D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

169 / 221
ヴァ―リチームとの絡みって多いような少ないような…。


第169話 憎々しい

 大一は視線の先にある巨大な岩の拳への感知を集中させつつ、黒く染まった右腕の拳を錨の先端のように変化させる。新たに得た「三位一体の魔生力」は、シャドウにも硬度と重さの変化を付与していたため、疑似的な肉体強化を可能とした。特に右腕は錨と直接的な融合を果たしていたため、左腕と謙遜の無いほどの強化が出来ており、同時に錨による魔力の同調も可能としていた。つまり…

 

『黒歌、頼む!』

「かなり練り込んだわ。任せたにゃ!」

 

 黒歌が両腕を合わせて放った仙術の塊が大一の右腕に命中する。同時に蛇のようにしなやかな、流れる川のように掴みどころの無いような奇妙な力が彼の右腕に纏い、駆け巡っていく。

 

『こ、これは…予想以上に厳しいな…!』

 

 苦心しながら大一は呟く。ダメージは感じないものの、この力がすぐにでも外部に出ようとしていくため、留めることに労力を要した。

 それでも仙術に通じる生命力をこれまで感知し続けてきた経験があったため、流れる仙術の力に同調を促し、そとへと漏れ出ないようにコントロールしていた。

 それでも長い時間保つことは難しいと悟った大一は敵の拳の高さまで飛び上がると、右腕を後方に一気に伸ばしていく。伸縮性と弾力を帯びた腕は絞るようにねじられており、撃ち出す一撃のセットアップは完璧であった

 構える大一に対してギガンは苛立ちと退屈が入り混じった声で、その様子を非難する。

 

「この圧倒的な体格差でやれると思っているのか?貴様では俺の硬さ、大きさには敵わないことは以前の時に思い知っているはずだ」

 

 ギガンの言葉に、大一の頭には地下室での敗北が思い返されていた。必死に喰いついたが、その実は圧倒的な実力差を思い知らされ、ライザーの援護がなければ間違いなく殺されていただろう。

 それでもあの時よりも強くなった。加えて今は黒歌の力も合わせて、勝ち筋が見いだせている。それゆえに強い緊張感と昂ぶりが心身に行きわたっていた。

 

『出来ないかどうかはすぐに証明してやる!』

「俺に勝てる自信があるとでもいうのか?」

『生きて仲間と共にいる。それで自信の理由としては十分だ!』

「ならば、お望みどおりに相手しよう。そして今度こそ殺してやる」

「正面ばかりに気を取られるのは甘すぎない。よそ見禁物よ、愚鈍な木偶の坊」

 

 巨大な岩石の腕となったギガンと地面の付け根に爆発が起こる。黒歌が仕掛けた攻撃であったが、焦げた跡が見られるだけでまるでダメージは見られなかった。

 それでも注意を引くには充分であったようで、ギガンは小さく舌打ちをすると拳の矛先が音を立てながら彼女へと向いた。

 

「…いいだろう。まずは猫又から潰す」

『させるかッ!』

 

 大一の右腕が敵に向かって回転しながら伸びていく。猛スピードで突き進んでいく拳は、巨大な岩肌の手の甲に命中するとドリルのように表面を削っていった。同時に右の拳に纏っていた仙術の力が敵の内部にも浸透していき、無機質な岩にも徐々にひびが入っていく。そして…

 

「ぬおっ!?」

 

 気怠そうな印象の強いギガンから、驚愕の声が響く。痛烈な一撃は轟音と共に岩石の拳を砕き割り、それに連鎖するように腕にもひびが入っていった。

 これを確認して間もなく、大一はすぐに高速で落下していくと、黒歌の横に立って両肩から黒影の腕を形成する。そして手の先から2重に疑似防御魔法陣を真上へと展開させた。破壊した岩が雨のように降り注ぎ、辺りに雪と砂埃を巻き上げていく中、魔法陣や岩が何度もぶつかる音が響いていった。

 ほんの十数秒のことであったが、その非情な瓦礫音と落下した地響きはその場にいた彼らに圧倒するような感覚を植え付けた。

 破砕が落ち着き、巨大な岩の腕が音を立てながら元の地面へと戻っていくのを見ながら、大一は魔法陣に圧し掛かる岩の破片を下ろした。軽く息を切らす彼は、黒歌に対して疑問をぶつけた。

 

『ハアハア…黒歌、どうしてギガンに攻撃した?』

「あいつの手の甲にわずかな綻びを感知したのよ。だから正面からの打ち合いよりは砕きやすいかなって。それで私に注意が向くようにしたの。あいつ自身もさっきのダメージが仙術によるものだと気づいたはずだから、私が攻撃して挑発すればこっちを優先するかなって」

 

 あっけらかんと答える黒歌に大一を非難するように目を細める。仙術の件を話した時に、彼女はまったくこのような提案を出さなかったのだ。

 

『お前がやられちゃ元も子もないだろ。一緒に勝つって言ったじゃないか』

「だからあんたが守ってくれたんでしょ。私がチーム以外でここまで信頼すること珍しいんだから」

 

 いたずらっぽく笑う黒歌の態度には呆れすら覚える。わざわざ自分を危機にさらすような真似は褒められたものではない。ましてや間に合わなければ…もちろんそこでへまをするような彼女でないのは百も承知であったが、この状況まで気ままで小猫にも見せた不器用な態度を取られるのは心労が付きまとう。同時に彼女からの信頼を実感して、心中ひそかな喜びを抱くのであった。

 軽く嘆息した大一は正面へと視線を向ける。土煙と雪が収まると、荒い息を漏らしながらギガンが這い出すように地面から現れた。

 

『…あれでまだ生きているか』

「でも相当な致命傷にゃ」

 

 たしかに今のギガンの姿は黒歌の言葉通りであった。息は荒く、右腕は肩から下が完全に砕き割れていた。その付け根からは大量に流血しており、口や頭からも血が流れていた。異常なまでに屈強な肉体は、大一の硬度と黒歌の仙術で想像できないほどのダメージを負っていた。

 

「…久しぶりの感覚だ。まずはこの腕を戻すか」

 

 ギガンは無くなった右腕を見ると、歯を食いしばって力を入れ始める。するとバキバキと音を鳴らしながら体から岩が生えだしていき、それが砕かれた右腕とまるで謙遜の無い姿で形成された。

 先ほどまで乱れていた魔力や生命力も落ち着いており、五体満足でその場に立つ姿に、大一も黒歌もぎょっとした表情で内心を吐露する。

 

『…あの状態から戻るってどういうことだよ』

「いよいよ化け物ね。厄介の度合いを超えているわ」

『つまり俺らと同類ってことだろ、小僧、影野郎』

『ま、まあ、違いないかもしれないが…』

 

 ディオーグやシャドウも会話に混ざるが、その緊張感は緩和されない。ギガンから感じられる魔力が弱まるどころか、ずば抜けたプレッシャーとして襲い掛かってくるのだ。

 その空気間に割り込むように、その中央に鋭い閃光が落ちてきた。間もなくその閃光はわかれて、近くに降り立った片方に黒歌は声をかける。

 

「ヴァ―リ、けっこう消耗したわね」

「正直、厄介なことこの上ない。相手の能力のトリックが分かっても、奴はそれを踏まえたうえで立ち回っているからな。しかし兵藤一誠も追い詰めた相手と聞く。ならば、俺がここでやりあうのもある種の運命みたいなものだろ?」

「さっすがウチのリーダーにゃん♪」

 

 鎧はところどころ欠けており、それなりのダメージは窺えたヴァ―リだが、相変わらず力強くエネルギッシュな精神力を見せていた。

一方でギガンの横へと降り立ったブルードは天使の翼を展開させた状態で、口元の流血を拭い、ヴァ―リと同じようにまだ戦える意思を目に宿していた。

 

「さすがと言うべきかな。白龍皇で彼と同じ魔王の血筋…まるで違う進化を遂げる赤龍帝も強かったが、彼もまた真っ当な実力者だ。その周りを固めるメンバーも同様。ギガンや私の秘蔵の魔物を相手にここまで持ちこたえられるのも、滅多にない経験だ」

「滅多にない経験というのは同意する」

「…大丈夫かね?かなり傷を負ったようだが」

「大丈夫ではないな。本当に久しぶりの感覚だ。これほどの傷はもちろんだが、それ以上にこの燃えるような感覚。長年あの地で生きていて、すっかり忘れていた感情…本気の怒りだ」

 

 ギガンの声に気怠そうな雰囲気は消えており、強力な怒りが感じられた。その威圧感を与える巨体に見合うような、重く圧し掛かるような感覚に、大一と黒歌は再び構える。ダメージは確かなものであったが、戦う意欲が立ち振る舞いに現れている。

 ブルードは軽く顎を掻きながら、ギガンに問う。

 

「手伝おうか?」

「どちらでも構わん。しかしあの龍交じりの悪魔と猫又は俺が止めを刺す。お前は白龍皇をやればいい」

「私はそこまで執着しないさ。もっと注意を向ける相手がいるからね…なんだ?」

 

 余裕な態度を見せていたブルードが警戒と欺瞞に満ちたつぶやきを漏らす。同時に大一たちの後方で苦しみの咆哮が鼓膜を震わせる。思わず耳を抑えるほどの音で、それが魔物たちの声であると認識するのに時間はかからなかった。何者かの攻撃があの魔物たちを一蹴したのだ。

 さらに今度は猛スピードでブルードとギガン目掛けて一本の槍が飛んでくる。素早く反応した2人は後退してこの一撃を回避するが、突き刺さった槍を苦々しく眺めていた。

 

「光とは違う、このずば抜けた感覚。神クラスの力に、この槍とは…意外な男が援軍に来たものだな」

 

 彼らの視線は槍からその先、大一たちの横に降り立ったひとりの老人に向けられた。独特のローブに隻眼、小柄な見た目に反して感じられる圧倒的な力を持つその存在に、大一は思わず声を上げた。

 

『オーディン様!?』

「久しぶりじゃのう、赤龍帝の兄よ。あの後、でっかい胸のバラキエルの娘とは上手くいっているかのう?」

『それは関係ないでしょうよ!どうしてここに?』

「いやなに、アザゼルから救援を受けてのう。ウチの部隊を引き連れて来たんじゃ」

 

 軽くあくびをしながらオーディンは答える。すぐ後ろでは邪龍たちが北欧の戦士やヴァルキリーたちに切り裂かれていき、戦況はあっという間に押し返していた。

 その様子にブルードは眉をピクリと動かすと、オーディンを睨みつける。

 

「これはこれは北欧神話の主神オーディン。まさか貴様ほどの大物が出張ってくるとは…度肝を抜かしたよ」

「いやなに、テロリストを無視するほど終わっていないのでな。それに白龍皇はわしの養子じゃ。子を助ける親はおかしくないじゃろう」

「ほう、魔王の息子が…いよいよ世界も腐敗極まるということだな」

 

 ブルードの表情からは余裕の表情は引っ込んでおり、醜悪に歪んでいた。隣に立つギガンにも劣らないほどの怒りと憎しみが表情に表れて、針のように鋭い眼光はオーディンを見据えている。

 これに対してオーディンは急に訝しそうに呟いた。

 

「…お前さん、見たことあるのう。かつての大戦中に天界でミカエルと共に立っていた…名前はハニエルとかじゃったか?」

「とっくの昔に捨てた名前だ。今はブルードと名乗っている」

「堕ちたものじゃのう。上位の天使とあろうものが、テロリストとは」

「元テロリストの悪魔を養子に迎え入れるお前も同じ穴の狢だと思うがな」

 

 ブルードが巨大な光の槍を形成すると、オーディンを狙ってそれを力強く投げつける。上級天使クラスのその威力はアザゼルを想起させる勢いがあった。

 オーディンは防御魔法陣を展開させようとするが、その前にヴァ―リが神器の効果を発動して光の規模を縮小させると、魔力の塊を撃ち出して攻撃を相殺させた。

 

「お前の相手は俺だろう?」

「白龍皇、余計な邪魔を…!ここでお前らを消しておきたいところだよ。しかし…」

 

 邪龍の多くはルフェイとゴグマゴグを筆頭に、援軍たちもあわせてほとんど処理されかけており、彼の切り札の魔物もオーディンによって討たれた。この圧倒的に不利な状況で無駄に勝負を長引かせるのが得策でないことを理解できるほど、彼も熱い頭に支配されてはいなかった。

 

「旗色が悪いのも事実。ここは引き下がりたいところだね」

「それを俺たちが許すと思うのか?」

「許される筋合いもないけどな。援軍はお前らだけの特権じゃないということだ」

 

 どこからともなく別の声が聞こえるのと同時に、周囲に転移魔法陣が展開されると、複数の量産型邪龍が飛び出してヴァ―リ達に襲い掛かってくる。いきなりの奇襲にヴァ―リ、オーディン、黒歌は攻撃を防いでいく中、大一のみまるで敵の奇襲に気づいていたかのようにその合間を縫ってブルード達に接近する。精製した2本の錨を叩きこもうとするが、それを何者かによって防がれた。それどころか錨が防がれた瞬間、攻撃した方向とは逆の方向に吹き飛ばされそうになって大きく体勢を崩しかける。そこに追撃するように腹部に蹴りを受けた大一は吹き飛ばされた。

 空中で体勢を立て直した大一は、自身を飛ばした相手へと視線を向ける。もっともそれが何者かは目を向けなくてもすぐにわかったのだが。

 その相手はブルードとギガンに向かって呼びかける。

 

「天界での襲撃は終わった。俺たちも撤退するぞ」

「承知した」

 

 彼の言葉にブルードは手早く魔法陣を展開させ、ギガンは片腕を地面へと突き刺す。

 

『待て、サザージュ!』

「ッ!」

 

 大一の呼びかけに、かつて何度もクーフーとして戦った男は衝撃的な表情を見せていた。自分の本名が呼ばれたことについて、あまりにも信じられない上にそれ自体が彼自身に心的なプレッシャーを与えていた。

 間もなく地面が彼らを覆うように隆起すると、そのまま魔法陣によって敵の姿は消えていった。

 




18巻分もだいぶ終盤に近づいてきました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。