その日の昼休み、大一としては用事があるためさっさと食事を済ませて部室に向かいたかった。この学園でもう一人の上級悪魔である生徒会長の支取蒼那…本名ソーナ・シトリーが新たな下僕を紹介することになっていたからだ。大一はまだ会っていないものの、何度か謝罪で入り浸っているおかげで、4つ分の「兵士」でさらに龍の力を持つ神器を扱うことは聞いていた。日頃からお世話になっている相手の手前、顔合わせはしておきたかったが、なぜか彼は現在屋上にいた。昼休みに入って間もなく同じクラスの男たちに連れてこられたのだ。振り切ろうにも6人もいるとそれが出来ず、結局遅れるかもしれないということをリアスに伝えて、彼らについていくことを選択した。しかし…
(…重い!)
すでに屋上についてから3分近く経っていた。しかし連れてきた彼らは何も言わず、それだけなのに屋上という空間の空気が異常に重く感じた。
(連れてきてこの長い時間、だんまりは無いだろうよ!これはこっちから話を振ってもいい感じか?いやでもこの異様な空気で話を振っていいものなのか!?)
「なあ、大一よ。俺たちはどうしても真実が知りたいんだ」
「お、おう…なんだか分からないが、俺で答えられることならば」
「お前、リアスさんと一緒に住んでいるんだってな…!」
(…またそのことかよ!)
この一言だけで大一は頭の中が悪い意味ではっきりしていくのが実感できた。ここ数日でこの話を何度聞いたことだろうか。兵藤家にリアスが同居しているのは、当然すぐに広まった。
併せて、大一としてはこの手の話題で同学年が一誠達の変態3人組と同じレベルで厄介であった。駒王学園は元女子高というのもあるのだが、他校にまでその名を大きく知らしめるきっかけになったのは、リアスや朱乃、ソーナといった現三年生だ。そのせいか同学年の男性は彼女らに対して憧れよりも恋愛とあわよくば…といった感情がより強い印象を受けた。もちろん、みんながみんなというわけでは無いが、少なくとも大一を呼び出した彼らはその類であった。
つまり、彼らが大一に聞きたいことは、一誠とリアスの関係についてなのは疑いようも無かった。
「ああ…それな。まあ、事実だよ」
「くそっ噂はやはり本当だったのか!野獣である貴様の弟がグレモリーさんや姫島さんを篭絡したり、転校してきたアーシアちゃんや一年の新生アイドル小猫ちゃんが毒牙にかかっているというのは本当だったのか!」
「いや、そこまでは言っていない」
「グレモリーさんや姫島さんが弱みを握られてあんなことやこんなことを毎日のように酒池肉林の状態…!その性欲には同じ部活の後輩たちまでも…!」
「おいちょっと待て!そんな話初めて聞いたぞ!」
涙と怒り、悔しさにまみれて混沌の表情になる同級生たちに大一はストップをかける。あまりにも身に覚えがなく、想像の斜め上を行く変態的な話にさすがの大一も唖然とした。
だがそんな彼の反応は気にせずに、男たちは必至な形相で抗議する。
「だって一緒に住んでいるんだろうが!そんなお前が間違いないと言うんだから…」
「言ってない!言ってない!ただ住んでいるだけ!だいたい同居はリアスさんやアーシアだけで、朱乃さんや小猫は関係ないよ!そんなことあったら、俺が意地でも止めているわ!どこからの情報だよ、それ?」
「最近、まことしやかに学校内に通じている噂だぞ。情報筋は確からしいが、俺らは出所は知らん!」
「じゃあ、確定じゃないだろ!」
この噂の出どころは一誠の親友である松田と元浜であった。動機はシンプルに嫉妬であったが、同じ学年というのが信憑性を上げていつの間にか学園中に噂として広まった。
「というか、そこまでの噂あって俺に疑いは無かったのかよ」
「まったく影も形も無かったな。まあ、お前のことだから俺らも無いなと思っているし」
「初めてだよ。疑われた方が腑に落ちたであろう気持ちになったのは」
さすがに彼らも大一を巻き込むのは躊躇したのか、それとも一誠にだけ狙いを絞っていたからなのかは不明だが、彼の名前がこの噂で出ることはなかった。
結局、大一はこの誤解を解くために昼休みの時間を使った。後日、彼が部室と生徒会室で土下座をしたことを同級生たちは知る由も無い。
「あっ、ちなみに木場祐斗とのBLネタも噂にあるらしいが、それはどうなの?」
「ねえよ!」
────────────────────────────────────────────
この数日後に、球技大会が開催された。たかだが学園の催しものなのだが、盛り上がりは相当なものであった。クラス対抗競技、男女別の競技とどれも熱狂であったが、中でもずば抜けて人気を誇っていたのは…
「いくわよ、ソーナ!」
「ええっ、よくってよ、リアス!」
リアスが打ちこむボールを、ソーナが華麗に返し、そのボールをまた彼女が見事に返す。学校の人気者である2人によりテニスは激戦であった。その実力はプロ顔負け、というよりも明らかに人間が打てるとは思えない攻防であったが、本人も外野も盛り上がるばかりだ。
信じられない軌道で動くボールを視界に、大一はぼやき、朱乃は穏やかな笑顔で見守る。
「冷静に見ていると、これを一年の時からやっているって考えてみたら正気じゃないな」
「あらあら、仲睦まじいじゃありませんの」
「悪魔もこれで勝負がつけられたら、平和なんだけどな」
結局、この戦いは両者のラケットが折れることで引き分けとなった。
そしてリアスが特に気合を入れていた部活対抗戦。その内容はドッジボールであった。空いた時間で一誠が作った「オカルト研究部」の刺繍入りハチマキを締めて全員が参加する。この戦いはある意味、先ほどのテニス対決以上の熱狂であった。その理由はあまりにも単純であった。
「狙え!兵藤を狙うんだ!」
「イッセーを殺せぇぇぇ!」
「うおおおおっ!てめぇら、ふざけんなぁぁぁ!」
執念を感じる豪速球が一誠のみを狙う。このドッジボールにおいて、リアス、朱乃、アーシア、小猫と女性陣は学園のアイドルたちのために当てるのをはばかられ、祐斗の方も下手に当てれば学園中の女性からひんしゅくを買うため当てられない。そうなるとここで狙われるのは変態で名高いのに加え、例の噂で各方面からとんでもない敵意を向けられている一誠であった。
「イッセーにボールが集中しているわ!戦術的には『犠牲』ってことかしらね!イッセー、これはチャンスよ!」
「部長ぉぉぉ!がんばりますぅぅぅ!クソ!遊びでやってんじゃないんだよ!」
(どこかで聞いたことあるセリフだな…。それにしてもよく避けるな、あいつ)
一誠が必死でボールから逃げているのを大一はあくび混じりに外野で見守る。初めから外野にいた彼はそもそも狙われることはなかったのだが、同時にあまりにもボールが回ってこないため退屈そうに外野に立っていた。一誠が避けて、小猫がキャッチして相手に当てる、その繰り返しで外野には全く回ってこない。
だがここで試合に変化が起きる。ひとりの野球部が祐斗に狙いをつけた。
「クソォ!恨まれてもいい!イケメンめぇぇぇ!」
「何ボーッとしてやがるんだ!」
「…あ、イッセーくん?」
ぼんやりとしていた祐斗に、一誠が駆け寄る。かばおうとするも、そのボールの軌道はずれて、彼の下腹部へと…。
「ッ!」
「あーあ…」
一誠の股にボールが直撃した。その速度、威力から見て致命傷なのは間違いなかった。一誠は小猫とアーシアに連れられて、体育館裏へと連れていかれた。
「イッセーの弔い合戦よ!」
(高校最後の球技大会だよな、これ…)
そこからはオカルト研究部の圧倒的実力で相手を打ち倒した。
────────────────────────────────────────────
外で雨音が聞こえる。予報どおり夕方からの雨であったが、幸い球技大会は終わっていた。そして部室内で雨音とは別の乾いた音が響く。祐斗がリアスに頬を叩かれたのだ。球技大会中も彼は心ここにあらずの状態であった。
叩かれても祐斗の表情には生気が無く、淡々としていた。
「もういいですか?球技大会も終わりました。球技の練習もしなくていいでしょうし、夜の時間まで休ませてもらってもいいですよね?少し疲れましたので普段の部活は休ませてください。昼間は申し訳ございませんでした。どうにも調子が悪かったみたいです」
「木場、お前マジで最近変だぞ?」
「キミには関係ないよ」
祐斗は笑顔を見せるも、あまりにも冷たい印象を受ける。いつもの彼の笑顔とはかけ離れたものであった。
「俺はお前の事が心配で…」
「心配?誰が誰をだい?基本、利己的なのが悪魔の生き方だと思うけど?まあ、主に従わなかった僕が今回は悪かったと思っているよ」
「チーム一丸でまとまっていこうとしていた矢先でこんな調子じゃ困る。この間の一戦でどんだけ痛い目に遭ったか、俺ら感じ取った事だろう?お互い足りない部分を補うようにしなきゃこれからダメなんじゃねぇかな?仲間なんだからさ」
一誠の説得にも祐斗の表情は変わらない。ただ暗く、陰りがある。にもかかわらず、ギラギラとした鋭い雰囲気も感じられた。
「仲間、か…」
「そう、仲間だ」
「君は熱いね、…イッセーくん。僕はね、ここのところ、基本的な事を思い出していたんだよ」
「基本的な事?」
「ああ、そうさ。僕が何のために戦っているかを」
「リアス部長のため、じゃ無さそうなのは顔を見て分かった。じゃあ何のために?」
「僕は復讐のために生きている。『聖剣エクスカリバー』、それを破壊するのが僕の戦う意味だ」
この言葉を聞いた大一は小さくため息をつく。心配していたことが的中した。出来ることならその前に手を打ちたかったが遅かった。祐斗の復讐心が熱を帯びてしまったのだ。
オリ主が本格的に振り回されたり、動くのは次回からになりそうです。