D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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倒してハイ終わり、というにはちょっともったいない気がするのです。


第166話 敵との間

 大一がサーゼクスと魔法陣で共にたどり着いた建物は、先ほどの場所にも劣らないほど人気が感じられなかった。部屋も廊下も綺麗であったが最低限のものしか見られず、建物にいる人物たちからは並々ならぬ魔力と無骨さが感じられた。おかげで全体的に清楚というよりも堅牢的な印象を与える。

 先を行く主の後ろ姿を大一は静かについていく。彼の眷属になった時も、詳細を知らされないで連れてこられた経緯があるため、自然と緊張が高まっていた。

 階段を降りていき、やがてひとつの部屋にたどりつく。部屋には大量の紋様が刻まれており、より異質な雰囲気を放っていた。その部屋でグレイフィアが何人かの悪魔と話しているのが見える。

 

「お待たせ、グレイフィア」

「サーゼクス様、お待ちしておりました」

 

 サーゼクスを確認するなり、グレイフィアを含めその場にいた者は頭を下げる。彼女の言葉遣いを踏まえれば、公的な場であることは理解できるが、わざわざ会わせたい相手として主がもったいぶる相手ではないと思える。

 そんな大一の気持ちを察したのか、サーゼクスは静かに彼の肩に手を置く。

 

「会わせたい相手は、グレイフィアの口から聞くのが良いだろう」

「どういうことです?」

「あなたに会わせたい人物は彼ですから」

 

 グレイフィアが指を鳴らすと、半透明の人物の姿が現れた。椅子に疲れた様子で座っており、手首と足首には錠のようなものがつけられている。最後に見た時とはまるで違う服装をしていたが、その顔は少し前に激闘を繰り広げたユーグリットであった。

 訝し気に大一は目を細めると軽く息を吐いて、サーゼクスとグレイフィアを見る。

 

「自分が彼を倒したから会わせたいと?」

「いえ、弟の方からあなたに会いたいと話してきたのです」

「ユーグリットから?尚のこと、分かりませんね」

「私も同意します。これまで尋問は私が行ってきました。それに対して、彼は…適切な言葉が思いつかないのでハッキリ言いますが、喜んでいる節すらあったのです。しかしこの前、いきなりあなたに会いたいと話してきて」

 

 グレイフィアの語気から戸惑いが察せられる。ユーグリットの姉への想いを彼女自身も理解している節はあった。だからこそ身内としてケジメをつけようとしていたが、その最中に大一の話が出たのだから不思議で仕方がなかった。

 そこに付け加えるようにサーゼクスが話す。

 

「もちろん、我々が彼の意見を飲む必要性は無い。しかし現状でクリフォトの最大の手がかりである彼から、情報を得られる可能性があるならそれにすがりたいんだ」

「…わかりました」

 

 大一の答えを聞いたサーゼクスは他の悪魔に合図する。彼らが魔法陣を少しいじると、先の扉が軽く光りだしすぐに収まった。この部屋では時空間が操られているようで、この扉からユーグリットのいる部屋へと向かえるようであった。

 

「魔力は封じているし、憔悴しきっている。我々もここで監視は続けているから、何かあったときはすぐに駆けつける。それと彼の質問に正直に答える必要はないからね」

「…無理はするなということでしょう?」

「察しがよくて助かるよ」

 

 大一はゆっくりと歩を進めてドアノブへと手を伸ばす。胃の中が逆流するような気分の悪い緊張感が駆け巡っていた。

 

────────────────────────────────────────────

 

 その部屋は建物同様に無骨な雰囲気であった。テーブルと椅子、壁掛けの時計程度しか見られない。少々使い古された印象が、そこにいる人物のくたびれた雰囲気をより強めていた。

 大一が入ってきたことに気づいたユーグリットは顔を上げる。目立っていた銀髪は以前と比べると無造作な状態で、整っていた顔立ちも疲れに満ちていた。

 彼は光の伴っていない瞳を大一に向ける。

 

「…姉上たちは私のささやかな願いを聞いてくれたわけだ。嬉しいね」

「あの人たちの考えと、お前の要求が偶然同じだっただけだ」

「どっちでもいいさ。私はまたキミに会えたんだから。久しぶりだな、兵藤大一。あまり変わっていないな」

「お前は1か月も経たないうちに、だいぶ雰囲気は変わったみたいだな」

 

 ユーグリットは口元に歪んだような笑みを浮かべる。前にも見た醜悪な雰囲気であったが、その真意はなにも読み取れなかった。

 大一は対面に座り、ユーグリットに向かい合う。

 

「どうして俺に会おうと?」

「お礼を言いたかっただけですよ。あなたが私を倒してくれたおかげで、こうやって姉上に会うことが出来たのだから」

 

 ユーグリットの皮肉めいた言い方に、大一の感情は荒野のように枯れ果てていた。勝つことで姉であるグレイフィアに会わせ、それが敵である彼の人生を再びやり直すきっかけになると信じていた大一にとっては、いまだに姉への執着があるユーグリットの姿を目の当たりにすると、悲哀を感じてしまうのであった。

 

「…それを言うためだけに俺を呼んだのか?」

「そうですよ。いかにあなたの行いが意味の無いものか教えたかったのです。所詮、私を救うなどあなたごときには不可能だったのですよ」

 

 ユーグリットは椅子に座り直すと、見せつけるように軽く腕を広げる。自分の生き様と思いを今さら変えられない、どれだけ大一が粉骨砕身したところでそれは無意味であったことを証明したかった。

 

「義兄上や赤龍帝なら、負けても納得できたかもしれませんがね」

「…俺は積み上げてきたものを全て打ち砕き、また1から組み上げるきっかけがあれば、それが結果的に悲しみを減らせることになると思っただけだ」

 

 呆れ、嘲り、不本意…負の感情が湧いてくるのがユーグリットは実感した。そもそも敵である自分に対して、彼がそこまで気にかける道理など無いはずなのだ。

 

「どうして私にまでそこまでやるのか…」

「グレイフィアさんに頼まれたから…だけじゃないな。俺自身がこのままじゃダメだと思った。目の前の相手を助けられないのに、冥界を変えることなんて尚のこと出来ない」

 

 それだけ答えると、大一は静かに立ち上がり、扉へと向かっていく。その後ろ姿は虚しい影を感じられ、ユーグリットにはひとりの男を想起させた。

 

「クリフォトについて聞かないので?」

「俺は尋問に来たわけじゃないからな」

「…あなたに似た男を思いだしますよ。英雄派にクーフーリンの末裔として潜入していた悪魔と人間のハーフでね」

「ッ!?潜入ってどういうことだ?」

「聖槍を奪うとか、神器の研究とか、理由は様々ですよ。奇妙な男でね。私と共にトライヘキサや異世界の情報を調査もしていました。素性はあまりよく知りませんが…同じようなはみ出し者たちを束ねてクリフォト内でも独特のチームを組んでいます。本名は…サザージュとかそんなだったかな」

「…ありがとう。有力な情報だった」

「あなたに礼を言われる筋合いはありませんけどね」

 

 このやり取りを最後に大一は部屋から出ていく。ユーグリットはグッと姿勢を後ろにそらして背もたれに寄りかかり、天井へと視線を向ける。彼自身、どうしてこんなことを口走ったのか分からなかった。ただ大一の姿がどこか例の男と被ってしまった。決定的に違ったのはその男が率いるメンバー含めて憎悪に燃えているのに対して、大一は自分を救うと言い切ったことだろう。

 

「まあ、話せてよかったか…」

 

 ユーグリットは少し光が戻った瞳で堅牢な天井を見ながら静かに呟き、再び牢に戻されるのを待つのであった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 その日の深夜、みんなが寝静まった時間帯にも大一は静かにリビングのソファに座っていた。頭の中では様々な思考が飛び交い、眠る行為を妨げていた。そんな彼に対して、シャドウの甲高い声が響く。

 

『眠らないと健康に悪いぜ?』

(お前は大丈夫なのか?)

『だって僕、神器だから別に寝なくても平気だし』

(こいつが眠らないことなんざ、今に始まったことじゃねえだろ。ったく、気になることがあるとすぐにこれだ)

 

 バッサリと切り捨てるようにディオーグも会話に入ってくる。彼の言葉は何も間違っていなかった。ユーグリットとの会話からサーゼクスとグレイフィアに得た情報を説明、その後に自宅でリアス達と合流すると、彼女たちからグレモリー家で初代バアルと会ったことについて話を聞いた。内容自体はサーゼクスから聞いた駒王町の事件であったため、目新しさは無かったが。

 

『キミが悩むことじゃないと思うけどねえ。あの時の魔王相手に言わなかったことも、結局何だったの?』

(別に…サーゼクス様も初代バアル様にも怒りとか恨みは無いよ。ただ、八重垣について気の毒だと思ったんだ)

 

 大一が感じたことは純粋すぎる悲哀と同情であった。当時の一誠とアーシアの出会い、教会の戦士であったゼノヴィアとイリナとの共闘、駒王町が3大勢力が手を取り合う平和の地となったこと、今であれば八重垣とクレーリアは共に生きられたと思うと虚しさを抱いたのだ。

 改めて大きな犠牲の上に立っていることを実感した彼は、炎駒と共にサーゼクスから話を聞いた際に、その率直な思いを口にすることが出来なかったのだ。

 

(ユーグリットのことも救えていなかった。結局、俺の傲慢だったのかなと思ってしまうんだよ。…一誠なら上手くできていたのかな)

『そうは思わないな。だいたい僕だって───』

 

 なにか言いかけたところでシャドウは言葉を切る。間もなく、リビングに大あくびをしながら黒歌が入ってきた。

 大一に気づいた彼女は目を丸くする。

 

「おやおや?こんな深夜にまだ起きているの?」

「それはお互い様だろうよ」

「あたしはそもそもさっき帰ってきたばかりよ。ヴァ―リに呼ばれてね。ルフェイはさっさと寝ちゃったけど、私はなんか飲んでからにしようと思って。あっ、そうだ!せっかくだからココア淹れてよ」

「自分でやってくれ。今の俺はそんな気すら起きない」

「うっわ、酷い奴~。泣きたくなっちゃうにゃん」

 

 おちょくるような言い方をする黒歌に、大一は眉をひそめる。考えている時ほど、彼女のノリはついていけない感覚であった。

 

「にゃははは!そんな顔しているなんて珍しくも…ないか。よし、お姉さんが話を聞いてあげよう」

「お前に話しても解決するとは思えないけどな」

「まあまあ、悩んだときは吐き出すことはひとつの手段だと思うけどね♪ほれほれ、言ってみな?」

 

 大一の隣に座ると黒歌はニンマリと笑顔を見せる。これは話すまで終わらないと思った彼は、今日の出来事を1から10まで説明していく。八重垣の襲撃、ユーグリットとの会話、駒王町で起きた事件、それらを通して彼が抱いた哀しみも不安も含めて全てであった。その話を黒歌は茶々を入れずに、不思議そうな表情で聞いていた。

 

「俺は…不安なんだ。冥界を変えたいという想いはあるが、今回の件を目の当たりにしてそれがいかに難しいのかを実感した。俺には一誠ほどの特別な力も無いし、自分がこれからやれるかが…」

「あんた、意味無いことで悩んでいるのね。正直、聞いて損したにゃ」

 

 つまらなさそうに首を振った黒歌は立ち上がると、冷蔵庫へと向かっていった。意を決して説明したにもかかわらず軽く流されたことに大一は渋い表情をする。

 

「意味無いって、これでも俺は真剣だぞ」

「だって本当のことでしょ?とっくに出来ていることを悩んでいるなんてバカらしいじゃない?それとも、私とかシャドウとかと和解していないと思っていた?」

 

 黒歌の指摘に、大一は目から鱗が落ちるような感覚であった。彼女の話す通り、大一はすでに何度か敵であった相手との和解を果たしている。特にシャドウに関しては、確執が大きいにもかかわらず神器自身が抱く絶望を大きく払拭し、今後この存在が他の人々を襲うかもしれない可能性を消していた。

 気負って必死になり過ぎていたのか、それとも目の前の苦しみを目の当たりにしすぎていたのか、彼は自分のやってきたことを蔑ろにしていた。

 

「わりと京都で庇ってくれたことや、前にここで話を聞いてもらえたこと嬉しかったんだけどな~」

「それは…すまなかった」

「ま、信用されないことには慣れているけどね。私だってそこまで隙を見せているわけでもないし」

「黒歌…お前は…」

「おっと、同情はけっこうにゃ。そういうのは野良猫には似合わないの。白音にでもあげなさいよ」

 

 ひらひらと手を振って黒歌は冷蔵庫を漁り始める。掴みどころのない態度は彼女の本音と建て前を錯覚させている。京都でも抱いた余計なお節介が入り込んだような気持ちになった大一は立ち上がると、彼女に言葉をかける。

 

「ココアでいいなら淹れるぞ」

「おや?それは願ったり叶ったりだけど、もう立ち直ったの?」

「思った以上にお前の言葉に救われたからな。お礼も兼ねてだ」

「ラッキー♪つまらない話も聞く価値ありにゃ」

「その言葉が無ければ、もうちょっと素直な感謝ができたんだがな…」

 

 そう言いながら、大一はお湯を沸かして準備を始める。手つきから軽快さが感じられ、彼の感情が少し明るくなっていたことが捉えられる。

 そんな彼の様子を見ながら、黒歌は覗き込むように問う。

 

「私ってけっこうお姉ちゃんしていると思わない?」

「どうだろうな。まあ、今回は助かったよ」

 




性格的にデコボコだからこそ、気づくこともあると思います。
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