゼルに連れられて彼の経営する堕天使関連の店へと向かっていった。ご丁寧に「おっぱいが好きか?」という文言に同意をしたうえである。

 ただでさえ天界には碌な感情を持っていないシャドウからすれば、今回の一誠へのプレゼントはかなり憤慨する内容だったらしく、高い声を荒げて文句を口にしていた。

 

『そもそも都合よすぎだろ!なんだよ、天使と悪魔が愛し合える部屋って!要するにただの子作り部屋じゃん!まーた赤龍帝だけ特別扱いだ!イライラするー!』

『まあ、確かに意味わからない部屋だと思うが…これでレイヴェルが蔑ろにされたら、それこそ燃やす案件だな』

 

 シャドウが苛立ちを露わにする一方で、映像越しにライザーもメラメラと燃えるような雰囲気を見せる。明らかに話しの方向性がずれると思った大一はすぐに2人を落ち着かせる。

 

「まあまあ、2人とも。今はそれを気にしても意味無いでしょう。それに俺が彼女らへのフォローが甘かったのは事実なんだから」

『というか、気にする必要あるか?』

「大切な人達を不安にさせたら気になるさ。…俺ももっと変わらないと」

 

 付け加えた言葉は大一にとって自分自身に向けて放たれたものであった。朱乃も小猫も大切にするという想いがある以上、相応の甲斐性は必要になる。いつまでも今の関係だけで終わらせるだけでなく、自ら変化をしなければならないのだ。

 ライザーはそんな彼の姿を見ながら、小さく嘆息する。

 

『たまに思うけどな。お前、基本的に自己肯定感が低いから好意を持ってくれる相手を無下に出来ないんだろ』

「別にそんなことは…」

『俺はそれを悪いと言っているわけじゃないぜ。ハーレムにもいろいろな目的があるからな。ただ切り捨てられないなら、本気で来る女全員を幸せにさせるくらいじゃねえとな』

「そう思うと本当に難しいことを考えていると思います」

『だが惚れた相手を全員相手に出来るのはやはり嬉しいものだ。とにかく受け身だけじゃなくて、自分からも攻めていけ。…おっともうこんな時間か。またな』

「相談に乗っていただき、ありがとうございます。おやすみなさい」

 

 魔法陣を消した大一はベッドへと仰向けに倒れ込む。目は天井に向けられていたが、特にどこかを見ていなかった。傍から見れば虚ろな表情に見える彼であったが、散々考えを巡らせた挙句にたどりついた答えは…。

 がばりと大一は体を起こすと、静かに口を開く。

 

「もう1回しっかりと謝る。それと感謝も伝える」

『いいんじゃないか。大一らしいし、赤龍帝を超えるハーレムを作るには、受け身ばかりじゃダメさ』

「ありがとよ。さて、すぐにでも謝りたいところだがさすがにこの時間じゃ───」

 

 大一は言葉を切ると、訝しげに目を細める。意識して感知してみると、グレイフィアへの面会で冥界に行っているリアスを除いて、他の女性陣がなぜかひとつの部屋の前に集中しているのがわかった。

 

「…あれ、起きている?」

(お前のエロ弟と天使女だけ別空間にいるな。訓練でもしているのか?)

 

 いつの間にか起きていたディオーグの言葉に、大一はハッと気づいて立ち上がると部屋を出る。そのまま仲間達が集まっている場所へと歩を進めていくのであった。

 間もなく彼が見たのは、ぎゅうぎゅうになって廊下の前で扉をわずかに開けて部屋の中を覗き込む女性陣の姿であった。よく見ると扉には例のドアノブがつけられている。

 

「…イリナ、立派になって…涙すら出てくるぞ…っ!」

「…ゼノヴィアさん、本当に、本当にイリナさんは…っ!」

「…この部屋、いかがわしい限りです」

「そう言いながら白音は夢中で見てるにゃ」

「…イッセーくんはどんどん進んでいくのね。大一は応えてくれるかしら…」

「…破廉恥だぁ…エロエロだぁ…」

「…この部屋もマネージメントしないとスケジュールを崩壊されそうですわ」

「あわあわあわあわ…こ、こんなお部屋まで天使は造るのですね!」

「イッセー、繁殖中?」

 

 状況を察した大一は呆れたように一行に話しかける。

 

「さすがに覗きは止めなって」

 

 特別大きな声でも無かったが、女性陣は雷に打たれたように驚き、一斉に振り向く。

 

「違うんだ、先輩!イリナの成長を親友として見届けたくて!」

「そ、そうです、お兄さん!同じ仲間としての義務だと思うんです!」

「親友なら尚更やめろよ」

 

 ゼノヴィアとアーシアの協会コンビの主張を収めれば…

 

「イッセー様のスケジュールに響く可能性もあるんです!」

「魔法使いとして契約相手を知っておきたくて…」

「事務的な理由でも無理あるわ」

 

 レイヴェルとルフェイの仕事的観点っぽい理由に呆れながら答える。

 

「後輩のやることが気になって…」

「か、監督責任だッ!」

「年下には気づかいを見せるべきでしょうよ」

 

 朱乃とロスヴァイセの年上組にもため息交じりでツッコミを入れる。

 

「じゃあ、大一も私とやってみるにゃん♪」

「断る!」

「ダメです!」

 

 黒歌が誘えば、小猫と共にキッパリと断る。

 

「赤龍帝は増える?」

「お前に関してはノリでついてきただけだろ…」

 

 オーフィスのピンと来ていない表情に、大一は小さく首を振るのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

「それでどうなったんですか?」

「ほとんど同時に一誠達も気づいていたから、深夜に部屋の見学会だよ。本当に意味が分からなかった」

 

 翌日の午後、大一は祐斗に対して前日の出来事について愚痴をこぼしていた。この日、クリスマスの企画準備のために、2グループに分かれて買い出しなどのために2つ先の町で奔走していた。大一は祐斗、朱乃、小猫、ギャスパーのメンバーで動いており、以前のオカルト研究部を思いだす構成であった。

 

「でも見学の最中に京都の件を謝れたんですよね」

「まあ、それがせめてもの救いだな。しかしさすがに覗きって…」

 

 ため息をつきながら大一はサンタ服を物色している朱乃達の後ろ姿を見る。彼女らもさすがに自分の行為に冷静になっていたのか、京都の件は謝罪と合わせておあいこのような雰囲気になっていた。

 

「怪我の功名って考えればいいのかな。もちろん俺がハッキリしないのも悪いんだけど」

「ハッキリしないという意味ではイッセーくんも大概ですけどね。あれだけ好意を正面からぶつけられているのに、ガンガン行かない印象もあるんですよね」

 

 祐斗は思いだすように話す。前日にアザゼルが一誠にエロ技を最近使っていないことで発破をかけていたが、祐斗も評判以上にいざという時にエロさを見せない彼に似たような感想を抱いていたようだ。

 これに対して、喜んだ様子でシャドウが話しかける。

 

『なんだ、聖魔剣使い。分かっているじゃないか。そうだよな、赤龍帝の女どもが都合よすぎるのも問題だよな。それであんな部屋まで…!』

「いや、そうは言ってないけど…」

「シャドウ、引っ込んでいてくれ。さすがに誰かに目玉が肩から出ているのを見られたら驚かれる」

『はいはーい』

 

 いまいち本気に聞こえない反応を見せながらシャドウは大一の体に潜り込む。表に出れば悪口を毎度のことのように残していく神器に、彼も疲れたような表情であった。

 

「悪いな。あいつ、神滅具持ちの相手に難癖つけたいだけなんだよ」

「僕は気にしませんよ。とりあえず先輩が上手くいっているようで安心しました」

「上手くいっているのかな。戦いの方はともかく、恋愛関係にまで首を突っ込むことが増えて心配になったよ」

「恋愛関係ですか…そういえば、イッセーくんが僕に対して副会長のことを妙に話題に出すんですけど、何か知りませんか?」

 

 祐斗の問いに対して、大一は考えるようにあごを掻く。実際のところは椿姫が祐斗に対して好意を抱いていることを知っていたのだが、さすがに本人からの口から話してもいないことを自分が言うつもりも無く、考えている振りだけを見せていた。

 

「いや知らないな。お似合いとかって思われたのかもな」

「わからないですね。副会長とは何度か関わりはありましたけど…」

「まあ、お前がどうするかだと思うよ。俺や一誠がギャーギャー騒ぐことじゃないし」

 

 一誠としては無茶をしがちな祐斗に対して、支えてくれるような女性が現れるのを期待していたが、大一はさすがに弟ほど別のメンバーの恋愛に首を突っ込もうとは思っていなかった。さすがに前日の覗きレベルにまでなれば話は別だが。

 そもそも自分の方ですら余裕が無いのだから、後輩たちのサポートなどさらに無理な話であった。

 

「難しいよな、いろいろと…」

「先輩はイッセーくん以上にハーレムには悩んでいますよね」

「考えても答えがすぐに出るものじゃないからな。とりあえず、今はクリスマスプレゼントとか考えているだが…」

「一緒に過ごすだけで十分じゃないですか?朱乃さん達はそれを期待しているでしょうし」

 

 祐斗の言葉は確かに正しいだろう。特別な時間を一緒に過ごすだけでも彼女らは満足するのは確定的とも言えた。

 しかし大一自身、感謝を形で伝えたい気持ちもあった。自分らしくないと思いつつも、一緒に過ごすだけでは限界もあると訝しんだ彼のひとつの案であった。卒業が近づきクリスマスもあるというこの現状がそういった感情を肥大化させている面もあった。もっとも贈り物など選ぶことから遥かに難易度が彼には高く、現状は本当に案だけであったため、祐斗から意見を聞けたことの方が安心した。

 悩むほどため息が出るような想いであったが、それがむしろ喜ばしく感じた。悪魔になって否定的な感情を繰り返していたが、それを払拭されるほど愛してくれる相手がいるのが彼には嬉しかった。

 

「こういうことで悩めるのは幸せだよな」

「あらあら、じゃあもっと悩ませてあげる」

 

 いつの間にか目の前に来ていた朱乃は2つのサンタ服を見せる。細かな装飾の違いに加えて、片方は両肩が見えるという大胆なデザインであった。

 

「どっちが可愛いと思う?」

「朱乃ならどちらも似合うだろうが…肩出すのは寒いだろ。もうひとつもスカートだし」

「魔力を使うから大丈夫。それに露出多い方が嬉しいでしょ?」

「俺はそこまででもないよ…」

 

 一誠ほどの強いこだわりのない大一に対して、朱乃に続くように小猫もサンタ服を持って聞いてくる。

 

「先輩、私のも選んでください。好みに合わせます」

「好きなの選びなって。そういえば出発前にロスヴァイセさんもスカートとズボンのどっちがいいとか聞いてきたな。サンタであることがわかれば気にしなくてもいいと思うんだが…」

「好きな人にどう思われるかは重要です。…というか、ロスヴァイセさんにも聞かれていたんですか?」

「ああ、参考程度にって話していたよ」

「朱乃さん…!」

「わかっているわ、小猫ちゃん。いよいよ油断できなくなってきましたわ」

 

 サンタ服を手にしながら、奇妙な炎が見えるような錯覚を覚えるほど闘志を燃やす朱乃と小猫に、男性陣は少しだけ引いてしまう。

 

「大一さん、止めましょう」

「祐斗先輩の言う通りだと思います。この鎮火はお兄様しか出来ません」

「いやしかしなんと言ったらいいか…」

(止める暇なんてねえよ。またなにか感じるな)

 

 昼食後から興味の無い話で一向に加わろうとしなかったディオーグのギラギラとした闘争心が感じられる声が響く。間もなく彼らの携帯に、奇妙なオーラを感知したという連絡が入るのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 一誠達は予想以上に苦戦していた。ここが町中の公園でもあって行動がいくらか制限をかけられているのも理由だが、予想以上に対峙した相手が強力であった。特異な太刀筋はエクソシストに関連し、扱う得物は名高い伝説の剣「天叢雲剣」であった。しかも邪龍「八岐大蛇」が宿っており、大量に現れる数十メートルはある首を落としても再生して、強力な毒を放っていた。

 八重垣と呼ばれた男性の一撃は、共に行動していたトウジの肩をかすめ彼を弱らせていった。これに対して、イリナは怒りに身を震わせる。

 

「…よくも、パパを!」

「…それでいい。わかるかな?それが怒りだ。大事な者を傷つけられた者が抱く感情だ。キミがたとえ、天使だろうと、身内を傷つけられた激情は抑えられないだろう?」

 

 言い返せないイリナに男は醜悪な笑みを浮かべる。再び剣を向けると独立して動く複数の邪龍の頭が一誠達を狙って来る。彼らはトウジを庇うように立つが、その数を捌き切るのは至難の業に思えた。

 しかし攻撃が届く前に、雷光や素早い斬撃で邪龍の頭が吹き飛んでいく。何匹かは動きが止まったかと思うと、小猫の格闘と大一の伸ばした黒い腕の打撃で消えていった。

 援軍の登場に一誠は胸を撫でおろす思いであり、一方で敵は小さく舌打ちをする。

 

「…これ以上は、人目につくか。局長!必ず僕はあなたと天界、そしてバアル家に復讐をします!絶対に許すわけにはいかない!キミたちがいる楽園という名の駒王町は、多くの犠牲の上に成り立った世界だ。あの町を継いだバアルの血を引きし悪魔とその眷属。よく覚えておくといい」

 

 男は転移魔法陣を展開させると、憎しみに満ちた表情を向けながら去っていった。魔法陣の紋様を確認した一行は、クリフォトがまた動き出したことを実感するのであった。

 




八重垣くんはそこまで関われないかもしれません…。
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