D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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時間空きましたが投稿です。
個人的に八重垣はもっと恨んでもいい気がします。


第165話 負の感情

 クリフォトの襲撃の後、一行はすぐにトウジを冥界の病院へと連れて行った。彼が受けた八岐大蛇の毒は非常に厄介なもので、サマエルほどではないが最終的には魂も蝕む恐ろしさを持っていた。治療のために天界に連れていく必要があったが、その前にトウジから話があるとのことで、合流したグリゼルダに促されてリアスも合流した一行は病室へと入っていく。

 ベッドに横たわる父の姿を見て、イリナは涙ながらに飛びつく。

 

「…ごめんなさい。私、ミカエル様に選ばれたのに…天使になれたのに、パパを守れなかった…」

「ハハハ、イリナちゃんは悪くないよ。それにまるで死んじゃうみたいな雰囲気はやめておくれ。このあと天界で治療を受けるのだから、大丈夫大丈夫」

 

 感情をかき乱している娘に対して、トウジはあやすように励ます。額から流れる脂汗や肌の変色具合を見ればかなり苦しそうに見えるが、それでも点滴によって毒の進行を遅らせていた。

 彼は皆を見渡した後に重い口を開く。

 

「…天界へ行く前に少しだけお話したいことがあります。先ほど襲撃してきた彼のことについてです。

 …彼は八重垣正臣。かつて私の部下だった男です」

「…『だった』ということは現在彼は…?」

 

 リアスの問いにトウジは毒とは違う精神的な苦しみを伴って答える。

 

「彼はもう亡くなっています。…教会側が、彼を粛清したのですから」

 

 その言葉に全員の気持ちが騒めきたつが、敵の手に聖杯があることを踏まえると、ありえない話ではなかった。またここ最近、司教など教会の役職ある者たちが襲われている情報があるが、被害者の共通点がトウジの同僚であり、彼自身も八重垣がその凶行に及ぶ理由には思い当たる節があったようだ。

 この話に思い当たる節があったのか、リアスは他のメンバーに情報を付け加える。

 

「実はね、いまバアル家の関係者が、襲われているの」

 

 トウジの話と同様の驚きが、一行を襲う。バアル家での被害者は確認されていないが、大王派の政治家が襲撃されており、死者まで出ていた。先ほどの八重垣の去り際の言葉を踏まえると、この2つの問題が無関係とは思えなかった。

リアスは緊張した面持ちでトウジに問う。

 

「何があったのですか?私は前任者である悪魔が、大王バアル家の縁者───母方の身内が取り仕切り、教会とのいざこざを起こして解任されたとしか聞いていないのです」

「…こちらでも、表向きはそのような説明で済ませていますよ。…お父上か兄上から、駒王町で起こったことは聞いていないのですね?」

 

 トウジの質問に、リアスは静かに首を振る。

 

「…父は知らないと思います。私にそのような隠し事をする方ではありませんので…。兄は…立場上の都合もあるでしょうから、わかりません。ただ、このあと、大王バアル家からグレモリー家に使者が訪れて、説明があるとだけ…。隠し切れない事柄が表に出る前に打ち明けるという体を感じました。私は眷属を連れに一旦ここへ戻ったところなのです」

「…そうですか。彼らも話すのですね。ならば、事情は大王側から聞いた方がいいでしょうね。ただ、私からも少しだけお話しましょう。彼は…八重垣くんは、駒王町を縄張りにしていた上級悪魔の女性と…恋に落ちたのです」

 

 言葉を切ったトウジの目からぼろぼろと大粒の涙がこぼれ落ちる。肉体の苦しみを遥かに超える精神的な苦痛がそこに表れており、何かに対して心から悔いているように思えた。

 

「女性はベリアル家の分家に当たる方でした。名前はクレーリア・ベリアル。…私たちは、駒王町で、彼らを引き裂いたのです…ッ!…私は、彼に斬り殺されても一切文句は言えないでしょう…ッ!殺されて当然なのですから…ッ!八重垣くん、すまない…っ!すまない…っ!」

 

 嗚咽を漏らし悔恨の思いを吐き出す男に、部屋にいる者は何も言えなかった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 リアスが一誠達を連れてグレモリー城へと向かった一方で、大一は別の屋敷へと足を運んでいた。トウジを病院へと運んでいる最中に招集がかかっており、少し前にルシファー眷属への勧誘を受けた屋敷に赴いていた。

 部屋では以前出会った頃よりも血色の良いサーゼクスが座っており、事務机を隔てて炎駒と話していた。大一が来たのを確認したサーゼクスは小さく頷く。

 

「急な呼び出しだったのによく来てくれたね。トウジさんの方は大丈夫かい?」

「八岐大蛇の毒を受けたため、天界に移送されます。命は大丈夫とのことでした。それで用件は?」

 

 大一の問いに、サーゼクスは壁にかかっている造りのしっかりした時計へと目を向ける。

 

「ちょっとキミを連れて来て欲しいと言われてね。約束の時間まではまだあるから、ついでに先日の『異界の魔力』について、改めてまとめてもらおうかな。炎駒もいるしね」

「炎駒さんも呼び出しを受けたのでは?」

「いえ、私の方は別件で報告に来ただけですので」

 

 ユーグリットが捕まったことで、完全とは言えないがルシファー眷属への不信感もかなり払拭され、眷属間の接触も出来るようになっていた。相変わらず多忙であるはずのサーゼクスがどこか健康的に見えるのも、愛する妻のグレイフィアや信頼する仲間達との接触が可能になったことが起因していた。

 これに対して、安心を抱く大一であったが、その一方で心の中では引っかかる感覚もあった。しかしそれは表に出さないことを意識しつつ、彼は前日の報告をさらに詳細に説明する。

 以前、零が同じ魔力を持つ妖怪に北海道で出会ったこと、相応の技術や実力が無いと感知が難しいこと、異界の魔力同士は引き合うような特性があること、挙げられた対策案、零や黒歌が感じた抽象的な表現まで含めて、彼は一気に話し続けた。

 これについてサーゼクスは目を閉じながらうんうんと頷き、炎駒は表情を変えずに耳を傾けていた。

 大一が報告を終えると、さっそく炎駒が口火を切る。

 

「知れば知るほど、警戒心を抱くようなものですな」

「炎駒さんの言う通りだと思います。今まで、これが調査に当たられなかったのが不思議に思えますよ」

「たしかに奇妙な魔力ではあるが、現時点では同種の魔力を持たないと感知しづらい点のみが特別なだけだからね。新しい力の発見にしては、ずば抜けて特異なわけでも無し、もともと気づきにくいのも相まって、注意を向けられなかったのも無理はない。それゆえに対策案も現状を強化する程度しか出来ないのはもどかしいが…」

 

 考え込むようにサーゼクスは軽く頭を掻く。ずば抜けて特別な要素があれば、それをとことん調べ上げて対策を練ることも考えられそうなのに、現時点では感知結界を強化するなどの通り一辺倒な対策しか用意できそうにないのが、厄介であった。

 

「いずれにせよ、アジュカやマグレガー辺りと話す必要があるな。クリフォトにそういった連中がいるなら注意するに越したことは無い。大一くん、報告ありがとう。また何かあったら頼むよ」

「はい」

「ところで、先ほどから何か気がかりのようだが…察するところ、バアル家に関するところかな?」

 

 短く答える大一に、サーゼクスは穏やかな表情を変えずに問う。容赦なく、同時に的確な指摘を受けた大一は驚きつつ言いよどんだ。

 

「なぜそれを…」

「少し前にゼクラム・バアル様がグレモリー城に行ったと小耳にはさんでね。トウジさんのことを考えると、もしかしてと思ってね」

「ゼクラム様って、初代バアル様じゃないですか!リアスさんはバアル家の使いってしか話していなかったのに…いや知らされていなかっただけか」

 

 頭の中を素早く整理するために考えを口に出しながら、大一は渋い表情をする。ゼクラム・バアルは初代バアルにあたる人物で、聖書などにも名を連ねる伝説の人物であった。引退こそしているものの、その権力と人望は確固たるものであり、サーゼクスたち魔王を表の顔とするならば、ゼクラム・バアルは裏の顔と言って差し支えないだろう。

 それほど特別な人物がわざわざ来ているあたり、今回の件がいかに根深いものかを察するには充分であった。同時に大一自身、どこか気がかりに思うことは間違いでなかった証明でもあった。

 大一は落ち着くために息を軽く吐くと、サーゼクスを見る。

 

「サーゼクス様、八重垣正臣とクレーリア・ベリアルの件を知っているのではないでしょうか?」

「確信しているような言い方だね」

「トウジさんが話していました。教会の戦士である八重垣と、リアスさんの前に駒王町を担当していたクレーリアという悪魔が恋に落ちたことを。そして時代を踏まえれば、この2人が粛清されたことは想像に難くありません。どちらかが…あるいは両陣営からか」

 

 大一の問いにサーゼクスは穏やかながらも、神妙な雰囲気を醸し出していた。

 

「…大方、正解だね。併せて、いくつか話を付け加えよう。あの地は今でこそグレモリーの管轄だが、以前はバアルと共に管理していた。かなり盤石な管理体制であったから、貴族のご子息、ご令嬢に訓練の一環として貸し出された時期もあるんだ。そこにいたのがクレーリア・ベリアルだ。そして後は…まあ、キミの考えていた通りだよ。もっとも私がこれを知ったのも、ゼクラム様から聞いたことだが」

「リアスさんには隠していたのでしょうか。そうでもなければ、一誠がアーシアと通じた時、もっと動揺があってもおかしくないはずです」

「そうだ、リアスには隠していた。いやそれどころかグレモリー家に隠していたね。愛しい妹に気苦労と葛藤、すさまじいプレッシャー…もろもろ背負わせたくなかったんだよ」

 

 疲れたようにサーゼクスはため息をつく。なんとも憂いの籠った雰囲気に対して、大一はただ静かに見ており、炎駒は少し考え込むような表情で問う。

 

「私もその話は初めて聞きましたな。サーゼクス様はこの件もあったから、姫が高校に入るまでの間、私をサポートにつけたのですかな?」

「否定はしないよ、炎駒。リアスが慣れていて、私も信頼を置ける相手とすればキミが適任だったからね」

 

 グレモリーとバアルの両方の血筋であり、将来が有望な若手としてリアスに駒王町を任せるのは、この不祥事を払拭させる狙いがあったことはサーゼクスもすぐに理解した。この不祥事は全面的に秘匿され一部の者しか知らないとはいえ、この地を紹介したゼクラム・バアルとしても思うところがあったのだろう。この件を身内に明かさずに炎駒に頼んだのは、このしがらみに彼女を巻き込まないように、サーゼクスは苦心して考えた結論であった。

 彼は後悔をしておらず、同時に非難を受けるのも覚悟していた。経緯はどうあれ、この不祥事の隠ぺいに関わっていたのだから、当然の結果であると。

 サーゼクスは目の前にいる巻き込んだ2人の眷属を見るが、炎駒は視線に気づくと、小さく首を振る。

 

「私は恨みなど微塵もありません。主が求めたことを遂行し、姫を助けるだけです」

「そう言ってくれると助かるよ」

 

 礼を言うサーゼクスは大一の方にも視線を向けるが、あまりにも無表情であった。その様子にサーゼクスは少々驚くが、間もなく大一は静かに話し始める。

 

「私もサーゼクス様を責める気持ちなど微塵もありません。もっと言えばゼクラム・バアル様も同様です。当時の情勢を思えば当然でしょう。ただ…」

「ただ?」

「…いえ、なんでもありません。私の考えすぎなだけです」

 

 師と同様に、大一は首を横に振るが、この言葉を表面通りに捕らえようと思うことなどサーゼクスはできなかった。一瞬だけ、彼の中に猛烈な切なさを見たような気がしたが、同時に彼の頑固さも知っていたため、追求しようとは思わなかった。

 ちらりと時計を見ると、気づくと予定の時間まで近づいていた。彼は立ち上がると、大一に声をかける。

 

「この件はまたしっかり話そう。まずは目の前のことだ。大一くん、ついて来てくれ」

 

────────────────────────────────────────────

 

 12月の海辺近くとなると、人気は当然見られず、かなり静かであった。冷たい海風が吹きすさぶ中、2人の青年が会話していた。

 

「仕留め損なっても気にすることはない。いくらでもチャンスはあるからな」

 

 黒髪と白髪が入り混じったような青年の言葉に、八重垣は渋い表情をする。今まで復讐が順調に進んでいた分、トウジをすぐに仕留められなかったのは気分が悪かった。

 

「次は成功させる。相応しい場所で僕は必ず復讐を果たす」

「ありがたいかぎりだな。ユーグリットがいなくなったが、あんたほどの強い目的を持つ奴がいると安心するよ」

 

 八重垣の強い決意を目の当たりにして、青年は小さく笑う。ユーグリットは気に食わなかったが、彼が抜けた穴を埋めるにしても、八重垣と八岐大蛇の力を持つ剣のコンビは非常に心強かった。またクレーリア・ベリアルの件があったからこそ、ディハウザー・ベリアルを裏切り者として引き入れることが出来たため、戦略的にも大きい。もっとも彼が八重垣を好んでいたのは、ユーグリットと比べると、神経を逆なでさせられることがなかったからだが。

 

「あのバカは身内に執着しすぎたから、ああなったんだ。想いを馳せるなら、あんたくらい恨みに昇華するべきだったのに」

「褒めているのか、それは?」

「その想いの強さには、少なくとも畏敬の念は抱いているよ」

「…まったくキミもよくわからないな。いやキミ達か」

 

 八重垣は彼が率いるクリフォト内での独立チームを思いだす。彼を筆頭に、巨大な岩男、属性を強化した精霊、その弟と呼ばれる魔物、まるで生きている気がしない鎧武者など多様性においては、『D×D』にも劣らない印象であった。特に彼が驚いたのは蘇ってから出会った天使であった。生きている時ですら会えなかった伝説の天使が、クリフォトの軍門に下っている事実は凄まじい衝撃であった。

 青年は腕を広げてアピールするように答える。

 

「よくわからない程度でいいんだよ。俺らはそんな大層な人物じゃないんだ」

「そうは言うが…キミは悪魔と人間のハーフなんだろ?かなり人間の血が濃いらしいが」

「…誰から聞いた?」

 

 眉をピクリと動かした青年は、わずかに警戒するような声色で八重垣に問う。

 

「リゼヴィムから。触れられたくないことだったか?」

「…まあ、否定はしない」

「それでも僕にとっては羨ましいとすら思う。だってそうだろ?悪魔と人間が愛し合った結果がキミなんだ。僕だってクレーリアと…種族や立場が違くても愛し合えたのに…!」

「まあ、どう思うかは勝手だ。俺の身内は全員ろくでもないがな」

 

 青年の瞳に、八重垣は肩を震わせる。その瞳には言葉に出来ないような暗い炎が宿っているように見え、深淵を覗き込むような負の感情に直面したと錯覚するほどであった。

 だが恨みの度合いでは、八重垣自身も相当なものであったため、彼の苦しみを追求しようとは思わなかった。

 

「…そろそろ行かなくては。また報告する」

 

 それだけ言い残すと、八重垣は転移魔法陣を展開させてその場から去る。

 残った青年は大きくため息をつくと、自分が見せた隙に猛烈な後悔を抱くのであった。

 




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