D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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今回から19巻分のスタートです。ただ今回は原作分よりも少し前の状態からです。


総選挙のデュランダル
第171話 大切だから


 年の終わりが近づいている頃、グレモリー城の地下トレーニングルームにて龍人状態の大一は立っていた。目の前には鎧姿の一誠がおり、力強く拳を合わせている。

 

「そんじゃ、兄貴!行くぜ!」

『ふう…よし、来い』

 

 疲れを感じさせる大一の声と共に、一誠は背中のブースト機構を展開させると一気に距離を詰めて拳打を打ち込む。鋭い拳のラッシュはマシンガンのごとく激しかったが、大一はそれを作り出した黒い錨で器用にいなしていく。

 赤い鎧と黒い影の錨がぶつかり合う鈍い音が響く中、一誠は呟く。

 

「長い武器を使っているのに、動きが速いな…だったら、これでどうだ!」

 

 更なる力を発動して真「女王」形態へと変化を遂げた一誠は、小さな飛龍を数匹出現させると、何発かドラゴンショットを撃ち出した。攻撃を反射させる飛龍、視覚外から不意を突く戦法を可能にするこの力で、一誠は周囲から攻めることを狙った。

 

『噂の飛龍か…だが警戒すれば問題ない』

 

 反射してあらゆる角度から向かってくる一誠の攻撃であったが、大一は軽く息を吐くと、身体の各所から黒い腕を形成して触手のように伸ばしていく。腕はドラゴンショットを次々と相殺していき、あっという間に展開された攻撃を無効化した。

 息を切らす大一は右腕をバネのように縮め、一気に伸ばす。砲弾のごとく突き進む拳は離れた一誠に向かっていくが、それをひらりと避けると再び距離を詰めていった。

 これに対して大一は両肩から伸ばした手の先から疑似防御魔法陣を展開させる。2重に張られている上に、魔力もしっかりと通されているため、硬度においては間違いない。

 しかし一誠は複数回「倍加」の力を発動すると、拳のラッシュでその魔法陣を砕き切った。

 

『これは…!』

「決まりだッ!」

 

 うろたえる大一が2本に分けた錨を振りかぶるが、それよりも先に一誠の拳が彼の顔面に迫っていった。

 しかしそのパンチが届く直前、タイマーの音が大きく響く。これを合図に彼らは攻撃の手をピタリと止めて、緊張が途切れたように息を吹きながら腕を下ろした。

 龍人状態を解除した大一は小さく呟く。

 

「…参った」

 

 この日の午前中、彼らはトレーニングに励んでいた。久しぶりに大一も混ざったものであり、模擬戦を行っていた。ちょうど兵藤兄弟の模擬戦が終わりを迎えたところで、仲間達が集まってくる中、大一は息を切らしながら一誠に話す。

 

「ハアハア…魔法陣をあっさり破られるとは思わなかったな。かなり魔力は入れていたんだが」

「『透過』を使ったら、だいぶ破りやすくなったんだ。まだどこまで使いこなせているかは自分でもわからないけど、リゼヴィム相手には効果があるから慣らしていこうと思う」

「さっきの小さな飛龍に続き、新しい能力をまた得るとは…赤龍帝というのは底知れない」

「先輩にも底知れない感覚を抱いたけどね」

 

 合流したゼノヴィアが感心の声で話す。今回の模擬戦にあたって、大一が相手をしたのは一誠だけでなかった。祐斗、ゼノヴィア、イリナとも模擬戦を行っており、しかも時間制で連戦をしていた。1時間以上、彼は立て続けに模擬戦を行っており、そのスタミナにゼノヴィアは一種の感動すら抱いていた。

 

「スタミナくらいしか取り柄がなあ…」

「だとしても、私たちを相手に4連戦は並大抵じゃないと思うぞ。少なくとも私は手を抜かなかったし」

「褒めてもらえると光栄だ。しかし久しぶりに模擬戦をして、改めて実感したよ。皆の強さを」

 

 大一は額から流れる汗を拭いながら話す。ゼノヴィアの太刀筋は鋭く、攻撃速度も速かった。イリナは新たな聖剣オートクレールによる光の力、祐斗は魔剣グラムの扱いなど、一誠以外もどんどん強くなっていくのを肌で実感できたのは大きな収穫であった。

 この言葉にイリナも元気な笑顔で答える。

 

「私もお兄さんとの久しぶりに模擬戦できて良かったわ!新しい能力も知れたしね」

「別に新しいというほどではないが…まあ、シャドウに魔力を通せるようになったことはかなり大きい。おかげで以前のような戦い方もできるし、他にも多くのことが出来る」

「そもそもディオーグとの融合前から、先輩は叩きこまれた経験を武器にしていたからな。応用性の高い能力があれば、それを存分に発揮できるというわけだ」

 

 うんうんと頷くゼノヴィアの指摘は事実であった。硬度と重さに加えて手数と伸縮自在の力を合わせ、さらには他のルシファー眷属に模擬戦で叩きこまれた経験値が今の彼を体現している。

 一方で、彼女と同じ「騎士」の祐斗は手を顎に当ててぶつぶつと何かを呟いていた。考えを巡らせることに没頭しており、時々「やはりテクニックが」「戻ってくれれば」等と聞こえ、彼が眷属のパワー戦法についていまだに頭を悩ませていることを知るのに時間はかからなかった。

 

「言い分も分かるけど、木場は悩みすぎる気がするな」

「うーん、私もエクスカリバーの能力を使いこなそうとはしているのだが…」

 

 一誠とゼノヴィアが心情を漏らす一方で、眷属に関係ない大一とイリナは苦笑い気味の表情で話す。

 

「小猫の仙術とか他のメンバーも搦め手ではあると思うがな。むしろ最近はあいつもグラム一辺倒になっているような気も…」

「そりゃ、お兄さんが戻ってきて欲しいと思うわけだわ」

「俺も戦い方はあまり変わらないと思うけどな」

「それじゃ、さらに出来ることを増やすにゃ♪」

 

 楽しむような声と同時に黒歌が大一の左腕に抱きつく。あまりにもいきなり来たため、大一も隣で話していたイリナもびくりと身体を震わせる一方で、黒歌はその反応にすら面白そうに笑っていた。

 

「おやおや、そんなガタイでも小動物みたいにビビっちゃうのね」

「いきなり来るからだろ…というか、離れろよ。模擬戦後で汗凄いから、お前も濡れるぞ」

「話が終わったらね♪」

「勘弁してくれよ…それで増やすって何をするんだ?」

「ちょっと仙術を覚えてみない?私も協力するからさ」

 

 笑みを崩さない黒歌は、子どもが秘密の話をしているような無邪気さが感じられた。彼女にとっては面白い提案であったが、これについてイリナは面喰い、大一は小さく首を横に振る。

 

「ええ!?お兄さん、転生悪魔なのに仙術を使えるの!?」

「使えないよ。黒歌、申し出はありがたいがさすがに俺には無理あると思うぞ」

「私はそうでもないと思うけどね~。この前の岩男との戦い、本来であれば纏わせることも不可能なはずなのよ。しかしあんたは短い間でもコントロールした」

 

 ディオーグと融合してから大一は幾度となく気や生命力を感知してきた。一般的な悪魔ではなかなか感知できない力を、肌で知り、身体で気づき、あらゆる場面で活かしてきた。生命力を感じ取れる彼だからこそ、先日の戦いでは仙術をなんとかコントロールすることを可能としていた。

 

「日頃から仙術の修行をしているようなもの。つまり大一には素質が備わっていると思えるのよね」

「にわかには思えないけどな」

「仙術のスペシャリストが言っているんだもの。そこは信じて欲しいにゃ」

 

 ぐっと胸を張った姿勢で黒歌は自信満々に答える。その実力を直接的に知っている大一からすれば、反論の余地も無い回答であった。

 

「俺にそんな素質がねえ…」

「私がみっちり教えれば使えるかもよ?1対1でやってみない?」

「1対1でやる必要性が感じられません」

 

 黒歌の軽い言い方に、後ろから小猫がキッパリと言い切る。彼女もギャスパーとの自主トレに区切りがついたようだが、その顔にはハッキリと「不快」の文字が刻まれていた。

 

「姉さまはドラゴンの子どもが欲しいだけでしょう?だったら、別に先輩じゃなくても良いはずです」

「強いドラゴンと考えると限られてくるんだもの。それに私も白音の気持ちがちょっとわかったもの♪」

「まったくそれでクリスマスの時も先輩を困らせて…」

 

 小猫はため息をつきながら、眉間にしわを寄せる。最近ではクリスマスの時も彼の部屋で2人きりでいたことを筆頭に、これまで何度も惚れた相手を姉がからかっている姿を見てきた。それで大一がうろたえるのも確認してきたため、姉には節度を持って欲しいと思っていたが…。

 

「…ん?わかったって…えーと…」

 

 小猫は目を閉じて片手を額に当てる。黒歌の発言を流しそうになったが、冷静に考えればどうも引っかかるのだ。そして心の奥ではどこかその真意に気づいていながらも、彼女が完全に飲み込むには頭を整理するわずかな時間が必要であった。

 間もなく、ハッとした様子で目を見開くと、小猫は頬を染めながら抗議する。

 

「ね、姉様まで…ダメですよ!先輩は私や朱乃さんのです!」

「え~、いいじゃない。2人も3人も変わらないって。悪魔だから問題ないし」

「で、でも…」

 

 小猫は落ち着きなく体を揺らす。姉はいまいち掴みどころのない性格であるのは、妹の彼女が嫌というほど理解していた。いたずらっぽい態度と合わせて、本音を開示することなど滅多にしない、何度もそんな姉を見てきた。

 にもかかわらず、小猫は姉の言葉が本気であると確信していた。思い返せばクリスマスの日以降、黒歌が大一に対するスキンシップは間違いなく増えていた。また性格の合わない印象があるが、それ故に惹かれることがあったのかもしれない。頭の中でいくつか理由を挙げる彼女であったが、最大の要因は直感的なものが大きかった。要するに、クリスマスの時にいつものごとくからかっていただけかと思ったことは、実際は黒歌がいよいよ本気になり始めていたと気づかされたのだ。

 

「とにかく離れてください!わざわざ義手じゃない方の腕に掴まって!」

「わー、本当だー。偶然だにゃー」

「わざとらしいです!」

「もう、白音ったら気にしすぎにゃん♪大一だってこの柔らかなお胸の感覚とか、嬉しいと思うけどね~」

「俺としてはさっさと汗を流して、休憩したいんだけど…」

 

 大一の反論は猫又姉妹の耳に届いておらず、彼女らは言い合いを続ける。もっとも小猫が抗議して、黒歌がそれをのらりくらりとかわすという連続であったが。

 ついにしびれを切らしたのか、小猫は大きく息を吐くと静かに目を閉じる。間もなく身体が光り輝いたかと思うと、身長が伸び色気のある体付きへと変化した「白音モード」の小猫が立っていた。

 

『先輩、見てください…姉様にも負けていませんよ』

「小猫、また倒れるから無理するなって」

『短時間なら問題ありません。まだ触れることは出来ませんが、見るだけなら…』

 

 小猫はぎゅっと胸を寄せると、前かがみで見せつけるような体勢を取る。男にとっては垂涎ものであるが、息が荒くなっている彼女を心配した大一は優しく話す。

 

「小猫、俺のことをそこまで大切に思ってくれるのは嬉しいよ。でも無理はして欲しくない。俺もお前のことは大切だから」

『…お兄ちゃん、やっぱりズルいです』

「にゃはは、これは面白いものが見れたわ♪」

 

 なんとも近寄りがたい空気が作られていく中、それを目の当たりにしたイリナは興味、恥ずかしさ、興奮など複数の感情が入り混じり顔に手を当てながら呟く。

 

「わあ、すごい…!お兄さん、そこまでなんだ…!私もイッセーくんと…いやダーリンと…!」

 

────────────────────────────────────────────

 

「外に行かなくて良かったの?」

「家でのんびりしたかったから」

 

 午前中のトレーニングを終えた大一と朱乃は彼女の自室で静かにお茶を飲んでいた。他のメンバーは買い物やらで外に出ている中、家で過ごすことを提案したのは彼女の方からであった。

 

「それに外でデートなら1日しっかり相手して欲しいもの。初めての時のように中途半端にしたくないわ」

「まあ、言われてみれば納得だな」

 

 初めてのデートの中断の原因が神、戦乙女、当時は関係が劣悪であった父とくれば、朱乃の言い分には嬉しくない説得力が生まれていた。

 それに家でのデートは素晴らしく穏やかであった。静かな時間を彼女が淹れた紅茶と共に過ごす、様々な雑務に追われていた大一としては心身ともに安らぎを感じるものであった。

 ティーカップの紅茶を見つめながら、大一は小さく呟く。

 

「久しぶりだ、こういうのは」

「やっぱりあなたにお仕事をやらせすぎだと思うの。いくらルシファー眷属だからといって、サーゼクス様もアザゼル先生も酷使しすぎだわ」

「心配してくれるのは嬉しいけど、こればかりは仕方ない。サーゼクス様たちはユーグリットのおかげで動きが制限されていたし、『異界の魔力』の件も俺にとって因縁が深すぎるからな」

 

 先日の襲撃については、すでにサーゼクス達には報告を済ませていた。攻めるタイミングと規模からして陽動の可能性が高いとのことであったが、同時に敵の正体について収穫もあった戦闘であった。特にブルードはかつて天界にいた上位クラスの天使「ハニエル」であることが明確になったことは大きかった。大戦中にある悪魔との戦いで死亡の扱いを受けていたようだ。

 またギガンについても、ゴグマゴグに関連していると思われるため、現在過去の研究資料を片っ端から調査されていた。

 この2人について「異界の魔力」を持つ以外の共通点が判明していないため、クリフォトは「異界の地」にいた一部の勢力を仲間に加えた、と三大勢力では考えていた。以前、大一が聞いたアリッサとモックの会話を踏まえれば決定的であると言える。

 そうなれば、バーナとモックの姉弟や鎧武者の無角、彼らをまとめているサザージュも警戒の必要性が生まれていた。もっとも現状では動きの読めない上位の邪龍たちの方が同盟としては気がかりであったが。

 

「どうしたものか…」

「大一、また考え込んでいるでしょ」

「えっ?ああ、ごめん。どうしても気になって」

「もう…これじゃ、休んでいると思えないわ」

 

 朱乃は大一の様子に小さくため息をつく。自分から苦しい状態に首を突っ込んでいるようにしか見えない彼氏に、彼女は胸が小さく痛む想いであった。なぜ愛する男がそこまでしなければいけないのか、背負い込む彼の姿はどうしても心配になる。冥界を変えて悲しみを減らすという大きな目標が、ひとつの重荷として彼自身を不幸に導いているように思えた。

 

「…ねえ、今は戦わなければいけないから仕方ないと思うの。でもあなたが自分の幸せをないがしろにしなくても…」

「それは違うな。俺はむしろ幸せだと思う。家族、仲間、師匠、主、そして大切な人…俺に関わってくれた人たちが、言わば恩人なんだ。だから少しでも自分に出来ることをやって、今度は俺が皆の幸せに貢献したい。大切な人たちが笑ってくれれば、俺もまた安心するからさ。まあ、自分のためという利己的なものだ」

 

 大一の言葉を聞いて、朱乃はふっと笑みが漏れる。本人は利己的と話すが、そのために身を削って戦える彼に対して、同じ評価を抱くことは出来ない。だからこそ彼が苦しむのを見るのは彼女にとっても同じくらい辛かった。

 しかしそんな彼だからこそ、惚れてしまったのだ。たとえ上手くいかなくても仲間のために身を粉にするほど支え続ける、改めて彼への感情を自覚した朱乃は小さく息を吐いた。

 

「頑固なんだから…」

「自覚はしている」

「ふーん…じゃあ、私のお願いにも頑固に反応する?」

「内容次第…だけど俺は出来ることなら全部やるよ」

「わかった。じゃあ…」

 

 朱乃は紅茶のカップをテーブルに置くとベッドに座ってぽんぽんと膝を軽くたたく。

 

「膝枕をさせて」

「…え?俺がしてもらう側なのか?」

「そうよ。誰もいないからいいでしょう?」

「う、嬉しいけど、どうしてまた…」

「いいからさせて。それともお願いを聞いてくれないの?」

 

 目を細めて不信感を見せる(誘惑するような色気にも見えたが)朱乃に対して、大一は少し頭を掻いた後に、恥ずかしそうに彼女の言うことに従って、横向きに頭を彼女の膝の上に乗せた。服越しにもわかる柔らかな太もも、頭部の後ろにちょこちょこと当たる豊満な胸、柔らかに髪を撫でる手とあらゆる要素が彼を緊張させる。

 

「私の前では弱さも見せるって約束してくれたでしょ。だからたまには甘えて欲しいの」

「し、しかし、それじゃ朱乃から貰ってばっかりだ」

「私もあなたにはいっぱい甘えるつもりよ。いっぱい不安になるから尚更ね」

 

 朱乃は小猫や黒歌、ロスヴァイセなどの顔が浮かんだが、そこまで大きく考えていなかった。むしろこれを契機に、彼にはもっと甘えるつもりだし、甘えさせるつもりであった。そうやって触れ合って、より絆を強く感じていたかった。彼はハーレムを形成しても、その気持ちが薄れないだろうという絶対的な自負を抱くからこその想いでもあった。

 

「やっぱり強いな、朱乃は」

「あらあら、私の強さも弱さもよく知っているくせに」

 




原作19巻はゼノヴィアや教会がメインですね。私の方は…。
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