D×D 悪魔の兄弟   作:水飴トンボ

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今回から20巻スタートです。だいぶ終盤に差し掛かってきたと思っています。


進路相談のベリアル
第183話 幸先見えず


 レーティングゲーム中、皇帝ベリアル、ライザー、レイヴェルの3人が突如としていなくなった。この情報は冥界を悪い意味で賑わっており、大々的にニュースで取り上げられていた。

 すでに各地で捜索が行われている中、沖田総司とバハムートは行方不明となったフィールドへと赴いていた。

 

「ここがそうですか…」

 

 捜査している悪魔から案内を受けた総司がぽつりとこぼす。試合のフィールドは地下深くに設置された古代遺跡、その中にあるドーム状の洞窟に彼らは来ていた。どうもここで戦闘していたベリアルとライザー達は、カメラの死角に入ったところで忽然とその姿を消したらしい。

 

「現場は保存されています。荒らしさえしなければお好きに調べてくださって構いません。情報の共有はお願いしますね。終わったら声をかけてください」

「ええ、ありがとう」

 

 案内をした悪魔が去っていくのを見送った後、沖田はさっと洞窟に視線を走らせる。隣に立つ人間体に変化したバハムートもローブの下から同様に鋭い眼を動かしていた。崩れた洞窟の破片や壁を焦がした後、明らかに争ったとわかる形跡がハッキリと残っていた。とはいえ、それはあくまでベリアルとライザーの勝負の形跡。レーティングゲーム中の出来事で、不自然なものでは無いのだ。

 

「…おかしいところはない」

「私たちが見る分にはですがね。だからこそ、ついて来てもらったのですから。大一くん、どうですか?」

 

 総司が後ろを振り向くと、そこには険しい表情で目を閉じる大一の姿があった。片手には錨を取り出しており、案内されてからひたすら魔力の感知に集中している。緊急招集を受けた彼はルシファー眷属のお付きとして、2人と共にこの調査に赴いていた。

 

「…たしかに違和感はあります。しかしすでに調査された以上の違和感ではないですね」

「要するに?」

「奇妙な結界の形跡があります。不正があったのは間違いないでしょうね」

 

 バハムートの問いに、大一は苦々しげに答える。今回のレーティングゲームでなんらかの不正行為が疑われていた。システムの方で何らかの問題が起こったようで、運営であるアジュカ・ベルゼブブも動いたという噂であった。

 

「『異界の魔力』の方は?」

「まったく感知できません。だからと言ってクリフォトが関与していないなどとは思えませんが」

「ディハウザー・ベリアルの試合ですからね」

 

 彼の隣で総司が疲れたようにため息をつく。「皇帝」ベリアル…レーティングゲームのランキングトップの男であり、その実力は魔王級にも匹敵すると思われる悪魔であったが、少し前から彼について奇妙な警戒が強まっていた。発端はクリフォトがアグレアス襲撃の事件の際に、敵の手際の良さと下準備の様子から内通者が疑われたことであった。アグレアス奪取という大規模な計画の準備なのだから、内通者もそれ相応の人物に疑いがかかる。そしていくらか絞り込んだ内通者と思われる人物の中に、ディハウザー・ベリアルがあったのだ。そもそもこの試合自体、カメラの死角に入ったことも格上であるベリアルの力量だからこそ誘導出来たとも考えられるのだから。

 とは言っても、これは疑いの段階。可能性の一端であり、確証は無い。そもそも彼ほどの男が、クリフォトに加担する動機が不明であるのだから。

大一は感知を続けながらも、不審そうに言葉を紡ぐ。

 

「不正があったのであれば、アジュカ様はベリアル様に会ってもおかしくないのでは?」

「私もそう思いますよ。しかしそれが余計にも疑問を抱きます。アジュカ様ほどの人物が会って、ここまで不可解な事件にまで発展するとは思えないのです」

「…案外、すでに解決しているのかも」

 

 呟くバハムートに大一は驚くが、一方で総司は思慮深く顎に手を当てていた。

 

「ありえない話ではないですね。何らかの理由があって」

「し、しかしそれだったらサーゼクス様に話がいっているのでは…?」

 

 サーゼクスとアジュカの関係性については、大一もよく知るところであった。同じ魔王であるが、それ以上に互いに敬意を抱く親友という関係である。その信頼は絶大なものであり、このような事件に対して安心の糸口となるものがすでにあるならば、アジュカが報告しない理由が大一には分からなかった。

 これに対して、総司は軽く首を横に振る。

 

「アジュカ様は我々よりも遥かに多くのことを考えています。それほどの方が話すべきでないと判断したのであれば、それ相応の狙いがあるということでしょう。情報の漏洩を危惧したのか、或いは隠すことで何らかの利益に繋がるとか…まあ、それはアジュカ様が知っていること前提ですが」

 

 最後に付け足すように言うものの、直前までの総司はわかりやすく考え込んでいるような表情であった。彼の方も主に並ぶアジュカという存在に対して強い信頼があるからこそ、このように考えをめぐらしてしまうのであった。

 この日、3人は現場を調べたものの進展は無く、むしろそれぞれが疑問の芽を育てることになってしまった。

 

────────────────────────────────────────────

 

 数日後の朝、外は快晴で素晴らしい天気であったが、メンバーの気持ちは晴れなかった。どうしてもライザーとレイヴェルの安否がわからないため、当然ではあるのだが。

 大一は現場に赴いたことについて包み隠さずに、仲間やアザゼルに報告した。彼らもゲームの映像は確認したようだだが、特別変わったことに気づいていなかった。もっともアザゼルはすでに自分の頭の中で何らかの見通しを持っていたようだが、確証は無かったのかそれを明かしはしなかった。

 いつもの朝食と比べると重い空気が広がる中、一誠に対して母親の声が響く。

 

「イッセー!明日は三者面談なのよ?わかっているの?」

 

 母の声に面食らった一誠は短く答える。気の入っていない様子で、どこまで理解しているのかは分からなかったが。

 

「…うん、わかっている」

「もう、気のない返事ね。明日、進路に関する三者面談でしょ?わかっているのかと訊いただけよ。

 アーシアちゃんも私が対応するから」

「はい、よろしくお願いします、お母さん」

 

 アーシアと母が話をする一方で、今度は父が一誠に声をかける。

 

「イッセー、男子たるもの、進路は大事だ。明日はきちんと母さんと一緒に先生と話してこい」

「…はいはい」

 

 上の空な印象を受ける返事であったが、年頃の男子ともなればある意味当然の反応とも言えるだろう。

 1,2年生は全員三者面談を行うことになっており、他のメンバーも話に加わっていった。

 

「進路相談か。来るとしたら、うちはシスター・グリゼルダだが…忙しそうだし、期待はしないでおこう」

「うちは…パパもママもあっちにいるし、やっぱり、ゼノヴィアと同様にシスター・グリゼルダが対応してくれるのかしら…」

「私はまだクラスの担任を任されていませんが、資料集めなどでご協力させてもらっています。進路は大事です。親御さんと相談しながら、自分に見合った道を選定することが何よりも重要です」

 

 ゼノヴィアとイリナの教会コンビが思うことを口にし、ロスヴァイセが続くように後輩たちに進路の重要性を説く。才能の豊かさと確かな努力の経験がある彼女の言葉は、重みが感じられる。

 

「大一とリアスさんと朱乃さんはもう卒業を待つだけだものね。進路が決まっている分、春までゆっくりできそうよね」

「そうだといいのですが、準備もありますのでなかなかゆっくりもできませんわ」

「うふふ、華の女子大生ですので」

「それもそうよね。高校生とは違うことも多いでしょうし…大一もしっかり準備しておくのよ」

「しっかりやっておくよ」

 

 母親の忠告に、大一は穏やかに答える。正直なところ、この件について大一はあまり話に巻き込んでほしくは無かった。前年度、余裕のない悪魔としての生活を送っていた彼としては将来のことなど考えていなかったため、当時の三者面談ではあまりにも具体性に欠けることしか言えなかった。そのため三者面談という話題自体が、大一にとってはどこか気まずいものであった。両親が一誠に対して助言を行うのも、その一件が原因と思えて仕方がなかった。

 苦い表情で飯をかき込む大一の隣では、ゼノヴィアと小猫が話していた。

 

「小猫のところはどうなんだ?誰が三者面談に来るんだ?」

「…私のところは」

「私が行くわ♪だって、お姉ちゃんだもん」

 

 もはや当然のように朝食の場に参加している黒歌が主張する。これには小猫も複雑な表情で、小さくため息をついた。

 

「…来なくていいと言ったんですが、どうやら来る気満々でして」

「つれないわねぇ、白音ったら。私が『うちの子をどうぞよろしくお願いします♪』って誘惑してあげるにゃ。内申書も安泰ね」

「…うちのクラス、担任の先生は女性ですけど」

「ありゃりゃ、それは困ったにゃん」

 

 言葉の割にはまるで困っていない様子の黒歌は卵焼きを口に放り込む。そのひょうひょうとした様子は、大一としては羨ましさすら感じるものであった。もっともそれは彼自身の悩みやすい性格だけでなく…

 

『三者面談って別に戦うわけじゃないからね。話すだけだからね』

(戦略を?)

『戦いにしか興味を抱かないのは、もはや蛮族に片足突っ込んでいるんだよなぁ…。だいたいは今後の将来について話し合うんだよ』

(どうして自分の生きる道を、他の馬鹿どもと話さなきゃいけないんだか…)

 

 頭の中で繰り広げられている同居人たちの騒がしさもあって表に出せない疲れもあったからなのだが。

 大一が頭の中の煩さを必死で無視する中、リアスは後輩たちを見渡して口を開く。

 

「いろいろと考え込むことも多いでしょうけれど、進路相談もとても大事なことよ。件のことは、自由登校でやることもない私たちが受け持つから、あなたたちは学校での生活と将来のことを考えなさい」

『はい』

 

 リアスの言葉に、一誠達は頷く。ライザーとレイヴェルの安否は不安でああるが、今は年上たちを信頼するしかないことを彼らは悟っていた。

 

────────────────────────────────────────────

 

 ほぼ同時刻、空中都市アグレアスの一室ではひとりの青年がげっそりとした様子でソファに寝転んでいた。顔色はひどく額には脂汗がにじんでおり、疲労の状態が全面的に出ていた。

 そんな彼に、ブルードは熱いレモネードの入ったマグカップをテーブルに置いて声をかける。

 

「大丈夫か?ろくに眠れていないようだが…」

「どうも最近、昔を思い出すような夢を見ることが多くてな…まあ、ボスよりはマシだろうと思ってるが」

 

 体を起こしたサザージュは顎をぼりぼりと掻きながら、ブルードの置いたマグカップに手を伸ばす。顔にかかる湯気は温かく精神的な疲労を緩和させるものであったが、同時に彼は自分には勿体ないような特別なものであると思っていた。

 

「リゼヴィムの体調はやはり悪いのか?」

「薬を調合はしているんだが、まるで効いていないようだ。まったく無駄に天界に攻めたことで、あんなことになるとはバカみたいな話だ」

 

 ため息をつきながらサザージュは天井を見上げる。先日の天界襲撃の一件からリゼヴィムは眠れておらず、容体は悪化しいていた。その原因については五大龍王のファーブニルが関わっていることは判明していたが、いかんせん対処方法に苦慮していた。

 そこにギガン、バーナ、モック、無角の4人も話に加わってきた。

 

「同意する。どうもあの男はその場の感情で動いている節があるからな」

「せっかく力があるのにもったいねえな。こんなんであたし達は大丈夫なのかね?」

「こういうのは結束が大事…と言いたいところだけど、姉さんに同意するよ。最近では邪龍どもも何かを画策しているようだし」

「いくらトライヘキサと例の戦力があるにしろ、旗色が悪いのは否定できない。異世界に行く前に全滅してもおかしくないな」

 

 仲間達の厳しい意見に、サザージュは表情を変えなかった。頭の中では今後の計画に特有の価値観と正義が混じりながら思考の渦を発展させていたが、その結論が出ることは無かった。

 マグカップを傾けて熱い琥珀色の液体をひとくち体内に流し込むと、唇についた液体を軽く舌で拭って答える。

 

「まだコントロール下にある邪龍はいるし、ディハウザー・ベリアルという協力者もいる。いざという時は例のシステムも発動する仕組みだ。なんとかやっていこう。それにいよいよ『王』の駒の件でベリアルも動いているからな」

「やっとここを奪ったことの意味が明らかになるわけか…」

 

 サザージュの言葉に、バーナが頷きながら片手に持つ酒瓶の中身を煽る。その言葉の意味をこの場にいる全員が理解していた。

 

「もっとも『王』の駒は力を数十倍にも引き上げるが、それを言えば神器も聖剣も異能も全てが特別だ。当然、俺らの魔力についてもな」

 

 どこか自嘲的に話すサザージュの言葉に、彼の同志は顔を見合わせる。そして鋭い視線を持ち合わせた状態でブルードが彼に話しかける。

 

「…なあ、サザージュよ。キミは我々に復讐の機会をくれた。その強い信念があったからこそ、我々は『異界の地』を去ってキミをリーダーとして付き従った。これまでの実績から、キミが我々の期待を裏切らないのはわかっている。だからこそ、目的を果たしてほしい」

「…俺は英雄でも魔王でも無い。ただの情けない化け物さ」

「それは我々も同様だろう?」

 




一誠の生まれの件は、どうしても設定上原作とは違いが出ることになるでしょう…。
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