無事に年を越せた元旦、オカルト研究部の面々は初詣へと向かった。場所は京都の伏見稲荷大社と遠出であったが、転移魔方陣を使用してあっという間にたどり着く。人混み溢れる神社に、特殊な結界が展開されるとそこでひとりの少女が出迎えた。
「イッセー!久しぶりじゃな!」
「よー、九重。参拝しにきたぜ」
「うむ!ここの主祭神であらせられる宇迦之御魂大神さまもお喜びになられるに違いないぞ」
九重が満面の笑みを見せる中、その奥から複数のお供の妖狐を伴いながら八坂も現れる。その横には紅葉も一緒に控えていた。
「遠路はるばるようお越しになられましたなぁ」
「こちらこそ、いずれあらためてごあいさつをしようと思っていたところですわ。なかなか、都合がつかずじまいでしたから、初詣の折にあいさつをすると」
八坂とリアスが言葉を交わす一方で、紅葉は大一へと近づいてあいさつする。相変わらず満面の笑みが印象的であった。
「久しぶりです、大一殿。お変わりはなさそうですな」
「ああ、おかげさまで。紅葉も元気そうで安心したよ。零さんは来ていないのか?」
「わざわざ顔を会わせる必要ないだろと来ていませんな」
「あの人らしいな」
大一の返答に、紅葉は苦笑いしながら肩をすくめる。協力はするものの、彼女が悪魔に対して快くない感情を抱いているのは相変わらずであった。そんな彼女の代わりに、今回は紅葉が八坂達に同行することになったそうだ。
「しかし華やかでありますなあ。グレモリー眷属は」
紅葉の視線はリアスを筆頭とした女性陣へと目を向けていた。初詣ということで振り袖姿であり、雅かつ和風な雰囲気が非常に美しさを引き立てていた。もっとも紅葉の視線の先にはギャスパーもいたのだが。
「大一殿は着ないので?」
「面倒なだけだしな。一誠や祐斗、ゼノヴィアも動きやすい方がいいって普段着だしな」
「むしろ私はスーツ姿でない大一殿を見たのも久しぶりですな。てっきりまた眷属の使いで来るのかと」
「今日はそっちの方が目立ちかねないし…」
今回の訪問はあいさつを兼ねているものの、あくまで私的な内容であった。さすがの大一も仕事的な要素を持ち込まない分別はついていた。そもそもサーゼクスやグレイフィアはアザゼル達と会合という名の新年会に参加、他のルシファー眷属たちも別場所で酒盛りと揃いも揃って仕事とは無縁の状態であり、大一自身も仲間達と過ごすことが出来ていた。
一方で頭の中ではディオーグとシャドウが話している。
(「シンネン」というのは、なにが特別なのかわからねえな)
『無事に1年超せたという事実がお祝い事なんだよ。年関係なく逃げ回っていた僕は、そんなこと関係ないと思うけど』
(そもそも俺はそういうのがあることを知らなかったな)
『え?西暦とかそういうの知らない?』
(聞いたこともない)
『あー、もしかして封印されていた時期がそれよりも遥かに昔だからか?』
シャドウの発言は、大一にとってもなかなか興味深いものであった。彼と同様に「異界の魔力」を繋がった感覚を抱いたディオーグは、その解明についてひとつの突破口になりえる存在であった。ただ話を何度か振っても、すでに判明している「感知の難しさ」にしか触れず、新たな情報は出てこなかった。そのためシャドウの指摘について判明すれば、新たに分かることがあるかもしれない。
どうもディオーグについては、まだ不明な部分も多いため追及したい思いはあるのだが、本人が話したがらない上にかつて聞いた過去の話以上の内容が期待できなかった。
「赤龍帝殿はモテますな~」
のんびりとした声を上げる紅葉の視線の先には、九重が一誠の片足に甘えるように掴まる姿であった。八坂が一誠を誘惑した言動が原因のようだが、九重の蕩けた雰囲気を見るとその本気度がうかがえる。
また八坂の話では、九重は来年度に駒王学園へ入学する予定であった。すでに転入手続きは済ませており、リアスも同意している。
「いやはや、今後は気軽に会えなくなるのは少し寂しいところです。私もあと30年若ければ、学園にも行けたのですがね」
「お前いくつだよ…」
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結界が解かれた後、一行は頂上の神社を目指して登っていく。ちょうど中段辺りで降りてくるシトリー眷属と出会った。彼女らも初詣に来ていたようで、すでに4つほど回っていたようだ。
「同盟のおかげで神社に行けるようになったのは不思議な感覚だな」
「去年まで私の住んでいた神社で初詣だったものね」
大一のぼやきに、着物姿の朱乃が口に手を当てながら面白そうに答える。元旦は「D×D」に参加しているメンバーやその協力者に限定で京都の観光地が開放されていた。各神社の神からも了承を受けており、親交が深くなったことが改めて証明されたといえるだろう。大一としては、自分が学んできた悪魔の常識がどんどん打ち砕かれていくような想いであった。
シトリー眷属が神社を回っているのは観光でもあったが、2年生の花戒桃にとっては強い祈願の意味もあった。なんでも彼女は次期生徒会長に立候補するようで、ゼノヴィアと視線を交わしていた。
「負けるつもりはないわ、ゼノヴィアさん」
「ああ、桃。こちらこそ、やるからには絶対に勝つ」
互いに強い決意を抱く2人は握手を交わす。シトリー眷属は匙が副会長にも立候補しており、それ以外にも生徒会に引き続き入ることを考えているメンバーもいるため、大きく注目を引くことになりえるのは、ゼノヴィアと花戒の生徒会長争いだろう。
シトリー眷属と一通り会話をした後、彼らは再び頂上を目指すために歩き始めた。大一の前ではイリナが一誠に対して、「ダーリン」と呼んで困惑させていた。
「あいつもいよいよ積極性が増してきたな」
「あらあら、微笑ましいじゃない。私は嫌いじゃないわ」
弟の恋愛事情に疲れた表情を大一はするが、対照的に朱乃は観戦気分で楽しそうに眺めていた。
実際、イリナの積極性はクリスマスを契機に増しており、最近ではリアスやアーシアにも引けを取らないほど関わりを求めていた。
「な、なあ、イリナ。普通にイッセーでいいって。なんか、調子が狂うというか…」
「そ、そんな…イッセーくんがそんなこと言うなんて…っ!私とキスしたのは遊びだったのね!」
わかりやすくショックを受けたイリナから、この人ごみの中で誤解を招きかねない発言が飛び出る。これには一誠も慌てふためいたものの、隣を歩いていたゼノヴィアはやれやれといった様子で言う。
「イリナ、キスひとつで恋人気どりするなんて気が早すぎるぞ。リアス前部長やアーシアなんてもっと前にイッセーとキスしているんだからな」
「いいのよ!私とイッセーくんの禁断の愛はこれからも続くの!たとえ、両者の間に壁が生じても愛さえあれば乗り越えられるはずなのよっ!」
目を爛々と輝かせるイリナは天に向かって祈るポーズをしながら答える。ポジティブさにおいては一線を画す彼女の行動に続くようにゼノヴィアやアーシアも祈りのポーズを取る。
「そういえば、私もまだ天にお祈りをしていなかったな」
「あ、私もします!」
「「「ああ、主よ」」」
「なんと、異国のお祈りとな!私もしてみるぞ!」
「ほほほ、楽しい方ばかりやね。では、わらわも…」
教会トリオの祈りに九重や八坂まで面白がって真似て行っていた。まだ途中にもかかわらず、すでにカオス的な光景が神社内で繰り広げられていた。
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ようやく頂上の社にたどり着いたオカルト研究部の面々はさっそく参拝をしようとしたが、その前にひとりの人物が猛烈な勢いを感じさせて近づいてきた。
「大一ちゃーん!ロスヴァイセちゃーん!明けましておめでとう!」
「「い、生島さんッ!?」」
がっしりとした体を、温かそうなコートに包みながら生島が現れた。大一やロスヴァイセはもちろん、他のメンバーもその存在感に衝撃を受けていた。
「本当にラッキー!ここで待っていて良かったわ!」
「どうして生島さんがここに?」
「お友達と旅行で来ていたのよ。そしたら少し前に元士郎ちゃんに会って、もしかしたら大一ちゃん達もここに来るかもって聞いていたの」
「あいつ、わざと黙っていたな…」
匙への小さな苛立ちを感じる大一をよそに、生島はリアスや朱乃にも興奮しながら話す。
「リアスちゃんや姫島ちゃんも久しぶり~!ちょっと見ない間に、太陽を超えるほど輝く美人になっちゃって!感動しちゃうわ!着物姿も最の高よ!」
「お久しぶりです。生島さんもお変わりなさそうでなによりです」
「いつも大一がお世話になっていますわ」
リアスと朱乃は最初こそ面食らったものの生島と久しぶりに話に花を咲かせる。この嵐のような光景に一誠達はすっかり鳩が豆鉄砲を食ったような表情で見ていた。一段落ついたところを見計らって、大一は他のメンバーに紹介していた。
「俺とロスヴァイセさんの契約相手の生島純さんだ。生島さん、弟の一誠に後輩の祐斗、アーシア、ゼノヴィア、イリナ、小猫、ギャスパー、レイヴェルです。それでえーっと…」
「あ、紅葉と申します。こちらの親子は八坂様と九重様。大一殿たちとは知り合いでして、京都の案内をしているのですよ」
八坂たちを見て言いよどむ大一に素早く紅葉が助け舟を出す。姿もいつの間にか大人の姿に変化しており、生島は気づいていない様子であった。
「あら、ご丁寧にありがとうございます。生島純です。いつも大一ちゃんとロスヴァイセちゃんにはお世話になっています。それにしても美男美女ばかりで驚きだわ~!どうしましょう、大一ちゃん達以外も頼みたくなっちゃう!」
「なあ、兄貴。生島さんっていつもこんな感じなのか?」
「まあ、テンションは高い方だ…」
「あはは、強力ですね」
こっそりと耳打ちをする一誠と祐斗に大一は頷く。多種多様な人物を見てきた彼らも、生島のインパクトは非常に印象的であったようだ。
そんな生島はロスヴァイセを見て何かを思い立ったのか、彼女の肩に手を置く。
「そうだ、ロスヴァイセちゃん。ちょっとだけお話いいかしら?」
「え、ええ…大丈夫です」
「うふふ、短いけど女子トークさせてね。すぐにお返ししまーす」
そのままロスヴァイセを連れて、生島はどこかへと向かっていった。
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少し人混みが落ち着いている場所までロスヴァイセを連れてきた生島は嬉しそうに彼女に問う。
「着物姿、とても可愛いわ~!やっぱり大一ちゃんに見せるため?」
「うえっ!?な、なんで大一くんが出てくるんですかッ!」
「ちょっとちょっと、ロスヴァイセちゃん。私を甘く見すぎじゃないの~?あなたが大一ちゃんを気にしていることなど、お見通しなんだから」
ロスヴァイセが赤面していくのを見て、生島は満足げに微笑む。彼がわざわざ話を持ちかけたのは、彼女の恋愛事情について話しておきたかったからであった。いつもの仕事場ではどうしても大一に聞かれる可能性があったため、この機会を逃すつもりはなかった。
「実際、大一ちゃんのことをどう思う?」
「ど、どうって…」
ロスヴァイセはその感情がよく分からなかった。グレモリー眷属になってから特訓や魔法の教授で時間を過ごし、京都では大人の立場として共に動いていた。性格の生真面目さも彼女にとっては気楽に感じられた。だからこそ祖母が来訪する時の彼氏役を最初に頼んでいた。
ユーグリットの事件で助けられた時は心から安心した。そのあたりを機に彼への見方が少し変わったのは否定できない。敵の手に落ちて皆を傷つけるかもしれないという苦悩を分かち合い、頼って欲しいと言ってくれたことが心から嬉しかった。
しかしこれを恋愛的な感情かと思えば、確信が持てなかった。信頼と安心、これでは仲間としての意識と大差ないと考えていた。また彼に対して好意を抱くメンバーのこともよく知っていたため、自分の感情が中途半端なものではないかと気にしてしまうほどであった。
それを察したのか、生島は落ち着きのある深い声で話し出す。
「私はね、あなたのことを娘のように大切に思っているわ。だからこそ幸せになって欲しいの。そしてあなたも大一ちゃんも、とてもいい人であることをよく知っている。あなたが本気で彼を好きなのであれば、迷ってはいけないわ。後悔しないで欲しいのよ」
「わ、私なんかよりも、朱乃さんや小猫ちゃんのように魅力的な人達がいますし…」
「悪魔の世界で何を言っているのよ。真面目で頑張り屋なあなたの魅力だって、いっぱいあるじゃないの。もっと自信を持ちなさい。私は応援しているわ」
「どうして生島さんはそこまで気にしてくれるんですか?」
「言ったでしょう。あなたを娘のように思っているの」
生島の声は穏やかで優しさに溢れていた。その温かみを感じる彼女であったが、同時にわずかに震えているようにも聞こえ、感極まった印象も抱かせたが、その理由はロスヴァイセには分からなかった。
「ごめんなさいね。いきなりこんな話をしちゃって。でもこの前からどうしても伝えたかったの。本気で困ったら相談して、頼ってちょうだい」
「生島さん…いつもお気遣いありがとうございます。失礼します」
丁寧にお礼をしたロスヴァイセは仲間達のところへと戻っていった。そんな真面目な彼女を見送りながら、生島は思いに耽りコートのポケットからあるものを取り出そうとしたが…。
「…あら?どこにいったかしら?」
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かなりの人ごみのおかげで、ロスヴァイセは皆をすぐに見つけることが出来なかった。合流は難しそうかと思った彼女であったが、間もなく先ほど話題にも挙げていた男の姿を確認した。
人混みをかき分けてロスヴァイセは合流したが、彼はまったく気づいていない様子で片手に持っていた小さな写真に目を向けていた。
「あ、あの、大一くん。リアスさん達は…?」
「…えっ?あ、ロスヴァイセさん。戻ったんですね。人増えてきて合流するのが難しそうだったので、俺が残ったんです。自分の身長ならまだ目立ちますし」
「ごめんなさい、遅れてしまって」
「いえ、気にしないでください」
顔を上げて答える大一の態度はどこか上の空のような雰囲気であった。淡々としており、どこか別のところに意識が飛んでいるかのようであった。
「…ロスヴァイセさん、申し訳ないのですがお願いしたいことがあるんです」
「なんでしょう?」
ロスヴァイセの問いに彼は持っていた小さな写真を差し出す。
「この写真、さっき生島さんが落としていたんです。この人混みでまた合流するのは難しいので、今度会った時に渡してくれませんか。俺じゃなくてあなたが拾ったことにした上で」
「え?でも、それだったら大一くんでも…」
「ちょっといろいろありまして…お願いします」
ハイライトが消えたような目をした大一が差し出してきた写真を、ロスヴァイセは受け取る。そこには今よりも少し若い生島と、中学生くらいの少年が恥ずかしそうな笑みを浮かべながら映っていた。
では、そろそろこの過去にも向き合ってもらいましょう。